高次脳機能障害のリハビリテーション [DVD付] 第3版
実践的アプローチ
目に見えない障害をもつ当事者の生活に寄り添うための実践的テキスト、充実の改訂版
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“高次脳機能障害のリハビリテーション”の入門書の改訂版。日常の生活場面から復職に至るまで、高次脳機能障害者の日々の暮らしぶりを重視するコンセプトはそのままに、今版では脳画像所見、若年脳損傷者へのリハ、自動車運転の章を新設。さらに、各障害の実際場面での症状の現れ方がわかるDVD動画、患者・家族へ高次脳機能障害を説明する際のパンフレット見本を収載。現場のリハスタッフにますます有用な内容となっている。
編集 | 本田 哲三 |
---|---|
発行 | 2016年06月判型:B5頁:336 |
ISBN | 978-4-260-02477-8 |
定価 | 4,620円 (本体4,200円+税) |
更新情報
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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第3版の序
本書が,わが国の土壌に根ざした高次脳機能障害リハビリテーション(以下リハ)の実践的テキストを目指して出版され,はや11年近くの歳月が経過しました.このたび,幸いにも第3版が出版の運びとなったことは編者望外の喜びです.
今版では,前版以降の高次脳機能障害リハ医療・医学の発展および社会状況の変化をふまえ,以下の点を中心に改訂を行いました.
本年4月の診療報酬改定により,通勤場面・職場など医療機関外での医療的リハが可能となりました(p.266,表7-1 参照).本書で強調し続けてきたように,高次脳機能障害は本来社会活動場面での障害が顕著です.今回の改定により高次脳機能障害リハが飛躍的に充実していくことが期待されます.
本書が,医療・福祉・介護現場で高次脳機能障害リハの臨床に関わるすべての皆様のお役に立てることを祈念しております.
幸い本書が版を重ねることができたのは,一重に医学書院北條立人氏の粘り強いご尽力の賜物でした.記して深甚の謝意を表します.
2016年4月
本田哲三
本書が,わが国の土壌に根ざした高次脳機能障害リハビリテーション(以下リハ)の実践的テキストを目指して出版され,はや11年近くの歳月が経過しました.このたび,幸いにも第3版が出版の運びとなったことは編者望外の喜びです.
今版では,前版以降の高次脳機能障害リハ医療・医学の発展および社会状況の変化をふまえ,以下の点を中心に改訂を行いました.
1. | 全体を見直し加筆・修正したのに加え,新たに脳画像所見・若年脳外傷者へのアプローチ・自動車運転の章を追加しました. |
2. | 本書はリハ現場のスタッフの利便性を最優先にしています.今版では,東京都医師会のご厚意によりDVD動画を添付することができました.また,患者さん・ご家族・職場関係者をはじめ一般の方々へこの障害を説明する際お役に立てるようにパンフレット(見本)も収載しました. |
本年4月の診療報酬改定により,通勤場面・職場など医療機関外での医療的リハが可能となりました(p.266,表7-1 参照).本書で強調し続けてきたように,高次脳機能障害は本来社会活動場面での障害が顕著です.今回の改定により高次脳機能障害リハが飛躍的に充実していくことが期待されます.
本書が,医療・福祉・介護現場で高次脳機能障害リハの臨床に関わるすべての皆様のお役に立てることを祈念しております.
幸い本書が版を重ねることができたのは,一重に医学書院北條立人氏の粘り強いご尽力の賜物でした.記して深甚の謝意を表します.
