知っておきたい眼腫瘍診療

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眼科診療のエキスパートを目指すための好評シリーズの1冊。眼瞼・角結膜・眼窩・眼内腫瘍について、良性・悪性腫瘍から腫瘤を形成する非腫瘍性病変まで、疫学・診断検査・治療を完全網羅。眼所見、病理写真、MRI・CT所見など豊富な画像を用いて徹底解説。「初診時の外来診察」や「一般眼科医へのアドバイス」など非専門医も知っておきたい知識が満載。すべての眼科医におすすめする、待望の最新ビジュアルテキスト。
シリーズ 眼科臨床エキスパート
シリーズ編集 𠮷村 長久 / 後藤 浩 / 谷原 秀信
編集 大島 浩一 / 後藤 浩
発行 2015年10月判型:B5頁:476
ISBN 978-4-260-02394-8
定価 19,800円 (本体18,000円+税)

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 一般眼科医が,眼科領域の腫瘍に遭遇する頻度は低いでしょう.その一方で,眼科領域には多様な腫瘍が発生する可能性があります.ちなみに眼科領域を,眼瞼,角結膜,眼窩,眼球内というパートに区分してみると,それぞれのパートで,発生する腫瘍は異なっています.さらにそれぞれのパートで,幾種類もの腫瘍が生じうるのです.眼腫瘍を扱うには,これらの多様な腫瘍の特徴を理解したうえで,必要に応じて試験切除し,病理診断し,治療方針を決めて,治療に当たることになります.あるいは,試験切除および病理診断ができない腫瘍に対しては,知識と経験を総動員して臨床診断し,腹をくくって治療方針を決めなければなりません.良性腫瘍であっても,整容的に困難な状況を呈することもあれば,視機能を著しく損なうこともあります.悪性腫瘍では,さらに生命に影響することもありえます.
 かつて私たち(Lacrimal Gland Tumor Study Group:LGTSG)が,涙腺窩病変の全国調査を行った頃(1995~1997年)には,全国の大学病院のうち4割が,眼窩腫瘍を全く扱っていませんでした.眼腫瘍のような特殊な疾患は,専門施設で扱うべきであるという傾向は,現在ではさらに強くなっているように感じます.
 眼腫瘍を正しく診断し,適切に治療することは,眼腫瘍の専門家に任せるのがよいでしょう.これは眼科医にとっても,患者にとっても望ましいことだと思います.しかし眼科医が,一生涯,眼腫瘍と無縁であり続けることはできないのです.眼腫瘍の患者は,いつか必ず外来に現れるのです.それがいつかはわかりません.明日かもしれないし,10年後かもしれません.
 眼腫瘍の患者が外来を訪れたとき,眼科医は「もしかしたらこの病変は腫瘍かもしれない」という漠然とした疑念を抱くことができれば,それでよいと思います.そのうえで,成書などを参照してみることです.それで腫瘍の可能性が高ければ,専門家に紹介すればよいのです.本書は,このような需要に応じるよう編集したつもりです.また眼付属器腫瘍に関しては,眼形成再建外科を専門とする眼科医に,角結膜腫瘍に関しては,眼表面疾患の専門家に,眼内腫瘍に関しては,網膜硝子体疾患の専門家に,是非ともご一読願いたいのです.さらに眼腫瘍の領域へ果敢に挑戦しようとする若手にとっては,良い参考書になるはずです.
 末筆ではありますが,本書の分担執筆をご快諾いただいた日本眼腫瘍学会の会員諸兄,編集と校正にご尽力いただいた医学書院の方々に深謝いたします.

 2015年9月
 編集 大島浩一,後藤 浩

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第1章 総説
 眼腫瘍の診療概論
   I.眼瞼腫瘍
   II.角結膜腫瘍
   III.眼窩腫瘍
   IV.眼内腫瘍

