成果の上がる口腔ケア

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「やるべきこと、やらなくていいことを見極める」「ゴール設定によってケアは変わる」「深い歯周ポケットは歯科に相談」……看護師が全身状態をアセスメントし、歯科と連携したマネジメントを行うことで、口腔ケアの成果が上がる。最新のオーラルマネジメントの考え方に基づいた口腔ケアの知識と技術を、豊富な図版とカラー写真で徹底解説。
シリーズ 看護ワンテーマBOOK
編著 岸本 裕充
発行 2011年04月判型:B5変頁:128
ISBN 978-4-260-01322-2
定価 1,980円 (本体1,800円+税)

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はじめに

 「成果の上がる口腔ケア」をお届けします。「口腔ケアをがんばっているのに、肺炎予防効果などの成果を実感できない」という残念な声を耳にすることが少なくないことが、本書を書き始めるきっかけとなりました。
 受験勉強などもそうかもしれませんが、がんばれば必ず成果が上がるとは限りません。努力しても、どうしようもない状況もあります。でも、せっかくがんばるのですから、無駄を少なくし、効率よく取り組んで、成功を勝ち取りたいと思いませんか?
 世の中にはもっともらしいガセネタも少なくありません。有名な海外の専門誌に採用された口腔ケアに関する研究結果でさえ、じっくり読んでみれば怪しいものも含まれているのです。
 本書では、筆者らがこれまで提唱してきた口腔ケアを、それに対する称賛・ご批判を反映させて、まとめなおしてみました(※)。一見、皆さんの臨床に関連の少なそうな項目にも、ヒントが隠れている可能性があります。「>> 00ページ参照」などをきっかけに、他のページにジャンプしていただければ、知識が立体的になり、より適切な口腔ケアを実践できるようになると思います。

 2011年2月
 岸本裕充

※本書は『看護学雑誌』 2010年9月号 特集「全身疾患と口腔ケア」をベースに、編著者らが過去に雑誌等で発表した内容に大幅に加筆・修正を加え、構成したものです。

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第1章 やるべきこと、やらなくていいことを見極める
 なぜ口腔ケアが必要なのか
  目的は歯垢(プラーク)の除去/
  歯垢(プラーク)は物理的に擦り落とす/
  歯垢除去で口腔内環境が改善するしくみ/
  プラークコントロールで歯周病菌の増大を防ぐ
 口腔ケアにおける看護師の役割
  アセスメント力・判断力を磨こう/
  歯肉から出血する前に、アセスメントで早期発見/
  深い歯周ポケットは歯科へ相談
 見直してほしい過剰なケア、無駄なケア
  舌苔は無理に取らない/
  ゴール設定によってケアは変わる/
  歯磨剤・デンタルリンスはケースバイケース/
  お茶などの食品の使用にはエビデンスなし/
  人工呼吸(管理)中の唾液腺マッサージは不要/
  気管チューブのカフ圧は「適正圧」の確認のみでよい
 アセスメントの考え方
  アセスメントに「完璧」はない/アセスメント項目はシンプルに/
  アセスメントを行ううえでの注意点/アセスメントの実際-「初期評価」/
  アセスメントの実際-「継続評価」/歯・義歯のアセスメントについて/
  患者のケア能力を評価する「BDR指標」/
  がん患者の口腔アセスメントのポイント

第2章 口腔ケアの技術とトラブル対応
 口腔ケアに必要な物品
 体位を極める
 手順1 よく見えるようにする
 手順2 加湿する
 手順3 磨く
 手順4 粘膜ケア(絶食中)
 手順5 汚染物の回収
 手順6 保湿(蒸発予防)
 困ったときのトラブル対応
  1.口が開かない、口を開いてくれない
  2.出血しやすい
  3.乾燥が強い
  4.口内炎がある
  5.誤嚥がこわくて洗浄できない
  6.気管チューブが邪魔
  7.口臭が強い

第3章 全身状態と口腔ケア
 1.誤嚥性肺炎
 2.人工呼吸器関連肺炎(VAP)
 3.がん治療中
 4.糖尿病(生活習慣病)
 5.高齢者
 6.神経難病
 7.妊産婦
 8.小児

 おわりに

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書評 (雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者: 深山 治久 (東京医科歯科大学大学院 麻酔・生体管理学)
 《看護ワンテーマBOOK》の一環として岸本裕充氏編著による『成果の上がる口腔ケア』が医学書院から上梓された。このシリーズでは1つのテーマを掘り下げているが、決して大上段に振りかぶったものでなく、実践に用いられる知識・技術が解説されている。口腔ケアをテーマとした本書は、歯科を専門としない看護師をはじめとする医療者向けに、上記の目的を十分に達しているものである。

