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クレイジー・イン・ジャパン[DVD付]
べてるの家のエスノグラフィ

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インドネシアで生まれ、オーストラリアで育ち、アメリカで映像人類学者となり、今はイェール大学で教える若き俊英が、べてるの家に辿り着いた——。7か月以上にも及ぶ住み込み。10年近くにわたって断続的に行われたフィールドワーク。彼女の目に映ったべてるの家は果たしてユートピアかディストピアか? べてるの「感動」と「変貌」を、かつてない文脈で発見した傑作エスノグラフィ。付録DVD「Bethel」は必見の名作!

*「ケアをひらく」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ シリーズ ケアをひらく
中村 かれん
監訳 石原 孝二 / 河野 哲也
発行 2014年09月判型:A5頁:296
ISBN 978-4-260-02058-9
定価 2,420円 (本体2,200円+税)

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●『シリーズ ケアをひらく』が第73回毎日出版文化賞(企画部門)受賞!
第73回毎日出版文化賞(主催:毎日新聞社)が2019年11月3日に発表となり、『シリーズ ケアをひらく』が「企画部門」に選出されました。同賞は1947年に創設され、毎年優れた著作物や出版活動を顕彰するもので、「文学・芸術部門」「人文・社会部門」「自然科学部門」「企画部門」の4部門ごとに選出されます。同賞の詳細情報はこちら(毎日新聞社ウェブサイトへ)

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監訳者あとがき

 本書はKaren Nakamura, A Disability of the Soul: An Ethnography of Schizophrenia and Mental Illness in Contemporary Japanの翻訳である。翻訳にあたっては、著者から提供された英文原稿をもとに訳出作業を進め、後にコーネル大学出版局から刊行された版(A Disability of the Soul: An Ethnography of Schizophrenia and Mental Illness in Contemporary Japan. Cornell University Press, 2013)を参照して訳文の修正・追加を行った。

 本訳書では日本の読者にとっては必ずしも必要のない箇所などを大幅に削除したほか、構成を大きく変えたところもある。また、明確に誤りと思われる箇所も修正を加えた。そのため、本訳書はコーネル大学版とは構成や内容、細部の記述などにおいて異なったものになっている。著者の中村かれんさんには、本翻訳の途中稿や最終稿に目を通して内容を確認していただき、必要な修正を加えていただいた。

 浦河べてるの家に関する本はこれまで多く出版されてきた。これら、べてるの家に関する本は大きく分けると、

(1)べてるの家が編集・出版した本(『べてるの家の「非」援助論』医学書院、二〇〇二年など)

(2)べてるの家の運営の中心を担ってきた向谷地生良さんによる本(『技法以前:べてるの家のつくりかた』医学書院、二〇〇九年など)

(3)べてるの家の外部の人によって書かれたノンフィクション(斉藤道雄『悩む力:べてるの家の人々』みすず書房、二〇〇二年など)

 の三種類に分けることができる。本書は長期のフィールドワークにもとづいた、研究者(映像人類学者/文化人類学者)による初めての本格的なエスノグラフィであるという点において、べてるの家関連の本の新たなジャンルを切り開いたものと位置付けることができるだろう。

 本書がまず英語で出版されたということは、いろいろな意味があると思う。著者はご両親が日本人であり、日本語も堪能だが、研究成果を英語で発表しているアメリカの研究者である。本書第1章には著者がべてるの家に興味をもった経緯が書かれているが、それを読むと、海外から見たときに、べてるの家という存在がどのように映るのかがよくわかる。

 精神障害をもつ人々が社会から隔離されがちな日本にあって、当事者が目立っていることが、べてるの家の特徴の一つである。そしてその活動の仕方は、単に目立つだけでなく、幻覚&妄想大会に代表されるように、従来の日本の精神保健の常識からはかけ離れたものであった。世界のなかでも特殊だったこれまでの日本の精神保健の状況一般と比較してみることによって、べてるの家の実践の特異性がより際立って浮かび上がってくる。

 本翻訳のメインタイトル「クレイジー・イン・ジャパン」には、そのような意味合いも込められている。このタイトルは、著者の中村かれんさんが医学書院の白石正明さんと話し合っているときに浮かび上がってきたものだ。べてるの家の向谷地生良さんの意見も聞いたうえで、最終的に本翻訳のタイトルとして採用することになった。アメリカのジャーナリスト、イーサン・ウォッターズは、『クレイジー・ライク・アメリカ:心の病はいかにして輸出されたか』(阿部宏美訳、紀伊國屋書店、二〇一三年)でアメリカの「精神疾患」概念が日本を含めた各国にどのように輸出されていったのかを描き出しているが、本書はべてるの家という特殊な場をフィールドとしながら、日本で「精神障害を抱えて生きることがどのようなことなのか」(六頁)を描き出すものとなっている。べてるの家の人たちは、「クレイジー」という言葉こそあまり使わないが、自分たちが「精神障害」をもち、「病気」であることを積極的に語ってきた。このタイトルは、べてるの家の人々の生きざまを表現するものになっているのではないかと思う。