2016年4月
本田哲三
目次
開く
1 高次脳機能障害概論
1 高次脳機能障害とは
2 高次脳機能障害者実態調査結果
障害者数-「リサーチ・リテラシー」の必要性 / 高次脳機能障害の症状 /
原因疾患 / 原因疾患と高次脳機能障害の特徴;脳血管障害と脳外傷の比較
3 高次脳機能障害を引き起こす主な原因疾患と症状
脳血管障害 / 頭部外傷による脳損傷 /
脳のエネルギー代謝の危機による障害
2 高次脳機能障害者の暮らしぶり
日常生活の状況 / 社会的・文化的活動 / 職業 / 経済状態 /
日常生活上で困っていること / まとめ
3 高次脳機能障害の脳画像所見
画像診断のポイント / 画像診断に用いる検査 / 脳画像所見の読み方 /
高次脳機能障害の各症候と画像 / まとめ
4 各障害の診断とリハビリテーション
概要
高次脳機能障害の診断の概要 / 高次脳機能障害のリハビリテーションの概要
1 失語症
概念 / 病巣 / 日常生活での現れ方 / 診療場面での現れ方 /
診断のポイント / 鑑別診断 / 補助診断 /
リハビリテーションの方法 / 日常生活への援助 /
失語症リハビリテーションの課題
2 注意障害
概念 / 病巣 / 日常生活での現れ方 / 診療場面での現れ方 /
診断のポイント / 鑑別診断 / 補助診断 /
リハビリテーションの方法 / 日常生活への援助
3 記憶障害
概念 / 病巣 / 日常生活での現れ方 / 診療場面での現れ方 /
診断のポイント / 鑑別診断 / 補助診断 /
リハビリテーションの方法 / 日常生活への援助
4 行動と感情の障害
概念 / 行動の障害 / 脳卒中後うつ病 / 嫉妬妄想
5 半側空間無視(半側身体失認を含む)
概念 / 症状 / リハビリテーションの方法
6 遂行機能障害・アパシー
概念 / 臨床症状 / 病巣 / 日常生活での現れ方 /
診療場面での現れ方 / 診断のポイント / 鑑別診断 /
補助診断 / リハビリテーションの方法 / 日常生活への援助
7 失行症
概念 / 病巣 / 日常生活での現れ方 /
診療場面での現れ方 / 診断のポイント / 鑑別診断 /
補助診断 / リハビリテーションの方法 / 日常生活への援助
8 地誌的障害
概念 / 病巣 / 日常生活での現れ方 / 診療場面での現れ方 /
診断のポイント / 鑑別診断 / 補助診断 /
リハビリテーションの方法 / 日常生活への援助
9 失認症(視覚失認)
概念 / 病巣 / 日常生活での現れ方 / 診療場面での現れ方 /
診断のポイント / 鑑別診断 / 補助診断 /
リハビリテーションの方法 / 日常生活への援助
10 障害の無自覚
概念 / 病巣 / 日常生活での現れ方 / 診療場面での現れ方 /
診断のポイント / 鑑別診断 / 補助診断 /
リハビリテーションの方法 / 日常生活への援助
11 認知症
概念 / 日常生活での現れ方 / 診療場面での現れ方 /
診断のポイント / 認知症の治療 / 鑑別診断 / その他
5 回復期リハビリテーション病棟におけるチームアプローチ
統合的リハビリプログラムの概要 / 統合的リハビリプログラム実施結果 /
事例紹介(症例1) / まとめと今後の課題
6 高次脳機能障害のリハビリテーションと薬物療法
薬物療法の意義とエビデンス / 各薬剤の特徴 / 各症状への対応 /
投薬にあたっての注意
7 高次脳機能障害者の就労へのアプローチ
就労支援におけるリハチームの役割分担 / 就労支援に必要な診断・評価 /
当事者・家族・職場スタッフへの障害の説明(カンファレンス) /
介入計画書の作成と契約 /
職場スタッフへの指導(外来および職場訪問指導) / 外来でのフォロー /
医療機関での就労援助結果 / おわりに
8 若年脳外傷者への包括的リハビリテーションの実践
はじめに / 包括的リハビリテーションのはじまり /
