眼内腫瘍アトラス

もっと見る

前作『眼瞼・結膜腫瘍アトラス』に続く、眼内腫瘍の診断と鑑別のための臨床所見アトラス。眼内腫瘍は頻度はまれながらも、見逃すと生命予後に直結することも多く眼科医にとって重要な疾患です。本書は眼腫瘍診療のエキスパートである著者が、多くの所見をバリエーション豊かに紹介。まれな疾患だからこそ、見て慣れておく。典型例ばかりでないから、バリエーションを知っておく。本邦オリジナルの眼内腫瘍アトラスの決定版、ここに誕生。
後藤 浩
発行 2019年10月判型:A4頁:226
ISBN 978-4-260-03892-8
定価 13,200円 (本体12,000円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く



 眼腫瘍は日常の眼科診療では滅多に経験することのない疾患です.眼内腫瘍を診る機会はさらに限られるでしょう.このように眼科医としての生涯を通じても経験する可能性が低い症例に,万が一遭遇してしまった場合,正しい臨床診断はもちろんのこと,鑑別疾患を想起することも容易ではないと思います.また,同じ病名がついた眼内腫瘍でも,その外観は千差万別であるため,教科書に掲載されている典型例だけを脳裏に刻んでおいても,臨床の現場ではあまり役に立たない可能性もあります.たとえば,比較的ポピュラーな眼内腫瘍の1つである脈絡膜血管腫を例に挙げても,経験の浅い研修医のみならず,ベテランの眼科医であっても,どこかのテキストに載っていた1枚の眼底写真,あるいは自身が経験した過去の症例とは微妙に色調やサイズが異なるというだけで,鑑別診断の1つとして血管腫を想起することは難しいという現実があると思います.
 もともとまれな眼内腫瘍ではありますが,以上のような背景をもとに少しでも多くの疑似体験をしていただき,それなりのバリエーションの存在を知っていただくことを目的に本アトラスを出版させていただきました.したがって本書では同じ眼内腫瘍でも,しつこいほど,さまざまなパターンの症例が登場します.
 たくさんの写真を掲載させていただいた理由はもう1つあります.すなわち,眼内腫瘍の診断の90%以上は“見た目”,すなわち倒像鏡で得られる眼底所見や,前置レンズを用いた細隙灯顕微鏡で観察される所見で決まるからです.なかには蛍光眼底造影検査や超音波断層検査などが診断に役立つ眼内腫瘍もありますが,これらの検査はあくまで補助診断としての役割を果たしているにすぎません.
 なお,眼内腫瘍のアトラスとしては,海外ではShields夫妻による名著“Intraocular Tumors:An Atlas and Textbook”(Wolters Kluwer)があり,国内では本邦初の眼腫瘍専門書として出版された箕田健生先生の『眼内腫瘍』(金原出版)と,摘出眼球の美しいマクロ写真が印象的な大西克尚先生の『眼内腫瘍アトラス』(文光堂)がありますが,邦書の2冊は現在ではなかなか手に入れることができません.
 本アトラスに掲げた数々の眼底写真ならびに前眼部写真には,全例,自らトリミング処理を加え,統一感を出すように努めましたが,オリジナル写真の撮影は前作『眼瞼・結膜腫瘍アトラス』と同様,東京医科大学病院眼科の視能訓練士兼フォトグラファーである水澤 剛氏の手によるものです.光干渉断層撮影や超音波断層検査など,電子カルテからの情報の収集には山川直之博士に協力をいただきました.お二人に深く感謝申し上げます.また,日ごろ,眼腫瘍の診療をともに行っている臼井嘉彦,馬詰和比古,柴田元子,根本 怜,上田俊一郎,坪田欣也の各先生にも感謝申し上げます.
本書を通じて,一人でも多くの眼内腫瘍の患者さんが適切に診断され,必要に応じて迅速な治療を受ける機会が増えることを願ってやみません.
 最後になりましたが,前作『眼瞼・結膜腫瘍アトラス』同様,本書の出版にご協力いただいた医学書院の方々に御礼申し上げます.

 2019年8月
 後藤 浩

開く

眼内腫瘍の診かたのコツ

虹彩腫瘍
 虹彩嚢胞
  虹彩色素上皮嚢胞
  虹彩実質嚢胞
 虹彩色素細胞過誤腫(Lisch結節)
 虹彩母斑
 虹彩黒色細胞腫(メラノサイトーマ)
 虹彩悪性黒色腫(メラノーマ)
 転移性虹彩腫瘍
毛様体腫瘍
 毛様体黒色細胞腫(メラノサイトーマ)
 毛様体悪性黒色腫(メラノーマ)
 その他の毛様体腫瘍
脈絡膜腫瘍
 脈絡膜血管腫
  限局性脈絡膜血管腫
  びまん性脈絡膜血管腫
 脈絡膜骨腫
 脈絡膜母斑
 脈絡膜黒色細胞腫(メラノサイトーマ)
 脈絡膜悪性黒色腫(メラノーマ)
 転移性脈絡膜腫瘍
網膜腫瘍
 網膜血管腫
  後天性網膜血管腫(血管増殖性網膜腫瘍)
  網膜血管芽腫(網膜毛細血管腫)
  網膜海綿状血管腫
 網膜色素上皮過形成(肥大)
 網膜・網膜色素上皮過誤腫
 網膜星状膠細胞過誤腫(結節性硬化症)
 後天性網膜星状膠細胞腫
 網膜芽細胞腫
視神経乳頭腫瘍
 視神経乳頭黒色細胞腫(メラノサイトーマ)
 視神経乳頭毛細血管腫
眼内リンパ腫
 原発眼内リンパ腫
 続発眼内リンパ腫
白血病
 白血病の眼内浸潤

