外科医のためのエビデンス

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気になる…でも、調べるのは大変。教科書やガイドラインでは解決できない臨床上の問題を以下の構成で解き明かす。〔素朴な疑問〕外科医が直面する臨床問題を提示→〔基本事項〕教科書的な知識や常識的な知見を要約→〔医学的根拠〕世界中の疫学研究や臨床研究をデータで紹介→〔補足事項〕関連する研究を補足→〔筆者の意見〕30年の臨床経験に基づく著者の見解→〔疑問の解決〕文献から得られた現時点での結論を明示!
安達 洋祐
発行 2015年04月判型:B5頁:232
ISBN 978-4-260-02100-5
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

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はじめに

 いつの時代でも,臨床現場には「本当だろうか」「正しいのかな」と思うことがたくさんあります.外国の教科書を開くと,「○○が標準である」「○○には賛否両論ある」と書かれており,文献を調べると,「□□は有効である」「□□すべきである」と書かれています.
 診療や手術が忙しい外科医は,ガイドラインを見るのが精一杯で,教科書を読んだり文献を調べたりする時間がなく,次々と湧き起こる疑問を未解決のままに放置してしまいます.そんな忙しい外科医のために,臨床現場で利用できるエビデンスを示したのが,この本です.

(1)本書はご好評をいただいた雑誌の連載「ドクターAのミニレクチャー」(2012年6月~2015年3月,『臨床外科』,医学書院)を1冊の本にまとめたものです.
(2)全部で6章あり,各章には本編5つと番外編1つがあります.新たに「血液型とがん」と「日本の臨床試験」の2編を追加し,最新の文献を加えて大幅に加筆しました.
(3)本文は6つに分けており,内容は次のとおりです.
①素朴な疑問:外科医が直面する臨床問題を提示
②基本事項:教科書的な知識や常識的な知見を要約
③医学的根拠:世界中の疫学研究や臨床研究をデータで紹介
④補足事項:テーマと関連する他分野の研究を補足
⑤筆者の意見:30年の臨床経験に基づく私的見解を記述
⑥疑問の解決:文献から得られた現時点での結論を明示
(4)文献は原則としては海外の有名雑誌に掲載されている質の高い論文です(合計1,063編).大規模コホート研究や無作為化比較試験を重視し,重要な文献や結論は太字で示しました.

 若い外科医は,忙しいときこそ時間を作って論文を読んでください.きっと,「なるほど」「そうだったのか」と視界が広がり,自分が変わるのに気づくはずです.不確実な医学や個別的な医療に大切なのは,変われる医師,成長する医師,柔軟に対応できる医師です.
 最後に,九州大学病院で外科研修医だった私に「患者と文献に学べ」と教えてくださった松股 孝さんと森 正樹さんに,この場を借りてお礼申し上げます.また,雑誌連載や本書出版でお世話になった医学書院の田村智広さん,鶴淵友子さんと林 裕さんにも心から感謝します.

 平成27年3月
 安達洋祐

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I 外科診療
  1.虫垂炎の治療-手術せずに抗菌薬で治るか
  2.鼠径ヘルニア-無症状でも手術は必要か
  3.胃切除後再建-Billroth I か Roux-en-Y か
  4.腹膜炎の腹腔洗浄-よく洗ったほうがよいか
  5.異動時期の病院-年度初めは死亡率が高いか
  番外編 社会経済状態-所得は予後に影響するか

II 手術患者
  1.喫煙患者の手術-禁煙で術後合併症が減るか
  2.大腸手術の前処置-術前の腸管洗浄は必要か
  3.閉塞性黄疸の患者-術前の減黄処置は必要か
  4.閉塞性大腸がん-腸閉塞にステントは有用か
  5.予防的ドレーン-手術でドレーンは必要か
  番外編 治療成績の性差-男と女で経過がちがうか

III 術後管理
  1.周術期の血糖管理-インスリン療法は有用か
  2.循環血液量の維持-アルブミン投与は有用か
  3.炎症反応の制御-ステロイド投与は有用か
  4.手術の合併症-吻合不全は予後に影響するか
  5.貧血や出血の補正-輸血は予後に影響するか
  番外編 スポーツ観戦-サッカーは心臓にわるいか

IV がん手術
  1.食道がん手術-鏡視下手術は利点があるか
  2.直腸がん手術-ストーマはQOLがわるいか
  3.進行がん手術-閉塞症状にバイパスは有用か
  4.消化器がん手術-リンパ節郭清で再発が減るか
  5.がんの腹腔鏡手術-低侵襲手術は予後がよいか
  番外編 日本の臨床試験-外科にエビデンスはあるか

V がん診断
  1.遊離がん細胞-血液検査で予後がわかるか
  2.グラスゴー分類-血液検査で予後がわかるか
  3.Will Rogers 現象-精密検査は予後に影響するか
  4.X線診断-CT検査は安全で有用か
  5.がんの早期発見-がん検診は本当に有用か
  番外編 嗜好品と病気-コーヒーはからだによいか