プログラムの論理的基盤 / 「治療環境」という考え方 /
神経心理循環 / 基本的なルール /
包括的リハビリテーションに求められること
9 高次脳機能障害者の自動車運転
はじめに / 自動車運転再開の取り組み /
自動車運転に関する法制度 / 自動車運転再開の指針と判断基準案 /
まとめ
10 高次脳機能障害者を支える諸制度
社会制度の枠組 / 架空事例から社会制度を知る / 各制度の概要
11 関係諸機関
高次脳機能障害支援拠点施設 / 障害者福祉関連の機関 /
地域内の相談支援機関 / 就労支援関連機関 / 当事者団体 /
その他
付録 「高次脳機能障害」を正しく理解するために
索引
1 高次脳機能障害とは
2 高次脳機能障害者実態調査結果
障害者数-「リサーチ・リテラシー」の必要性 / 高次脳機能障害の症状 /
原因疾患 / 原因疾患と高次脳機能障害の特徴;脳血管障害と脳外傷の比較
3 高次脳機能障害を引き起こす主な原因疾患と症状
脳血管障害 / 頭部外傷による脳損傷 /
脳のエネルギー代謝の危機による障害
2 高次脳機能障害者の暮らしぶり
日常生活の状況 / 社会的・文化的活動 / 職業 / 経済状態 /
日常生活上で困っていること / まとめ
3 高次脳機能障害の脳画像所見
画像診断のポイント / 画像診断に用いる検査 / 脳画像所見の読み方 /
高次脳機能障害の各症候と画像 / まとめ
4 各障害の診断とリハビリテーション
概要
高次脳機能障害の診断の概要 / 高次脳機能障害のリハビリテーションの概要
1 失語症
概念 / 病巣 / 日常生活での現れ方 / 診療場面での現れ方 /
診断のポイント / 鑑別診断 / 補助診断 /
リハビリテーションの方法 / 日常生活への援助 /
失語症リハビリテーションの課題
2 注意障害
概念 / 病巣 / 日常生活での現れ方 / 診療場面での現れ方 /
診断のポイント / 鑑別診断 / 補助診断 /
リハビリテーションの方法 / 日常生活への援助
3 記憶障害
概念 / 病巣 / 日常生活での現れ方 / 診療場面での現れ方 /
診断のポイント / 鑑別診断 / 補助診断 /
リハビリテーションの方法 / 日常生活への援助
4 行動と感情の障害
概念 / 行動の障害 / 脳卒中後うつ病 / 嫉妬妄想
5 半側空間無視(半側身体失認を含む)
概念 / 症状 / リハビリテーションの方法
6 遂行機能障害・アパシー
概念 / 臨床症状 / 病巣 / 日常生活での現れ方 /
診療場面での現れ方 / 診断のポイント / 鑑別診断 /
補助診断 / リハビリテーションの方法 / 日常生活への援助
7 失行症
概念 / 病巣 / 日常生活での現れ方 /
診療場面での現れ方 / 診断のポイント / 鑑別診断 /
補助診断 / リハビリテーションの方法 / 日常生活への援助
8 地誌的障害
概念 / 病巣 / 日常生活での現れ方 / 診療場面での現れ方 /
診断のポイント / 鑑別診断 / 補助診断 /
リハビリテーションの方法 / 日常生活への援助
9 失認症(視覚失認)
概念 / 病巣 / 日常生活での現れ方 / 診療場面での現れ方 /
診断のポイント / 鑑別診断 / 補助診断 /
リハビリテーションの方法 / 日常生活への援助
10 障害の無自覚
概念 / 病巣 / 日常生活での現れ方 / 診療場面での現れ方 /
診断のポイント / 鑑別診断 / 補助診断 /
リハビリテーションの方法 / 日常生活への援助
11 認知症
概念 / 日常生活での現れ方 / 診療場面での現れ方 /
診断のポイント / 認知症の治療 / 鑑別診断 / その他
5 回復期リハビリテーション病棟におけるチームアプローチ
統合的リハビリプログラムの概要 / 統合的リハビリプログラム実施結果 /
事例紹介(症例1) / まとめと今後の課題
6 高次脳機能障害のリハビリテーションと薬物療法
