実践 がんサバイバーシップ
患者の人生を共に考えるがん医療をめざして
がん医療は新たなステージへ
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がん治療の発展に伴い、がんは不治の病でなく慢性疾患として考えられるようになってきた。つまり治療効果のみでなく、その患者自身の人生をともに考え、医療に組み入れて実践していくことが求められている。本書では、がんサバイバーシップとは何か、各職種に求められるサバイバーへの具体的なかかわり方、知っておきたい患者会の活動などを、経験豊富な医療者、アクティブに活動されている関係者が解説。
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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監修のことば(日野原重明)/序にかえて-がん医療の次のステージとしてのがんサバイバーシップ(山内英子)
監修のことば
今般,医学書院から『実践 がんサバイバーシップ-患者の人生を共に考えるがん医療をめざして』と題した本著が出版されました。
がんは,近年の驚くべき医学の進歩によって長期の生存がかなえられるようになり,一昔前によく用いられていたターミナルケアという言葉はすでに過去のものとなりつつあります。
米国・テキサス州ヒューストン市にあるMDアンダーソンがんセンターでは,ターミナルの患者さんに適用されることが多い緩和ケア(palliative care)を“サポーティブケア”と改めました。がん体験者は,その後も長期間,日常の生活を送る(サバイブする)ことになるからです。そのためにもがん体験者をはじめ,家族,あるいは仕事先の関係者にも,がんサバイバーについての知識が必要になります。それについて,これまで長くがん医療に関わってきた医師,看護師,薬剤師,ソーシャルワーカー,理学療法士,作業療法士その他の医療職者によって本書が著されたことは,まず医療に関わる当事者である私たちから,がんサバイバーへの理解を深めなければならないのだということを意味します。
あくまでも主役はがんサバイバー(体験者とその家族)であること,そして彼らに関わる医療者は何をなすべきかを本書によって学んでいただければ幸いです。
2014年3月
聖路加国際メディカルセンター理事長 日野原重明
序にかえて
-がん医療の次のステージとしてのがんサバイバーシップ
●はじめに
がん医療が次のステージへ入るべき時代が到来した。がんが不治の病と言われ,その治療法を見つけることに必死になっていた時代から,がんの治療の発展から,がんという病が不治の病ではなく慢性疾患として考えられるような時代になってきた。がん罹患率が増加し続け,いわゆるがん生存者の数は確実に増加している。がんの治療を終えたら,それで医療は終わりではない。その後もがんサバイバーとして生きていく患者やその周りを支えていく体制を,医学的にも社会的にも整える必要がある。つまりがん医療の次のステージに入ったと言えよう。
●がんサバイバーシップの歴史
サバイバーが「生存者」とすると,がんサバイバーは「がん生存者?」ということになるが,「生存者」というより「がん経験者」というほうがより的確かもしれない。がんサバイバーシップとは,がんの状態にかかわらず,がんを経験したすべての人,およびその家族,友人など支えるすべての人の生き方と考え方を言う。がんと診断された時からその治療後にわたってその生涯をいかにその人らしく生き抜いたかをより重視した考え方を言う。
米国において,1986年に医療者からではなく,がんを経験した一般の25人の患者を中心に,National Coalition for Cancer Survivor(NCCS)が結成された。患者の声により誕生した団体である。がんの生存を延ばすことばかりに医療者たちが夢中になっていた時代に,その経験者である患者自身からがんの治療成果ばかりに目を向けた医療ではなく,本人や家族ががんを経験し,その後も生きていく過程をも考慮に入れることを提唱した考え方と言えよう。
その後,一時は自転車競技界の英雄と言われたランス・アームストロングがその考え方を広めることに貢献した。1996年,自身が進行性の精巣がんと診断され,発見された時すでに脳と肺に転移があった。その後,治療を終えてから,奇跡的に復活し,世界最大の自転車ロードレースであるツール・ド・フランスで,前人未踏の個人総合7連覇という偉業を果たした。そのことだけでも,多くの人々に勇気を与えたが,自分の経験を通して,がんとともに生きることを考えようと,非営利財団のランス・アームストロング基金を設立し,がん患者やがん体験者を支える活動の助成や研究に数億円の資金を提供し,Centers for Disease Control and Prevention(CDC)とLance Armstrong Foundationが中心となって啓発活動を開始した。その後,自身のドーピング事件などがあり,その名声をなくしたが,彼の啓発活動における業績は評価に値するであろう。
彼の活動とともに,米国においてサバイバーシップの重要性が注目され,1996年にはNational Cancer Instituteが“Office of Cancer Survivorship”を設立した。最近では,欧米において医療の面でのがん患者の長期的なフォローアップに注目したサバイバーシップクリニックが設立され,がんの治療を終えた後の長期的な副作用や問題に関する研究も多く行われている。
