みるトレ 感染症

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身体所見、微生物学的検査所見、画像所見……これらの「みる所見」に現れる診断の手掛かりを見逃さないことが、適切で効率的な感染症診療には欠かせない。本書は、優れた感染症医、総合診療医として知られる3人のエキスパートが、すべての臨床医に必要とされる「みる力」のトレーニングのためにまとめた感染症臨床問題集の決定版である。一問一問を解くたびに、感染症診療の力がアップしていく。
シリーズ みるトレ
笠原 敬 / 忽那 賢志 / 佐田 竜一
発行 2015年04月判型:B5頁:200
ISBN 978-4-260-02133-3
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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はじめに

 2012年2月,全国から80名の参加者を集めて,奈良でIDATEN(日本感染症教育研究会)の
ウインターセミナー(通称SHIKATEN)が開催された.この中心となって活躍したのが,天理よろづ相談所病院の佐田竜一医師と市立奈良病院の忽那賢志医師である(いずれも当時の所属).今から考えれば,この2人と奈良でともに働いていたことは奇跡ともいえる幸運であった.そして,この出会いこそが本書が生まれた端緒である.

 本書には,感染症疾患に関連する数多くのclinical pictureが掲載されているが,その内容は,数ある「アトラス」や「臨床写真集」とは完全に一線を画している.一つひとつの解説には,単なる写真の説明だけでなく,どのような経過のなかでその所見が得られたのか,一連の診療の流れのなかで,その所見がどのように役立つのかというように,あくまでも「実地臨床家」の目線からのメッセージが込められている.そして,その根底にあるのは,得られた経験や教訓を「共有したい」という情熱である.

 「イントロダクション」と随所に散りばめられたコラムは,本書をよりいっそう類書の及ばないものに仕上げている.clinical pictureの診断における重要性やピットフォール,さらに学術的な意義について,これほどまでに包括的に詳述された書物は本書以外に存在しない.

 clinical pictureのよいところは,特別な準備などは不要で,その気になれば誰でもすぐに気軽に撮影できることである.本書によって,1人でも多くの読者がclinical pictureに興味をもち,その経験や教訓,そして興奮を他者と共有していただければ幸いである.

 2015年3月
 執筆者を代表して
 笠原 敬

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はじめに

イントロダクション-Take Clinical Pictures!
 身体をみる 視診の極意
 目でみるグラム染色 臨床医と細菌検査室をつなぐ「かすがい」
 臨床検査とのお付き合い

第1章 身体所見
 CASE 01 癒合する盛り上がる皮疹だけど…
 CASE 02 左目が赤いです…
 CASE 03 ダニに咬まれた痕のまわりが…?
 CASE 04 爪が緑色なんですけど…
 CASE 05 うちの娘たちの爪が!!
 CASE 06 骨折した後から両足が腫れてきた…
 CASE 07 両手が腫れて握りづらいです…
 CASE 08 ヤケドみたいに皮が剥がれてきました…
 CASE 09 えっ! なんでわかるの?
 CASE 10 こう診断するしかありません
 CASE 11 赤い目,そしてあふれ出す目やに
 CASE 12 昨日元気で,今日ショック…
 CASE 13 本当にしつこくてタチが悪い
 CASE 14 膝が腫れ,意識状態が悪い…
 CASE 15 Snap Diagnosisの落とし穴
 CASE 16 白い苔から赤いイチゴが!
 CASE 17 どんな薬でも出る時は出ます
 CASE 18 入院中に,全身にぶつぶつが…
 CASE 19 入院中に水ぶくれができた…
 CASE 20 ネコに咬まれて敗血症!
 CASE 21 ヨダレが止まりません
 CASE 22 発熱とともに全身の皮疹・痛みが出現した…
 CASE 23 ノドにイクラが…!?
 CASE 24 目が急に見えづらくなりました…
 CASE 25 命にかかわる陰部の腫脹…
 CASE 26 口が開かない!!
 CASE 27 脾臓摘出後+発熱+ショック=内科エマージェンシー!!
 CASE 28 意外に重症化することもあります

第2章 微生物学的検査
 CASE 29 焼肉食べたらカモメが出てきた!
 CASE 30 髄液からグラム陽性菌が…
 CASE 31 いわゆるネバネバ○○○です
 CASE 32 末梢血スメアに何の関係が?
 CASE 33 髄液のスメアで三日月状のものが見える!?
 CASE 34 感染症のエマージェンシー!
 CASE 35 喀痰グラム染色で見えた菌の正体は…?
 CASE 36 ただの蜂窩織炎かと思ったら,らせん菌が…?
 CASE 37 菌のまわりにまとわりつくものは…?
 CASE 38 実は急性期でも診断できるんです
 CASE 39 髄液グラム染色で見える妙な黒
 CASE 40 カルバペネムが効かない肺炎…?
 CASE 41 見えている菌は何種類?
 CASE 42 染めよ! さすれば与えられん!

