みるトレ 神経疾患

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神経疾患を適切に診断に導くためには、初期診療の段階で患者の訴えや表情や動作に現れるサイン(神経学的所見)を見逃さないことが重要だ。本書は、神経疾患診療のエキスパートが、一般内科医の診断力アップのためにまとめた臨床トレーニング書である。専門家には当たり前だが、一般医には意外と知られていない診療のコツをわかりやすく解説する。神経疾患の診療力アップのために必須の1冊である。
シリーズ みるトレ
岩崎 靖
発行 2015年04月判型:B5頁:188
ISBN 978-4-260-02132-6
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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  • 序文
  • 目次
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はじめに

 本書では,神経内科を専門としない一般内科の先生や研修医の方を対象に,神経疾患が疑われる患者に対する適切な問診法,考えるべき病態,神経学的所見のとり方に焦点を絞り概説した.神経疾患は一般臨床医に敬遠される分野であるが,認知症,脳血管障害,頭痛,めまいなど日常診療においてありふれた疾患や訴えが多く,一般診療に携わるかぎり避けて通れないだけでなく,その対応の重要性は社会的関心の高まりとともに増すばかりである.

 近年は画像診断を含めた検査技術の進歩により,ベッドサイドでの診察だけで診断を下す機会は少なくなりつつある.しかしながら神経疾患は問診とベッドサイドの診察のみでほとんどが診断できるといっても過言ではない.「神経学的診察のスクリーニング法はない」とはよくいわれる言葉だが,「的確な問診をすれば,神経学的診察の前に神経疾患の8割は診断がつく」のが現実である.高額な検査機器がなくても,ハンマーさえあれば最低限の神経診療はできる.

 「神経疾患の診察,神経所見のとり方は難しく,時間もかかる」と他科の先生方は考えているが,われわれ専門医であっても全例で毎回詳細に神経所見をとるわけではない.神経学的診察の多くが経験によるパターン認識であり,患者を一目見た段階で「何かおかしいぞ!」と経験的に直感を働かせることが重要である.神経学的症候は容易に観察できることもあるが,短時間しか出現しない場合や,診察中に出現しないこと,さらには患者自身が自覚していないこともあるので,患者が診察室に入ってきた瞬間から最後に出て行くまで常に観察し続ける必要がある.神経内科医は,問診票を読み,患者が診察室に入ってきた際の姿勢と表情,歩き方,話し方を観察してだいたいの診断の見当をつけている.それを確認するために問診を行い,病歴を聴取しつつ,必要な神経学的診察を行い,画像診断などの必要な諸検査を行うのが迅速かつ正確な神経診療のために重要である.何も鑑別診断を考えずに問診,神経学的診察を行うと,ポイントがなく,散漫で意味がない診察になる.神経内科医は,腱反射などを含めて神経学的外来診察の多くを,問診をしながら患者が無意識の状態で行っている.

 神経疾患の診療のスキルアップのためには「自分で見て,自分で考えて,自分で記載する」ことが重要である.“serendipity”という「掘り出し物を見つける才能」を意味する単語があるが,神経診療はまさに“serendipity”である.多忙な臨床のなかで巡り会う多くの症例から重要な症例を見落とさないようにしていただきたい.

 日常診療で比較的頻度の高い神経症候や神経症状について,神経内科を専門としない先生方の実際の診察の参考となるようにポイントやコツを概説したつもりである.本書は神経学の教科書やテキストを目指したものではない.「これをやってみよう」というヒントを一つでも得ていただけたら幸いであり,「神経学的診察は難しい」と避けて通らずに,できるだけ多くの患者で神経所見を観察してコツをつかんでいただけたら幸甚このうえない.

