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DVD+BOOK Beck&Beckの認知行動療法ライブセッション

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Judith Beckによる正統派認知療法のセッション・解説1編と、その父にして認知療法の祖であるAaron T. Beckの歴史的セッション映像2編に日本語字幕を付け、2枚組みDVDビデオに収録(計198分)。さらに、3つのセッションの英語原文、日本語字幕をすべて掲載し、詳細な解説を加えた204頁の冊子付き。実際の患者に行われた正統派ライブセッションを見て、本場の実践力を身につけよう。
日本語版監修・解説 古川 壽亮
発行 2008年09月判型:四六変頁:204
ISBN 978-4-260-00650-7
定価 10,450円 (本体9,500円+税)

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はじめに

 本DVDは,認知療法の創始者Aaron T. Beck,およびその実娘にして認知療法のメッカBeck Instituteの所長であるJudith Beckによって,実際の患者を対象に行われた初回セッションを含む貴重な映像である.
 Judith Beckによるセッションは,約50分にわたり本当の患者に対して行われた認知行動療法の典型的なセッションのデモンストレーションであるが,加えてその前後にJudith Beck本人による詳しい解説が録画されている(Disc 1).Aaron T. Beckによって行われた2つの症例(1人は現実の患者で,もう1人は模擬患者であるらしいが,ほとんど区別がつかない)の初回セッションは,1970年代の非常に貴重な映像で,若き日のAaron T. Beckが30年の月日を経ても変わらぬ認知行動療法の本質を鮮やかにデモンストレートしてくれている(Disc 2).

 21世紀に入り,ようやく日本でも認知行動療法がメンタルヘルス関連の広い場面で熱い注目を集めるようになってきた.今や認知行動療法の入門書が翻訳物や書き下ろしを含めて多く出版されている.これらを利用すれば,たとえば認知再構成,段階的暴露,アサーション訓練,問題解決技法などの個別の認知行動技法を学ぶことができる.そのためであろうか,時に認知行動療法がこういう個別の技法に矮小化されることがある.個別の技法のデモンストレーションを見れば,技法だけではない認知行動療法の雰囲気をうかがうことができるが,それでもまだ技法に偏った着眼になりがちである.
 今回ここに収載した3編の映像は,日本で現在入手できる教科書やDVDとは異なり,認知療法の超大家2人による3回分のセッションの始めから終わりまでを録画したものである.そこでは,
①最も基本的な態度として「今,ここで」の問題の解決を志向すること(これを問題解決モードと呼ぶ).
②1回のセッションを,さらに治療全体をどのように組み立ててゆくか(これをセッションおよび治療の構造化という).
③面接の中でどのようにして患者を認知行動モデルに沿って理解してゆくか(これを認知行動モデルによる症例のフォーミュレーション,あるいは認知的概念化という).
④セッションの中で具体的にどのような患者に対応するか(ソクラテス的問答,あるいは発見的質問と呼ばれる).
という,認知行動療法の基本中の基本の要諦が,余すところなく,デモンストレートされている.
 さらにDVDの中では①~④の基本を踏まえて,自動思考の同定,自動思考への反論,行動活性化,イメージ書き換え,行動実験,ロールプレイ,宿題設定などなどの具体的な認知行動療法の技法がちりばめられている.治療の自然な流れの中で1つひとつの技法をどのように施行するか,患者が技法になじむにはどのような細かい工夫を凝らせばよいか,これらのDVDは認知行動療法家にとっては明日の臨床のヒントが満載の宝箱といえるであろう.