●がんサバイバーシップの4×4 (図)
サバイバーシップには4つの側面-身体的,精神的,社会的,スピリチュアル的側面-および4つの時期-急性期,生存が延長された時期,安定した時期,人生の終焉時期-がある。それらから,それぞれに多角的,多次元的に考えていく必要がある。1 4つの側面
a)身体的
がんによる直接的な身体症状はもちろんのこと,手術による体の変化,治療による副作用および長期における体の変化の問題,また2次発がんの問題などがある。
b)精神的
がんと診断されたことで生じる精神的な問題や,手術などの体の変化への適応,その後の治療の副作用による精神的サポート,また抗がん剤などによる認知障害の問題などがある。
c)社会的
医療費の問題,がんの治療中の就労の問題,仕事へ復帰した時の支援,また終末期での社会資源の導入など,経済的問題から社会的サポートまでが挙げられる。
d)スピリチュアル的
がんと診断されたことにより見つめ直すスピリチュアルな面,つまり今まで考えたことのなかった死というものに直面して,この世における自分の存在価値はどこにあるのか,生きていく目的は何なのか,また死への恐怖や不安,自分の今までの人生を振り返りさいなまれる罪悪感といった問題が挙げられる。
2 4つの時期
NCCSの創設者でもあり,医師であり,自らもサバイバーである,Mullanががんと診断されてからのサバイバーの人生を3つの時期に表し,その後,1993~1995年までNCCSの会長であった看護師のSusan Leighが,終末期を加え,4つのステージで表されている。
a)急性期 acute stage of survival
急性期はがんと診断されてからその治療が一通り終了するまでの時間を言う。
b)生存が延長された時期 extended stage of survival
急性期の治療を終えて,自身の生きていることの喜びと感謝を感じる反面,再発への恐怖を感じてしまう時期でもある。急性期には気がつかなかった治療による自身の体の変化や,精神的な負担を重くずっしりと感じる時期である。
c)安定した時期 permanent stage of survival
自分の体の変化を受容し,再発が多く起こってくる2~3年の時期を乗り越え,精神的には安定していると思う時期である。
d)人生の終焉の時期 final stage of survival:dying
人は生をもってこの世に生まれた時から人生の終焉は確実にだれでもやってくる。
●この本ができるまで
編者が米国において学んできた,キャンサーサバイバーシップの概念を日野原重明先生にご紹介したところ,ご賛同いただき2011年に一般財団法人ライフ・プランニング・センターのフォーラムを行うことが実現した。このフォーラムは岡山大学大学院保健学研究科教授の松岡順治先生とともに,日本においてこの概念をまず紹介し,また日本における展開をディスカッションする場として企画したものである。
米国のMDアンダーソンがんセンターからキャンサーサバイバープログラムの責任者として,医療者の教育にも深く携わっているDr. Lewis E. Foxhallをお招きして,米国での歴史,現状,そして教育の実際を紹介していただいた。日本からは,早くからサバイバーシップを取り入れている小児がんの分野から学ぼうと,愛媛県立中央病院小児医療センターの石田也寸志先生に,小児がんにおけるサバイバーシップのご紹介,またその発展の経緯をお話しいただいた。さらにシンポジウムとして,患者会や患者の立場からのご意見をいただきながら意見を交換した。それをもとに,より多くの医療者にサバイバーシップを知っていただこうと日野原重明先生の発案で企画されたのが本書である。
●この本の目的
がん医療の次の時代として,がんサバイバーシップの概念をもちながら医療を行うことは,医療者にとって重要かつ必要なことであると思う。広く,深い,ともすれば漠然とした概念でもあるが,それぞれの患者の側面から,それぞれの医療者としての立場から,医学としての治療効果のみでなく,その患者自身の人生を考えるアートとしての医療の部分をもっと組み入れていくことが大切である。さらには,これから2人に1人ががん経験者と言われる時代がやってくる日本において,がんになっても安心して暮らせる社会を皆で作っていく必要がある。
本書ではがんに携わる多くの医療従事者を読者対象に,がんサバイバーシップとは何か,各職種に求められるサバイバーへの具体的な関わり方,知っておきたい患者会の活動などを,経験ある臨床医,積極的に活動されている関係者の方々にご解説いただいた。日本ではまだこの概念が実臨床に浸透していない現状もふまえて,今後の日本でのあり方などの提言も盛り込み,読者の方とさらに今後も検討していく課題の提示となればと思う。
がん患者およびその家族や周囲の人々を目の前にした時,少しでもこのがんサバイバーシップを考えながら,彼らに寄り添っていくための一助になれば,編者として望外の喜びである。
2014年3月
聖路加国際病院乳腺外科部長 山内英子
監修のことば
今般,医学書院から『実践 がんサバイバーシップ-患者の人生を共に考えるがん医療をめざして』と題した本著が出版されました。
がんは,近年の驚くべき医学の進歩によって長期の生存がかなえられるようになり,一昔前によく用いられていたターミナルケアという言葉はすでに過去のものとなりつつあります。