◆なぜか?がわかる実践的記述

 口腔ケアあるいはオーラルマネジメントの目的について、岸本氏は明確に「歯垢の除去」としているが、そのためには歯垢の実態を理解しなければならない。そこで、誰もがわかるような表現を使って歯垢の本態を明らかにしている。なぜ歯ブラシを使わなければならないのか、なぜ指で拭っても歯垢は取れないのかということがよくわかる。さらに、全身への影響、とくに肺炎や糖尿病との関係について、臨床に則した口腔ケアの必要性を挙げている。

 口腔ケアを熱心に行なうなかで、無理やり舌苔(実は正常な粘膜も含まれている)を擦り取ろうとしたり、歯磨剤を口の中いっぱいにして磨こうとしたり、民間で評判になったお茶を与えたり、唾液腺マッサージをしたりしても、効果が目に見えず、挙句は患者さんに拒否された経験はないだろうか?

 著者はこれらをやんわりと諭して、あまり無理をしないほうがよいと現実的な方法を明示している。それ以前に「アセスメントは完璧を目指す必要はない」と言い切り、むしろ継続することの重要性を強調している。また、どの段階で歯科医師や歯科衛生士の介入が必要かをはっきりと記しており、実践的である。

◆少し肩の力を抜いて「継続」しよう

 実践に即して「その処置がなぜ必要か」を基本に立ち返って解説できるのは、岸本氏をはじめとする著者全員が、実際に口腔ケアに携わっているからであろう。たとえば、アセスメントには「勘やセンス」が重要で、合計点で判断せずに大きな問題が1つでもあれば相談するべきなどは、豊富な経験から出てきた記述である。他家の報告を紹介してその妥当性を評価していることも、貴重な経験に裏づけられたものと言える。たとえば、がん治療中のクライオセラピーの適用についても冷静なコメントが付与されている。なお、本書では写真ばかりでなく本文や図表にもカラーを多用しているが、このことも理解を助けていると感じた。余裕を持たせたレイアウトは、読者に「心」の余裕をも持たせてくれている。

 これまで口腔ケアに及び腰だった看護師をはじめとする医療者に向け、本書はその重要性をわかりやすく解説しており、これから取り組もうとする際に強いモチベーションを与える。さらに、始めてはみたものの「教科書どおりにはいかない」「あの先生の話とはだいぶ違う……」と先行きに不安を覚える看護師に、「少し肩の力を抜いて続けましょうよ」というホッとさせられるエールを送ってくれる。

(『訪問看護と介護』2011年7月号掲載)
現場で口腔ケアを行う・教えるための必携書
書評者: 小山 珠美 (東名厚木病院看護師)
 本書は,効率的でわかりやすいケア方法を解説した口腔ケアの実践書である。日々臨床で実践している立場での率直な感想は,“なんといってもわかりやすい”の一言に尽きる。

 特徴として,(1)必要なケア内容がポイントごとに整理されている,(2)カラー写真やイラストが多く,よりビジュアルでわかりやすい,(3)日頃の疑問に,明確な答えが集積している,(4)関連した内容のページ箇所が明記され,立体的な理解に繋がる,などが挙げられる。また,平易な言葉で説明されており,イラストや写真が素晴らしくマッチしている。スタッフ,研修生,学生などの現任教育にもOJT(On The Job Training)で活用できる指導者の必携書として手元に置きたい一冊である。

 第1章の「やるべきこと,やらなくていいことを見極める」では,混沌とした口腔ケアの現状に対して,臨床現場での“必要と無駄”が明確で,監修者の臨床家としてのこだわりと経験知が伝わってくる。

 続く「アセスメントの実際―初期評価」では,必要な観点を,簡潔明瞭に11項目のスケールで紹介している。その中でも,『「各項目の合計点が×点以上なら歯科に相談」といったことはセンスがない。合計点による評価では改善と悪化が相殺され見えなくなってしまう。1項目でも大きな問題があれば歯科へ相談する必要がある。この判断には勘とセンスが重要』といった内容には殊更納得がいく。口腔内をアバウトに見ないで,口への感度を高めてほしい!という私たち看護師への警告であり応援だと受けとめた。

 ただ,いまだに多くの病院には口腔の専門家が不在のことが多い。そのため,歯科に相談ということだけではなく,評価された1~3段階のスケールごとに,どのようにケアを組み立てていくのかがジャンプできるよう,スケール表に明記されているとより活用しやすい。また,口腔ケアは,プラーク除去による誤嚥性肺炎予防が第一義的な目標ではあるが,人間の健康生活においておいしく,安全に食べていくための手段であり,包括的なケアの一部である。成果の上がる口腔ケアは,摂食・嚥下リハビリテーションにおいて,重要な位置付けとなっていることを強調していただきたいと思った。