第2章 総論
 I 眼瞼腫瘍総論
  A 疫学的事項
   I.良性眼瞼腫瘍
   II.悪性眼瞼腫瘍
  B 初診時の外来診察-どう診てどう考えるか
   I.主訴
   II.病歴・既往歴
   III.視診と触診
   IV.写真による記録
   V.眼瞼腫瘍の臨床的鑑別
  C 診断・治療に必要な検査
   I.写真撮影
   II.マイボグラフ
   III.MRIまたはCT
   IV.試験切除
  D 良性眼瞼腫瘍の治療
   I.瞼縁にある腫瘍の治療
   II.瞼縁から離れた腫瘍の治療
   III.眼瞼結膜腫瘍の治療
  E 悪性眼瞼腫瘍の治療
   I.手術
   II.放射線治療
   III.薬物療法
 II 角結膜腫瘍総論
  A 疫学的事項
   I.良性腫瘍と悪性腫瘍の割合
   II.年齢
   III.結膜良性腫瘍の頻度
   IV.結膜悪性腫瘍の頻度
  B 初診時の外来診察-どう診てどう考えるか
   I.腫瘍診断の4つのポイント
   II.写真撮影
   III.臨床診断のためのフローチャート
  C 診断・治療に必要な検査
   I.病理検査
   II.遺伝子再構成
   III.フローサイトメトリー
   IV.染色体検査
   V.血液検査
   VI.その他の検査
  D 角結膜腫瘍の治療
   I.病理診断
   II.試験切除または治療生検
   III.経過観察
   IV.手術
   V.悪性腫瘍に対する薬物療法
   VI.悪性腫瘍に対する放射線治療
 III 眼窩腫瘍総論
  A 疫学的事項
   I.原発性眼窩腫瘍
   II.転移性眼窩腫瘍
   III.続発性眼窩腫瘍
  B 初診時の外来診療-どう診てどう考えるか
   I.眼窩腫瘍診断の7つのポイント
  C 診断・治療に必要な検査
   I.CT
   II.MRI
   III.優先順位
   IV.MRIの撮影方法
   V.その他の画像検査
   VI.採血や尿検査,染色体,遺伝子検査
  D 良性眼窩腫瘍の治療
   I.良性眼窩腫瘍の治療
   II.良性眼窩腫瘍の手術適応
   III.眼窩解剖と眼窩腫瘍摘出術の手術合併症
   IV.良性眼窩腫瘍摘出術におけるアプローチ法の選択
   V.経眼窩アプローチ
   VI.経頭蓋アプローチ
   VII.経副鼻腔アプローチ
  E 悪性眼窩腫瘍の治療
   I.手術
   II.重粒子線療法
   III.放射線治療
   IV.薬物療法
 IV 眼内腫瘍総論
  A 疫学的事項
  B 初診時の外来診察-どう診てどう考えるか
  C 診断・治療に必要な検査
   I.眼底検査
   II.原発組織の同定
   III.色調の評価
   IV.超音波検査
   V.蛍光眼底造影
   VI.放射線学的検査
  D 眼内腫瘍の治療
   I.眼球摘出
   II.経強膜的腫瘍切除
   III.経硝子体的腫瘍切除
   IV.レーザー治療
   V.放射線治療
  Topics
   他科領域の悪性腫瘍治療に伴う眼科的合併症と対策
   センチネルリンパ節生検
   なぜ網膜芽細胞腫を重粒子線・サイバーナイフで治療しないのか
   なぜ悪性黒色腫を眼動注で治療しないのか
   皮膚悪性黒色腫に対するDAV-Feron療法
   皮膚悪性黒色腫に対する分子標的治療薬

第3章 各論
 I 眼瞼腫瘍
  A 霰粒腫と瞼板内角質嚢胞(マイボーム腺嚢胞)
   1 霰粒腫
   2 瞼板内角質嚢胞(マイボーム腺嚢胞)
  B 母斑
  C 尋常性疣贅,脂漏性角化症(老人性疣贅)
  D 表皮嚢胞
  E 黄色腫
  F 伝染性軟属腫
  G 汗腺由来の嚢胞
  H 基底細胞癌
  I 脂腺癌
  J 日光角化症,扁平上皮癌
  K Merkel細胞癌
 II 角結膜腫瘍
  A 瞼裂斑
  B 翼状片
  C 乳頭腫
  D 異形成症,上皮内癌,扁平上皮癌
  E 結膜嚢胞
  F 涙腺導管嚢胞
  G 血管腫,血管奇形
  H リンパ管腫,リンパ管拡張症
  I リンパ腫,反応性リンパ過形成
  J 母斑
  K 原発性後天性メラノーシス,悪性黒色腫
 III 眼窩腫瘍
  A 海綿状血管腫
  B 神経鞘腫
  C 神経線維腫
  D 視神経鞘髄膜腫
  E 涙腺多形腺腫
  F 腺様嚢胞癌と涙腺癌
  G 悪性リンパ腫
   1 低悪性度MALTリンパ腫
   2 濾胞性リンパ腫
   3 悪性度の高い悪性リンパ腫
  H 炎症性病変
  I 転移性腫瘍と浸潤性腫瘍
   1 眼窩転移
   2 浸潤性腫瘍
 IV 眼内腫瘍
  A 網膜血管腫(毛細血管腫)
  B 網膜血管腫(毛細血管腫以外)
  C 網膜星状膠細胞過誤腫
  D 脈絡膜血管腫
  E 脈絡膜骨腫
  F 毛様体腫瘍
  G 虹彩嚢胞
  H 母斑
  I 先天性網膜色素上皮肥大
  J 眼内悪性黒色腫
  K 眼内リンパ腫
  L 網膜芽細胞腫
  M 転移性眼内腫瘍
 V 小児から若年者に発症しやすい疾患
  A 角結膜デルモイド
  B 毛細血管性血管腫
  C 眼窩リンパ管腫
  D 眼窩横紋筋肉腫
  E 視神経膠腫

