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皮膚がんバリエーションアトラス

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多彩な臨床像を呈する各種皮膚がんを臨床所見のバリエーションという観点からまとめたアトラスがついに登場。基底細胞癌、有棘細胞癌、悪性黒色腫を中心に、典型像のみならず、教科書では掲載しきれない、様々な表情をもつ症例を網羅。臨床像とダーモスコピー像は合わせて2,000点に。膨大な症例写真を見ていくうちに、「この疾患なら、このような顔つき」という臨床所見のスペクトラムがつかめるようになる!
編集 田中 勝 / 安齋 眞一
発行 2016年05月判型:A4頁:384
ISBN 978-4-260-02472-3
定価 16,500円 (本体15,000円+税)

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 皮膚科診断学の中心は形態学です.従来,肉眼的形態学である発疹学と,顕微鏡的形態学である皮膚病理組織学が,その大部分を担ってきました.近年われわれ皮膚科医には,ダーモスコープという,肉眼と顕微鏡の間を埋めるような強い味方ができました.そのため皮膚科診断学においては形態学の重要性はますます高まってきたといえます.
 もともと形態学の学習は,理論も重要ではありますが,その経験が大きくものをいいます.10例より100例,100例より1,000例の形態を見るということが非常に重要です.ただし,ただ漫然と見ただけではダメで,そこにきちんとしたナビゲーターがいることが大切だと考えています.
 本書は,皮膚科臨床のなかでも皮膚がんにスポットライトをあて,多彩な臨床像を呈する各種皮膚がんを臨床所見のバリエーションという観点からまとめたアトラスです.基底細胞癌,有棘細胞癌,悪性黒色腫を中心に,その他の皮膚がん,皮膚がんと鑑別を要する良性疾患を取り上げています.皮膚悪性腫瘍の経験の豊富な執筆者より3,000点を超える画像を集め,編集会議を重ねて,質の高い症例を厳選しました.症例ごとに臨床像とダーモスコピー像をセットで示し,一目で臨床像に特徴的なダーモスコピー所見が理解できるよう工夫してあります.それらの中には,典型像のみならず,教科書では掲載しきれない,各疾患が呈する様々な表情(=バリエーション)をもつ症例が網羅されています.したがって,本書を見れば,いろいろな顔をした皮膚がんについて極めて多数の症例を目にすることができます.このことが皮膚がんの臨床およびダーモスコピー所見を学習するうえで,非常に大切なものと考えます.さらに,膨大な症例写真を見ていくうちに,「この疾患なら,このような顔つき」という各疾患の臨床所見のスペクトラムがつかめるようになることも期待しています.
 冒頭に「部位,色調,形状で分けた画像目次」を掲載しています.これは,本書収載症例を部位と見た目(色調・形状)で分類して並べたもので,外来で診断に悩む症例をみた際には,絵合わせ的に似た臨床像の症例を探すこともできます.
 以上のように,皮膚がんの臨床およびダーモスコピー所見を学ぶための教科書として,さらには診察室に置いて診断に悩んだときの手助けとして活用できることを目指して本書を編集しました.そのため,基底細胞癌,有棘細胞癌,悪性黒色腫,そしてこれらの皮膚がんと鑑別が問題になる色素細胞母斑と脂漏性角化症については,「臨床像と病理組織像のポイント」として定型的な臨床所見と病理組織像を解説する項目を設けています.また,診断に迷う症例や興味深い所見を呈する症例については,「徹底解剖!」と題するコラムで,ダーモスコピー像を詳しく解説しています.
 本書が,読者諸氏の皮膚がん診療に少しでも役立つことを祈念しています.
 最後に,膨大な数の症例について,臨床情報,臨床像・ダーモスコピー写真を提供いただいた執筆者の先生方,いつ終わるともしれぬ長い編集会議に付き合い,本書をまとめることに多大な助力をいただいた医学書院の天野貴洋氏に深謝します.

 2016年3月
 田中 勝
 安齋眞一

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部位,色調,形状で分けた 画像目次

I 基底細胞癌 basal cell carcinoma
 臨床像と病理組織像のポイント
  1 結節型
  2 モルフェア型
  3 表在型
  4 非色素性,低色素性

II 有棘細胞癌およびその類症 squamous cell carcinoma
 臨床像と病理組織像のポイント
  1 有棘細胞癌
  2 ケラトアカントーマ様有棘細胞癌
  3 ケラトアカントーマ
  4 疣状癌
  5 光線角化症
  6 Bowen病
  7 Bowen様丘疹症

III 悪性黒色腫 malignant melanoma
 臨床像と病理組織像のポイント
  1 悪性黒子型
  2 表在拡大型
  3 結節型
  4 末端黒子型
  5 無色素性黒色腫
  6 皮膚転移

IV その他の皮膚がん
  1 Paget病
  2 汗器官癌
  3 脂腺癌
  4 血管肉腫
  5 隆起性皮膚線維肉腫
  6 Merkel細胞癌
  7 転移性皮膚癌

V 皮膚がんと鑑別を要する良性疾患
 臨床像と病理組織像のポイント
  1 色素細胞母斑
  2 良性上皮性腫瘍
  3 良性軟部腫瘍
  4 血管病変
  5 その他

