検査値を読むトレーニング
ルーチン検査でここまでわかる
検査値の推移と組み合わせから、「病態を読み解く力」を身につける
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検査値の推移と組み合わせから、「病態を読み解く力」を身につける本。「RCPC」の手法では、病歴や身体所見の情報なしで、検査所見のみから病態を推論する。本書はこれに時間軸と複数検査値の組み合わせを加え、患者の病態を13の基本項目に分け、全39症例の検査値の推移から病態の変化を読み解いていく。「患者の体に何が起こっているのか?」を推論する力を磨きたいすべての医師、臨床検査技師に。
著 | 本田 孝行 |
---|---|
発行 | 2019年01月判型:B5頁:352 |
ISBN | 978-4-260-02476-1 |
定価 | 4,950円 (本体4,500円+税) |
更新情報
-
正誤表を追加しました。
2021.09.06
-
正誤表を追加しました。
2021.07.28
- 序文
- 目次
- 書評
- 正誤表
序文
開く
序
本書は,血算,生化学,凝固・線溶,尿・便検査および動脈血ガス分析(ルーチン検査または基本的検査)によって,より正確に患者の病態をとらえ,日々の診療に役立てることを目的としています。これらの検査はほとんどすべての患者に行われ,侵襲性が低く,比較的安価のため繰り返し行えるのが特徴です。ただ,一つひとつの検査は,遺伝子検査や腫瘍マーカーのように疾患と1対1に対応しているわけではないため,複数のルーチン検査値を組み合わせ,その変動を加味して病態を解釈する必要があります。一見難しそうに思えますが,検査値が変動するパターンはある程度限られますので,個々の検査値が動くメカニズムを十分に理解できれば,驚くほど詳細に患者の病態をとらえられます。
本書では,患者の病態を13の病態に分けて検討する方法を示してあります。Reversed Clinico-pathological Conference(RCPC)では,ルーチン検査値を個々に検討するのが一般的なのですが,多くの症例を経験すると,複数の検査値を同時に一定の順序で検討することに気づきます。このように検討することにより,患者の病態の見落としがなくなります。多くの病態が絡んでいても個々に検討することができ,複数の病態を合わせると全体像がつかめることも少なくありません。RCPCは診断をするものではないとよく言われるのですが,結果的(必然的?)に診断に結びつくことが多いのも事実です。
13の病態に分けて考えると,臨床の理学所見(身体所見)をとるのによく似ているのにも驚かされます。まず,全身状態を把握して個々の臓器を検討するのですが,理学所見と比べものにならないくらい詳細に病態をとらえられます。これだけ有用なルーチン検査を,もっと臨床で役立てなければならないと思ったことが,本書を発刊するに至った最大の理由であり,日々正確な検査値を臨床に返している臨床検査部の願いでもあります。
1994年に呼吸器内科から臨床検査部に移ってきたときに,前・信州大学医学部病態解析診断学講座教授 勝山努先生からRCPCの授業を行うように命ぜられました。「RCPCって何? CPCならわかるけど」という認識しかなく,すべての疾患とすべての検査値に精通しないかぎりRCPCは不可能である,というのが私の第一感でした。しかし現在では,「診断しなければ始まらない」という疾患単位重視の医学教育の副作用だったと思っています。検査値を深く検討するようになって,「病態がわかれば治療が可能ではないか」と思うようになりました。疾患名は,同じような経過をたどる病態に対してつけられており,RCPCは病態から疾患を考え直す意味においても重要に思えます。勝山名誉教授のご指導がなければ,私は今でも「RCPCって何?」から抜け出ていなかったように思います。
2018年 冬
著者
本書は,血算,生化学,凝固・線溶,尿・便検査および動脈血ガス分析(ルーチン検査または基本的検査)によって,より正確に患者の病態をとらえ,日々の診療に役立てることを目的としています。これらの検査はほとんどすべての患者に行われ,侵襲性が低く,比較的安価のため繰り返し行えるのが特徴です。ただ,一つひとつの検査は,遺伝子検査や腫瘍マーカーのように疾患と1対1に対応しているわけではないため,複数のルーチン検査値を組み合わせ,その変動を加味して病態を解釈する必要があります。一見難しそうに思えますが,検査値が変動するパターンはある程度限られますので,個々の検査値が動くメカニズムを十分に理解できれば,驚くほど詳細に患者の病態をとらえられます。