米国・テキサス州ヒューストン市にあるMDアンダーソンがんセンターでは,ターミナルの患者さんに適用されることが多い緩和ケア(palliative care)を“サポーティブケア”と改めました。がん体験者は,その後も長期間,日常の生活を送る(サバイブする)ことになるからです。そのためにもがん体験者をはじめ,家族,あるいは仕事先の関係者にも,がんサバイバーについての知識が必要になります。それについて,これまで長くがん医療に関わってきた医師,看護師,薬剤師,ソーシャルワーカー,理学療法士,作業療法士その他の医療職者によって本書が著されたことは,まず医療に関わる当事者である私たちから,がんサバイバーへの理解を深めなければならないのだということを意味します。
あくまでも主役はがんサバイバー(体験者とその家族)であること,そして彼らに関わる医療者は何をなすべきかを本書によって学んでいただければ幸いです。
2014年3月
聖路加国際メディカルセンター理事長 日野原重明
序にかえて
-がん医療の次のステージとしてのがんサバイバーシップ
●はじめに
がん医療が次のステージへ入るべき時代が到来した。がんが不治の病と言われ,その治療法を見つけることに必死になっていた時代から,がんの治療の発展から,がんという病が不治の病ではなく慢性疾患として考えられるような時代になってきた。がん罹患率が増加し続け,いわゆるがん生存者の数は確実に増加している。がんの治療を終えたら,それで医療は終わりではない。その後もがんサバイバーとして生きていく患者やその周りを支えていく体制を,医学的にも社会的にも整える必要がある。つまりがん医療の次のステージに入ったと言えよう。
●がんサバイバーシップの歴史
サバイバーが「生存者」とすると,がんサバイバーは「がん生存者?」ということになるが,「生存者」というより「がん経験者」というほうがより的確かもしれない。がんサバイバーシップとは,がんの状態にかかわらず,がんを経験したすべての人,およびその家族,友人など支えるすべての人の生き方と考え方を言う。がんと診断された時からその治療後にわたってその生涯をいかにその人らしく生き抜いたかをより重視した考え方を言う。
米国において,1986年に医療者からではなく,がんを経験した一般の25人の患者を中心に,National Coalition for Cancer Survivor(NCCS)が結成された。患者の声により誕生した団体である。がんの生存を延ばすことばかりに医療者たちが夢中になっていた時代に,その経験者である患者自身からがんの治療成果ばかりに目を向けた医療ではなく,本人や家族ががんを経験し,その後も生きていく過程をも考慮に入れることを提唱した考え方と言えよう。
その後,一時は自転車競技界の英雄と言われたランス・アームストロングがその考え方を広めることに貢献した。1996年,自身が進行性の精巣がんと診断され,発見された時すでに脳と肺に転移があった。その後,治療を終えてから,奇跡的に復活し,世界最大の自転車ロードレースであるツール・ド・フランスで,前人未踏の個人総合7連覇という偉業を果たした。そのことだけでも,多くの人々に勇気を与えたが,自分の経験を通して,がんとともに生きることを考えようと,非営利財団のランス・アームストロング基金を設立し,がん患者やがん体験者を支える活動の助成や研究に数億円の資金を提供し,Centers for Disease Control and Prevention(CDC)とLance Armstrong Foundationが中心となって啓発活動を開始した。その後,自身のドーピング事件などがあり,その名声をなくしたが,彼の啓発活動における業績は評価に値するであろう。
彼の活動とともに,米国においてサバイバーシップの重要性が注目され,1996年にはNational Cancer Instituteが“Office of Cancer Survivorship”を設立した。最近では,欧米において医療の面でのがん患者の長期的なフォローアップに注目したサバイバーシップクリニックが設立され,がんの治療を終えた後の長期的な副作用や問題に関する研究も多く行われている。
●がんサバイバーシップの4×4 (図)
サバイバーシップには4つの側面-身体的,精神的,社会的,スピリチュアル的側面-および4つの時期-急性期,生存が延長された時期,安定した時期,人生の終焉時期-がある。それらから,それぞれに多角的,多次元的に考えていく必要がある。1 4つの側面
a)身体的
がんによる直接的な身体症状はもちろんのこと,手術による体の変化,治療による副作用および長期における体の変化の問題,また2次発がんの問題などがある。
b)精神的
がんと診断されたことで生じる精神的な問題や,手術などの体の変化への適応,その後の治療の副作用による精神的サポート,また抗がん剤などによる認知障害の問題などがある。
c)社会的
医療費の問題,がんの治療中の就労の問題,仕事へ復帰した時の支援,また終末期での社会資源の導入など,経済的問題から社会的サポートまでが挙げられる。
d)スピリチュアル的
がんと診断されたことにより見つめ直すスピリチュアルな面,つまり今まで考えたことのなかった死というものに直面して,この世における自分の存在価値はどこにあるのか,生きていく目的は何なのか,また死への恐怖や不安,自分の今までの人生を振り返りさいなまれる罪悪感といった問題が挙げられる。
2 4つの時期