参考文献
索引

ひとり言
・脈絡膜骨腫にまつわる虚しさと小さな喜び
・実はもっと多いかもしれない脈絡膜骨腫
・意外と無駄なX線CTやMRI検査
・(裂孔原性)網膜剥離と勘違いされる脈絡膜悪性黒色腫
・脈絡膜悪性黒色腫の生命予後
・忘れがたい転移性脈絡膜腫瘍
・経過観察の意義が問われる視神経乳頭黒色細胞腫
・悩ましい原発眼内リンパ腫の鑑別疾患

開く

稀有な症例の集大成,世界に類を見ない驚愕の名著誕生
書評者: 小幡 博人 (埼玉医大総合医療センター教授・眼科学)
 著者の後藤浩先生は,眼腫瘍,ぶどう膜疾患がご専門であり,ぶどう膜悪性黒色腫をはじめとする眼内腫瘍をわが国で最も診ている眼科医である。本書は,虹彩腫瘍,毛様体腫瘍,脈絡膜腫瘍,網膜腫瘍,視神経乳頭腫瘍,眼内リンパ腫,白血病の各章からなり,多数のきれいかつ貴重なカラー写真がこれでもかというほど掲載されている。通常,眼内腫瘍といえば,網膜芽細胞腫,脈絡膜悪性黒色腫,転移性脈絡膜腫瘍,悪性リンパ腫を思い浮かべることと思う。しかし本書は,それらはもちろんのこと,虹彩の嚢胞・母斑,虹彩・毛様体の黒色細胞腫(メラノサイトーマ)・悪性黒色腫,脈絡膜の血管腫・骨腫・母斑,網膜の血管腫・星状膠細胞腫・過誤腫・網膜色素上皮過形成(肥大),視神経乳頭の黒色細胞腫(メラノサイトーマ)・毛細血管腫などの症例写真も多数掲載されており驚愕する。

 眼内腫瘍は患者数が少ないため,遭遇したときに診断や対処に困ることが多い。本書は,同じ疾患でもバリエーションの異なる写真が多数掲載されているため,各疾患の特徴がよくわかり,学習効果が高い。見たことのない臨床像も多く,“なぜこんなことが眼内で起こるのか?”と自然界の不思議に思いをはせることもしばしばである。

 本書は,臨床写真のみならず,超音波断層検査,蛍光眼底造影検査,光干渉断層計(OCT),CT・MRI,症例によっては,視野検査(!)などの検査所見も豊富に収載しており大変参考になる。後藤先生は病理学にも造詣が深く,病理組織写真も掲載されている点も素晴らしい。本文も,臨床像・画像所見・治療という項目で簡潔に記載されているため読みやすいのだが,何といっても本書は画像が多いので,写真集のように一気に見入ってしまう。また,本文とは別に“ひとり言”というコラムがあり,こちらは著者の深い含蓄と愛情溢れる人間性に満ちており,思わず読み入ってしまう。

 後藤先生による前作,『眼瞼・結膜腫瘍アトラス』とともに,眼科医ならば手元に置くべき名著である。本書は世界に類を見ない貴重な写真のオンパレードであり,ぜひ,英文での出版をお願いしたい。
経験の少ない眼内腫瘍に対処するための必携バイブル
書評者: 村田 敏規 (信大教授・眼科学)
 後藤浩教授の『眼内腫瘍アトラス』(Atlas of Intraocular Tumor)を外来の診察室に置かせていただき,この本のありがたさを日々痛感しております。

 何よりも,その豊富な眼底写真,前眼部写真,画像診断の所見,病理組織所見に合わせて,具体的かつ的確な解説が全ての症例において記載されています。眼科の日常臨床においては,眼内腫瘍の経験の少ない先生方が大半だと思います。診断名がわからない外来患者がおられたら,まず,『眼内腫瘍アトラス』を手に取り,パラパラと1ページずつ,写真を1枚1枚見比べていきましょう。豊富な症例が記載されていますから,必ず似た所見の写真と解説を見つけることができます。そこから診断治療も含め,かゆいところに手が届く本書の解説を参考に患者さんに説明をしましょう。必要であれば,後藤教授をはじめとする眼腫瘍専門医に紹介することもできます。

 また,眼内腫瘍は,全身疾患の部分症状として現れることも多いのですが,本書にも続発眼内リンパ腫や白血病の眼内浸潤が記載されています。他科の腫瘍診療においては,診断治療の際に内視鏡や外科的な生検による病理診断が必須であり,これにより初めてその患者の診断がつき,治療が始まります。その一方で眼球という組織は,視機能を守る観点から,その一部を採取し病理組織標本で診断をつけることがとても困難です。生検が困難な場合でも,適切な治療をいち早く開始するために,眼内腫瘍がどのようなものであるかということを他科の先生に説明するに際して,従来は根拠となる権威ある教科書がありませんでした。しかし今後は,そのようなときにも,この美しくかつ重厚な装丁で,写真の美しさとわかりやすい説明を併せ持つ本書が手元にあれば,眼内腫瘍を他科の先生に理解いただく上でも,大きな効力を発揮することでしょう。

 このように『眼内腫瘍アトラス』は,医師の先生方が,外来・日常診療で想定していない眼内腫瘍に遭遇した場合に備え,手元に置いておくべき一冊のバイブルです。なお,後藤教授の『眼瞼・結膜腫瘍アトラス』(医学書院,2017)も,併せて外来に置いておくと,眼球の内外の腫瘍に“鬼に金棒”な状態を作れることを申し添えさせていただきます。

 後藤教授,ならびに東医大の先生方,素敵な2冊の教科書を世に送り出していただきましたこと,心より御礼申し上げます。

タグキーワード

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。