All About 原発閉塞隅角緑内障

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眼科診療のエキスパートを目指すための好評シリーズの1冊。失明に至るリスクの高い病型である原発閉塞隅角緑内障について、疫学・病態研究の最新知識から実地診療の最前線までを網羅した。近年の病態理解の進歩や、新世代の画像診断、緑内障眼への白内障手術の適応・手技など、最新トピックスも多く掲載。第一線で活躍する執筆陣が、エキスパートならではの経験、洞察、哲学を存分に披露した、待望の最新スタンダードテキスト。
シリーズ 眼科臨床エキスパート
シリーズ編集 𠮷村 長久 / 後藤 浩 / 谷原 秀信 / 天野 史郎
編集 澤口 昭一 / 谷原 秀信
発行 2014年04月判型:B5頁:320
ISBN 978-4-260-01959-0
定価 16,500円 (本体15,000円+税)

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眼科臨床エキスパートシリーズ 刊行にあたって

眼科臨床エキスパートシリーズ 刊行にあたって
 近年,眼科学の進歩には瞠目すべきものがあり,医用工学や基礎研究の発展に伴って,新しい検査機器や手術器具,薬剤が日進月歩の勢いで開発されている.眼科医は元来それぞれの専門領域を深く究める傾向にあるが,昨今の専門分化・多様化傾向は著しく,専門外の最新知識をアップデートするのは容易なことではない.一方で,quality of vision(QOV)の観点から眼科医療に寄せられる市民の期待や要望はかつてないほどの高まりをみせており,眼科医の総合的な臨床技能には高い水準が求められている.最善の診療を行うためには常に知識や技能をブラッシュアップし続けることが必要であり,巷間に溢れる情報の中から信頼に足る知識を効率的に得るツールが常に求められている.
 このような現状を踏まえ,我々は≪眼科臨床エキスパート≫という新シリーズを企画・刊行することになった.このシリーズの編集方針は,現在眼科診療の現場で知識・情報の更新が必要とされているテーマについて,その道のエキスパートが自らの経験・哲学とエビデンスに基づいた「新しいスタンダード」をわかりやすく解説し,明日からすぐに臨床の役に立つ書籍を目指すというものである.もちろんエビデンスは重要であるが,本シリーズで目指すのは,エビデンスを踏まえたエキスパートならではの臨床の知恵である.臨床家の多くが感じる日常診療の悩み・疑問へのヒントや,教科書やガイドラインには書ききれない現場でのノウハウがわかりやすく解説され,明日からすぐに臨床の役に立つ書籍シリーズを目指したい.
 各巻では,その道で超一流の診療・研究をされている先生をゲストエディターとしてお招きし,我々シリーズ編集者とともに企画編集にあたっていただいた.各巻冒頭に掲載するゲストエディターの総説は,当該テーマの「骨太な診療概論」として,エビデンスを踏まえた診療哲学を惜しみなく披露していただいている.また,企画趣旨からすると当然のことではあるが,本シリーズの執筆を担うのは第一線で活躍する“エキスパート”の先生方である.日々ご多忙ななか,快くご編集,ご執筆を引き受けていただいた先生方に御礼申し上げる次第である.
 本シリーズがエキスパートを目指す眼科医,眼科医療従事者にとって何らかの指針となり,目の前の患者さんのために役立てていただければ,シリーズ編者一同,これに勝る喜びはない.