本書では,患者の病態を13の病態に分けて検討する方法を示してあります。Reversed Clinico-pathological Conference(RCPC)では,ルーチン検査値を個々に検討するのが一般的なのですが,多くの症例を経験すると,複数の検査値を同時に一定の順序で検討することに気づきます。このように検討することにより,患者の病態の見落としがなくなります。多くの病態が絡んでいても個々に検討することができ,複数の病態を合わせると全体像がつかめることも少なくありません。RCPCは診断をするものではないとよく言われるのですが,結果的(必然的?)に診断に結びつくことが多いのも事実です。
13の病態に分けて考えると,臨床の理学所見(身体所見)をとるのによく似ているのにも驚かされます。まず,全身状態を把握して個々の臓器を検討するのですが,理学所見と比べものにならないくらい詳細に病態をとらえられます。これだけ有用なルーチン検査を,もっと臨床で役立てなければならないと思ったことが,本書を発刊するに至った最大の理由であり,日々正確な検査値を臨床に返している臨床検査部の願いでもあります。
1994年に呼吸器内科から臨床検査部に移ってきたときに,前・信州大学医学部病態解析診断学講座教授 勝山努先生からRCPCの授業を行うように命ぜられました。「RCPCって何? CPCならわかるけど」という認識しかなく,すべての疾患とすべての検査値に精通しないかぎりRCPCは不可能である,というのが私の第一感でした。しかし現在では,「診断しなければ始まらない」という疾患単位重視の医学教育の副作用だったと思っています。検査値を深く検討するようになって,「病態がわかれば治療が可能ではないか」と思うようになりました。疾患名は,同じような経過をたどる病態に対してつけられており,RCPCは病態から疾患を考え直す意味においても重要に思えます。勝山名誉教授のご指導がなければ,私は今でも「RCPCって何?」から抜け出ていなかったように思います。
2018年 冬
著者
目次
開く
序
本書の使い方
0 序論
① ルーチン検査(基本的検査)とは
② ルーチン検査の読み方
③ 身体所見をとるように検査値を読もう
④ ルーチン検査データで何がわかるか
I 栄養状態はどうか
① アルブミン albumin
② 総コレステロール total cholesterol
③ コリンエステラーゼ cholinesterase
④ その他 uric acid (UA), hemoglobin (Hb)
症例1 40代女性,寝たきり状態になり入院した
症例2 40代男性,黄疸を認め入院した
症例3 40代女性,呼吸困難にて1病日入院となった
II 全身状態の経過はどうか
① アルブミン albumin
② 血小板 platelet
症例4 40代男性,救急車にて搬送された
症例5 60代女性,救急車にて来院し入院した
症例6 80代女性,黄疸と腹痛を認め入院した
III 細菌感染症はあるのか
① 左方移動 left shift
症例7 60代女性,腹痛にて入院した
症例8 20代男性,入院中であり1病日に発熱を認めた
症例9 80代男性,自宅の廊下で倒れているのを発見され,救急搬送された
IV 細菌感染症の重症度は
① 左方移動 left shiftの程度
② CRP C-reactive protein
③ 白血球数 white blood cell count
症例10 20代女性,腰痛がひどく歩けなくなったため入院した
症例11 80代男性,1病日ショック状態で入院となった
症例12 70代男性,入院2日前に発熱・咽頭痛が生じた
V 敗血症の有無
① 血小板 platelet
② フィブリノゲン fibrinogen
③ その他の凝固・線溶検査
症例13 70代女性,嘔吐および39℃台の発熱のため入院した
症例14 小学生男児,加療目的で入院中,1病日に発熱した
症例15 40代男性,発熱と呼吸困難にて転院となった
VI 腎臓の病態
① クレアチニン creatinine
② 尿素窒素(UN) urea nitrogen, blood urea nitrogen (BUN)
③ 尿酸(UA) uric acid
④ 尿検査 urinalysis
⑤ カルシウム(Ca) calcium
⑥ リン(P) phosphorus
症例16 50代男性,血圧上昇と浮腫のため入院した
