認知行動療法トレーニングブック 短時間の外来診療編[DVD付]
トレーニングブックシリーズ第3弾、待望の短時間診療編
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本場の技法を「読んで」「見て」身に付けられる、好評シリーズ第3弾。今回は主に外来での活用を想定し、「いかに短時間で効率的に認知行動療法を行うか」に焦点をあてた。さらに薬物療法との併用を意識した記述になっており、精神科診療の現場ニーズに極めて近い内容。自殺念慮、アドヒアランス向上、生活習慣・身体疾患に対するアプローチについても詳述。シリーズ最長、圧巻の19シーン、186分間の日本語字幕DVD付き。
訳 | 大野 裕 |
---|---|
著 | Jesse H. Wright / Donna M. Sudak / Douglas Turkington / Michael E. Thase |
発行 | 2011年06月判型:A5頁:416 |
ISBN | 978-4-260-01233-1 |
定価 | 13,200円 (本体12,000円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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訳者の序
認知療法・認知行動療法を紹介する講演会で,経験の豊富な精神科医から,必ずといっていいほど尋ねられることがある.それは,診療場面での自分の対応と変わらない,というものである.
まったくその通りだと,私も考えている.認知療法・認知行動療法は,常識の精神療法と言われる.通常の診療でしていることと基本的には変わらない.それをコンパクトにまとめあげたところに,認知療法・認知行動療法の妙味がある.
一例を挙げてみよう.認知療法・認知行動療法の技法の一つに認知再構成がある.コラムを使って,状況,気分,自動思考,根拠と反証,適応的思考と書き込んでいく.一見すると特殊な技法のように思えるが,これは私たちが患者さんの話に耳を傾けるときの定型的な流れだ.
患者さんがつらかったという話を聞くと,臨床家は,何が起きたのかと状況を尋ねる.つらい場面を患者さんが話せば,その気持ちに共感し,それに答えて患者さんは自分の気持ちや考えを話す.その考えに耳を傾けながら,一緒に現実を見直して考えを整理しながら,問題を解決できるように手助けする.
これは日常の診療で私たちがしていることだ.臨床場面だけではない.毎日の生活のなかで友達や家族の相談に乗るときも,同じような流れになる.行動活性化を使ってやりがいのあることや楽しめることを増やしていくということもまた,日常臨床や普通の生活のなかで勧めていることだ.
このように考えていくと,認知療法・認知行動療法が決して特別なものではないことがわかるだろう.そのことは,逆に,認知療法・認知行動療法の技法が日常臨床で活用できるということでもある.
本書を読んでいただければわかるが,米国でも,認知療法・認知行動療法などの精神療法は1回45分や50分が当たり前という時代は終わってきている.より短時間で効果のある診療を行うために,認知療法・認知行動療法を外来臨床で活用する工夫が行われるようになっている.そのエッセンスが,本書にはぎっしりと詰まっている.
エビデンスに裏付けられた認知療法・認知行動療法が日常診療に使われるようになれば,こんなに素晴らしいことはないと,私はずっと考えてきていた.そうした短時間の認知行動療法のコツがこのようにしっかりした形でまとめられたことは,このうえなく嬉しいことだ.しかも,長時間のDVDが付属していて,その実際を映像で見ることができるのも嬉しい.
また,本書で紹介されている短時間でできる認知療法・認知行動療法は,医療場面だけでなく,地域や職域,学校など,幅広い領域における心の健康対策でも十分に活用可能なものである.
このように多くの読者の皆様に,きっと役に立つと思って本書を翻訳した.ぜひ多くの方々に本書を活用していただきたいと願っている.
2011年4月
大野 裕
認知療法・認知行動療法を紹介する講演会で,経験の豊富な精神科医から,必ずといっていいほど尋ねられることがある.それは,診療場面での自分の対応と変わらない,というものである.
まったくその通りだと,私も考えている.認知療法・認知行動療法は,常識の精神療法と言われる.通常の診療でしていることと基本的には変わらない.それをコンパクトにまとめあげたところに,認知療法・認知行動療法の妙味がある.
一例を挙げてみよう.認知療法・認知行動療法の技法の一つに認知再構成がある.コラムを使って,状況,気分,自動思考,根拠と反証,適応的思考と書き込んでいく.一見すると特殊な技法のように思えるが,これは私たちが患者さんの話に耳を傾けるときの定型的な流れだ.