薬物療法の意義とエビデンス / 各薬剤の特徴 / 各症状への対応 /
投薬にあたっての注意
7 高次脳機能障害者の就労へのアプローチ
就労支援におけるリハチームの役割分担 / 就労支援に必要な診断・評価 /
当事者・家族・職場スタッフへの障害の説明(カンファレンス) /
介入計画書の作成と契約 /
職場スタッフへの指導(外来および職場訪問指導) / 外来でのフォロー /
医療機関での就労援助結果 / おわりに
8 若年脳外傷者への包括的リハビリテーションの実践
はじめに / 包括的リハビリテーションのはじまり /
プログラムの論理的基盤 / 「治療環境」という考え方 /
神経心理循環 / 基本的なルール /
包括的リハビリテーションに求められること
9 高次脳機能障害者の自動車運転
はじめに / 自動車運転再開の取り組み /
自動車運転に関する法制度 / 自動車運転再開の指針と判断基準案 /
まとめ
10 高次脳機能障害者を支える諸制度
社会制度の枠組 / 架空事例から社会制度を知る / 各制度の概要
11 関係諸機関
高次脳機能障害支援拠点施設 / 障害者福祉関連の機関 /
地域内の相談支援機関 / 就労支援関連機関 / 当事者団体 /
その他
付録 「高次脳機能障害」を正しく理解するために
索引
書評
開く
高次脳機能障害者の病態から日常生活までを現場目線で解説した入門書
書評者: 花山 耕三 (川崎医大教授・リハビリテーション医学)
本書は,2005年の初版刊行以来好評を博している高次脳機能障害リハビリテーションの実践的テキストの改訂第3版となる。
他の障害が主と思われていた患者が,実は高次脳機能障害を併せ持っていたということは,リハビリテーションの現場では少なくない。もちろん現場では,高次脳機能障害が主となる患者もその認識の高まりから増加しているのが現状である。本書は,このような患者に対する疑問,例えば「どのような症状がみられるのか」「どのように診断・評価するのか」「その病態は何か」「訓練場面では何をするのか」「生活場面ではどのような問題が起こり,どう対処するのか」「薬物をどう使うのか」などについて,その類型である10の障害各々に対し,多くの具体例を引きつつ網羅的に述べられている。また,患者への訓練の場で用いる課題シートが各々の障害で掲載されており,その障害の欠けている点を知るために有効である。
本書は,構成や色使いといった要因もあるだろうか,前版より読みやすくなった印象を受ける。さらに今回の版から新たに,脳画像所見,若年脳外傷者のアプローチ,自動車運転の章が追加されたことは意義深い。特に自動車運転については,生活上のニードが高い障害者が多い一方で,事故の危険を伴うだけに,どのように対処すべきかわれわれ医療者の頭を悩ませる問題であり,近年の高次脳機能障害におけるホットなトピックスとなっている。また,付録のDVDは,患者の行動や家族の話から,その障害のイメージを形成するのに有用である。
失語・失認・失行といった古典的な高次脳機能障害から行政的定義による高次脳機能障害に至るまで,その全てを現場目線で解説した良書である。編集の本田哲三氏はリハビリテーション科専門医であり,本書を通して,病態から生活までを全て見通して対処すべきという姿勢が貫かれ,それらの要点が簡潔にまとめられている。医師,療法士のみならず,看護,介護分野のスタッフの入門書として手元に置いて活用することをお薦めする。
高次脳機能障害をよりよく理解するための心配りがさらに行き届いた改訂版
書評者: 澤 俊二 (金城大学教授・作業療法学)
本書は2005年に初版が発行され,以後,2010年に第2版,そして今回の第3版と,約5年おきに版を重ね,既に名高い専門書として定着した感がある。その理由は,高次脳機能障害をどう理解し,どうアプローチをしたらよいか,社会全体で支えるにはどうすべきか,また,職場,さらには社会で,高次脳機能障害をよく理解してもらうにはどうしたらよいか,それらへの回答を,3版まで版を重ねる中で答えていこうと懸命に努力されてきたからではないだろうか。