VI がん患者
  1.血液型とがん-AB型は膵臓がんが多いか
  2.体格とがん-肥満者はがん死亡が多いか
  3.身体機能とがん-運動でがん死亡が減るか
  4.がんの化学予防-アスピリンでがんが減るか
  5.がんの告知-どんな患者が自殺しやすいか
  番外編 ストレスと病気-医師はがんになりやすいか

索引

附録
 外科医にも臨床医や社会人としての常識が必要です.
 「日本人の生老病死」は,日本人の出生や死亡に関する最新のデータをまとめました.
 「医学と医療の歴史」は,外科学の発展に貢献した発見や発明を写真や切手で紹介しました.
 「敬称の正しい使い方」には,宛名や呼称を使うときの注意点を挙げました.
 ①日本人の生老病死
 ②医学と医療の歴史
 ③敬称の正しい使い方

コラム
3つのポイント
 医師として仕事を続けていくために大切なこと.外科医として手術や診療を行うときに重要なこと.先輩として後輩を指導するときに注意するべきこと.私が先輩から教わり,後輩に伝えてきたことを,「3つのポイント」にまとめました.3つセットで覚えると,医師として充実した毎日を過ごせると思います.

イグ・ノーベル賞
 論文がむずかしいと思っている人.研究がつまらないと考えている人.日常診療が単調でおもしろくない人.ぜひ,「イグ・ノーベル賞」に紹介する論文や研究を見てください.人間がもつすばらしい才能,「好奇心や探究心」に気づきます.おもしろい論文を読みましょう.研究では自由な発想を大切にしましょう.

社会人として大切なもの
チームワークに必要なもの
医師に必要な気の力
医師が守るべき義務
医師に大切な心がけ
医師としての心がまえ
患者の症状を聞くときは
腹膜刺激徴候を診るときは
救急患者の危険信号
意識障害でチェック
循環血液量減少の徴候
高齢者の発熱を見たら
避けられない術後合併症
鑑別診断を考えるとき
見ればわかる医師の力
医師をダメにするもの
医師のわるいクセ
医師に大切な人間性
わかりやすい文章
わかりやすいプレゼン
医師のあいまいな言葉
医療現場の業界用語
大学病院の業界用語
まちがって使われる言葉
抄読会を担当したら
執筆を依頼されたら
研究活動で恩返し
だまされやすい統計学
医療問題や医療事故
私たちが持っている本能
がん患者の簡便な予後因子
胃がん腹膜播種の腹部所見
医師が患者にできること
出すと喜ばれるもの
医療行為に影響するもの
臨床現場で配慮すべきこと

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素朴な疑問を解きほぐすドクターAの温かな眼差し
書評者: 北川 雄光 (慶大教授・一般・消化器外科)
 本書は,医学書院から刊行されている『臨床外科』誌に連載された「ドクターAのミニレクチャー」を書籍化したものである。私は,ドクターA,すなわち経験豊富な外科医であり情熱的な教育者でもある安達洋祐氏本人,およびその著作の大ファンであり,この連載も必ず書籍化されるものと待ちわびていた。

 彼の著書は,いつも現場から生まれてくる基本的な課題に,肩に力を入れず淡々とアプローチするところから始まる。その視線は常に若手医師,レジデントの視線であり,スタートラインは常に「素朴な疑問」である。本書は,誰でも抱いたことがあり,そして明確に答えることができない「疑問」に関して,エビデンスに基づいてひもといていく形式が採られている。

 まず,その魅力は全ての項目が「素朴な疑問」に対する,基本事項,医学的証拠,補足事項,筆者の意見,疑問の解決という共通の構成で完璧に整理されていることである。ごく自然に,既知事項,理論展開,その根拠,現時点におけるコンセンサスが理解できる。そして,その医学的根拠は1,000以上にも及ぶ膨大な文献の読み込みから生まれてくる「至極のエッセンス」に裏付けられている。まさに圧巻である。

 一方,「筆者の意見」は決してメタ解析の解釈に関する科学的「意見」ではなく,著者の外科医としての随想,哲学が語られており,最も読み応えのあるパートである。「吻合不全を平気で器械や患者のせいにする外科医はメスを持つ資格がない」「外科医は直腸切断をネガティブに考えず,管理しやすい美しいストーマを作る責任がある」「臨床試験の結果を外科診療で実践する時は,患者の条件や適用する範囲が重要であり,臨床試験の結論を鵜呑みにしてはいけない」など著者の外科医としての信念と温かい眼差しを存分に味わうことができる。

 また,本書は大きく二つの読み方,楽しみ方ができる。一つはそれぞれのテーマについて熟読し,自分なりに整理し,また,根拠となった文献に直接目を通してもっと違う見方ができないか「ドクターAに挑戦する」楽しみ方である。この場合,ドクターAは想像以上に奥が深く,知識も広いためなかなか歯が立たないが,その「挑戦」のプロセスで大いに勉強になる。

 もう一つは「横に読み流す」試みだ。各章は,その内容と関係があるようなないような,不思議な序章から始まる。全て他書の引用で構成されているが,著者が社会や医療界に向けて「叫びたい内容」を代弁した珠玉の「引用」であり,これも横に読み通すと極めて重厚である。さらに,各章末のコラム,「3つのポイント」は,まさに外科レジデント諸君に「横読み」をしてほしいパートだ。これは常に著者が日常の診療,教育の中で若手に語りかけているであろう教育者としての大切なメッセージである。