第3章 画像
 CASE 43 急性発症の認知症です…
 CASE 44 腹腔鏡の視診でSnap Diagnosis
 CASE 45 ガス産生のみられる腎盂腎炎?
 CASE 46 70%は国内発症です
 CASE 47 これは腫瘍でしょう
 CASE 48 首が動かず,急に息苦しい…
 CASE 49 リウマチ患者の急な発熱と呼吸苦…
 CASE 50 腹腔内感染症で熱が長引く時はこの可能性も考えましょう

疾患(診断名)目次
索引

コラム
 1.臨床推論の統合モデル
 2.NEJMへの道(1) “Images in Clinical Medicine”
 3.NEJMへの道(2) なぜClinical Pictureを撮るのか
 4.NEJMへの道(3) どの医学誌に投稿すべきか(前編)
 5.NEJMへの道(4) どの医学誌に投稿すべきか(後編)
 6.NEJMへの道(5) NEJM投稿に必要な断固たる決意
 7.NEJMへの道(6) 4つのカテゴリーに分けて考える(その1)
 8.NEJMへの道(7) 4つのカテゴリーに分けて考える(その2)
 9.NEJMへの道(8) 4つのカテゴリーに分けて考える(その3)
 10.NEJMへの道(9) 4つのカテゴリーに分けて考える(その4)
 11.眼科領域の感染症
 12.NEJMへの道(10) 過去問をチェックしよう!
 13.NEJMへの道(11) いよいよ投稿準備!
 14.NEJMへの道(12) レターを書こう(前編)
 15.NEJMへの道(13) レターを書こう(後編)
 16.NEJMへの道(14) 投稿したら果報は寝て待て!
 17.NEJMへの道(15) リジェクトされたら頭を切り替えよう!(その1)
 18.NEJMへの道(16) リジェクトされたら頭を切り替えよう!(その2)
 19.NEJMへの道(17) まとめ
 20.Clinical Picture:身体所見の写真のキセキ
 21.「インフルエンザ診療に思う」
 22.写真を撮る前に(0) よりよい写真を撮るためには?
 23.口腔内の写真を上手に撮るには
 24.写真を撮る前に(1) 患者さんへの説明
 25.写真を撮る前に(2) 羞恥心への配慮,そして最大限に学ぶ
 26.「五感をフル活用せよ」
 27.末梢血スメアと感染症
 28.感染管理室長という仕事
 29.ムコイド型に寄せる慕情
 30.クリプトコッカス属のグラム染色像
 31.7月のレジオネラ肺炎
 32.血液培養グラム染色の醍醐味
 33.写真を撮る前に(3) きれいな写真を撮るための3要素
 34.Kinyoun染色
 35.キノロン系薬は結核の診断を遅らせるのか
 36.写真を撮る前に(4) スマートフォンにご注意!
 37.多様なアスペルギルス感染症
 38.HIV患者と非HIV患者のニューモシスチス肺炎
 39.血栓性静脈炎の診断は難しい
 40.写真を撮る前に(5) じゃ,どんなカメラがいい?
 41.写真を撮る前に(6) 明るいことはよいことだ!?
 42.写真を撮る前に(7) ぶれない!

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見えない敵と戦うために
書評者: 岸田 直樹 (感染症コンサルト/一般社団法人 Sapporo Medical Academy 代表理事)
 感染症は目に見えない微生物との戦いだ。肺炎,尿路感染症,そして風邪。よく出会う感染症も,肉眼ではその微生物は残念ながら見えない。たまに「自分の手にはMRSAは絶対に付いていないから」と感染対策の場面に限って見えるかのように言う先生がいらっしゃるが,肉眼的には黄色ブドウ球菌どころか感受性なんてさらに見えやしないので注意したい。

◆感染症診療の「見えない恐怖」

 つまり,感染症の診断・治療の際には何とも言えない漠然とした恐怖にさいなまれやすい。これは感染症診療の避けては通れない現実であり,きれいごとで片付けないほうがよいであろう。漠然とした恐怖と戦っているのがあなたの心の中だけならよい。しかし,実際にはその見えない不安から「あの微生物も心配,この微生物も心配,あの感染症も心配」などとなりやすく,いつの間にか抗菌薬はブロードスペクトラムのものになり,風邪に抗菌薬といった不必要な処方にまでなってしまっている。こういう私も,患者の背景情報を集めれば集めるほど,あれもこれも心配になってしまい,ついブロードスペクトラムの抗菌薬に手を出したくなることは多々ある。患者さんにそのような抗菌薬を投与するのではなく,自分にベンゾジアゼピン系抗不安薬を投与するべきであったと反省する毎日である。「可能性を言うときりがない,妥当性の判断を」という岩田健太郎先生の言葉がいつも頭をよぎり我に返るが,見えない恐怖が発生した場合にはそのコントロールが難しい。