患者さんがつらかったという話を聞くと,臨床家は,何が起きたのかと状況を尋ねる.つらい場面を患者さんが話せば,その気持ちに共感し,それに答えて患者さんは自分の気持ちや考えを話す.その考えに耳を傾けながら,一緒に現実を見直して考えを整理しながら,問題を解決できるように手助けする.
これは日常の診療で私たちがしていることだ.臨床場面だけではない.毎日の生活のなかで友達や家族の相談に乗るときも,同じような流れになる.行動活性化を使ってやりがいのあることや楽しめることを増やしていくということもまた,日常臨床や普通の生活のなかで勧めていることだ.
このように考えていくと,認知療法・認知行動療法が決して特別なものではないことがわかるだろう.そのことは,逆に,認知療法・認知行動療法の技法が日常臨床で活用できるということでもある.
本書を読んでいただければわかるが,米国でも,認知療法・認知行動療法などの精神療法は1回45分や50分が当たり前という時代は終わってきている.より短時間で効果のある診療を行うために,認知療法・認知行動療法を外来臨床で活用する工夫が行われるようになっている.そのエッセンスが,本書にはぎっしりと詰まっている.
エビデンスに裏付けられた認知療法・認知行動療法が日常診療に使われるようになれば,こんなに素晴らしいことはないと,私はずっと考えてきていた.そうした短時間の認知行動療法のコツがこのようにしっかりした形でまとめられたことは,このうえなく嬉しいことだ.しかも,長時間のDVDが付属していて,その実際を映像で見ることができるのも嬉しい.
また,本書で紹介されている短時間でできる認知療法・認知行動療法は,医療場面だけでなく,地域や職域,学校など,幅広い領域における心の健康対策でも十分に活用可能なものである.
このように多くの読者の皆様に,きっと役に立つと思って本書を翻訳した.ぜひ多くの方々に本書を活用していただきたいと願っている.
2011年4月
大野 裕
目次
開く
1 はじめに
ブリーフセッションに役立つCBTの特徴
CBTと薬物療法の併用
CBTをブリーフセッションで効果的に利用するために,臨床家が知っておくべきこと
まとめ
2 CBTブリーフセッションの適応と形式
CBTのブリーフセッション:実態調査
ブリーフセッションにおけるCBTと薬物療法の併用の適応
CBTと薬物療法を併用するブリーフセッションの形式
CBTと薬物療法を併用したブリーフセッションの例
まとめ
3 ブリーフセッションの効果を高める
治療関係を最大限に活用する
症状のチェック
構造化とペース調整:生産性の高いセッションの鍵
心理教育
テクノロジーを使って効率を上げる
セラピーの延長としてのホームワークとセルフヘルプ
薬物療法とCBTの相乗効果を利用する
まとめ
4 症例の定式化と治療計画
包括的な定式化
参考症例:グレースに関して包括的な定式化を行う
ブリーフセッションにおける定式化の効果的な使い方
練習症例:ミニ定式化を実施する
まとめ
5 アドヒアランスの向上
アドヒアランスの問題に対する一般的な治療戦略
アドヒアランス向上のためのCBTの12の手法
アドヒアランス向上のためのCBTの活用例
練習症例:アドヒアランス向上のためのCBTの活用
まとめ
6 うつ病に対する行動的手法
うつ病の行動モデル
気分と活動のモニタリング
行動活性化
段階的課題設定
行動リハーサル
練習症例:うつ病に対する行動的介入を計画する
まとめ
7 非適応的な思考を標的にする
ブリーフセッションで標的となる認知
うつ病と不安障害に見られる認知の病理
自動思考の同定に有効な手法
自動思考の同定に伴う問題
ブリーフセッションで自動思考を修正する
正確な思考を扱う
適応的な中核的信念を育む
配付資料のライブラリーを作る
まとめ
8 絶望感と自殺念慮を治療する
絶望感によるダメージ
希望を生み出すための手法
ブリーフセッションで自殺のリスクに対処する
自殺予防計画の作成
まとめ
9 不安に対する行動的手法
CBTの不安障害モデル
リラクセーショントレーニング
ポジティブイメージ法
呼吸の再訓練
暴露療法
まとめ
10 不眠症に対するCBTの手法
CBTにおける不眠症の概念化
不眠症に対するCBTの有効性の根拠
CBTによる不眠症への対処法
まとめ
11 妄想を修正する
妄想に対するCBTの概要
妄想に対するCBTの簡易な15の手法
妄想に対するCBTの参考症例:へレン