 2013年2月
 シリーズ編集 吉村長久,後藤 浩,谷原秀信,天野史郎



 『All About 原発閉塞隅角緑内障』をお届けいたします.ご存じのように緑内障には2大病型として開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障があります.原発開放隅角緑内障(狭義)と正常眼圧緑内障などを含めて,開放隅角緑内障に関してはすでに『All About 開放隅角緑内障』が山本哲也教授と谷原秀信の編集の下に発刊され,緑内障専門医のみならず眼科専門医の新たなスタンダードとしての地位を確立しつつあります.本書を編集した澤口と谷原は,眼科医になり,とくに緑内障を専門にして以来,開放隅角緑内障のみならず多くの(原発,続発を問わず)閉塞隅角緑内障の患者の診療に時期を同じくして従事してきました.本書では,とくに病態の理解が一新された原発閉塞隅角緑内障にフォーカスを合わせて,我々の恩師である岩田和雄先生と永田誠先生とともに経験してきた原発閉塞隅角緑内障の検査,診断,治療のこれまでの変遷と最新の情報について,それぞれの分野を代表するエキスパートを執筆者として選りすぐりました.
 開放隅角緑内障についても隅角検査の必要性,重要性がしばしば記載されていますが,原発閉塞隅角緑内障では,一層その重要性が強調されることは改めて述べるまでもありません.さらにその病態解明には超音波生体顕微鏡の開発とその臨床応用が大きく寄与しました.細隙灯顕微鏡検査によるスクリーニングと習熟した隅角鏡検査の実施とともに超音波生体顕微鏡を始めとする前眼部,隅角検査機器で得られた客観的なデータとそれに基づくより精度の高い病態の解明が適切な治療法の選択に重要です.治療としてはかつて緑内障といえば急性閉塞隅角緑内障と同義語と考えられた時代の周辺虹彩切除術が臨床の場に登場してから百数十年の年月が経過しました.その後,我々が眼科医となってから登場したレーザー周辺虹彩切開術は現在に至るまで安全確実な治療法あるいは予防的治療法として臨床応用されています.また超音波白内障手術,隅角癒着解離術などの手術治療は,今日では原発閉塞隅角緑内障の標準的な治療法として評価されています.
 かつて原発閉塞隅角緑内障が血管新生緑内障と同様に難治性緑内障として位置づけられた時代がありました.しかし現在では原発閉塞隅角緑内障は適切な時期に適切な治療を行えばその多くは治癒し,失明しない緑内障として認識されています.執筆者の実臨床で得られた豊富なデータ,知識を読者とともに共有し,原発閉塞隅角緑内障患者の未来がさらに明るくなることを願ってやみません.
 最後に,医学書院の関係者には本書の刊行に大変なご尽力をいただいたことにこの場を借りて厚く御礼申し上げます.

 2014年2月
 編集 澤口昭一,谷原秀信

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第1章 総説
 原発閉塞隅角緑内障の診療概論と疫学
   A 原発閉塞隅角緑内障の診療概論
   I.原発閉塞隅角緑内障の管理と目標
   II.原発閉塞隅角緑内障(+原発閉塞隅角緑内障疑い)の治療
   III.原発閉塞隅角緑内障予備群への対応
   IV.緑内障診療ガイドラインと原発閉塞隅角緑内障の治療
   V.原発閉塞隅角症・原発閉塞隅角緑内障の検査と診断
   VI.実際の臨床現場での原発閉塞隅角緑内障
     (原発閉塞隅角症疑い,原発閉塞隅角症)患者への対応
   B 原発閉塞隅角緑内障の疫学
   I.原発閉塞隅角緑内障
   II.疫学調査における原発閉塞隅角緑内障の診断
   III.原発閉塞隅角緑内障の有病率,発症年齢,性差,国際比較
   IV.原発閉塞隅角緑内障の予備群と有病率
   V.久米島スタディで明らかとなった原発閉塞隅角緑内障疑いの存在
   VI.急性原発閉塞隅角緑内障,急性原発閉塞隅角症
   VII.原発閉塞隅角緑内障の参加者の治療歴・通院歴
   VIII.原発閉塞隅角緑内障と失明,失明リスク
   IX.原発閉塞隅角眼(緑内障)の患者背景と危険因子