症例17 20代男性,発熱と意識消失にて入院した
症例18 50代女性,呂律が回りにくくなり入院した
VII 肝臓の病態
① ALT alanine aminotransferase
② AST aspartate aminotransferase
③ AST/ALT
④ ビリルビン bilirubin
⑤ 肝臓での産生物質 albumin, total cholesterol, cholinesterase
症例19 40代男性,7日前からイソニアジド(INH)の内服を開始した
症例20 70代男性,1病日ショック状態にて入院した
症例21 40代男性,血圧低下により入院した
VIII 胆管・胆道の病態
① アルカリホスファターゼ(ALP) alkaline phosphatase
② γGT γ glutamyl transpeptidase
③ 直接ビリルビン direct bilirubin
症例22 30代女性,意識消失にて救急搬送された
症例23 80代女性,誤嚥性肺炎にて入退院を繰り返していた
症例24 70代男性,右大腿の痛みにて来院した
IX 細胞傷害
① 乳酸デヒドロゲナーゼ(LD) lactate dehydrogenase
② クレアチンキナーゼ(CK) creatine kinase
③ ALT alanine aminotransferase
④ AST aspartate aminotransferase
⑤ アミラーゼ amylase
症例25 30代男性,腰痛にて入院となった
症例26 40代男性,外傷にて2病日に入院し,8病日頃から39℃台の発熱を認めた
症例27 80代男性,意識消失発作を認めたため受診した
X 貧血
① ヘモグロビン(Hb) hemoglobin
② MCV(平均赤血球容積) mean corpuscular volume
③ ハプトグロビン haptoglobin
④ 網赤血球 reticulocyte
⑤ エリスロポエチン erythropoietin
症例28 80代女性,顔色不良となり1病日に入院した
症例29 40代男性,全身倦怠感にて入院した
症例30 50代男性,嘔気と発熱にて来院した
XI 凝固・線溶の異常
① プロトロンビン時間(PT) prothrombin time
② 活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT) activated partial thromboplastin time
③ フィブリノゲン fibrinogen
④ Dダイマー D-dimer
⑤ アンチトロンビン(AT) antithrombin
⑥ その他(血小板) platelet
症例31 60代男性,腹痛にて転院した
症例32 70代女性,救急車にて入院した
症例33 80代女性,息切れ,全身倦怠感が増強したため入院となった
XII 電解質異常
① 血清ナトリウム(Na) sodium
② 血清カリウム(K) potassium
③ 血清カルシウム(Ca) calcium
④ 血清リン(P) phosphorus
症例34 20代男性,筋攣縮と嘔吐を認め入院した
症例35 60代男性,下肢脱力,構音障害および意識障害にて入院した
症例36 80代男性,意識消失にて入院した
XIII 動脈血ガス
① pHからアシデミアもしくはアルカレミアを判断する
② 呼吸性か代謝性かを判断する
③ Anion gapを求める
④ 補正HCO3値から,代謝性アルカローシスを判断する
⑤ 一次性酸塩基平衡に対する代償性変化を判断する
⑥ 総合的に判断する
症例37 70代女性,全身倦怠感と全身のしびれにて入院した
症例38 80代女性,呼吸困難と全身浮腫で入院した
症例39 60代男性,呼吸困難のため入院した
索引
本書の使い方
0 序論
① ルーチン検査(基本的検査)とは
② ルーチン検査の読み方
③ 身体所見をとるように検査値を読もう
④ ルーチン検査データで何がわかるか
I 栄養状態はどうか
① アルブミン albumin
② 総コレステロール total cholesterol
③ コリンエステラーゼ cholinesterase
④ その他 uric acid (UA), hemoglobin (Hb)
症例1 40代女性,寝たきり状態になり入院した
症例2 40代男性,黄疸を認め入院した
症例3 40代女性,呼吸困難にて1病日入院となった
II 全身状態の経過はどうか
① アルブミン albumin