練習症例:妄想に対するCBTの介入計画を立てる
まとめ
12 幻覚に対処する
幻覚に対するCBTの概要
幻覚に対するCBTの簡易な20の手法
幻覚への対処スキル改善の参考症例:へレン
練習症例:幻覚に対するCBTの介入計画を立てる
まとめ
13 物質誤用と乱用に対するCBT
物質乱用の認知過程を理解する
変化に向けた態勢作り:モチベーションを高める
刺激をコントロールする:人,場所,物の特定
断酒/断薬計画を実行する
セルフモニタリングを実施し,ネガティブな認知に対処する
再発予防
まとめ
14 ライフスタイルを変える:健康的な習慣を確立する
習慣の変化を促すCBTの技法
参考症例:グレース
練習症例:習慣を変えるための計画を立てる
まとめ
15 身体疾患の患者におけるCBT
身体疾患に対してCBTを用いる理由
身体疾患におけるCBTの有効性の実証的エビデンス
身体疾患の患者に対して有効なCBTの介入
まとめ
16 再発予防
CBTの再発予防モデル
再発のリスクについて教える
残遺症状の認識と治療
再発の引き金や初期兆候を同定する
再発予防計画を立てる
重要な他者を再発予防計画に関与させる
まとめ
付録1 ワークシートとチェックリスト
付録2 患者と家族向けのCBTのリソース
付録3 臨床家向けのCBTの教育リソース
付録DVDについて
索引
ブリーフセッションに役立つCBTの特徴
CBTと薬物療法の併用
CBTをブリーフセッションで効果的に利用するために,臨床家が知っておくべきこと
まとめ
2 CBTブリーフセッションの適応と形式
CBTのブリーフセッション:実態調査
ブリーフセッションにおけるCBTと薬物療法の併用の適応
CBTと薬物療法を併用するブリーフセッションの形式
CBTと薬物療法を併用したブリーフセッションの例
まとめ
3 ブリーフセッションの効果を高める
治療関係を最大限に活用する
症状のチェック
構造化とペース調整:生産性の高いセッションの鍵
心理教育
テクノロジーを使って効率を上げる
セラピーの延長としてのホームワークとセルフヘルプ
薬物療法とCBTの相乗効果を利用する
まとめ
4 症例の定式化と治療計画
包括的な定式化
参考症例:グレースに関して包括的な定式化を行う
ブリーフセッションにおける定式化の効果的な使い方
練習症例:ミニ定式化を実施する
まとめ
5 アドヒアランスの向上
アドヒアランスの問題に対する一般的な治療戦略
アドヒアランス向上のためのCBTの12の手法
アドヒアランス向上のためのCBTの活用例
練習症例:アドヒアランス向上のためのCBTの活用
まとめ
6 うつ病に対する行動的手法
うつ病の行動モデル
気分と活動のモニタリング
行動活性化
段階的課題設定
行動リハーサル
練習症例:うつ病に対する行動的介入を計画する
まとめ
7 非適応的な思考を標的にする
ブリーフセッションで標的となる認知
うつ病と不安障害に見られる認知の病理
自動思考の同定に有効な手法
自動思考の同定に伴う問題
ブリーフセッションで自動思考を修正する
正確な思考を扱う
適応的な中核的信念を育む
配付資料のライブラリーを作る
まとめ
8 絶望感と自殺念慮を治療する
絶望感によるダメージ
希望を生み出すための手法
ブリーフセッションで自殺のリスクに対処する
自殺予防計画の作成
まとめ
9 不安に対する行動的手法
CBTの不安障害モデル
リラクセーショントレーニング
ポジティブイメージ法
呼吸の再訓練
暴露療法
まとめ
10 不眠症に対するCBTの手法
CBTにおける不眠症の概念化
不眠症に対するCBTの有効性の根拠
CBTによる不眠症への対処法
まとめ
11 妄想を修正する
妄想に対するCBTの概要
妄想に対するCBTの簡易な15の手法
妄想に対するCBTの参考症例:へレン
練習症例:妄想に対するCBTの介入計画を立てる
まとめ
12 幻覚に対処する
幻覚に対するCBTの概要
幻覚に対するCBTの簡易な20の手法
幻覚への対処スキル改善の参考症例:へレン
練習症例:幻覚に対するCBTの介入計画を立てる
まとめ
13 物質誤用と乱用に対するCBT
物質乱用の認知過程を理解する
変化に向けた態勢作り:モチベーションを高める
刺激をコントロールする:人,場所,物の特定
断酒/断薬計画を実行する
セルフモニタリングを実施し,ネガティブな認知に対処する
再発予防
まとめ
14 ライフスタイルを変える:健康的な習慣を確立する
