• HOME
  • 書籍
  • 生きている しくみがわかる 生理学


生きている しくみがわかる 生理学

もっと見る

「痛みが不安を引き起こすのはなぜ?」「体重の1kgは自分のものではないの?」「飲みすぎると顔がむくむのはなぜ?」「緊張するとドキドキするのはなぜ?」「辛い物を食べると顔に汗をかくのはなぜ?」-これらの疑問に生理学が答えます。本書を読めば、あなたの体で進行中の様々なしくみがみえてきます。わかりやすい文章と本格的なイラストが理解を深めます。日々の生活に、明日の臨床に役立つ、とっつきやすい生理学の本。
大橋 俊夫 / 河合 佳子
発行 2016年11月判型:A5頁:258
ISBN 978-4-260-02833-2
定価 2,530円 (本体2,300円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く

推薦の序(友池 仁暢)/(大橋 俊夫・河合 佳子)

推薦の序
生理学の知識を日々の健康に生かす知恵に

 今からおよそ104年前(1912年)、ノーベル生理学・医学賞に浴したフランスの外科医アレキシス・カレル(Alexis Carrel 1873-1944)は、『人間 この未知なるもの』という書籍を1935年に上梓しました。当時、科学技術の発展は目覚ましく、人々はバラ色の未来を思い描いていました。しかしカレルは、「科学技術の中に重大な問題が潜むのではないか」という危機感から、執筆の必要性を感じたと序文に著しています。訳文を引用します。
 現在、われわれは、人間についての情報があまりにも多すぎて、それをうまく使いこなせないでいる。役立てるためには、知識が総合的で簡潔でなくてはならない。(中略)私は一般の人々ばかりでなく学者のためにもこれを書いたのである。
 時代の先駆者は、私たちの体の働きには未知なるところがたくさんあること、またそれを知る喜びについても記しています。
 2016(平成28)年のノーベル生理学・医学賞は、大隅良典先生が単独受賞されました。記者会見では、「人がやっていないことに取り組む喜び」を強調されていたのが印象的でした。
 知ることの喜びと、それを日常に生かす知恵との間には、大きな隔たりがあります。みなさんもよく経験することではないでしょうか。大橋俊夫先生と河合佳子先生は、この大きな隔たりを埋めるという構想を、著作の形で示されました。本書はまず日常生活での疑問があって、それを生理学の視点から順を追って解説しています。本書の特長はこれだけではありません。生理学の知識を日常生活に生かすことで、健康な生活に役立つことを示しています。
 「真の学問とは、身近な疑問に明快に答え、しかも日々の生活に役立つものである」。これが、本書に一貫しているテーマです。大橋先生と河合先生は、このテーマを、具体的な記述へと見事に落とし込んでいます。

 私は、本書を若い医療従事者に薦めたいと思います。なぜなら、医療者の説明は本質をついて、かつ、わかりやすいことが絶対要件だからです。そのためには質問の内容をしっかりと理解しなければなりません。私たち医療者は、毎日さまざまな形で新しい医学・医療の情報に接します。膨大な情報を受け取るうちに、本質を理解していなくてもわかったような錯覚に陥っている場合も少なくありません。本書の項目は、素朴な疑問に端を発しています。この疑問を読むだけでも、医療知識に惑わされない疑問や質問がどういうものであるのかを、端的に知ることができます。医療者が、患者さんやその家族に対して、直感や不確かな知識を披露してはなりません。本書は、医療者の錯覚と、本質を突く疑問の間に生じる微妙なギャップを教えてくれます。
 もちろん、医療従事者ではない一般の方にとっても、病気や健康に関する知識が身近な知恵となるように、わかりやすいイラストがたくさんあります。ですから、本書を多くの方々に、広く強くお薦めします。
 まず、本書の目次をご覧ください。そうすれば、「途中で飽きることなく読めそうだ」と納得していただけるでしょう。
 第1章では、「酸素が『体に毒』ってどういうこと?」「歳をとると増えるシミやしわ、その予防に有効なのは?」「ヒトの血液をリトマス紙につけると、何色になるでしょうか?」。
 第2章では「血液中にUFOが飛んでいる?」「会社帰りに買った靴を翌朝履いたらぶかぶかでした。なぜですか?」「コンサート会場で大勢のファンが意識を失って倒れたのはなぜ?」。
 第3章では「指を切った時の痛みが、時間とともに変化するのはなぜ?」「計算ドリルなどの反復学習が薦められるのはなぜ?」「『手に汗にぎる』のはヒトとサルだけ?」。
 第4章では「貧血の患者さんが息切れや疲れやすさを訴える理由は?」など、他にも具体的な疑問が次から次へと出てきます。どうです? おもしろそうでしょう。