 第2章の「口腔ケアの技術とトラブル対応」は,口腔ケアに必要な実践的スキルの宝庫といってよい。系統立った方法が順序よく整理されており,まさに“成果の上がる口腔ケア”としての一連の流れがビジュアル的に理解できる。その中でも「粘膜ケア」の項目で,経口摂取していない場合は自浄作用が低下するため「何より食べることが大切」と明記されているページが目に飛びこんできた。「そうだ!」と思わず拍手したくなった。

 「困ったときのトラブル対応」も臨床現場でよく遭遇する事象への対処法がわかりやすく説明されている。「ああ,こうすればいいんだ!」と目からうろこのページとなっていることに感銘を受けた。

 第3章の「全身状態と口腔ケア」は,疾患別の基礎的知識に基づいたケアのポイントが押さえられている。ケアの焦点と注意点が明確な上に,ほかのページにジャンプできる構成となっており,知識とケア技術のコラボレーションが見事である。

 昨今,臨床現場では口腔ケアの意義が周知されつつあるが,まだ効果的なケア方法の実践には至っていない。「口は生命の源」であり,呼吸,栄養,コミュニケーションの要である。本書が,多くの看護・介護だけでなく医科・歯科関係者にも広がり,摂食・嚥下リハビリテーションに大いに貢献できる貴重な一冊になることを期待したい。
口腔ケアの標準的手順と連携強化の手引書
書評者: 松村 真司 (松村医院院長)
 駆け出しのころ,指導医の青木誠先生(前国立病院機構東埼玉病院院長)に「松村君,糖尿病だろうが肺炎だろうがとにかく口の中を診ることは大事だよ」と口腔内の観察の重要性を常に教えられた。そのころの私はその言葉の本当の意味を理解していなかったように思う。時は流れ一家庭医になった今,特に在宅診療で多くの虚弱高齢者を診察するようになり,歯科治療および口腔ケアの効果を心から実感できるようになった。口腔ケアにより合併症が減り,栄養状態が改善する。何より,「口から食べる」ことによって患者や患者家族の表情は驚くほど豊かになっていく。地域で暮らす高齢者が劇的に増えている現在,適切な口腔ケアを行うことの重要性はかつてないくらい高まっている。

 一方,実際に行われている口腔ケアについては,その技量には大きな差異があるとのことである。もちろん人間の行うことなので,個人によって技量に違いがあるのは避けられないであろう。しかしその結果,口腔内の衛生環境に差異が出て,ひいては歯科疾患が進行し,そしてそれが全身状態へと影響を与えるのであれば,口腔ケアを行う医療者としては,その技術を一定の水準に保つ責任があるはずである。

 そんな中,兵庫医科大学,岸本裕充先生による口腔ケアの手順の解説書『成果の上がる口腔ケア』が上梓された。タイトルが示しているように,本書は,ルーチンワークとしての口腔ケアではなく,「成果が上がる」,すなわち「患者を良くする」ための口腔ケアをめざしている。その思想のもと,最新のオーラルマネジメントの考え方に基づいた口腔ケアの手順が,多くの図表とカラー写真によって公開されている。

 第一章では「やるべきこと」とともに「やらなくていいこと」,すなわち過剰なケア,無駄なケアについて記されている。限られた時間の中で「必要なことのみ行って」口腔ケアの効果を高めようという岸本先生の思想がここに現れている。第二章では,具体的な口腔ケアの手順が6つに整理され,さらには「口が開かない」「気管チューブが邪魔」などの,よく経験するトラブルへの対応方法が簡潔に記されている。第三章では,誤嚥性肺炎,がん治療中,妊産婦など,患者の背景別にケアを行う上で注意すべき点についてまとめられている。本書を通読することで,これまでの口腔ケアの知識はより整理され,そして本書の手順を会得することで,口腔ケアの成果をより実感できるようになるであろう。

 本書で岸本先生が提案されているように,まず標準的な口腔ケアの手順を確立し,次にその有効性を検証することでより効果的な手順が開発されていけば,さらにケアの成果が上がっていくことであろう。合わせて,より高度なケアが必要な時の歯科との連携が深まっていけば,患者の状態はさらに向上する。本書の記載を実践し,その技術を多くの地域の医療者が身に付けることで,成果=すなわち患者の健康状態がより向上していくことを期待したい。

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