第2章 疫学と基礎
 I 原発閉塞隅角緑内障の分類と考え方
  A 緑内障診療ガイドラインの分類
   I.緑内障の分類における原発閉塞隅角緑内障とその定義
   II.原発閉塞隅角緑内障の分類-初版からの変遷
   III.原発閉塞隅角緑内障の分類-ガイドライン第3版での3種類の分類
  B 原発閉塞隅角症と原発閉塞隅角緑内障
   I.原発閉塞隅角緑内障の診断基準-ISGEO分類(Foster分類)とAIGS分類
   II.発症速度による考え方-意外に多いundiagnosed PACG
   III.隅角検査による隅角閉塞の考え方
     -器質的隅角閉塞と非器質的(機能的)隅角閉塞
   IV.画像検査による隅角閉塞の考え方-iridotrabecular contact(ITC)
   V.周辺虹彩前癒着(PAS)の考え方-原発閉塞隅角症定義のグレーゾーン
   VI.原発閉塞隅角緑内障の発症機序の考え方-少ない自然経過の報告から
   VII.原発閉塞隅角症・原発閉塞隅角緑内障の考え方-今後の展望
 II 原発閉塞隅角の病態
  A 瞳孔ブロック
   I.瞳孔ブロックとは
   II.瞳孔ブロックの診断
   III.隅角閉塞における瞳孔ブロック機序の意義
   IV.瞳孔ブロックへの対応
  B プラトー虹彩
   I.プラトー虹彩の特徴
   II.プラトー虹彩の検出法
   III.プラトー虹彩の診断
   IV.プラトー虹彩の対策
  C 水晶体の関与
   I.原発閉塞隅角発症機序における水晶体因子
   II.水晶体因子の検出
   III.前眼部OCTによる水晶体因子解析
   IV.閉塞隅角に対する治療における水晶体因子
  D 毛様体・脈絡膜の関与
   I.原発閉塞隅角の発症機序としての毛様体
   II.原発・続発に共通する隅角閉塞機序
   III.悪性緑内障と毛様体脈絡膜剥離
   IV.悪性緑内障と原発閉塞隅角緑内障
   V.毛様体脈絡膜剥離の病態
   VI.原発閉塞隅角眼における毛様体脈絡膜剥離
   VII.原発閉塞隅角眼における毛様体脈絡膜剥離の特徴
   VIII.毛様体脈絡膜剥離と原発閉塞隅角の発症機序
   IX.毛様体脈絡膜剥離と原発閉塞隅角の治療
   X.脈絡膜膨張と原発閉塞隅角
  Topics
   UBMと前眼部OCT画像で知る原発閉塞隅角の機序
   脈絡膜と隅角閉塞-次世代OCTによる観察
  E 混合型緑内障と残余緑内障
   I.混合型緑内障とは
   II.混合型緑内障の定義とその問題点
   III.混合型緑内障と残余緑内障の診断
   IV.実際の診療での注意点
  Topics
   原発閉塞隅角緑内障の分子遺伝学
 III 原発閉塞隅角緑内障の基礎研究
   I.隅角が円周方向にどの程度閉塞すると眼圧上昇が起こり始めるか?
   II.隅角閉塞が前方向にどの程度までだと房水流出障害が起こらないか?
   III.隅角閉塞が前方向にどの程度に進展すると房水流出障害が起こるのか?
   IV.なぜ白内障手術などで隅角が開放されても
     眼圧が正常化しない症例があるのか?
   V.線維柱帯・虹彩間の接触またはPASが同程度なのに
     なぜ眼圧上昇には個体差があるのか?
   VI.基礎的疑問:隅角における不可逆的変化とは
     具体的にはどのような変化なのか?
   VII.難治緑内障を予防するためにはどうしたらよいか