 2016年10月
 公益財団法人日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院
 友池 仁暢

* アレキシス・カレル(著)、渡部昇一(編訳):人間 この未知なるもの.三笠書房、1992



生理学ってなんだろう? 本書を読まれるみなさんに


  [キーワード] physics/physiology/一般生理学/
植物性機能/動物性機能/臨床生理学

◆生理学の始まりは?
 「生理学」という言葉が世界中で最も話題に上る時期といえば、秋。毎年10月上旬に発表されるノーベル賞のなかに、生理学・医学賞があります。生理学は、英語でphysiologyといいます。物理学のphysicsとよく似ているのは、どちらもギリシャ語のphysìsに由来する言葉だからです。
 physìsとは、「宇宙を含めた自然」という意味です。physics(物理学)は、宇宙を含めた自然界に潜む「生物体」における原理や法則を体系化した学問と定義されています。だとすれば、physiologyは何でしょうか? physiology(生理学)は、宇宙を含めた自然界の「生物体」に共通する原理や法則を体系化した学問なのです。
 「生物体」は、植物や動物に分類されます。それぞれの生理的機能の原理・法則を研究する学問として、植物生理学や動物生理学といった言葉も生まれました。これからみなさんが本書で学ぶのは、「人体生理学」です。人体に生じているさまざまな現象について、自分の体を教材にして理解し、知識や知恵として身につけることを最終目標として読んでいただきたいと思います。

 このような背景を知ると、人間はギリシャ時代から「人とはいったいなにものなのか?」「人の体や心はどのようにして動いているのか?」「どのように調節されているのか?」という研究を続けてきたことがわかります。「人の歴史そのもの」が生理学の教科書といえるのかもしれません。したがって、生理学のなかの1つが医学(medicine)であるとも考えられます。実際、ノーベル賞も、「Physiology and Medicine」ではなく、「Physiology or Medicine」と表記されています。
 では、医学と生理学の位置づけはどう捉えたらよいのでしょうか。
 医学は、臨床医学、基礎医学、社会医学の3つに区分されます。
 患者さんに直接関わる臨床医学の「臨床」という言葉は「死に瀕して床に伏している人」を表す宗教用語で、そのような人に施す医学・医療をいいます。その最終目的は、「患」すなわち「心に串のささった」人の、心の串(不安)を取り除くことにあります。
 この臨床医学を、科学的裏付けをもって支える学問が基礎医学です。ノーベルの活躍した時代、生理学は“基礎医学の母”とよばれていました。
 ちなみに、社会医学は、衛生学や公衆衛生学等の総称で、社会に生じるさまざまな医学・医療問題を解決するための学問です。