習慣の変化を促すCBTの技法
参考症例:グレース
練習症例:習慣を変えるための計画を立てる
まとめ
15 身体疾患の患者におけるCBT
身体疾患に対してCBTを用いる理由
身体疾患におけるCBTの有効性の実証的エビデンス
身体疾患の患者に対して有効なCBTの介入
まとめ
16 再発予防
CBTの再発予防モデル
再発のリスクについて教える
残遺症状の認識と治療
再発の引き金や初期兆候を同定する
再発予防計画を立てる
重要な他者を再発予防計画に関与させる
まとめ
付録1 ワークシートとチェックリスト
付録2 患者と家族向けのCBTのリソース
付録3 臨床家向けのCBTの教育リソース
付録DVDについて
索引
書評
開く
一般臨床現場で行うブリーフセッション認知行動療法の神髄
書評者: 坪井 康次 (東邦大教授・心療内科)
今や認知行動療法(CBT)は,一般にもよく知られるようになり,その適応疾患はうつ病だけでなく各種の精神疾患にも適応が広げられ,さらに一般身体疾患の管理の問題にも応用され効果を上げている。また,認知行動療法は,薬物療法と併用されると,より良好な経過や再発予防効果が得られることもわかってきている。
一方で,認知行動療法に習熟した治療者が不足しており,誰でもがこの治療を受けられる状況にはない。このことはわが国ばかりでなく欧米においても同様で,英国などでも治療者の養成が計画されている。より多くの患者さんに本治療の効果を届ける方法についての検討が課題となっている。
本書は,認知行動療法トレーニングブックシリーズの3冊目であり,上述のような状況の中,比較的時間の余裕のない外来診療の中で,薬物療法を行いつつ認知行動療法的な手法をどのように活用するかについて詳細に述べられている。
著者らによれば,1回15-30分程度のブリーフセッションであっても,認知行動療法の手法をうまく用いることにより,良好な予後をもたらすことができ,アドヒアランスを促進し,主症状と併発ないしは併存する症状のコントロールを助け,再発の予防にも効果があるという。
確かに通常の診療場面を振り返ってみても,薬を患者さんに“はい”と言って手渡すだけでは,よい結果は得られない。患者の話を聞き,つらいところに共感し,現実を見直し整理して,よりよい問題解決を手助けするプロセスが必要であり,治療者は自然のうちにこのような対応を行っている。認知行動療法は,これらをよりコンパクトに定型化し,治療者にも患者さんにもより明確に伝えることがその特徴である。
本書の構成は,1,2章で,ブリーフセッションに役立つCBTの特徴,CBTと薬物療法の併用,CBTブリーフセッションの適応と形式,ブリーフセッションにおけるCBTと薬物療法の併用の適応などに触れ,3,4章では,ブリーフセッションの効果を高めるための治療関係の活用,心理教育,症例の定式化と治療計画など基本的なところを振り返っているので,初めて認知行動療法に触れる人でも理解できるよう工夫されている。
また本書は,一般身体科医にも大いに参考になる部分がある。例えば,薬物のアドヒアランスの向上,不眠症,ライフスタイルの改善,健康的な習慣の確立など,身体疾患の患者に対して有効な認知行動療法的介入なども取り上げられている。
実際に読んでみると,単に本格的,伝統的と呼ばれる認知行動療法の簡易版というばかりでなく,より短時間でコンパクトに要領よくまとまっており,まさに英語版のタイトル通り“High-Yield”実りの多いものに仕上がっていることがよくわかる。また,これまでの本シリーズのトレーニングブックと同じようにDVDが付いており,ビデオにより実際のセッションのニュアンス,介入のタイミングなどの詳細が手に取るようにわかる。
精神科医・心療内科医のみならず生活習慣病などの領域を扱う身体科の医師にも参考にしていただきたい良書である。
認知行動療法の適応範囲を一般臨床現場へと広める意欲に満ちた1冊
書評者: 尾崎 紀夫 (名大大学院教授/精神医学・親と子どもの心療学)
本書は,認知行動療法トレーニングブックシリーズ3冊目であり,1冊目は認知行動療法全般の入門編,2冊目は認知行動療法の適応となる主要な各精神疾患(統合失調症,双極性障害,難治性うつ病)の手法が概説されている。前2冊によって習得した認知行動療法(本書の中では「伝統的」と称されており,1コマ45-60分)をもとに,一般臨床現場,すなわち比較的短時間の診療時間内でも実施可能な認知行動療法(「簡易型」と称されており,1コマ15-30分)を提唱して,認知行動療法の適応範囲を広めようという意欲に満ちた1冊である。