② 血小板 platelet
症例4 40代男性,救急車にて搬送された
症例5 60代女性,救急車にて来院し入院した
症例6 80代女性,黄疸と腹痛を認め入院した
III 細菌感染症はあるのか
① 左方移動 left shift
症例7 60代女性,腹痛にて入院した
症例8 20代男性,入院中であり1病日に発熱を認めた
症例9 80代男性,自宅の廊下で倒れているのを発見され,救急搬送された
IV 細菌感染症の重症度は
① 左方移動 left shiftの程度
② CRP C-reactive protein
③ 白血球数 white blood cell count
症例10 20代女性,腰痛がひどく歩けなくなったため入院した
症例11 80代男性,1病日ショック状態で入院となった
症例12 70代男性,入院2日前に発熱・咽頭痛が生じた
V 敗血症の有無
① 血小板 platelet
② フィブリノゲン fibrinogen
③ その他の凝固・線溶検査
症例13 70代女性,嘔吐および39℃台の発熱のため入院した
症例14 小学生男児,加療目的で入院中,1病日に発熱した
症例15 40代男性,発熱と呼吸困難にて転院となった
VI 腎臓の病態
① クレアチニン creatinine
② 尿素窒素(UN) urea nitrogen, blood urea nitrogen (BUN)
③ 尿酸(UA) uric acid
④ 尿検査 urinalysis
⑤ カルシウム(Ca) calcium
⑥ リン(P) phosphorus
症例16 50代男性,血圧上昇と浮腫のため入院した
症例17 20代男性,発熱と意識消失にて入院した
症例18 50代女性,呂律が回りにくくなり入院した
VII 肝臓の病態
① ALT alanine aminotransferase
② AST aspartate aminotransferase
③ AST/ALT
④ ビリルビン bilirubin
⑤ 肝臓での産生物質 albumin, total cholesterol, cholinesterase
症例19 40代男性,7日前からイソニアジド(INH)の内服を開始した
症例20 70代男性,1病日ショック状態にて入院した
症例21 40代男性,血圧低下により入院した
VIII 胆管・胆道の病態
① アルカリホスファターゼ(ALP) alkaline phosphatase
② γGT γ glutamyl transpeptidase
③ 直接ビリルビン direct bilirubin
症例22 30代女性,意識消失にて救急搬送された
症例23 80代女性,誤嚥性肺炎にて入退院を繰り返していた
症例24 70代男性,右大腿の痛みにて来院した
IX 細胞傷害
① 乳酸デヒドロゲナーゼ(LD) lactate dehydrogenase
② クレアチンキナーゼ(CK) creatine kinase
③ ALT alanine aminotransferase
④ AST aspartate aminotransferase
⑤ アミラーゼ amylase
症例25 30代男性,腰痛にて入院となった
症例26 40代男性,外傷にて2病日に入院し,8病日頃から39℃台の発熱を認めた
症例27 80代男性,意識消失発作を認めたため受診した
X 貧血
① ヘモグロビン(Hb) hemoglobin
② MCV(平均赤血球容積) mean corpuscular volume
③ ハプトグロビン haptoglobin
④ 網赤血球 reticulocyte
⑤ エリスロポエチン erythropoietin
症例28 80代女性,顔色不良となり1病日に入院した
症例29 40代男性,全身倦怠感にて入院した
症例30 50代男性,嘔気と発熱にて来院した
XI 凝固・線溶の異常
① プロトロンビン時間(PT) prothrombin time
② 活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT) activated partial thromboplastin time
③ フィブリノゲン fibrinogen
④ Dダイマー D-dimer
⑤ アンチトロンビン(AT) antithrombin
⑥ その他(血小板) platelet
症例31 60代男性,腹痛にて転院した
症例32 70代女性,救急車にて入院した
症例33 80代女性,息切れ,全身倦怠感が増強したため入院となった