このことは,第2版との違いをみれば明らかであろう。今回の第3版では,2008年の高次脳機能障害者に対する東京都調査を追加しており,49,508名の総数に対し,認知症者も含まれている可能性を指摘している。また,原因と各症状の頻度については,ほぼ定説が確立されていると述べている。その他にも,新たに脳画像所見の項目が追加され,わかりやすい解説が施されている。また,若年脳外傷者へのアプローチについても記載され,その手法を平易に解説している。そして現在,全国的にホットな話題となっている自動車運転の章も追加されている。全国的に研究活動が活発化しているので,大いに参考になるであろう。制度も含めて記載されており,本人や家族から相談を受けた際の説明に役立つことが期待できる。また,各々の病態をDVDの動画で紹介している。これを視聴しても理解が深まるだろう。さらに,高次脳機能障害の説明用パンフレット見本が付録として収載されている。一般の方々や福祉専門職の方々にとって高次脳機能障害を理解する一助となろう。これらのことからもわかるように,本書は心配りが非常に細かい。
ところで,評者は慶應義塾大学月が瀬リハビリテーションセンター(1977年開院,2011年閉院)所属の作業療法士として開設準備から関わっていた。開院して2年目だったであろうか,若き本田氏がリハ医としての研修を受けるため赴任されてきた。すると早々に,ある言語聴覚士の呼びかけで,本田氏と評者を含めた3人が集まり,A. R. Luriaの『神経心理学の基礎-脳のはたらき』(鹿島晴雄訳,医学書院,1978)を教材に,毎週,朝7時から1時間勉強会を行うこととなった。その集まりの中で,本田氏にいろいろと講義を受けたことが懐かしく思い出される。当時,リハビリテーション医療の分野では,作業療法士の鎌倉矩子氏が高次脳機能障害の評価とアプローチについて症例を重ね,先鞭をつけていたころである。脳機能の損傷による影響を知るには成書が少なく,秋元波留夫先生など精神医学分野から多くを吸収する時代であった。その中で本田氏は,Luriaの神経心理学をわれわれリハスタッフに紹介してくれた。野心の火がスタッフに灯ったあの頃が懐かしい。
高次脳機能障害は社会活動場面で顕著に現れる。2016年4月の保険点数改定で,通勤場面・職場など医療機関外での医療的リハリハビリテーションが可能になった。今回の改定で高次脳機能障害のリハビリテーションが飛躍的に充実することが期待されるが,その前に本書を熟読されることをお薦めしたい。
書評者: 花山 耕三 (川崎医大教授・リハビリテーション医学)
本書は,2005年の初版刊行以来好評を博している高次脳機能障害リハビリテーションの実践的テキストの改訂第3版となる。
他の障害が主と思われていた患者が,実は高次脳機能障害を併せ持っていたということは,リハビリテーションの現場では少なくない。もちろん現場では,高次脳機能障害が主となる患者もその認識の高まりから増加しているのが現状である。本書は,このような患者に対する疑問,例えば「どのような症状がみられるのか」「どのように診断・評価するのか」「その病態は何か」「訓練場面では何をするのか」「生活場面ではどのような問題が起こり,どう対処するのか」「薬物をどう使うのか」などについて,その類型である10の障害各々に対し,多くの具体例を引きつつ網羅的に述べられている。また,患者への訓練の場で用いる課題シートが各々の障害で掲載されており,その障害の欠けている点を知るために有効である。