NCCSの創設者でもあり,医師であり,自らもサバイバーである,Mullanががんと診断されてからのサバイバーの人生を3つの時期に表し,その後,1993~1995年までNCCSの会長であった看護師のSusan Leighが,終末期を加え,4つのステージで表されている。
a)急性期 acute stage of survival
急性期はがんと診断されてからその治療が一通り終了するまでの時間を言う。
b)生存が延長された時期 extended stage of survival
急性期の治療を終えて,自身の生きていることの喜びと感謝を感じる反面,再発への恐怖を感じてしまう時期でもある。急性期には気がつかなかった治療による自身の体の変化や,精神的な負担を重くずっしりと感じる時期である。
c)安定した時期 permanent stage of survival
自分の体の変化を受容し,再発が多く起こってくる2~3年の時期を乗り越え,精神的には安定していると思う時期である。
d)人生の終焉の時期 final stage of survival:dying
人は生をもってこの世に生まれた時から人生の終焉は確実にだれでもやってくる。
●この本ができるまで
編者が米国において学んできた,キャンサーサバイバーシップの概念を日野原重明先生にご紹介したところ,ご賛同いただき2011年に一般財団法人ライフ・プランニング・センターのフォーラムを行うことが実現した。このフォーラムは岡山大学大学院保健学研究科教授の松岡順治先生とともに,日本においてこの概念をまず紹介し,また日本における展開をディスカッションする場として企画したものである。
米国のMDアンダーソンがんセンターからキャンサーサバイバープログラムの責任者として,医療者の教育にも深く携わっているDr. Lewis E. Foxhallをお招きして,米国での歴史,現状,そして教育の実際を紹介していただいた。日本からは,早くからサバイバーシップを取り入れている小児がんの分野から学ぼうと,愛媛県立中央病院小児医療センターの石田也寸志先生に,小児がんにおけるサバイバーシップのご紹介,またその発展の経緯をお話しいただいた。さらにシンポジウムとして,患者会や患者の立場からのご意見をいただきながら意見を交換した。それをもとに,より多くの医療者にサバイバーシップを知っていただこうと日野原重明先生の発案で企画されたのが本書である。
●この本の目的
がん医療の次の時代として,がんサバイバーシップの概念をもちながら医療を行うことは,医療者にとって重要かつ必要なことであると思う。広く,深い,ともすれば漠然とした概念でもあるが,それぞれの患者の側面から,それぞれの医療者としての立場から,医学としての治療効果のみでなく,その患者自身の人生を考えるアートとしての医療の部分をもっと組み入れていくことが大切である。さらには,これから2人に1人ががん経験者と言われる時代がやってくる日本において,がんになっても安心して暮らせる社会を皆で作っていく必要がある。
本書ではがんに携わる多くの医療従事者を読者対象に,がんサバイバーシップとは何か,各職種に求められるサバイバーへの具体的な関わり方,知っておきたい患者会の活動などを,経験ある臨床医,積極的に活動されている関係者の方々にご解説いただいた。日本ではまだこの概念が実臨床に浸透していない現状もふまえて,今後の日本でのあり方などの提言も盛り込み,読者の方とさらに今後も検討していく課題の提示となればと思う。
がん患者およびその家族や周囲の人々を目の前にした時,少しでもこのがんサバイバーシップを考えながら,彼らに寄り添っていくための一助になれば,編者として望外の喜びである。
2014年3月
聖路加国際病院乳腺外科部長 山内英子
目次
開く
序にかえて -がん医療の次のステージとしてのがんサバイバーシップ
1編 がんサバイバーシップの歴史と発展
1章 米国におけるがんサバイバーシップの歴史
A. 米国のがんの状況
B. 米国のがんサバイバー
C. 歴史的背景
D. サバイバー管理の目標
2章 米国におけるがんサバイバーシップの発展
A. がんサバイバーのニーズ
B. がんサバイバーの健康リスク
C. ケアの展開
D. 管理のためのガイドライン
E. おわりに
3章 わが国のがんサバイバーシップはどう展開してきたか-小児がんを例に
A. 世界的な研究の展開
B. 日本での初期の展開
C. 長期フォローアップ(FU)
D. 国際的な交流と小児がん経験者の動向
2編 がんサバイバーシップの実践
1章 身体的問題
二次性発がん
A. はじめに
B. ホジキンリンパ腫と二次がん
C. 乳がんと二次がん
D. 精巣がんと二次がん
E. 生活習慣について
F. 遺伝性腫瘍
G. 二次がんスクリーニングのための検診について
H. おわりに
手術による後遺症-主に乳がんの術後について
A. はじめに
B. 乳がん手術の変遷
C. 乳がん手術の術後後遺症
D. おわりに
がんと妊孕性
A はじめに
B. がん治療による妊孕性喪失・低下のメカニズム
C. 性腺機能障害の予測
D. 性腺機能障害への対処
心機能異常
A. はじめに
B. いくつかの場面
C. それぞれの場面における悩み
D. 化学療法時における心毒性
E. 心機能異常との向き合い方
骨に対する影響
A. はじめに
B. 骨構造と骨代謝
C. 骨の健康維持のために
D. 骨粗鬆症の診断と治療
化学療法誘発性認知機能障害(ケモブレイン)