XII 電解質異常
① 血清ナトリウム(Na) sodium
② 血清カリウム(K) potassium
③ 血清カルシウム(Ca) calcium
④ 血清リン(P) phosphorus
症例34 20代男性,筋攣縮と嘔吐を認め入院した
症例35 60代男性,下肢脱力,構音障害および意識障害にて入院した
症例36 80代男性,意識消失にて入院した
XIII 動脈血ガス
① pHからアシデミアもしくはアルカレミアを判断する
② 呼吸性か代謝性かを判断する
③ Anion gapを求める
④ 補正HCO3値から,代謝性アルカローシスを判断する
⑤ 一次性酸塩基平衡に対する代償性変化を判断する
⑥ 総合的に判断する
症例37 70代女性,全身倦怠感と全身のしびれにて入院した
症例38 80代女性,呼吸困難と全身浮腫で入院した
症例39 60代男性,呼吸困難のため入院した
索引
書評
開く
基本検査とその動きにこだわった学習に大いに役立つ一冊
書評者: 山田 俊幸 (自治医大教授・臨床検査医学)
著者はここ10数年来,RCPC(Reversed Clinico-pathological Conference)を積極的に紹介,発信し,世に知らしめた立役者である。RCPCとは「検査データを示し,そこから病態を読み解く」という臨床検査医学の教育手法の一つで,個々の検査を深く実践的に学習できるという特徴がある。データの表示法や,conferenceの進め方は多様であるが,重要な原則がある。「1.疾患名を当てることが目的ではない」。ゲーム感覚として診断するのは副次的楽しみとしてあっていいが,時々,推測した病名が外れると不機嫌になったり,こうも考えられる,など執拗に食い下がったりする参加者がいる。そもそも検査値だけから病名診断はできない。病態を読み解くことが主たる目的である。著者の信念もそのように一貫している。「2.基本データのみ提示する」。検査というものは,2次的・特殊なものになればなるほど疾患に直結し,結果の解釈は容易となる。基本的・一般的なものほど考えをめぐらすことが多く,この基本検査(ルーチン検査)に強くなることが臨床的にはどの職種,どの場面でも求められる。著者はかなり以前より「基本検査成績は最早,問診や基本的診察と同等に利用すべき」と主張しており,この基本検査へのこだわりが真骨頂である。
さて,conferenceの進め方には大きく2通りある。オーソドックスな方法は,基本検査データを提示し(ワンポイントでも時系列でもよい),個々の検査につき,正常でも異常でも型どおりに解釈し,総合して病態を推測し,必要な2次検査を挙げ,その結果を提示し,最終病態診断に至るというものである。評者はこの方式を実践している。もう一つは著者が実践している「信州大学方式」で,基本検査データの時系列を示し,「栄養状態」「細菌感染」など代表的病態それぞれにつき,対応する検査データを基に評価するもので,病態指向型であり,ダイナミックに病態の変化を検討するという,ある種,臨床的・実際的なものである。本書には,それら代表的な病態が網羅されており,病態に関連した検査値の理解を深めるのに大変役立つものと思われる。
なお,本書には随時,「個々の検査の読み」も解説されており,教科書としても役立つ。疾患解説に至ると,検査値だけでそこまで言えるか,という印象を持たれる向きもあるかもしれないが,上述したとおり疾患を診断するのではなく,「この病態では検査値はこう動く」という学習態度であるべきである。ただ一つ,評者の立場からの意見として,本書で取り上げる症例は「急性,重症,救急」などのイメージのものが多く,急を要さないが診断に難渋している症例などはオーソドックスな手法が適していると思う。
繰り返すが,本書は「基本検査とその動き」に徹底的にこだわり,得られる学習効果は大である。臨床検査関係者はもとより,全ての医療関係者,医学医療に興味を持たれる一般の方々に薦めたい。
簡便に実施できる基本13項目で完結したRCPC
書評者: 米川 修 (聖隷浜松病院臨床検査科部長)
現在,購入者が極めて限られているはずの医学書が数多く出版されている。検査関係の書籍もしかり。同年卒業の本田孝行先生と私の頃とは隔世の感がある。
数多の書籍から読むに値する検査の本を探し出す検査法が必要なほどである。多くは似たような内容,構成であり実際の選択に迷う。一冊手に取ってみよう。その書籍を読了した後に見える景色はいかがなものであろうか? 果たしてもう検査で悩むことはない自分を具体的にイメージできるだろうか?