和文索引
欧文・数字索引

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全ての眼科医必携の最新テキスト
書評者: 松尾 信彦 (岡山大学名誉教授・眼科学/日本眼腫瘍学会名誉会員/日本眼病理研究会名誉会長)
 本書は現在の日本眼腫瘍学会所属役員と会員の執筆による力作大著である。同学会と日本眼病理研究会との両方に所属している執筆者も含まれており,随所に病理組織学的診断の重要性を説明し,カラー病理組織写真が豊富に挿入されている。

 第1章「総説」では眼瞼・角結膜・眼窩・眼内の4区分別に,各腫瘍の定義,良性・悪性腫瘍別の診療目標,腫瘍診断〔目的,診断に必要な技術と設備(写真撮影,画像読影,試験切除と病理診断),診断に必要な人材,診断における問題点〕,腫瘍の治療〔治療に必要な技術・人材・設備(腫瘍の手術,放射線治療,薬物治療),治療における問題点〕,経過観察(治療前の経過観察,治療後の合併症に伴う経過観察,腫瘍再発・転移のチェック,経過観察に必要な技術・人材・設備)などについて概説されている。腫瘍局所のカラー写真,CT像,MRI像,カラー眼底写真,蛍光眼底像,光干渉断層計検査(OCT)像などの画像が示され,解説されている。また,病理組織診断のためには,切除組織をホルマリン固定後,手術を行った眼科医自身が「切り出し」を行うよう推奨している。さらに,眼腫瘍診療は一般眼科医と眼科腫瘍専門医が協力して行うよう推奨,すなわち病診連携を推奨している。

 また,眼腫瘍診療の目標は「医学的介入を行うことにより,患者を安心させ生活の質を向上させることである」とあり,この文言は,私が人生の指針としている「同行一体」すなわち「病を癒やすには患者と医療者が一体となって修行し続けよう」と一致する。以上,本総説では多様な眼腫瘍全般の取り扱いに関して,重要点を簡潔に述べており,日常多忙な一般眼科臨床医はぜひご一読願いたい。

 第2章「総論」では眼瞼・角結膜・眼窩・眼内腫瘍について,良性・悪性腫瘍から腫瘤を形成する非腫瘍性病変までも取り上げ,疫学的事項,初診時の外来診察——どう診てどう考えるか,診断・治療に必要な検査,良性・悪性腫瘍別の治療を最前線の方法も含めて完全に網羅している。第3章「各論」も含めて,局所のカラー写真,病理組織所見,細胞診所見,フルオレセイン蛍光眼底像,インドシアニングリーン蛍光眼底像,OCT像,CT像,MRI像,超音波像,放射線像,ポジトロン断層(PET)像,PET-CT像,ガリウムシンチグラフィ,テクネシウム骨シンチグラフィなどの豊富な画像を示して徹底解説されている。さらに採血や尿検査などの一般検査や染色体検査,遺伝子検査,遺伝子再構成検査,サイトカイン測定,センチネルリンパ節生検などにも言及している。腫瘍摘出手術法については術後の形成手術,術後の観察間隔,観察終了時期まで記述し,放射線治療に関しては,X線・電子線・重粒子線(炭素線)照射,小線源治療,内照射治療,定位放射線照射治療(ガンマナイフ,サイバーナイフ),強度変調放射線治療などにも言及している。経瞳孔温熱療法,光凝固療法,光線力学療法も記述されている。薬物療法に関しては,フルオウラシル,マイトマイシンC,インターフェロン療法の他,分子標的治療薬(増殖因子およびシグナル伝達阻害系,血管新生阻害系,細胞表面抗原系)についても詳細に言及している。

 第3章「各論」では,眼瞼腫瘍として霰粒腫,瞼板内角質嚢胞(マイボーム腺嚢胞),母斑,尋常性疣贅,脂漏性角化症(老人性疣贅),表皮嚢胞,黄色腫,伝染性軟属腫,汗腺由来嚢胞,基底細胞癌,脂腺癌,日光角化症,扁平上皮癌,Merkel細胞癌を取り上げている。