前2冊を読んで,「伝統的認知行動療法」に習熟し,「お作法」をわきまえた上で「お作法を崩した簡易型認知行動療法」に進むのが本来であろう。さもなければ,「簡易」がともすれば「ファストフード」となる危険性もある。しかし,本書の前半1-4章で,「伝統的認知行動療法」と比較した「簡易型認知行動療法」の特徴や方法論が詳述されており,この部分を熟読すれば,「前2冊を省いてもよいのでは」という誘惑にかられる。しかし,著者・訳者の労を考えれば,そのような「手抜き」は厳に慎みたい。
著者たちの,認知行動療法の適応範囲を拡大しようという意欲は,5章以降の各論からも強く感じられる。例えば,「アドヒアランスの向上(5章)」,「絶望感と自殺念慮を治療する(8章)」,「再発予防(16章)」など,精神疾患の種類によらず,あるいは精神疾患の有無にかかわらず,臨床家がアプローチする必要のある項目立てになっている。
また,「アドヒアランスの向上」や,「ライフスタイルを変える:健康的な習慣を確立する(14章)」といった項目名からも推し量れるように,「簡易型」は,「伝統的認知行動療法」に比すると,認知的技法より,行動的技法の比重が高い。行動的技法が重視されている点は,認知の再構成に逡巡するところのある臨床家には,より取っつきやすいのではないであろうか。
さて,本書を読んだ,本学医局の精神療法家,木村宏之が以下の点を指摘していた。「『伝統的』から『簡易型』という流れは,かつて精神分析でも生じた。週4回以上の寝椅子を用いた精神分析で得られた臨床知見は,その形を『簡易型』に変えた精神分析的精神療法や力動的精神療法の中で生かされていった。『伝統的精神分析』は,その適応からしても多数の患者に提供されることはない。しかし,より広い適応を持つ『簡易型』の精神療法は,より多くの患者に対して提供され,少なからず治療効果を上げている。認知行動療法にも同様の流れが生じているように思う」。
精神療法は,おのおのの技法の差異に拘泥する場合がある点を,残念に思っている。「簡易型」の中に含まれる,すべての精神療法に共通の治療的視点を本書から感じ,精神療法そのもののお作法を学ぶことこそ,本書の効用ではないだろうか。
本書の出版を切っ掛けとして,今後,「簡易型認知行動療法」の臨床的な有用性が検証され,よりよいものとして,臨床現場に広まることを期待するものである。
書評者: 坪井 康次 (東邦大教授・心療内科)
今や認知行動療法(CBT)は,一般にもよく知られるようになり,その適応疾患はうつ病だけでなく各種の精神疾患にも適応が広げられ,さらに一般身体疾患の管理の問題にも応用され効果を上げている。また,認知行動療法は,薬物療法と併用されると,より良好な経過や再発予防効果が得られることもわかってきている。
一方で,認知行動療法に習熟した治療者が不足しており,誰でもがこの治療を受けられる状況にはない。このことはわが国ばかりでなく欧米においても同様で,英国などでも治療者の養成が計画されている。より多くの患者さんに本治療の効果を届ける方法についての検討が課題となっている。
本書は,認知行動療法トレーニングブックシリーズの3冊目であり,上述のような状況の中,比較的時間の余裕のない外来診療の中で,薬物療法を行いつつ認知行動療法的な手法をどのように活用するかについて詳細に述べられている。
著者らによれば,1回15-30分程度のブリーフセッションであっても,認知行動療法の手法をうまく用いることにより,良好な予後をもたらすことができ,アドヒアランスを促進し,主症状と併発ないしは併存する症状のコントロールを助け,再発の予防にも効果があるという。
確かに通常の診療場面を振り返ってみても,薬を患者さんに“はい”と言って手渡すだけでは,よい結果は得られない。患者の話を聞き,つらいところに共感し,現実を見直し整理して,よりよい問題解決を手助けするプロセスが必要であり,治療者は自然のうちにこのような対応を行っている。認知行動療法は,これらをよりコンパクトに定型化し,治療者にも患者さんにもより明確に伝えることがその特徴である。