第3章 原発閉塞隅角緑内障の診断
 I 眼圧測定の注意点
   I.眼圧測定の確度と精度
   II.圧平眼圧測定とImbert-Fickの法則
   III.Goldmann圧平眼圧計測定のジレンマ
   IV.ディスポーザブルチップ
   V.閉塞隅角緑内障患者の眼圧変動
 II 急性原発閉塞隅角緑内障の症状と所見
   I.症状
   II.前眼部所見
   III.瞳孔ブロック
   IV.経過
  Topics
   UBMで観察する毛様体の影響
 III 正しいvan Herick法とその臨床応用,注意点
   I.正しいvan Herick法
   II.van Herick法の注意点
   III.van Herick法の臨床応用
 IV 隅角鏡検査の基本と応用,その変法
   I.隅角の構造
   II.開放隅角眼での隅角鏡検査のポイント
   III.閉塞隅角眼での隅角鏡検査のポイント
  Topics
   Scheimpflugカメラ
   前眼部光干渉断層計
   走査式周辺前房深度計
   前眼部写真撮影
 V 負荷試験の有用性と限界
   I.負荷試験とは?
   II.負荷試験の原理
   III.負荷試験の方法と注意点
   IV.負荷試験の比較と問題点
   V.負荷試験の有用性
   VI.急性原発閉塞隅角症の発症予測と負荷試験
   VII.暗室うつむき試験の結果
   VIII.負荷試験の結果の考え方
 VI 視野検査における特徴
   I.原発閉塞隅角緑内障における視野障害の多彩さ
   II.原発閉塞隅角緑内障における視野障害パターン
   III.原発閉塞隅角緑内障における視野進行の危険因子

第4章 原発閉塞隅角緑内障に対する治療
 I 原発閉塞隅角緑内障の治療概論
   I.原発閉塞隅角緑内障治療の考え方
   II.薬物療法
   III.レーザー療法
   IV.手術療法
   V.治療概論
 II 薬物療法-急性期と急性期脱出後の治療指針
   I.急性原発閉塞隅角症,急性原発閉塞隅角緑内障
   II.慢性原発閉塞隅角症,慢性原発閉塞隅角緑内障
 III レーザー療法
  A レーザー虹彩切開術の適応と手技,成績
   I.適応
   II.手術手技
   III.成績
   IV.合併症と対策
  B レーザー隅角形成術
   I.適応
   II.禁忌
   III.手術手技
   IV.合併症
   V.術後の経過観察
 IV 隅角癒着解離術
  A 手術テクニックと手術用隅角鏡,粘弾性物質
   I.手術器具
   II.粘弾性物質
   III.手術手技
   IV.白内障手術の併施について
   V.術中合併症と対策
   VI.術後管理
  B 手術適応と成績,予後要因
   I.隅角癒着解離術の手術適応
   II.水晶体再建術併用隅角癒着解離術の適応
   III.隅角癒着解離術の成績
   IV.隅角癒着解離術の予後要因
 V 流出路再建手術-トラベクロトミーと類縁手術
   I.閉塞隅角の機序と流出路再建手術の位置づけ
   II.原発閉塞隅角症,原発閉塞隅角緑内障の病態
   III.原発閉塞隅角緑内障での房水流出路の機能変化
   IV.トラベクロトミー
   V.新しい流出路再建手術
 VI トラベクレクトミー
  A 手術テクニックのコツと落とし穴
   I.原発閉塞隅角症・原発閉塞隅角緑内障に対するトラベクレクトミー
   II.人工水晶体眼に対する手術
   III.無水晶体眼に対する手術
   VI.有水晶体眼での水晶体再建術との同時手術
   V.術後管理・注意事項
  B 手術適応と成績,予後要因
   I.原発閉塞隅角緑内障にトラベクレクトミーがなぜ必要か?
   II.トラベクレクトミーは有効か?
   III.トラベクレクトミーの予後
   IV.トラベクレクトミー単独,水晶体再建術単独,同時手術の使い分け
  Topics
   原発閉塞隅角緑内障に対するチューブシャント手術