◆考える生理学って?
 それではここで、“考える学問”としての生理学の実例を1つ、示しましょう。
 体内に便を溜めるのは、大腸という臓器であることは知っていますね。便をスムーズに排泄できない状態が、便秘です。さてこの便秘に悩む患者さんから、「大腸は、体でどんな働きをしているんですか?」と聞かれたとします。専門用語をできるだけ使わずに、わかりやすく説明するためには、生理学の知識が必要です。
 筆者なら、次のように答えます。
筆者「魚をさばいたり食べたりした時に、魚の大腸を見たことはありますか?」
患者さん「うーん……」
筆者「実は、魚には大腸がないんですよ。ですから『うーん』で正解です。では、理科の授業でカエルの解剖をしましたか?」
患者さん「カエルには大腸があったような気がします」
筆者「では、オタマジャクシにはあるでしょうか?」
患者さん「うーん、ちょっとわかりません」
筆者「実は大腸は、オタマジャクシにはないけれど、カエルになる時にできてくる臓器なんです」
患者さん「どうしてですか?」
筆者「魚やオタマジャクシにはなくて、カエルにある。ここにヒントが隠れていますよ」
患者さん「あっ、カエルは陸でも生活できます」
筆者「そうなんです。大腸は、水の中に住んでいる生物にはなくて、陸に上がって生活する動物、例えばヘビや鳥やネコやヒトにはすべてあるんです。ところで、鳥のフンを見たことはありますか?」
患者さん「あります。絵の具みたいにベトベトしています」
筆者「そうですね。鳥は、尿の出口が大腸の中にあって、つまりウンチとオシッコを一緒に排泄しているからです」
患者さん「どうしてですか?」
筆者「鳥は飛んでいる間、いつでも自由に水を飲めるわけではありません。そのため、水分をできるだけ体の中に溜めておきたいのです。大腸には、水分をできるだけ体の中に戻すしくみがあります。例えば赤痢やコレラの毒は、このしくみを壊してしまいます。それで便が水のようになって流れ出してくるのです。それに陸上生物は、便を排泄すると、天敵に自分の存在を教えてしまうことになるので、体の中に便をとどめておく必要があるのです。水中で生活する魚やオタマジャクシは、水中に排泄しても敵に知られる心配がないので、いつでもウンチができる。だから大腸がないんですよ」

 大腸の働きについて、生物界に存在する原理や法則に基づいて説明しました。これが、生理学です。

◆本書の構成
 本書は4つの章から構成されています。
 「第1章 一般生理学」:細胞生理学ともいいます。生体を作っている細胞の働きは、場所によって異なりますが、働くしくみは共通しています。その共通している原理や法則性について解説します。
 「第2章 植物性機能」:動物にも植物にも共通して認められ、生きていくために必要な働きです。たとえば植物も動物も、生命を維持するために外界から酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出しています。これは呼吸機能といい、代表的な植物性機能です。
 「第3章 動物性機能」:動物に特有にみられる働きです。動物と植物の違いは何でしょうか? それは自ら動くことができるか否かということです。動くのに必要な運動機能や、周囲の状況を察知する感覚機能などが、動物性機能といわれるものです。
 「第4章 臨床生理学」:病態生理学ともいいます。病気が起こるしくみや、病気によって引き起こされるさまざまな症状のメカニズムを、生理学的な視点から考えます。医療現場では、生理学とは反対の論理プロセスで、患者さんの訴える症状から、その症状を引き起こす生体の異常(病気)の原因を可能なかぎり挙げて、検査結果や問診などの情報をもとに絞り込み、鑑別診断を行います。臨床生理学は、こうした臨床推論を行う過程において、重要です。

 生理学は、体の働くしくみを考える学問です。
 本書を通して、暗記を中心とした学習法から、筋道を立てて論理的に考える学習の醍醐味を楽しんでいただければ幸いです。

 2016年10月
 大橋 俊夫
 河合 佳子

開く

推薦の序 生理学の知識を日々の健康に生かす知恵に
序 生理学ってなんだろう? 本書を読まれるみなさんに

第1章 一般生理学
 1 体の働きを公園の遊具にたとえるとしたら?
 2 歳をとると癌になりやすくなるって本当ですか?
 3 酸素が「体に毒」ってどういうこと?
 4 歳をとると増えるシミやしわ、その予防に有効なのは?
 5 点滴液は甘い? しょっぱい?
 6 ヒトの血液をリトマス紙につけると、何色になるでしょうか?