 角結膜腫瘍として,瞼裂斑,翼状片,乳頭腫,異形成症,上皮内癌,扁平上皮癌,結膜嚢胞,涙腺導管嚢胞,血管腫,血管奇形,リンパ管腫,リンパ管拡張症,リンパ腫,反応性リンパ過形成,母斑,原発性後天性メラノーシス,悪性黒色腫を取り上げている。

 眼窩腫瘍として,海綿状血管腫,神経鞘腫,神経線維腫,視神経鞘髄膜腫,涙腺多形腺腫,腺様嚢胞癌,涙腺癌,悪性リンパ腫(低悪性度MALTリンパ腫,濾胞性リンパ腫,悪性度の高い悪性リンパ腫),炎症性病変,眼窩転移性腫瘍,眼窩浸潤性腫瘍を取り上げている。

 眼内腫瘍として,網膜血管腫(毛細血管腫,毛細血管腫以外),網膜星状膠細胞過誤腫,脈絡膜血管腫,脈絡膜骨腫,毛様体腫瘍,虹彩嚢胞,母斑,先天性網膜色素上皮肥大,眼内悪性黒色腫,眼内リンパ腫,網膜芽細胞腫,転移性眼内腫瘍を取り上げている。

 小児から若年者に発症しやすい疾患として,角結膜デルモイド,毛細血管性血管腫,眼窩リンパ管腫,眼窩横紋筋肉腫,視神経膠腫を取り上げている。

 そして各論中に取り上げた上記の各眼腫瘍について,疾患概念・臨床上の特徴,臨床所見の特徴,診断・鑑別診断,病理組織所見,治療方針と具体的治療法,治療に伴う合併症,予後と経過観察の方法,一般眼科医へのアドバイスについて解説している。

 以上から本書は,全ての眼科医必携の最新テキストであり,他科の臨床医にも推薦できるテキストである。
一般眼科医にこそ持ってほしい眼腫瘍の知識
書評者: 清澤 源弘 (清澤眼科医院理事長)
 序文には,「眼腫瘍は数も少なくまた治療に当たっては専門的な知識が必要であるがゆえに,大学でさえも眼腫瘍を扱わない施設が増えている。しかし,第一線の眼科医はこの病変は腫瘍なのではないか?と考えて,それを適切な施設に送ることが必要である。そのためには,眼腫瘍に対する広範な知識を必要とする。だからこそ,毎日眼腫瘍を扱うわけではない一般眼科医にも眼腫瘍の知識を持っていてほしい」という内容のことが書かれています。

 私の場合,大学に勤務していた頃までは眼腫瘍もそれなりに最終的な主治医として診ていましたが,開業してからは,その疾患が眼腫瘍であると思えば,専門の施設に紹介するようにしています。それでも,神経眼科学を専門にしていますから,年に3,4例は眼瞼の悪性腫瘍や眼窩腫瘍が紛れ込んできます。編者の東京医科大学教授の後藤浩先生には,そんな患者さんの治療をお願いしたりもします。

 本文は,第1章「総説」,第2章「総論」,第3章「各論」から構成されています。この構成もバランスの良い構成と言えそうです。

 第1章では診療概論を眼瞼腫瘍,角結膜腫瘍,眼窩腫瘍,眼内腫瘍に分けて編者のおひとりの大島浩一先生が著します。眼科腫瘍診断は治療計画を立案するための根拠を得ることであると述べられています。

 第2章は先の4分野についての腫瘍総論が述べられています。第2章までは通読されることをお勧めします。

 第I節は「眼瞼腫瘍総論」で疫学的事項,どう診てどう考えるか,必要な検査,良性腫瘍の治療,悪性腫瘍の治療が述べられています。腫瘍切除後の眼瞼再建法もここに記載されています。

 第II節は「角結膜腫瘍総論」。内容の章立ては前の眼瞼と同じですが,特殊な検査項目として,遺伝子再構成やフローサイトメトリーなども説明してあります。

 第III節は「眼窩腫瘍総論」。眼窩腫瘍診断のフローチャートや画像診断のオーダーの概略,眼窩腫瘍の手術的な取り方の概略も記載されていますから,専門医が眼窩腫瘍にどう対応するのかをここで見ておかれるとよいでしょう。

 第IV節は「眼内腫瘍総論」です。どう診てどう考えるか?という部分には鑑別診断の表が作ってあって,福島県立医科大学准教授の古田実先生の苦労がしのばれます。眼内腫瘍の診断法もさまざまなものが詳しく記載されています。