◆感染症診療を「見える化する」ノウハウを伝授

 このような感染症診療の特徴から,日々の臨床をいかに“見える化”するか?ということは感染症では極めて重要なテーマであり,抗菌薬適正使用にもつながる。これを実現してくれたのが本書だ。見えない敵を直接“見える化”するグラム染色の効果を発揮した症例を頭にたたき込んでほしい。培養結果を待たずして決着がついているその迅速性の素晴らしさを驚きとともに実感するだろう。グラム染色だけではなく,菌が培地上に作る見た目のコロニーの形態から,ほぼ菌名がわかることが多い。つまり,微生物検査室は最終的な菌名同定・感受性結果が出る前に,たくさんの“見える化”された情報を持っているということを本書から知ってほしい。微生物検査室の技師さんと日々ディスカッションすることで,曇っていた空が一気に晴れわたる症例はたくさんある。微生物が作り出す特徴的な皮膚所見,咽頭所見なども,ちょっと知っているだけで漠然とした恐怖を払拭してくれる。

 本書から,見えない敵と戦っていると思いがちな感染症診療からの脱却を目指してほしい。何より,本書には詳細に“見える化”するスキルまで事細かく記載されている。皆さんも日々の感染症診療をどんどん“見える化”し,有名雑誌への投稿を目指してみてはどうだろうか? 実はそのノウハウまで,本書は“見える化”されているのである。
名医に仕上げる特効薬
書評者: 山中 克郎 (諏訪中央病院内科総合診療部)
 誰もが診断に苦慮しているときに,「視診」だけから特徴的な所見を見抜き,鮮やかに一発診断する医師がいる。私はこんな“かっこいい”医師に憧れる。

 本書はそんな「視診」力を鍛える本であり,「名医に仕上げる特効薬」と呼ぶべき本である。『みるトレ』は毎月「総合診療(旧:JIM)」に連載されているシリーズなので,これを楽しみに購読を続けている読者もきっと多いだろう。症例はクイズ形式となっていて,提示された症状や身体所見,CT画像から「キーワード」を見抜き診断推論を展開しなければならない。キーワードを嗅ぎ分ける医師ということは,問題点を見抜く力を持っている医師ということでもある。解答を見て「そうか,そうだったのか」と納得する。

 コラムが本書全体に品格を与え読み手の心をわしづかみにする。平たく言えば,ぐっとくる。忽那賢志先生がNew England Journal of Medicine(NEJM)に症例報告をした際の苦労やコツが語られていて,一流医学雑誌への投稿意欲をかき立てられる。佐田竜一先生のclinical picture撮影時の情報管理を含めたアドバイスも秀逸である。笠原敬先生の豊富な臨床経験と文献的な考察に基づいた深い考察も素晴らしい。頑張っているあの後輩にプレゼントしたい。そんな素敵な本である。
スマホ時代の勉強会 プロたちのケースをシェアしよう
書評者: 徳田 安春 (地域医療機能推進機構(JCHO)本部顧問)
 医師一人が経験できるケースは限られている。一方で,みたこともないようなケースの患者さんがどんどん受診してくる。いったいどうすればよいか? 院内のケースカンファレンスでは検査所見と画像所見のダブルチェック作業が中心であり,病歴や身体所見を吟味し解釈するトレーニングは困難である。一方で,院外の勉強会を覗きに行くと,詳細な病歴聴取をしたかどうかのツッコミが参加者から投げかけられ,症例提示者は鍵となる病歴を隠そうとして慌てる姿をさらけだす。このような会に出ているだけで臨床能力はほんとうにアップするの?という質問を聞くことがよくある。

◆グレートケースを「リアルに」類似経験できる

 そこに本書が登場した。百聞は一見にしかず。もちろん病歴は詳細であり,呼吸数も含めてバイタルもきちんと提示されたケース集。しかしハイライトは本書のタイトルにもあるように「みる」こと。身体所見やグラム染色所見が生の写真で出てくるので,読者は担当医でなくてもこのケースを「類似」経験できるのだ。勝手に想像して「疑似」体験するしかない文章ではなく,文字では伝えきれないリアル感が写真に現れる。

 著者の三人は貢献度大だ。グレートケースを惜しみなく提示。このリスペクトすべきお三方は,スマホやカメラを駆使して毎日のケースを記録しシェアしてくれているのであろう。写真の撮り方はためになる。スマホの登場はEBMのベッドサイド導入に役立ったが,まさか爆発的なケースシェアをもたらすことになるとは。

◆感染症の診断プロセスそのものを学べる

 「みる」診断はSnap Diagnosisともいわれ,直観的診断(システム1)に含まれるため,冒頭には,臨床推論総論も展開されており,臨床推論入門書としても使える。England Journal of Medicine(NEJM)などのimage in clinical medicine投稿の戦略論も含まれている。世界最強のimage in clinical medicine対策本といえる。

 本書を読むと,微生物検査室を愛する感染症医の気持ちを理解することができる。カラフルな寒天培地やコロニー,そして「一心不乱に検体を塗抹する研修医(佐田氏?)」の美しい姿。数学者が数式を愛するように,感染症医は培養された細菌を愛しているかのようにもみえる。これは素敵な臨床写真を本書で「みる」ことで興奮しすぎた評者の錯覚だろうか。ちなみに泡盛ファンである評者は,もちろんアワモリコウジカビ(泡盛麹黴,学名:Aspergillus awamori )は好きだ。でも,Aspergillus fumigatus は好きになれない。その理由は本書のCASE 47をぜひみてほしい。

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