 2015年3月
 岩崎 靖

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はじめに

第1章 問診表のウラを読む
 第1節 問診表のウラを読む
  問題1
  本論
  診察室 「予診係はベテランの仕事」

第2章 患者が診察室に入ってきた,その瞬間をとらえる
 第1節 姿勢からわかること
  問題1
  問題2
  本論
  診察室 「姿勢とは」
 
 第2節 表情からわかること
  問題1
  本論
  診察室 「Wilson病」
 
 第3節 歩行からわかること
  問題1
  問題2
  問題3
  問題4
  問題5
  本論
  診察室 「理想の診察室」

 第4節 話し方からわかること
  問題1
  問題2
  問題3
  本論
  診察室 「語想起の障害」

第3章 主訴別の患者の診かた
 第1節 しびれを訴える患者の診かた
  問題1
  問題2
  本論
  診察室 「しびれは年のせいです」
 
 第2節 めまいを訴える患者の診かた
  問題1
  本論
  診察室 「くずかごの中の地雷」
 
 第3節 ふるえを訴える患者の診かた
  問題1
  本論
  診察室 「ふるえと痙攣」
 
 第4節 頭痛を訴える患者の診かた
  問題1
  問題2
  本論
  診察室 「閃輝暗点」
  診察室 「線維筋痛症(fibromyalgia)」
 
 第5節 物忘れを訴える患者の診かた
  問題1
  問題2
  問題3
  本論
  診察室 「物忘れ外来」
  診察室 「認知症患者への対応」
 
 第6節 意識障害のある患者の診かた
  問題1
  問題2
  本論
  診察室 「『脳死』の判定」
  診察室 「閉じ込め症候群(locked-in syndrome)」
 
 第7節 筋力低下を訴える患者の診かた
  問題1
  問題2
  本論
  診察室 「廃用症候群」

索引

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神経疾患の視覚的ポイントを豊富な実写真とともにケースベースで提示
書評者: 徳田 安春 (地域医療機能推進機構(JCHO)本部顧問)
◆ケースベースで神経所見の視覚的ポイントを示す

 書籍シリーズ『みるトレ』の神経版。MRI時代に突入した近年において,やはり神経疾患ほど病歴と診察が重要な診療科は少ない。神経診察法の書籍が多く出ている中で,ケースベースで視覚的ポイントを豊富な実写真とともに提示したのが本書である。代表的な疾患のケースでは,典型的な病歴と診察所見とともに,キーとなる高画質の画像が提示されている。画像は,患者の写真に加え,画像所見のみならず,神経病理画像も含まれており,最終診断としての病理検査所見の重要性も理解できるようになっている。

 それぞれの重要問題ケースには,問題とその選択肢が並んでいるので,鑑別診断のトレーニングにもなる。学習者の立場に立った配慮がなされている。本書は「問診票のウラを読む」からスタート。患者と出会う前にすでに診断推論が始まっている。ここでは,パーキンソン病の小字症など,実際に問診票に記載された筆跡を提示し分析してくれており,ウラの読み方の具体例が提示されているのはユニークだ。読者が今日から即使える技となるであろう。本書の中には,「診察室」というコーナーがあり,著者がお考えになる「理想の診察室」などが紹介されているのもおもしろい。

◆鑑別診断を進める際のポイントがわかる

 姿勢や顔貌編での写真は特にお勧めである。パーキンソン病における斜め徴候(Pisa徴候)や半坐位徴候。筋萎縮性側索硬化症や筋ジストロフィーの「首下がり」。また,仮面様顔貌や膏顔(oily face),斧状顔貌のみならず,筋病性顔貌(myopathic face)やWilson顔貌などの貴重な写真を「みてトレーニング」することができる。歩行や話し方の異常では,具体的な観察法や問診での具体的な質問法と異常な返答例が記載されているので,日常診療で活用しやすい。各論では,症候別のスタイルとなっており,ベッドサイドでの利用価値も高くなっている。しびれやめまい,物忘れなど,コモンな症状へのアプローチが系統的に記述されているので,鑑別診断を進める上でたいへん参考になる。「鑑別のポイント」で臨床上最も重要なことがわかるようになっている。

◆クリニカル・パールと呼ぶべき数々のエピソード

 各章の最後のまとめでは,著者が実際に経験したケースのエピソード集から成り,これがまた興味深く,読み取れるパールも多い。「急に立ち上がった時や歩き始める時に右手足がこわばって動けなくなる」という問診票のみで,“X1”と診断し,その後カルバマゼピンで軽快したケース。「顔面の片側のみ髭がそりにくくなった」ということで“X2”症候群を診断した例。気管支炎後の脱力で当初は廃用症候群が疑われたが四肢の腱反射が消失し“X3”症候群と診断したケース。一方で,頻回受診で「物忘れ」を訴えるも客観的には異常がない人で後に“X4”症候群とわかったケース。さて,これらのケースの回答“X1~4”が知りたい方は今すぐこの本を注文したい衝動を感じただろう。その衝動に従うことを評者はお勧めする。

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