第5章 緑内障眼における白内障手術
 I 原発閉塞隅角症・原発閉塞隅角緑内障に対する白内障手術
   I.原発閉塞隅角症・原発閉塞隅角緑内障に対する白内障手術の意義
   II.適応
   III.術前管理
   IV.手術手技
   V.術後管理
   VI.合併症と対策
   VII.術後成績
  Topics
   水疱性角膜症-レーザー虹彩切開術と水晶体摘出の功罪
 II 浅前房眼の白内障手術における注意点
  A 毛様小帯の脆弱性,高硝子体圧,眼窩
   I.毛様小帯の脆弱性
   II.高硝子体圧
   III.眼窩:小瞼裂
  B 毛様小帯断裂と硝子体脱出のトラブルシューティング
   I.白内障手術における毛様小帯の役割
   II.毛様小帯脆弱の術前診断
   III.毛様小帯脆弱の術中早期発見
  Topics
   毛様小帯脆弱の術前評価
 III 白内障手術の緑内障手術との併用
   I.同時手術の考え方
   II.閉塞隅角における白内障手術のポイント
   III.白内障手術と隅角癒着解離術の同時手術
   IV.白内障手術とトラベクロトミーの同時手術
   V.白内障手術とトラベクレクトミーの同時手術
   VI.術後の悪性緑内障
   VII.術後成績
 IV 眼内レンズ縫着-テクニックと予後
   I.原発閉塞隅角症・原発閉塞隅角緑内障におけるIOL縫着手術の注意点
   II.IOL縫着の適応-縫着が必要かどうかの判断
   III.IOL縫着のテクニック
   IV.IOL縫着の成績

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キーポイントとなる所見が的確にとらえられた教科書
書評者: 近藤 武久 (兵庫県予防医学協会)
 ここ十年余りの歳月の間に,原発閉塞隅角緑内障ほど大きな変革がもたらされたものは少ない。疾病の分類,名称に始まり,検査法,治療方針に至るまで大幅な変化がもたらされたのである。このような状況の下,新しい教科書,解説書が求められるのはけだし当然のことであり,本書の出版は誠に時宜を得た企画であるといえよう。

 Fosterらにより提唱された新分類では,緑内障という名称は緑内障性視神経症(GON)の存在の有無をもってのみ定められるという考え方に基づいている。そしてGONを伴わない狭隅角眼は閉塞隅角症(PAC)とし,緑内障という名称が取り除かれた一群として取り扱われることになったのである。この分類法の詳細や問題点について,いろいろな角度から明快な解説がなされていている。加えて日本緑内障学会による「緑内障診療ガイドライン」の初版から第3版までの変遷も対比されていて,理解を助けてくれる。しかしながら,久米島での疫学調査の成績のみならず,緑内障の名称が除かれたとはいえ,原発性のPACは原発閉塞隅角緑内障(PACG)と同様,急性発作によって失明につながる恐れのある様態であることに変わりはなく,その継続的な管理が大切であることが強調されている。

 本書を通覧して言えることは,掲載されている隅角鏡写真や映像が実に美しく,かつキーポイントとなる所見が的確にとらえられていることである。過去に,わが国でも清水弘一氏や,山本哲也教授らによる立派な隅角写真集が存在しているが,本書の画像や写真は理解しやすく,過去の好著に十分匹敵し得るものであろう。加えてUBM,前眼部OCTといった新しい機器による画像が数多くのセクションにおいて採用,活用されており,説得力に富む内容であると言える。評者が眼科医になりたての頃,教室の先輩からプラトー虹彩はわが国ではほとんど見られず,欧米の患者の疾患であると教えられた記憶が残っているが,UBM,OCTの登場により瞳孔ブロック,プラトー虹彩,水晶体因子,毛様体因子のマルチメカニズムの存在の有無が容易に確認され,わが国においてもプラトー虹彩の合併例が数多く存在することが判明した。

 いくつかの新しい知見の中で注目に値する点は,毛様体,脈絡膜に関する記述量が大幅に増加したことであろう。過去の緑内障の教科書において毛様体,脈絡膜に関する記載は皆無に等しい状況であったことを考えれば,実に大きな変化であり,Quigleyらの脈絡膜膨張に関する説については今後も衆目が集まるところである。向後さらに,可変性周波数のUBMが普及すれば,眼表面から5 mm以上離れた深部組織(毛様体扁平部,毛様小帯,水晶体赤道部,脈絡膜など)についても容易に鮮明な映像が把握されるようになり,一段と毛様体,毛様小体,脈絡膜などに関する研究が進むものと推察される。