A. はじめに
B. 臨床症状
C. 病態生理
D. 検査・診断
E. 治療
F. 今後期待される研究
性機能障害
A. はじめに
B. 医療現場における「がん患者の性の悩み」の取り上げられ方
C. がんが引き起こす性機能障害
D. 一般医療者が対応するべきこと
E. おわりに
2章 社会的問題
治療における経済的負担
A. はじめに
B. 相談事例
C. 高額療養費制度と高額療養費限度額認定証など
D. 傷病手当金制度
E. 障害年金制度
就労問題
A. はじめに
B. 現状
C. 聖路加国際病院 就労リングプログラム
D. 課題
家族のサポート
A. はじめに
B. 子育て中のがん患者の気がかり
C. がん患者を親にもつ子どもの心
D. チャイルドサポートの実際
E. おわりに
3章 精神的問題
A. はじめに
B. 適応障害
C. うつ病
D. 精神的ケアの実際
4章 スピリチュアリティ がんのシンボリズムを担いつつ生きる
A. はじめに
B. 医療モデルとスピリチュアリティ
C. スピリチュアリティの定義
D. ライフサイクル論とサバイバーの課題
E. リミナリティ論とサバイバーの課題
F. まとめ
3編 各職種に求められるがんサバイバーへの関わり
1章 医師
外科医
A. サバイバーシップにおける外科医
B. 診断から初期治療まで
C. フォローアップ期
D. 再発期
E. ターミナル期
F. おわりに
腫瘍内科医
A. がんサバイバー
B. 腫瘍内科のがん診療における役割
C. 目標の異なる2種類のがん患者(がんサバイバー)
D. 日本におけるがんサバイバーシップの形
かかりつけ医
A. 家族全員のかかりつけ医としての家庭医
B. 家庭医としての乳がんとの関わり
C. 化学療法と家庭医
D. 乳がんサバイバー
E. まとめ-治療後の家庭医の役割
精神科医
A. 精神科医などの専門職
B. 精神科医に何ができるのか?
C. 精神科医に求められるがんサバイバーシップへの関わり
緩和ケア医
A. がんサバイバーシップとは
B. 緩和ケアとがんサバイバーシップ
C. 米国における緩和ケア外来の取り組み
D. 千葉県がんセンターにおける緩和ケア外来
E. 緩和ケア外来の将来
リハビリテーション医
A. リハビリテーションとは何か?
B. がんサバイバーシップにおけるリハビリテーションの役割
C. がん医療におけるリハビリテーションの実際
D. がんリハビリテーションの動向
E. がんリハビリテーション発展に向けた取り組み
F. 今後の課題
2章 看護師
相談支援センターにおける関わり
A. がん相談の活用
B. 患者の声から支援の方法を考える
C. おわりに
外来における関わり
A. 診断時における外来看護師の関わり(乳がんを例に)
B. 意思決定支援
C. 治療期における看護師の関わり
D. ホルモン療法を受けるサバイバーへの関わり
E. ピアサポート活動への関わり
F. おわりに
サポーティブケアにおける関わり
A. サポーティブケアとは
B. サポーティブケアの実際
3章 薬剤師
A. がんチーム医療における薬剤師の役割
B. サバイバーシップの各ステージにおける薬剤師の関わり
4章 ソーシャルワーカー
A. 米国で生まれ,日本では理解されにくいソーシャルワーカー
B. 今,ソーシャルワーカーがなすべきこと
5章 理学療法士
A. 一般的な理学療法士の役割
B. 理学療法士に対するがんに関する教育システム
C. がんサバイバーに対する理学療法のあり方
6章 作業療法士
A. 作業療法士の専門性(作業療法士は何を支援できるのか)
B. 作業療法士が関わるべき時期と場所
C. 病期別にみた作業療法士の役割
D. 今後のリハビリテーション(作業療法士)に期待されること
4編 患者,家族とともに発展するサバイバーシップ
1章 患者として
患者として(その1)
A. サバイバーシップとの出会い
B. 患者・家族にとってのサバイバーシップ
C. 病院内,学会,社会におけるサバイバーシップ
D. サバイバーシップの未来
患者として(その2)
A. 「がんサバイバー」となって四半世紀
B. 男性ホルモンがゼロに……
C. 「がんサバイバー」に救われる
D. パートナーにも支えられ
E. 「がんになってよかった」
2章 患者会として
A. 自団体での経験から
B. 各地の患者団体と医療機関の連携
C. 社会的な痛みの軽減に向けて
3章 患者,家族をサポートするNPOとして
A. 治癒率が向上したからこその新たな課題
B. 長期にわたるサバイバーシップ
C. 小児がんにおけるサバイバーシップの主体者
D. 求められる社会制度の整備
E. サバイバー自身がすること
F. 親も含めた小児がん経験者の自立支援システム
G. 小児がんのサバイバーシップを推進していくために
索引
1編 がんサバイバーシップの歴史と発展
1章 米国におけるがんサバイバーシップの歴史
A. 米国のがんの状況
B. 米国のがんサバイバー
C. 歴史的背景
D. サバイバー管理の目標
2章 米国におけるがんサバイバーシップの発展
A. がんサバイバーのニーズ
B. がんサバイバーの健康リスク
C. ケアの展開
D. 管理のためのガイドライン
E. おわりに
3章 わが国のがんサバイバーシップはどう展開してきたか-小児がんを例に
A. 世界的な研究の展開
B. 日本での初期の展開
C. 長期フォローアップ(FU)
D. 国際的な交流と小児がん経験者の動向
2編 がんサバイバーシップの実践
1章 身体的問題
二次性発がん
A. はじめに
B. ホジキンリンパ腫と二次がん