本書は,構成や色使いといった要因もあるだろうか,前版より読みやすくなった印象を受ける。さらに今回の版から新たに,脳画像所見,若年脳外傷者のアプローチ,自動車運転の章が追加されたことは意義深い。特に自動車運転については,生活上のニードが高い障害者が多い一方で,事故の危険を伴うだけに,どのように対処すべきかわれわれ医療者の頭を悩ませる問題であり,近年の高次脳機能障害におけるホットなトピックスとなっている。また,付録のDVDは,患者の行動や家族の話から,その障害のイメージを形成するのに有用である。
失語・失認・失行といった古典的な高次脳機能障害から行政的定義による高次脳機能障害に至るまで,その全てを現場目線で解説した良書である。編集の本田哲三氏はリハビリテーション科専門医であり,本書を通して,病態から生活までを全て見通して対処すべきという姿勢が貫かれ,それらの要点が簡潔にまとめられている。医師,療法士のみならず,看護,介護分野のスタッフの入門書として手元に置いて活用することをお薦めする。
高次脳機能障害をよりよく理解するための心配りがさらに行き届いた改訂版
書評者: 澤 俊二 (金城大学教授・作業療法学)
本書は2005年に初版が発行され,以後,2010年に第2版,そして今回の第3版と,約5年おきに版を重ね,既に名高い専門書として定着した感がある。その理由は,高次脳機能障害をどう理解し,どうアプローチをしたらよいか,社会全体で支えるにはどうすべきか,また,職場,さらには社会で,高次脳機能障害をよく理解してもらうにはどうしたらよいか,それらへの回答を,3版まで版を重ねる中で答えていこうと懸命に努力されてきたからではないだろうか。
このことは,第2版との違いをみれば明らかであろう。今回の第3版では,2008年の高次脳機能障害者に対する東京都調査を追加しており,49,508名の総数に対し,認知症者も含まれている可能性を指摘している。また,原因と各症状の頻度については,ほぼ定説が確立されていると述べている。その他にも,新たに脳画像所見の項目が追加され,わかりやすい解説が施されている。また,若年脳外傷者へのアプローチについても記載され,その手法を平易に解説している。そして現在,全国的にホットな話題となっている自動車運転の章も追加されている。全国的に研究活動が活発化しているので,大いに参考になるであろう。制度も含めて記載されており,本人や家族から相談を受けた際の説明に役立つことが期待できる。また,各々の病態をDVDの動画で紹介している。これを視聴しても理解が深まるだろう。さらに,高次脳機能障害の説明用パンフレット見本が付録として収載されている。一般の方々や福祉専門職の方々にとって高次脳機能障害を理解する一助となろう。これらのことからもわかるように,本書は心配りが非常に細かい。
ところで,評者は慶應義塾大学月が瀬リハビリテーションセンター(1977年開院,2011年閉院)所属の作業療法士として開設準備から関わっていた。開院して2年目だったであろうか,若き本田氏がリハ医としての研修を受けるため赴任されてきた。すると早々に,ある言語聴覚士の呼びかけで,本田氏と評者を含めた3人が集まり,A. R. Luriaの『神経心理学の基礎-脳のはたらき』(鹿島晴雄訳,医学書院,1978)を教材に,毎週,朝7時から1時間勉強会を行うこととなった。その集まりの中で,本田氏にいろいろと講義を受けたことが懐かしく思い出される。当時,リハビリテーション医療の分野では,作業療法士の鎌倉矩子氏が高次脳機能障害の評価とアプローチについて症例を重ね,先鞭をつけていたころである。脳機能の損傷による影響を知るには成書が少なく,秋元波留夫先生など精神医学分野から多くを吸収する時代であった。その中で本田氏は,Luriaの神経心理学をわれわれリハスタッフに紹介してくれた。野心の火がスタッフに灯ったあの頃が懐かしい。
高次脳機能障害は社会活動場面で顕著に現れる。2016年4月の保険点数改定で,通勤場面・職場など医療機関外での医療的リハリハビリテーションが可能になった。今回の改定で高次脳機能障害のリハビリテーションが飛躍的に充実することが期待されるが,その前に本書を熟読されることをお薦めしたい。