 本翻訳の各訳者の担当は「訳者一覧」(二八七頁)の通りである。翻訳作業の進め方としては、各訳者がまず担当箇所を訳出し、訳者と監訳者のあいだでやりとりをしたあと、監訳者が訳文のチェックと修正、全体の構成の調整などを行った。

 著者のかれんさんには、インタビュー箇所の音源や書き起こした文章を提供していただいたほか、すでに述べたように、訳稿を確認していただき、必要な修正を加えていただいた。べてるの家の向谷地さんや本書に登場するメンバーの方々にも訳稿をご確認いただき、事実関係のチェックや最新の情報の提供などでご協力いただいた。医学書院の白石さんには、著者のかれんさんやべてるの家とのやりとり、訳文のチェックと修正、全体の構成に関する提案など、翻訳作業全般にわたってサポートしていただいた。本翻訳に参加していただいた訳者の方々と、翻訳作業をサポートしていただいたすべての方々に感謝申し上げたい。


 二〇一四年八月
 監訳者を代表して 石原孝二

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 謝辞


第1章 到着
  潔の物語 記憶とカタルシス

第2章 べてるの設立
  里香の物語 日本で大人になるということ

第3章 医者と病院
  耕平の物語 UFO事件と集団妄想

第4章 べてる的セラピー
  譲の物語 三七年間の入院生活

第5章 出発
  玄一の物語 ピアサポート、そして意味のある人生

終章 べてるを超えて


 付録1 日本の精神医療
 付録2 べてるのルーツ
 原注
 監訳者あとがき
 索引
 文献

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●新聞で紹介されました。
《傷ついた存在、あるいは、否定的な自己、というものを、そのままのすがたで肯定するという、非常に困難な課題に挑戦するために、べてるは、その理念にもあらわれるような、さまざまな「人間学」を発達させてきた。本書はまさに、べてるの人間に関する理論を学んだ人類学者によって書かれた、人間に関する理論である。》――岸政彦(龍谷大学社会学部)
(『図書新聞』第3191号 2015年1月17日 より)


「べてるの家」魅力生き生きと(『信濃毎日新聞』より)
書評者:信田 さよ子(原宿カウンセリングセンター所長)

 読んでから見るか、見てから読むか。付録のDVDを手にしたらちょっと迷ってみよう。イェール大学で教える若き映像人類学者が、北海道の浦河にある精神障害者コミュニティ「べてるの家」で7年にもわたる断続的フィールドワークを行い、それに基づき著されたが本書である。

 1984年の誕生以来、べてるに関してはすでに多くの関連書がある。「三度の飯よりミーティング」「苦労を取り戻す」「それで順調」といった意表を突く独自の標語を掲げ、年1回の幻覚妄想大会が売り物のべてる祭りには全国から溢れんばかりの人が訪れる。昆布詰め作業や貸しおむつ業はかなりの年商を生み出している。主役はもちろん精神障害当事者である。これらの革新性や精神科医療に与えたインパクトについては、他の関連書を参照されたい。

 さて、本書におけるべてるメンバーたちの言葉に家族はほとんど登場しないし、家族との桎梏や葛藤も語られることはない。精神障害者たちの主治医は控えめで表舞台には登場しない。医療と家族という二大ファクターが後景に退いたとき、べてるのメンバーたちは、この上なく魅力的で人間的な姿として浮かび上がるのである。

 原文は英語だが、訳者たちの文章も美しく、アメリカ文学を一冊読了したような読後感におそわれる。研究者という姿勢を超えて伝わる溢れんばかりの情緒のせいである。おそらくそれは著者の立ち位置と深くかかわっている。日本人の両親をもち4カ国で育ち、アメリカの大学で教える彼女のアイデンティティーの揺らぎと、べてるの家とが深いところで共振しているのだ。

 研究者であることに加え、著者がこの国に対して抱いている幾重にも折り重なった距離感と、マジョリティーの世界からはるかに遠く排除されてきたべてるのメンバーたちの抱く独特の距離感は、時にしっかりと触れ合うのだ。DVD最後の、雪の舞う聖夜の場面はこの上なく感動的である。

 読みながらいつのまにか読者も浦河のべてるの家を訪れているような気持ちになるだろう。DVDを見ると、とにかく生きていくんだ、と思わされる。専門書の枠を超えて広く一般の人たちにも読んでもらいたい一冊である。

(『信濃毎日新聞』 2014年9月28日 書評欄より許可を得て転載)

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