検査医学を学ぶのなら検査の原理はもちろんのこと,ピットフォールの知識も押さえておきたい。しかし,より重要なのは検査データを系統立てて解析できることであり,少しでも病態に近づけることである。その技術を自分のものとするには何をすべきなのか? そもそも,一部の専門家だけができる高等技術なのでは,と多少心配にもなってくる。
それを効率よく簡便に誰にでも可能にする方法こそがRCPCである。RCPCを通じて系統立てた解析法を学んでいく。だが,「言うはやすし」である。親切に教えてくれる人間が身近にいるだろうか? 適切な師匠を選ばないと偏った見方に染まり,矯正困難となる恐れもあり得る。
向学心はあるが,どう対応していいかわからぬ医師,医学生,検査技師への最強の道具であり,武器ともなるプレゼントこそが,今回紹介する信州大の本田先生が満を持して単独執筆した書籍である。
数年前から,日本臨床検査医学会学術集会では定期的にRCPCを取り上げるようになり,その中でも抜群の解析力で参加者を魅了してきたのが本田先生のグループである。本田先生を中心とする信州大の検査室の方々は,本書I章「栄養状態はどうか」から始まり,XIII章「動脈血ガス」に至る基本13項目で,あたかも実際に患者を診察したかのように病態解析をしてみせたのである。この基本13項目を用いた解析方法は,つとに「信州大学方式」として浸透してきた。その有用性は,信州大関係者以外が駆使・活用し,その効力を遺憾なく発揮したことで証明されたと言っても過言ではない。
検査で忘れてならないのは「対価」の概念である。「対価」とは「価値」/「代償」のことである。患者に加える精神的・肉体的・経済的侵襲という代償に対して得られる情報が価値である。当然,「代償」が小さく「価値」が高いほどよい。本書の方式が有用なのは,診療科,施設を問わず簡便に依頼・実施できる基本検査項目で完結していることにある。特殊で高額な検査でかろうじて病態を把握しているのではない。ぜひ,基本的検査の解釈・活用を自家薬籠中の物として患者に還元してほしい。さらに「守」「破」「離」の精神で各自が新たな境地を開いていくことが,現在でも学生に合気道を指導している著者の願いでもあると感じる。
蛇足となるが,この書籍は,初心者はもちろんのこと,自分は中堅・ベテランだと感じている臨床医にこそ読み解いてもらいたい。
Logical Thinking RCPCを学びたい人に
書評者: 康 東天 (九大大学院教授・臨床検査医学)
RCPCのレジェンド,信州大の本田孝行教授の手になる待望の臨床検査読本である。信州大学方式のRCPC判読は現在の日本の臨床検査領域における王道と言うべき判読法で,毎年ほとんどの臨床検査関連学会の全国大会で本方式によるRCPC症例勉強会が開催されている。
本書は信州大学方式が基本的な解読病態として挙げている13のテーマに沿って,非常に典型的な39症例を解説している。特徴は,ある一時点の検査結果だけではなく,1週間から場合によっては数か月にわたる経時的な検査結果の変化を詳細に提示していることであり,まさに臨床の現場で経験する状況を再現している。そのような経時的な検査結果の変化を読み解くことでこそ,症例患者の体の中で一体何が起こっていたのかを読者も納得して正確に理解できる。本書は判読トレーニングに適した多くの症例を解説しているだけでなく,読み進めると自然と各検査項目の意味と意義が理解できるようにわかりやすい多くの図表が配置されている。その意味で,本書は検査技師や医師のRCPCトレーニングとして優れているだけでなく,臨床検査を学ぶ学部学生にとっても,具体例をベースにしつつ,各検査項目のバックグラウンドやメカニズムを詳しく学べる最適の教科書となっている。特に個々の検査項目の検査値の経時的変化を論理的に考えた上で,各検査値を統合的に捉えたい,と考えている人にぜひ薦めたい。