第2章 植物性機能
 1 血液中にUFOが飛んでいる?
 2 病院でよく検査される心電図って何ですか?
 3 血管にいろいろな種類があるのはなぜですか?
 4 日本人は「ウサギ民族」と言われていると聞きました。なぜですか?
 5 歳をとると血圧が上がるのはなぜですか?
  そもそも高血圧はどうして体に悪いのですか?
 6 会社帰りに買った靴を翌朝履いたらぶかぶかでした。なぜですか?
 7 赤ちゃんは母乳しか飲まずに一日中横になっているのに元気なのはどうして?
 8 ヨガが武道の1つと言われているのはなぜ?
 9 コンサート会場で大勢のファンが意識を失って倒れたのはなぜ?
 10 食べ過ぎると胸やけするようになるのは何歳ぐらいから?
 11 体重のうち「1kgは自分のものではない」とはどういう意味?
 12 過去の病気と思われていた「くる病」が増えてきたのはなぜ?
 13 アイスランドの人には医学的な特徴がみられるって本当?
 14 江戸時代の「養生訓」に現代の医学からみた根拠はあるのでしょうか?
 15 寝転がって飴玉をなめると何が起きる?
 16 尿の色や回数だけでわかる病気があるって本当?
 17 たくさん汗をかくと喉が渇いておしっこが遠くなるのはなぜ?
 18 女性の基礎体温で妊娠がわかるのはなぜ?
 19 男性は60歳を過ぎると足が細くなり転びやすくなるのはなぜ?

第3章 動物性機能
 1 パイロットや夜勤の看護師は2時間の仮眠をとることが
  勧められています。なぜでしょうか?
 2 指を切った時の痛みが、時間とともに変化するのはなぜ?
 3 フグにあたると死んでしまうこともあるのはなぜ?
 4 計算ドリルなどの反復学習が薦められるのはなぜ?
 5 中年になると会話に「これ」「それ」「あれ」が増えるのはなぜ?
 6 非常口の表示が緑色なのはなぜ?
 7 列車がトンネルに入ると耳がふさがったように感じるのはなぜ?
 8 試験などで緊張すると動悸がするのはなぜ?
 9 熱い鍋や冷たい氷に触ると思わず手を引っ込めてしまうのはなぜ?
 10 「手に汗にぎる」のはヒトとサルだけ?
 11 辛い物を食べると目の下に汗をかくのはなぜ?

第4章 臨床生理学
 1 貧血の症状は、赤血球濃度が350万個/mm3以下、
  あるいはヘモグロビン濃度が9g/dL以下と、
  それぞれの正常値の約30%低下すると出現します。
  貧血の症状と発生原因について考えてみましょう。
 2 黄疸の症状は、血液中の総ビリルビン濃度が2mg/dL以上に
  なったあたりから出現してきます。ビリルビンの代謝過程から、
  黄疸の原因を考えてみましょう。
 3 浮腫は、組織間隙に過剰な水分が貯留した状態です。
  水分とアルブミンの移動原理から、浮腫の要因を考えてみましょう。

おわりに
参考文献
索引

開く

医療生理学講義の副読本に最適
書評者: 本間 研一 (北大名誉教授)
 このたび,医学書院から『生きている しくみがわかる 生理学』が上梓されました。著者は,医学生理学界の重鎮である信州大名誉教授(特任教授)の大橋俊夫氏と,新進気鋭の生理学者で東北医薬大教授の河合佳子氏です。大橋俊夫名誉教授は循環生理学の泰斗で,同じ医学書院から出版されている大書 『標準生理学』 (第8版,2014年)の編者でもあります。