ダーモスコピー用語 和欧対照一覧
提供症例一覧

索引

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通読することにより皮膚がん診療の経験値がアップする一冊
書評者: 名嘉眞 武国 (久留米大教授・皮膚科)
 このたび医学書院より『皮膚がんバリエーションアトラス』というタイトルの書籍が発行された。編集は田中 勝先生(東京女子医科大学東医療センター教授)と安齋眞一先生(日本医科大学教授)のお二人である。お二人の専門領域はダーモスコピーと皮膚病理組織学であることは周知のとおりである。完成させるまでの想像を絶するような時間と労力がまさに伝わってくる力作である。

 まず全体の構成については,皮膚がんの代表として第Ⅰ章「基底細胞癌」,第Ⅱ章「有棘細胞癌およびその類症」,第Ⅲ章「悪性黒色腫」,第Ⅳ章「その他の皮膚がん」を掲げ,最後に第Ⅴ章「皮膚がんと鑑別を要する良性疾患」と大きく5章に分類している。そして各章の冒頭に「臨床像と病理組織像のポイント」として,全て安齋先生ご自身が解説している。ここでの病理組織像の写真は鮮明度が素晴らしく,内容も若い先生方でも明確に理解しやすいものとなっている。また近年提唱された疾患名の解説も盛り込まれ,最新の知識も学べるものとなっている。評者も大変勉強になり,今後大いに参考にできるものと確信した。

 各項目では,それぞれの病型と部位を細かく分類したうえで,全ての症例に臨床像とダーモスコピー像の写真を隣接させ,それぞれについて解説している。そして代表的な症例については拡大したダーモスコピー像に矢印や矢頭などを用いて詳細に解説している。ここでの解説は大変理解しやすい内容となっており,田中先生の初級から上級者まで全ての読者に対する優しい配慮がうかがわれる。ただ,本書で解説されている代表的腫瘍については,事前に診断に有用となる基本的なダーモスコピー所見について他の成書で学んでいただきたい。そのうえで本書を通読するとバリエーションに関する知識が自然と頭に入ってくる。なぜなら本書には他に類をみない驚くほどの膨大な症例が収載されているからである。これらの症例を集めるには,編集のお二人の先生だけでなく経験豊富な執筆者の先生方からの症例提供があったことは言うまでもない。

 ぜひ初級者のみならず経験豊富な方も一度ご覧いただきたい。あまりに膨大な内容で一気に読破するのは大変ではあるが,各腫瘍のバリエーションごとに学ぶことは限られた時間でも可能である。読み終えた頃には,それぞれの腫瘍について多くの経験を積んでいることに気付かされるはずである。
暗黙知を身につけるために
書評者: 常深 祐一郎 (女子医大准教授・皮膚科)
 見たことのないアトラスが出版された。アトラスといえばさまざまな疾患の画像が収められているものというのが私の常識であった。頻度の高い疾患からあまりお目にかからない疾患まで広く網羅されているものである。それがこの『皮膚がんバリエーションアトラス』では,なんと基底細胞癌と有棘細胞癌,悪性黒色腫という三つの皮膚癌で全紙面の7割を占めているのである。基底細胞癌に95ページ,有棘細胞癌に70ページ,悪性黒色腫に71ページが費やされている。尋常ではない。

 どのようにしてこれだけのページ数が埋められているかというと,そこがバリエーションである。同じ疾患の膨大な数の症例写真が集められているのである。

 実臨床では,同じ疾患といっても,一つとしてまったく同じ臨床像はない。バリエーションそのものである。よって,皮膚科医は多くの症例を日々見続けて初めて実臨床で通用するようになる。経験がものを言うゆえんである。このアトラスには極めて多くのバリエーションが濃縮して詰まっている。本来なら何年もの期間を要するところを,短期間で効率よく経験してしまおうというのがこのアトラスの狙いであろう。臨床像とダーモスコピー像の写真が対になって提示され,簡潔な所見が添えられている。文字が少ないのでどんどん見ていくことができる。

 これは調べ物に使うアトラスではなく,読み通すアトラスである。そして怒濤の症例写真を読み進めているうちに気が付いたことがある。バリエーションを見ているはずなのに,極めて多くの症例を浴びていると,その中に共通する本質が見えて来るのである。文章でいくら説明されてもわからないひらめきのようなものが頭の中に形成されていく。言葉で説明するのは難しいが,画像を見た瞬間それが何なのか「わかる」のである。考える前に答えが出てくる,答えを思いついてからその理由を考える。これを暗黙知という。ベテラン皮膚科医はそのように診断している。

 皮膚科学は形態学である。本書の「序」にもそのように書かれているし,私も他誌で何度かそのように述べたことがある。形態学の神髄は暗黙知である。そこに至るためには,たくさん見るしかない。文字ではなく形態を見なければならない。百聞は一見にしかず,である。それを体現した究極のアトラスが本書である。ぜひ手にとってバリエーションのシャワーを浴びていただきたい。そしてベテラン皮膚科医の眼力を手に入れてもらいたい。

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