 治療に関して特筆すべきことは,白内障手術が治療法の中で大きなスペースを占めるようになったことであろう。水晶体再建術はPACGが備えている解剖学的なリスクや問題点を大幅に改善する。それのみならず,術後の眼圧調整にもかなりの成果があり,かつ視力予後も満足すべきものである。透明な水晶体の除去となるケースもあるが,将来,眼内レンズの進歩がこの欠点を補ってくれるものと期待している。東アジアからの報告では欧米の成績と比べ,術後に隅角が開放されても相変わらず眼圧が高い症例が多い傾向にある。このような線維柱帯の不可逆性変化に関しては,病理学的な面からの詳しい解説がなされていて,残余緑内障や混合型緑内障などを解釈する上で参考となろう。
新しいスタンダードを示すPACGのバイブル
書評者: 岩田 和雄 (新潟大名誉教授・眼科学)
 本シリーズは,その道のエキスパートたちが自らの経験,哲学とエビデンスに基づいた「新しいスタンダード」を解説,明日からの診療に役立つことを目標としている。本書はまさに300ページを超える大冊で,原発閉塞隅角緑内障(PACG)だけで,こんなに充実した内容のテキストブックは国際的に見ても比類がなく,基礎から臨床まで,正にバイブル的存在といえる。この方面のリーダー,澤口昭一・谷原秀信両教授による編集で,計33名のエキスパートが執筆している。分担執筆書はまとまりに欠ける傾向がみられるが,本書は一人の著者がPACGのために苦心し,研究し,学問し,診療してきた大量の経験をつぶさに書き上げたかのように編集され,熱気や息吹が感じられ,全編がそのような魅力で溢れている。またこと細かに問題となる項目を挙げ,アカデミックな立場から,つぶさに,これに答えるような編集は,謎を解くみたいに面白い。読みながら知識が豊富になること請け合いで,教わるところが多い。

 澤口教授の総説の要点を押さえながらの語り口が面白い。新潟で眼科医として初めてPACGに接し,後日PACGの頻度の高い沖縄に渡り,幾多の困難と研鑽と疫学調査の末に合理的で最高といえる診療レベルに至った経過が物語風にまとめられている。それはまたPACG学および眼科学の進歩の歴史でもあり,興味深い。本書はこの総説を入れて全体が5つの章からなり,疫学と基礎,診断,治療,白内障手術という具合に,基礎から始まり,最終的な診療に至るまで,順序よく解説されている。PACGに接することが少ない地域でも,ひとたび急性発作が起こったら予後がひどいことを知悉している眼科医にとって,ポイントとなるいくつかのリスクファクター,予防法,検査法,危険管理法,治療の要点,手術法の選択,術後管理等,平生わきまえていなければならないことが解説され,それぞれの項目について明快ながら,あたかも医局で高度の知識と豊かな経験を持つ先輩から,直接こと細かに教えを受けているような記述がなされている。例えば,レーザー虹彩切開術は通常2-3ページ解説されているだけであるが,本書ではほぼ10ページを費やして,適応,手技,成績,合併症と対策など,15の小項目に分けて解説されている。

 以上でわかるように,本書はわが国には学識,経験ともに豊かに円熟したエキスパートたちが揃っていることの証しでもあり,それらによる円熟の記述であるところが特色でもある。また,通奏低音のごとくPACGに寄り添って病態と診療を複雑にしているプラトー虹彩の病態生理が必ずしも明らかではなく,究極的には水晶体再建術という選択になるようであるが,より合理的で簡潔な対策を望みたいところだ。なお,PACGの分類については,周知のごとく,国際的なISGEO分類,AIGS分類に歩調を合わせる必要から,新分類が緑内障診療ガイドライン第3版から採用されている。これはデータの国際的整合性には不可欠であり,多分medicolegal的(医療に関する法医学)な要望も盛り込まれているためであろう。

 要するに本書は現在望み得る最高のテキストであり,常時座右に置いて参考にしていただければ,本書の目的とするAll Aboutがオールマイティになること請け合いである。

 もし本書にさらに望むことがあるとすれば,脈絡膜の動態を含む急性発作発生機構のダイナミックな解明や遺伝子の問題,プラトー虹彩の病態生理,脳の視覚中枢障害の実態などであろうか。多くのエキスパートを抱えるわが国の閉塞隅角研究グループによる解明に期待したい。

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