 本書のタイトルは,生理学者からすれば同語反復に思えますが,著者の意図はまさにそこにあることが,一読してわかります。著者の長年にわたる生理学教育の経験から,学生さんの多くは,体系的な知識が網羅された生理学の教科書を読みこなして,「生きているしくみ」を理解することが次第に難しくなってきているとの思いがあるのではないでしょうか。ましてやその学生さんらが将来医師や医療従事者となったとき,果たして患者さんに対して疾患の成り立ちや症状の「しくみ」などを適切に説明できるのだろうかという老婆心が,本書執筆の動機の一つであると思います。

 本書は4章から構成されています。各章のタイトルは従来の生理学に基づいていますが,その切り口は「歳をとると増えるシミやしわ,その予防に有効なのは?」(p.18)とか,「そもそも高血圧はどうして体に悪いのですか?」(p.62)など,親しみやすい問いかけでなされています。そこには,正規の教科書の内容をわかりやすく補足しようという著者の意図もありますが,それにもまして,「患者さんからこのような質問をされた場合,どう答えますか」という練習問題にもなっています。これで思い出したのですが,私が学生だった頃の生理学の試験問題は「摂氏40度の風呂に30分間首までつかっていたとき,身体にどのような現象が起こるかを記せ」でした。

 医師や医療従事者の説明は一般にわかりづらく,多くの患者さんが煙にまかれたような印象を抱きます。それは,内容が日常的な出来事からかけ離れているだけでなく,医学においては常識である論理が,世間一般では必ずしもそうではないことからくる行き違いによることが多いようです。そのような時,本書の随所に記載されている生理学的な「考え方」と「説明」を駆使することで,患者さんとの行き違いを克服することができるのではないでしょうか。

 著者は,本書で「筋道を立てて論理的に考える学習の醍醐味」を,楽しんでほしいと述べています(「序」より)。生理学の教科書は,大学生が読めば理解できる内容と,読んでもなかなか理解しにくい内容があります。講義で取り上げるのは後者ですが,本書は副読本として医学生理学の講義に最適で,多くの教員の方に読んでいただきたいと思います。難しい生理学のしくみを学生に理解させたときの達成感は,教師冥利に尽きます。
筋道を立てて考える面白さを実感できる
書評者: 鈴木 敦子 (健康科学大教授・生理学)
 医療系学部で生理学を教えている立場から,本書を紹介させていただく。

 本書は第1章「一般生理学」,第2章「植物性機能」,第3章「動物性機能」,第4章「臨床生理学」から構成されている。

 第1~3章では,合計36項目が質問の形で取り上げられている。例えば「体の働きを公園の遊具にたとえるとしたら?」(p.2),「血液中にUFOが飛んでいる?」(p.36)といった意表をつくユニークなもの,「寝転がって飴玉をなめると何が起きる?」(p.120),「試験などで緊張すると動悸がするのはなぜ?」(p.191)のように誰もが日常的に経験するようなものが並んでおり,眺めるだけで,あれこれ考えて,わくわくしてしまう。

 この「質問形」がミソで,好奇心をくすぐられるのである。質問の答えも,日常的な経験を踏まえた丁寧な説明のおかげで,「なるほど」と腑に落ちて,スッと頭に入る。また,各質問に対する解説が4~6ページ程度にまとまっていて,本の大きさもA5サイズとコンパクトなので,カバンに入れて持ち歩き,気軽に好きなところから読めるのも嬉しい。

 第4章は,貧血,黄疸,浮腫という3つの病態を「考えてみましょう」という3項目から成り,生理学の知識を基にして病状や原因を説明している。第1~3章を基礎編,第4章を応用編と考えてもよいだろう。各項目の最後は「順序立てて〇○の原因を挙げていく」とまとめられており,知識を統合し,筋道を立てて考えることの面白さを実感できる。

 本書の「序」に「筋道を立てて論理的に考える学習の醍醐味を楽しんでいただければ幸いです」とある(p.ix)。生理学教育に携わる者として,深い共感を覚える。しかし,学生に「考える学習の醍醐味を楽しませる」ことができているだろうかと自問させると,反省の念にかられてしまう。学生にとっては難しい生理学用語を覚えるだけでも大仕事であり,特に国家試験をめざす養成校では知識を詰め込むことが優先され,面白さを伝えることは二の次にされがちだからである。