著者の本田教授がこの十数年にわたって信州大学方式を推進してきたことは,この領域で誰もがチャレンジしてこなかったまさに臨床検査診断学の標準化であることを最後に強調したい。読了してみると気付かないうちにLogical Thinking RCPCが身につくよう工夫されている。本著作は多くの読者にそのことを実感させるものであると信じている。
書評者: 山田 俊幸 (自治医大教授・臨床検査医学)
著者はここ10数年来,RCPC(Reversed Clinico-pathological Conference)を積極的に紹介,発信し,世に知らしめた立役者である。RCPCとは「検査データを示し,そこから病態を読み解く」という臨床検査医学の教育手法の一つで,個々の検査を深く実践的に学習できるという特徴がある。データの表示法や,conferenceの進め方は多様であるが,重要な原則がある。「1.疾患名を当てることが目的ではない」。ゲーム感覚として診断するのは副次的楽しみとしてあっていいが,時々,推測した病名が外れると不機嫌になったり,こうも考えられる,など執拗に食い下がったりする参加者がいる。そもそも検査値だけから病名診断はできない。病態を読み解くことが主たる目的である。著者の信念もそのように一貫している。「2.基本データのみ提示する」。検査というものは,2次的・特殊なものになればなるほど疾患に直結し,結果の解釈は容易となる。基本的・一般的なものほど考えをめぐらすことが多く,この基本検査(ルーチン検査)に強くなることが臨床的にはどの職種,どの場面でも求められる。著者はかなり以前より「基本検査成績は最早,問診や基本的診察と同等に利用すべき」と主張しており,この基本検査へのこだわりが真骨頂である。
さて,conferenceの進め方には大きく2通りある。オーソドックスな方法は,基本検査データを提示し(ワンポイントでも時系列でもよい),個々の検査につき,正常でも異常でも型どおりに解釈し,総合して病態を推測し,必要な2次検査を挙げ,その結果を提示し,最終病態診断に至るというものである。評者はこの方式を実践している。もう一つは著者が実践している「信州大学方式」で,基本検査データの時系列を示し,「栄養状態」「細菌感染」など代表的病態それぞれにつき,対応する検査データを基に評価するもので,病態指向型であり,ダイナミックに病態の変化を検討するという,ある種,臨床的・実際的なものである。本書には,それら代表的な病態が網羅されており,病態に関連した検査値の理解を深めるのに大変役立つものと思われる。
なお,本書には随時,「個々の検査の読み」も解説されており,教科書としても役立つ。疾患解説に至ると,検査値だけでそこまで言えるか,という印象を持たれる向きもあるかもしれないが,上述したとおり疾患を診断するのではなく,「この病態では検査値はこう動く」という学習態度であるべきである。ただ一つ,評者の立場からの意見として,本書で取り上げる症例は「急性,重症,救急」などのイメージのものが多く,急を要さないが診断に難渋している症例などはオーソドックスな手法が適していると思う。
繰り返すが,本書は「基本検査とその動き」に徹底的にこだわり,得られる学習効果は大である。臨床検査関係者はもとより,全ての医療関係者,医学医療に興味を持たれる一般の方々に薦めたい。
簡便に実施できる基本13項目で完結したRCPC
書評者: 米川 修 (聖隷浜松病院臨床検査科部長)
現在,購入者が極めて限られているはずの医学書が数多く出版されている。検査関係の書籍もしかり。同年卒業の本田孝行先生と私の頃とは隔世の感がある。
数多の書籍から読むに値する検査の本を探し出す検査法が必要なほどである。多くは似たような内容,構成であり実際の選択に迷う。一冊手に取ってみよう。その書籍を読了した後に見える景色はいかがなものであろうか? 果たしてもう検査で悩むことはない自分を具体的にイメージできるだろうか?