 トピックスという面白いページがこの後に6項目作ってあります。「なぜ網膜芽細胞腫を重粒子線・サイバーナイフで治療しないのか」とか,「なぜ悪性黒色腫を眼動注で治療しないのか」といった玄人筋の薀蓄がここには書かれています。

 第3章は各論。さて,この本のボリュームとしては半分を少し超える部分が各論です。「眼瞼腫瘍」「角結膜腫瘍」「眼窩腫瘍」「眼内腫瘍」と進み,前章までにはなかった「小児から弱年者に発症しやすい疾患」として,「角結膜デルモイド」「毛細血管性血管腫(ストロベリーマーク)」などが追加で解説されています。第3章は,量も多いので,無理に通読はしなくても,疾患の説明が必要な患者さんが目の前に現れてから紐解いても間に合いそうです。

 各論では各項目の最後に「一般眼科医へのアドバイス」という数行の記載が付いています。例えば眼窩腫瘍では,「試験切除してみて悪性だった場合には直ちに次の治療に移行しなくてはなりません。どこまでをわれわれ一般眼科医が扱い,どこからは眼腫瘍専門医に手渡していくべきか?」といったアドバイスがそこには的確に与えられています。

 一般眼科医が手にしてみることをぜひお勧めしたい一冊であると思います。
眼腫瘍を網羅した圧巻の解説書
書評者: 三村 治 (兵庫医科大学主任教授・眼科学)
 この≪眼科臨床エキスパート≫シリーズは眼科実地臨床のエキスパート達が自らの知識と豊富な臨床経験に基づいてさまざまな疾患の解説を行うものであり,臨床眼科医必携のシリーズである。本書のように,テーマによっては項目の最後に「一般眼科医へのアドバイス」という実際の症例に遭遇した時の診療の注意やコツまで記載されているタイトルもあり,専門外の読者にとってはありがたい。

 しかし,シリーズ新刊『知っておきたい眼腫瘍診療』でまず衝撃を受けた(読者の先生方はこれから受けるであろう)ことは,その圧倒的なボリュームの多さである。総頁459ページというまさに圧巻の解説書である。しかも内容も素晴らしい。総論に200ページ余りを費やして,大きな分類ごとに「疫学的事項」から始まり,「初診時の外来診療-どう診てどう考えるか」「診断・治療に必要な検査」「治療」を非常にわかりやすく解説しておられる。これは眼腫瘍専門家ではないものの,時々眼腫瘍を診療する機会のある私たちにとって非常にありがたい。

 最近の他のシリーズものでは編者らによる総論が全体の1割から2割程度で,あとのほとんどは分担執筆者による各論の疾患の解説というものが多い。しかし,このシリーズでは総論に重点が置かれているタイトルが多いようである。本書も前半は編者の大島浩一(岡山医療センター眼科医長),後藤浩(東京医科大学教授)両氏の識見に基づいた,眼腫瘍全体の診療の仕方が勉強できる,まさにそれだけで一冊の教科書である。また,総論には最後に「Topics」が6項目挙げられており,抗がん剤や放射線治療に伴うさまざまな眼合併症から悪性黒色腫に対する分子標的治療薬まで,最新の治療の動向が理解できる。

 各論では,これまでの成書では軽く触れられているだけであった眼瞼腫瘍,角結膜腫瘍にも多くのページが割かれている。特に,良性の尋常性疣贅,伝染性軟属腫,乳頭腫やリンパ管腫などは,日常臨床では非常にありふれたものでありながら多くの成書や雑誌の特集にはほとんど記載されておらず,手術やOCTなどの検査ばかりしている大学のレジデントや後期研修医にとって,診療が苦手な疾患である。これら眼科のいわばcommon diseaseについても丁寧に記載されている。

 一方で,本書の後半は眼腫瘍の専門解説書としても一流の内容であり,臨床現場でそれぞれの疾患に遭遇した際に知識を補うために繙くための本でもある。臨床所見の特徴,鑑別診断,治療方法について非常に具体的な記載があり,さらに治療に伴う合併症や予後と経過観察(どのような治療をいつまで行い,どのような間隔で経過観察を行えばよいのか等)についても数字を挙げて解説している。

 確かに眼腫瘍自体の頻度は緑内障や加齢黄斑変性などに比べると圧倒的に少ない。しかし,少ないとはいえ一定の数で必ず眼腫瘍患者は存在し,明日にもあなたの外来を受診するかもしれない。眼腫瘍の手術はしていなくても,適切な検査を行い,正しい診断を行うためには眼腫瘍診療の仕方を修得する必要がある。本書は眼科のレジデントから専門医まで,皆に勧めたいまさに必読の書である。

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