 本書は好奇心を刺激してくれるので,面白いと思いながら読んでいるうちに,自分の身体のこととして「生きているしくみ」を理解することができ,考える力も養われる。ぜひ医療系の学生に読んでもらい,知識を詰め込むだけではなく,知る喜びと考える楽しさを味わってほしい。そして,生理学の教育に携わる方にも一読をお薦めしたい。わかりやすく説明し,学生の考える力を引き出すヒントがいっぱい詰まっているからである。

 本書は専門用語をあまり使わずに書かれているが,これは決して簡単なことではない。高度な内容を平易に解説するには,多くの努力と工夫がなされたことと思う。心より敬意を表したい。また,全編を通して読者に優しく語りかけるように書かれており,著者の先生方のお人柄がにじんでいる。読んで良かったと思える1冊である。
自分の身体を用いて,生理学を身近に感じてみよう
書評者: 窪田 雅之 (東大附属病院)
 「血液中にUFOが飛んでいる?」

 本書の第2章冒頭のタイトルです(p.36)。何を言っているのかわからない人が大半かと思います。しかし,本書を読み進めていけば,自ずと血液中にUFOが存在することが,いかに生理学的に理に適っているのかがおわかりいただけるでしょう。

 著者である大橋先生,河合先生は私の学生時代の恩師であり,“自分の身体を教科書に,生きているしくみを実感しよう”を理念として,長年生理学教育に携わってこられました。その哲学は,本書にも惜しむことなく反映されています。

 本書は“生きていくうえで感じる身近な疑問”に対して,生理学を用いてすっきりと説明し,そこで得た知識を明日からの日常生活に生かしていくことを目標に編集されています。豊富なイラストとわかりやすい解説により,医療に興味のある一般の方々や,若手医療従事者の皆さんにも楽しんでいただけると思います。

 本書は,「一般生理学」「植物性機能」「動物性機能」「臨床生理学」の全4章で構成され,各章の中で,日常生活で出合うであろうさまざまな疑問が挙げられています。

 例えば「指を切った時の痛みが,時間とともに変化するのはなぜ?」という項目(p.157)では,「痛みの伝導路」を生理学の「知識」として知ることと,それを応用して臨床現場で説明することの微妙なギャップを体験することでしょう。その後も「鈍い痛みに対して不安を覚えるのはなぜ?」,「痛いところをなでると痛みが和らぐのはなぜ?」といった興味深い話が続いていきます。

 「ヨガが武道の1つと言われるのはなぜ?」の項目(p.82)では,「息を吐く時に一番力が出る」ことを,実際のスポーツと照らし合わせて説明していきます。こうした日常で出合う,ちょっとした疑問を生理学的に考えていきます。

 「寝転がって飴玉をなめると何が起きる?」の項目(p.120)では,寝たまま食べることを例にとり,嚥下反射のしくみをわかりやすく解説しています。この嚥下反射を生かす「あること」を行うだけで,未熟な自分でも内視鏡検査(ファイバー挿入)をスムーズに行うことができました。生理学が実臨床に応用されていることが,実体験をもって実感できた瞬間でした。

 本書は「生理学の知識を網羅したいわゆる成書」ではありません。明日から生かせる「知恵」を楽しみながら得ることができる「新しい生理学の教科書」です。サーカディアンリズム,パラクライン,ステルコビリノーゲン……。確かに,少々難解な言葉も登場します。しかし,丁寧な解説により,抵抗なく読み進めることができるでしょう。少しでも興味をもった方は,まずは目次を眺めてみてください。医療従事者でもそうでなくても,「あー,確かにそうだよね。でも,改めて聞かれると,なんでだろう?」と疑問に思い,好奇心がそそられることでしょう。また,本書を読むことで,そうした好奇心が満たされること請け合いです。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。