検査医学を学ぶのなら検査の原理はもちろんのこと,ピットフォールの知識も押さえておきたい。しかし,より重要なのは検査データを系統立てて解析できることであり,少しでも病態に近づけることである。その技術を自分のものとするには何をすべきなのか? そもそも,一部の専門家だけができる高等技術なのでは,と多少心配にもなってくる。
それを効率よく簡便に誰にでも可能にする方法こそがRCPCである。RCPCを通じて系統立てた解析法を学んでいく。だが,「言うはやすし」である。親切に教えてくれる人間が身近にいるだろうか? 適切な師匠を選ばないと偏った見方に染まり,矯正困難となる恐れもあり得る。
向学心はあるが,どう対応していいかわからぬ医師,医学生,検査技師への最強の道具であり,武器ともなるプレゼントこそが,今回紹介する信州大の本田先生が満を持して単独執筆した書籍である。
数年前から,日本臨床検査医学会学術集会では定期的にRCPCを取り上げるようになり,その中でも抜群の解析力で参加者を魅了してきたのが本田先生のグループである。本田先生を中心とする信州大の検査室の方々は,本書I章「栄養状態はどうか」から始まり,XIII章「動脈血ガス」に至る基本13項目で,あたかも実際に患者を診察したかのように病態解析をしてみせたのである。この基本13項目を用いた解析方法は,つとに「信州大学方式」として浸透してきた。その有用性は,信州大関係者以外が駆使・活用し,その効力を遺憾なく発揮したことで証明されたと言っても過言ではない。
検査で忘れてならないのは「対価」の概念である。「対価」とは「価値」/「代償」のことである。患者に加える精神的・肉体的・経済的侵襲という代償に対して得られる情報が価値である。当然,「代償」が小さく「価値」が高いほどよい。本書の方式が有用なのは,診療科,施設を問わず簡便に依頼・実施できる基本検査項目で完結していることにある。特殊で高額な検査でかろうじて病態を把握しているのではない。ぜひ,基本的検査の解釈・活用を自家薬籠中の物として患者に還元してほしい。さらに「守」「破」「離」の精神で各自が新たな境地を開いていくことが,現在でも学生に合気道を指導している著者の願いでもあると感じる。
蛇足となるが,この書籍は,初心者はもちろんのこと,自分は中堅・ベテランだと感じている臨床医にこそ読み解いてもらいたい。
Logical Thinking RCPCを学びたい人に
書評者: 康 東天 (九大大学院教授・臨床検査医学)
RCPCのレジェンド,信州大の本田孝行教授の手になる待望の臨床検査読本である。信州大学方式のRCPC判読は現在の日本の臨床検査領域における王道と言うべき判読法で,毎年ほとんどの臨床検査関連学会の全国大会で本方式によるRCPC症例勉強会が開催されている。
本書は信州大学方式が基本的な解読病態として挙げている13のテーマに沿って,非常に典型的な39症例を解説している。特徴は,ある一時点の検査結果だけではなく,1週間から場合によっては数か月にわたる経時的な検査結果の変化を詳細に提示していることであり,まさに臨床の現場で経験する状況を再現している。そのような経時的な検査結果の変化を読み解くことでこそ,症例患者の体の中で一体何が起こっていたのかを読者も納得して正確に理解できる。本書は判読トレーニングに適した多くの症例を解説しているだけでなく,読み進めると自然と各検査項目の意味と意義が理解できるようにわかりやすい多くの図表が配置されている。その意味で,本書は検査技師や医師のRCPCトレーニングとして優れているだけでなく,臨床検査を学ぶ学部学生にとっても,具体例をベースにしつつ,各検査項目のバックグラウンドやメカニズムを詳しく学べる最適の教科書となっている。特に個々の検査項目の検査値の経時的変化を論理的に考えた上で,各検査値を統合的に捉えたい,と考えている人にぜひ薦めたい。
著者の本田教授がこの十数年にわたって信州大学方式を推進してきたことは,この領域で誰もがチャレンジしてこなかったまさに臨床検査診断学の標準化であることを最後に強調したい。読了してみると気付かないうちにLogical Thinking RCPCが身につくよう工夫されている。本著作は多くの読者にそのことを実感させるものであると信じている。
正誤表
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。
更新情報
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正誤表を追加しました。
2021.09.06
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正誤表を追加しました。
2021.07.28