C. 乳がんと二次がん
D. 精巣がんと二次がん
E. 生活習慣について
F. 遺伝性腫瘍
G. 二次がんスクリーニングのための検診について
H. おわりに
手術による後遺症-主に乳がんの術後について
A. はじめに
B. 乳がん手術の変遷
C. 乳がん手術の術後後遺症
D. おわりに
がんと妊孕性
A はじめに
B. がん治療による妊孕性喪失・低下のメカニズム
C. 性腺機能障害の予測
D. 性腺機能障害への対処
心機能異常
A. はじめに
B. いくつかの場面
C. それぞれの場面における悩み
D. 化学療法時における心毒性
E. 心機能異常との向き合い方
骨に対する影響
A. はじめに
B. 骨構造と骨代謝
C. 骨の健康維持のために
D. 骨粗鬆症の診断と治療
化学療法誘発性認知機能障害(ケモブレイン)
A. はじめに
B. 臨床症状
C. 病態生理
D. 検査・診断
E. 治療
F. 今後期待される研究
性機能障害
A. はじめに
B. 医療現場における「がん患者の性の悩み」の取り上げられ方
C. がんが引き起こす性機能障害
D. 一般医療者が対応するべきこと
E. おわりに
2章 社会的問題
治療における経済的負担
A. はじめに
B. 相談事例
C. 高額療養費制度と高額療養費限度額認定証など
D. 傷病手当金制度
E. 障害年金制度
就労問題
A. はじめに
B. 現状
C. 聖路加国際病院 就労リングプログラム
D. 課題
家族のサポート
A. はじめに
B. 子育て中のがん患者の気がかり
C. がん患者を親にもつ子どもの心
D. チャイルドサポートの実際
E. おわりに
3章 精神的問題
A. はじめに
B. 適応障害
C. うつ病
D. 精神的ケアの実際
4章 スピリチュアリティ がんのシンボリズムを担いつつ生きる
A. はじめに
B. 医療モデルとスピリチュアリティ
C. スピリチュアリティの定義
D. ライフサイクル論とサバイバーの課題
E. リミナリティ論とサバイバーの課題
F. まとめ
3編 各職種に求められるがんサバイバーへの関わり
1章 医師
外科医
A. サバイバーシップにおける外科医
B. 診断から初期治療まで
C. フォローアップ期
D. 再発期
E. ターミナル期
F. おわりに
腫瘍内科医
A. がんサバイバー
B. 腫瘍内科のがん診療における役割
C. 目標の異なる2種類のがん患者(がんサバイバー)
D. 日本におけるがんサバイバーシップの形
かかりつけ医
A. 家族全員のかかりつけ医としての家庭医
B. 家庭医としての乳がんとの関わり
C. 化学療法と家庭医
D. 乳がんサバイバー
E. まとめ-治療後の家庭医の役割
精神科医
A. 精神科医などの専門職
B. 精神科医に何ができるのか?
C. 精神科医に求められるがんサバイバーシップへの関わり
緩和ケア医
A. がんサバイバーシップとは
B. 緩和ケアとがんサバイバーシップ
C. 米国における緩和ケア外来の取り組み
D. 千葉県がんセンターにおける緩和ケア外来
E. 緩和ケア外来の将来
リハビリテーション医
A. リハビリテーションとは何か?
B. がんサバイバーシップにおけるリハビリテーションの役割
C. がん医療におけるリハビリテーションの実際
D. がんリハビリテーションの動向
E. がんリハビリテーション発展に向けた取り組み
F. 今後の課題
2章 看護師
相談支援センターにおける関わり
A. がん相談の活用
B. 患者の声から支援の方法を考える
C. おわりに
外来における関わり
A. 診断時における外来看護師の関わり(乳がんを例に)
B. 意思決定支援
C. 治療期における看護師の関わり
D. ホルモン療法を受けるサバイバーへの関わり
E. ピアサポート活動への関わり
F. おわりに
サポーティブケアにおける関わり
A. サポーティブケアとは
B. サポーティブケアの実際
3章 薬剤師
A. がんチーム医療における薬剤師の役割
B. サバイバーシップの各ステージにおける薬剤師の関わり
4章 ソーシャルワーカー
A. 米国で生まれ,日本では理解されにくいソーシャルワーカー
B. 今,ソーシャルワーカーがなすべきこと
5章 理学療法士
A. 一般的な理学療法士の役割
B. 理学療法士に対するがんに関する教育システム
C. がんサバイバーに対する理学療法のあり方
6章 作業療法士
A. 作業療法士の専門性(作業療法士は何を支援できるのか)
B. 作業療法士が関わるべき時期と場所
C. 病期別にみた作業療法士の役割
D. 今後のリハビリテーション(作業療法士)に期待されること
4編 患者,家族とともに発展するサバイバーシップ
1章 患者として
患者として(その1)
A. サバイバーシップとの出会い
B. 患者・家族にとってのサバイバーシップ
C. 病院内,学会,社会におけるサバイバーシップ
D. サバイバーシップの未来
患者として(その2)
A. 「がんサバイバー」となって四半世紀
B. 男性ホルモンがゼロに……
C. 「がんサバイバー」に救われる
D. パートナーにも支えられ
E. 「がんになってよかった」
2章 患者会として
A. 自団体での経験から
B. 各地の患者団体と医療機関の連携
C. 社会的な痛みの軽減に向けて
3章 患者,家族をサポートするNPOとして
A. 治癒率が向上したからこその新たな課題
B. 長期にわたるサバイバーシップ
C. 小児がんにおけるサバイバーシップの主体者
D. 求められる社会制度の整備
E. サバイバー自身がすること
F. 親も含めた小児がん経験者の自立支援システム