本書の構成は,1,2章で,ブリーフセッションに役立つCBTの特徴,CBTと薬物療法の併用,CBTブリーフセッションの適応と形式,ブリーフセッションにおけるCBTと薬物療法の併用の適応などに触れ,3,4章では,ブリーフセッションの効果を高めるための治療関係の活用,心理教育,症例の定式化と治療計画など基本的なところを振り返っているので,初めて認知行動療法に触れる人でも理解できるよう工夫されている。
また本書は,一般身体科医にも大いに参考になる部分がある。例えば,薬物のアドヒアランスの向上,不眠症,ライフスタイルの改善,健康的な習慣の確立など,身体疾患の患者に対して有効な認知行動療法的介入なども取り上げられている。
実際に読んでみると,単に本格的,伝統的と呼ばれる認知行動療法の簡易版というばかりでなく,より短時間でコンパクトに要領よくまとまっており,まさに英語版のタイトル通り“High-Yield”実りの多いものに仕上がっていることがよくわかる。また,これまでの本シリーズのトレーニングブックと同じようにDVDが付いており,ビデオにより実際のセッションのニュアンス,介入のタイミングなどの詳細が手に取るようにわかる。
精神科医・心療内科医のみならず生活習慣病などの領域を扱う身体科の医師にも参考にしていただきたい良書である。
認知行動療法の適応範囲を一般臨床現場へと広める意欲に満ちた1冊
書評者: 尾崎 紀夫 (名大大学院教授/精神医学・親と子どもの心療学)
本書は,認知行動療法トレーニングブックシリーズ3冊目であり,1冊目は認知行動療法全般の入門編,2冊目は認知行動療法の適応となる主要な各精神疾患(統合失調症,双極性障害,難治性うつ病)の手法が概説されている。前2冊によって習得した認知行動療法(本書の中では「伝統的」と称されており,1コマ45-60分)をもとに,一般臨床現場,すなわち比較的短時間の診療時間内でも実施可能な認知行動療法(「簡易型」と称されており,1コマ15-30分)を提唱して,認知行動療法の適応範囲を広めようという意欲に満ちた1冊である。
前2冊を読んで,「伝統的認知行動療法」に習熟し,「お作法」をわきまえた上で「お作法を崩した簡易型認知行動療法」に進むのが本来であろう。さもなければ,「簡易」がともすれば「ファストフード」となる危険性もある。しかし,本書の前半1-4章で,「伝統的認知行動療法」と比較した「簡易型認知行動療法」の特徴や方法論が詳述されており,この部分を熟読すれば,「前2冊を省いてもよいのでは」という誘惑にかられる。しかし,著者・訳者の労を考えれば,そのような「手抜き」は厳に慎みたい。
著者たちの,認知行動療法の適応範囲を拡大しようという意欲は,5章以降の各論からも強く感じられる。例えば,「アドヒアランスの向上(5章)」,「絶望感と自殺念慮を治療する(8章)」,「再発予防(16章)」など,精神疾患の種類によらず,あるいは精神疾患の有無にかかわらず,臨床家がアプローチする必要のある項目立てになっている。
また,「アドヒアランスの向上」や,「ライフスタイルを変える:健康的な習慣を確立する(14章)」といった項目名からも推し量れるように,「簡易型」は,「伝統的認知行動療法」に比すると,認知的技法より,行動的技法の比重が高い。行動的技法が重視されている点は,認知の再構成に逡巡するところのある臨床家には,より取っつきやすいのではないであろうか。
さて,本書を読んだ,本学医局の精神療法家,木村宏之が以下の点を指摘していた。「『伝統的』から『簡易型』という流れは,かつて精神分析でも生じた。週4回以上の寝椅子を用いた精神分析で得られた臨床知見は,その形を『簡易型』に変えた精神分析的精神療法や力動的精神療法の中で生かされていった。『伝統的精神分析』は,その適応からしても多数の患者に提供されることはない。しかし,より広い適応を持つ『簡易型』の精神療法は,より多くの患者に対して提供され,少なからず治療効果を上げている。認知行動療法にも同様の流れが生じているように思う」。
精神療法は,おのおのの技法の差異に拘泥する場合がある点を,残念に思っている。「簡易型」の中に含まれる,すべての精神療法に共通の治療的視点を本書から感じ,精神療法そのもののお作法を学ぶことこそ,本書の効用ではないだろうか。
本書の出版を切っ掛けとして,今後,「簡易型認知行動療法」の臨床的な有用性が検証され,よりよいものとして,臨床現場に広まることを期待するものである。
更新情報
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