 そして,なぜか「歴代イグ・ノーベル賞の受賞研究」が全ての章末に掲載されている。そこには細かな解説はなく,わずか一行の紹介だが思わず笑みがこぼれてしまう。あらためてイグ・ノーベル賞は,その着眼点が全てであり,それに尽きることを痛感する。常識や「いわゆるエビデンス」に流されずに「独自のものの見方をせよ」という著者の熱い思いが伝わってくる。

 本書は全体を通じて,エビデンスを熟知,吟味した上で,自ら考える姿勢,哲学を貫く姿勢,すなわち外科医が体得すべき大切な姿を示してくれているのだ。

 もちろん本書の根幹は,外科診療において大切な事項のエビデンスに基づく解説であることは言うまでもないが,著者の卓越したセンスと,若者への愛情溢れるメッセージによって綴られた「素朴ながらも卓越した名著」である。外科レジデント諸君のみならず,「現場の教育者」必携の書であることは間違いない。
偏見・常識に囚われない公平な文献の解析
書評者: 森 正樹 (阪大大学院教授・消化器外科学)
 医学書院から刊行されている『臨床外科』誌に,安達洋祐先生による「臨床の疑問に答える-ドクターAのミニレクチャー」が連載されていた。2012年から2015年のことである。すこぶる評判が良いためこの連載を本にしてほしいと思っていたが,それが現実となった。『外科医のためのエビデンス』として書籍化されたのである。しかし,本書は単にこれまでのミニレクチャーをまとめただけではない。短期間のうちに最新の文献が加えられ,また大幅に加筆された。

 本書は以下の6章から構成されている。
 I.外科診療,II.手術患者,III.術後管理,IV.がん手術,V.がん診断,VI.がん患者。

 それぞれの章には本編5つと番外編1つが含まれている。たとえば第II章の手術患者の本編5つは,
 1.喫煙患者の手術-禁煙で術後合併症は減るか
 2.大腸手術の前処置-術前の腸管洗浄は必要か
 3.閉塞性黄疸の患者-術前の減黄処置は必要か
 4.閉塞性大腸がん-腸閉塞にステントは有用か
 5.予防的ドレーン-手術でドレーンは必要か
 となっている。

 番外編の1つは,「治療成績の性差-男と女で経過がちがうか」というタイトルである。どれも大変重要であるもののあいまいに済ませがちなテーマである。しかし,著者はあいまいに済ませない。

 本編も番外編も本文は同じ構成になっており統一感を持って読むことができる。本文は6つに分けられている。その項目は(1)素朴な疑問,(2)基本事項,(3)医学的根拠,(4)補足事項,(5)筆者の意見,(6)疑問の解決となっている。本文の後は文献が並べられているが,もっとも文献数が少ないのが「III.術後管理」の番外編「スポーツ観戦-サッカーは心臓にわるいか」であり,16編が引用されている。しかし,そのようなテーマで世界の一流誌に16編も論文が掲載されていたことに驚く。世界中でサッカーが如何に生活に密着しているかがわかる。逆に最も文献数が多いテーマは「IV.がん手術」の「5.がんの腹腔鏡手術-低侵襲手術は予後がよいか」であり,50編が引用されている。重要度の高い論文を漏らさず記載する能力は長年培ってきた著者独自のものであろう。

 さて,本編では以上の6つの項目のほかに,目を引くところがある。それは各編の初めと終わりの工夫である。各編ともテーマの次に4行の示唆に富む文章が市販の新書から引用されている。その内容は時には形而上的,時には形而下的である。これが本文の絶妙な導入役を果たしている。辻秀男先生や柏木哲夫先生など医師に馴染のある先生の文,村松秀先生や近藤誠先生など話題の先生の文などが巧みに,そして偏見なく引用されている。他方,各編の最後には3つのポイントとイグ・ノーベル賞の2つのコラムが掲載されている。3つのポイントとは,著者が医師として実践していること,あるいは自戒していることを3つにまとめたものである。例えば,「執筆を依頼されたとき」は,「引き受ける,字数を守る,早めに送る」である(なるほど!)。また,「医師のわるいクセ」は,「字がきたない,時間を守らない,他人にきびしい」である(なるほど!)。最後にイグ・ノーベル賞を紹介するコラムを設けているが,実に面白い。1993年の文学賞は「著者の数が論文のページ数の100倍もある医学論文」に,2006年の鳥類学賞は「キツツキはなぜ頭痛を起こさないかを解明」に,また2014年の生物学賞は「イヌが排尿・排便するときはからだを地磁気の南北軸に一致させることを観察して記録」に対して贈られている。いずれも殊更に奥深い研究成果である。常識に囚われないことの大切さを示すために設けたコラムであろう。

 安達先生の著書は偏見に囚われないこと,文献を公平に解析して客観的にまとめることから医療関係者から絶大な信頼を得ている。本書もその姿勢にのっとった素晴らしい本である。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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