G. 小児がんのサバイバーシップを推進していくために
索引
書評
開く
すぐに実践に活用できるがんサバイバーへの理解が深まる1冊
書評者: 小松 浩子 (慶大教授・がん看護学)
「がんサバイバーシップ」という言葉を日本語として理解するのは難しい。「がんサバイバーシップ」の考え方が生まれたのは,1990年代後半の米国である。
私は,ちょうどその頃に,米国のDana Farber Cancer Instituteの関連機関でがんサバイバー(がん体験者)の方にインタビューする機会を得,「がんサバイバーシップ」について,彼の次のような言葉からようやくその意味を理解することができた。「がんになったことは自分にとって大きな衝撃であったが,がんになってからの全ての体験(苦痛や苦悩も含め)が自分にとって意味のある生き方や充実した日々の生活につながることを,医療者のみならず,周りの人々との関わりの中で感じられるようになった。そう思えるようになるには,自分のがんをよくわかること,医療者に遠慮せずに治療やケアについて相談し,社会に自分のがんをわかってもらうことが必要であった」。がんサバイバーシップは,がんの診断を受けてから,がんとともに生き続けていく過程が,その人にとって意味のある生き方や日常の充実した生活につながることをめざすものといえる。
本書は,「がんサバイバーシップ」の考え方を実際に実践や研究として実行している医療従事者,専門家によって書かれたものである。あるべき論ではなく,著者自身の卓越した実践力,それを支える研究文献や理論に基づく具体的実践が示されているのですぐに実践に活用できると思える。
最初の編の米国および日本における「がんサバイバーシップの歴史と発展」は必見である。がんサバイバーシップを理解するには,その概念の発展した背景を知ることが近道である。また,ケアの展開に必要なサバイバーの医学的リスク層,ケアモデルなどがわかりやすく解説されており,曖昧な概念であるがんサバイバーシップを理論的に理解する上で,大いに役立つ。
2編の「がんサバイバーシップの実践」では,がんサバイバーシップの4つの側面;身体的,精神的,社会的,スピリチュアル的側面から,がんサバイバーが直面する課題とそれに対する対応・対策がきめ細やかにわかりやすく解説されている。すぐにでも活用したい。
3編の「各職種に求められるがんサバイバーへの関わり」では,がんサバイバーが体験する多様な状況を想定して,その状況で必要とされる医療従事者による専門的な実践が解説されている。実践の醍醐味がわかる。
最後に,「患者,家族とともに発展するサバイバーシップ」が記されている。この編があることで,はじめて本書は完結する。がんサバイバーの方々の内なる声を聴くことで,「がんサバイバーシップ」の本当の意味がわかる。そして,未来への道も指し示されている。
「がんサバイバーシップ」に対する医療やケアは,わが国では,まだ端緒に就いたばかりである。
本書は,わが国のがんサバイバーシップの発展に大きな原動力となるだろう。
がんサバイバーシップをわかりやすく体系化した書
書評者: 堀田 知光 (国立がん研究センター理事長/総長)
わが国でも「がんサバイバーシップ」という概念がようやく普及し始めている。がんサバイバーシップとは「がん経験者がその家族や仲間とともに充実した社会生活を送ることを重視した考え方」を意味している。かつて,がんは不治の病として長期の入院などにより患者は社会から切り離されてきた。しかし,今では早期発見や治療法の進歩などにより生存期間が延長し,多くのがんは長くつきあう慢性疾患として,がんと共に暮らすことが普通の時代になりつつある。
がん体験者は患者であると同時に生活者であり,社会人でもある。2012年に閣議決定された第2期がん対策推進基本計画では,「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」が全体目標の一つに加えられた。今日,がんは日本人の死亡原因の第1位で年間に約36万人ががんで死亡しているが,一方で,直近のデータでは2014年に約81万人が新たにがんに罹患すると推計されている。したがって年間に約40万人以上のがん経験者が増える計算になる。就労を含めたサバイバーシップの充実は大きな政策課題といえる。
本書はがんサバイバーシップ先進国である米国で乳腺外科医として多くの経験を積んでこられた山内英子医師を中心に,多職種の第一線の医療従事者,がん経験者および患者会,サポート組織など「患者の人生を共に考えるがん医療をめざす」関係者が自らの実践を通して書き上げたがんサバイバーシップのための手引き書であり,さまざまな課題に対する処方箋が盛り込まれている。章立てとして,初めに米国とわが国におけるがんサバイバーシップの歴史と発展について紹介し,2編「がんサバイバーシップの実践」では治療の後遺症や二次性発がん,就労や経済的な問題,精神的な問題などについて課題と対応策がわかりやすく書かれている。各職種に求められる関わりの章では医師,看護師,薬剤師,ソーシャル・ワーカー,理学療法士,作業療法士などそれぞれの職種に求められる役割について実践的に書かれている。また,本書の特徴として,4編「患者,家族とともに発展するサバイバーシップ」で患者自身の体験や患者会としての活動などが紹介されている。
「がんサバイバーシップ」への取り組みはわが国でようやく広がりを見せている。しかし,がんサバイバーシップをどう捉え,どのように取り組むべきかについて体系化された書籍はまだない。その意味で本書はその先導役を担う役割を持つと期待される。がんサバイバーシップに少しでも関心を持たれた方に,ぜひお薦めしたい一冊である。
書評者: 小松 浩子 (慶大教授・がん看護学)
「がんサバイバーシップ」という言葉を日本語として理解するのは難しい。「がんサバイバーシップ」の考え方が生まれたのは,1990年代後半の米国である。
私は,ちょうどその頃に,米国のDana Farber Cancer Instituteの関連機関でがんサバイバー(がん体験者)の方にインタビューする機会を得,「がんサバイバーシップ」について,彼の次のような言葉からようやくその意味を理解することができた。「がんになったことは自分にとって大きな衝撃であったが,がんになってからの全ての体験(苦痛や苦悩も含め)が自分にとって意味のある生き方や充実した日々の生活につながることを,医療者のみならず,周りの人々との関わりの中で感じられるようになった。そう思えるようになるには,自分のがんをよくわかること,医療者に遠慮せずに治療やケアについて相談し,社会に自分のがんをわかってもらうことが必要であった」。がんサバイバーシップは,がんの診断を受けてから,がんとともに生き続けていく過程が,その人にとって意味のある生き方や日常の充実した生活につながることをめざすものといえる。
本書は,「がんサバイバーシップ」の考え方を実際に実践や研究として実行している医療従事者,専門家によって書かれたものである。あるべき論ではなく,著者自身の卓越した実践力,それを支える研究文献や理論に基づく具体的実践が示されているのですぐに実践に活用できると思える。
最初の編の米国および日本における「がんサバイバーシップの歴史と発展」は必見である。がんサバイバーシップを理解するには,その概念の発展した背景を知ることが近道である。また,ケアの展開に必要なサバイバーの医学的リスク層,ケアモデルなどがわかりやすく解説されており,曖昧な概念であるがんサバイバーシップを理論的に理解する上で,大いに役立つ。
2編の「がんサバイバーシップの実践」では,がんサバイバーシップの4つの側面;身体的,精神的,社会的,スピリチュアル的側面から,がんサバイバーが直面する課題とそれに対する対応・対策がきめ細やかにわかりやすく解説されている。すぐにでも活用したい。
3編の「各職種に求められるがんサバイバーへの関わり」では,がんサバイバーが体験する多様な状況を想定して,その状況で必要とされる医療従事者による専門的な実践が解説されている。実践の醍醐味がわかる。
最後に,「患者,家族とともに発展するサバイバーシップ」が記されている。この編があることで,はじめて本書は完結する。がんサバイバーの方々の内なる声を聴くことで,「がんサバイバーシップ」の本当の意味がわかる。そして,未来への道も指し示されている。
「がんサバイバーシップ」に対する医療やケアは,わが国では,まだ端緒に就いたばかりである。
本書は,わが国のがんサバイバーシップの発展に大きな原動力となるだろう。
がんサバイバーシップをわかりやすく体系化した書
書評者: 堀田 知光 (国立がん研究センター理事長/総長)
わが国でも「がんサバイバーシップ」という概念がようやく普及し始めている。がんサバイバーシップとは「がん経験者がその家族や仲間とともに充実した社会生活を送ることを重視した考え方」を意味している。かつて,がんは不治の病として長期の入院などにより患者は社会から切り離されてきた。しかし,今では早期発見や治療法の進歩などにより生存期間が延長し,多くのがんは長くつきあう慢性疾患として,がんと共に暮らすことが普通の時代になりつつある。
がん体験者は患者であると同時に生活者であり,社会人でもある。2012年に閣議決定された第2期がん対策推進基本計画では,「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」が全体目標の一つに加えられた。今日,がんは日本人の死亡原因の第1位で年間に約36万人ががんで死亡しているが,一方で,直近のデータでは2014年に約81万人が新たにがんに罹患すると推計されている。したがって年間に約40万人以上のがん経験者が増える計算になる。就労を含めたサバイバーシップの充実は大きな政策課題といえる。
本書はがんサバイバーシップ先進国である米国で乳腺外科医として多くの経験を積んでこられた山内英子医師を中心に,多職種の第一線の医療従事者,がん経験者および患者会,サポート組織など「患者の人生を共に考えるがん医療をめざす」関係者が自らの実践を通して書き上げたがんサバイバーシップのための手引き書であり,さまざまな課題に対する処方箋が盛り込まれている。章立てとして,初めに米国とわが国におけるがんサバイバーシップの歴史と発展について紹介し,2編「がんサバイバーシップの実践」では治療の後遺症や二次性発がん,就労や経済的な問題,精神的な問題などについて課題と対応策がわかりやすく書かれている。各職種に求められる関わりの章では医師,看護師,薬剤師,ソーシャル・ワーカー,理学療法士,作業療法士などそれぞれの職種に求められる役割について実践的に書かれている。また,本書の特徴として,4編「患者,家族とともに発展するサバイバーシップ」で患者自身の体験や患者会としての活動などが紹介されている。
「がんサバイバーシップ」への取り組みはわが国でようやく広がりを見せている。しかし,がんサバイバーシップをどう捉え,どのように取り組むべきかについて体系化された書籍はまだない。その意味で本書はその先導役を担う役割を持つと期待される。がんサバイバーシップに少しでも関心を持たれた方に,ぜひお薦めしたい一冊である。