 お恥ずかしい話だが私もこれらのセッション映像を見て初めて,認知行動療法の教科書に書いてあることの意味がわかるようになった.これらのセッション映像でデモンストレートされている基本は,振り返ってみれば,確かに多くの教科書に書かれているのである.しかし,本物を知らずに本だけを読んでもそれを読みとることができないでいた.これらの基本中の基本を知らずに認知療法を行うことは本末転倒であるはずであるのに,この基本を見聞する機会が今までなかったのである.
 考えてみれば,外科医が手術を学ぶのに,教師が授業法を学ぶのに,それぞれの先輩が実際に当の技術を施行している様子を見学せずに習得することなど,ありうるであろうか.しかし,振り返ってみれば,精神療法を学ぶのに,先達が行う精神療法セッションの全体を見学する機会は精神医学あるいは臨床心理学の教育の現場で今日,どれくらい保証されているであろうか.
 Aaron T. BeckとJudith Beckという大家が本物の患者に対して行ったセッションは,いやがおうにもDVDの臨場感を高め,見る者に感銘を与えてくれる.本物のみが与えうるエッセンスを体感できる.認知行動療法の習得・実践を目指す臨床家にとって,このDVDは自分の臨床を磨くために不可欠の教材のひとつであると言ってよいと思う.解説文では,DVDに沿って上記の認知行動療法の基本がどのようにデモンストレートされているかを注釈しているので,あわせて読んでいただくとさらに学習効果が上がることを期待している.

 2008年8月
 古川壽亮

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第1部 Beck & Beckに学ぶ認知行動療法の基本原理
3つの面接の概要
 Judith Beck 『うつ病』
 Aaron T. Beck 1 『絶望感―初回面接』
 Aaron T. Beck 2 『家族の問題―初回面接』

3つの面接でデモンストレートされている認知行動療法の基本原則
 (1) 問題解決モード
 (2) セッションおよび治療全体の構造化
 (3) 認知行動モデルによる症例のフォーミュレーション
 (4) 質問による発見(ソクラテス的問答,協力的実証主義)

その他の認知行動療法の大原則
 (5) 心理教育と学習の重視
 (6) 宿題の重視:おさらいと設定
 (7) セッション中のホットな認知を見逃さないこと

 (8) 症例の認知行動的理解に沿った認知的技法,行動的技法の応用
  a) 自動思考の同定
  b) 自動思考への反論(認知再構成)
  c) イメージ書き換え(イメージ再構成)
  d) 中核信念の修正
  e) 行動実験
  f) メリット・デメリット分析
  g) 活動モニタリング
  h) 行動活性化
  i) アサーション訓練
  j) 問題解決技法
  k) 段階的課題設定
  l) ロールプレイ
  m) 行動用語で記述
  n) 相対化(数量化,命名)
  o) カードやノートに書き留める

第2部 3つの面接のやりとりの英語原文,日本語訳,註釈
Judith Beck 『うつ病』
Aaron T. Beck 1 『絶望感―初回面接』
Aaron T. Beck 2 『家族の問題―初回面接』

付録
 1. 認知療法尺度 Cognitive Therapy Rating Scale (CTRS)
 2. 認知行動療法についてよくある質問
終わりに
索引

DVD 2枚組み
Disc 1 Judith Beck 『うつ病』
Disc 2 Aaron T. Beck 1 『絶望感―初回面接』
      Aaron T. Beck 2 『家族の問題―初回面接』

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かゆいところに手の届く認知療法のガイド
書評者: 原田 誠一 (原田メンタルクリニック東京認知行動療法研究所・院長)
 2枚のDVDと解説書からなる本書は,認知療法を学ぶ最高の教材といえましょう。何しろDVDの内容がすごい。認知療法の創始者アーロン・ベックと,彼の娘で次世代の旗手であるジュディス・ベックの初回面接が合わせて3セッション収録されており,認知療法の進行をじかに見ることができるのです。

 またジュディス・ベックの面接の前後には,彼女と2人の精神療法家との対談が入っていて,DVDに収録されている面接に関するジュディス・ベック自身の解説も聞けるよう工夫されています。

 3セッションに登場するクライアントとその相談内容には,共通点があります。3人はいずれも子どものいる20-30代の主婦で,家庭内に強い葛藤(夫,母親,子ども)を抱えており,周囲とのコミュニケーションがうまくいかず悩んでいます。そうした中,「自分」「他者」「コミュニケーション」などに関する認知が偏ってしまい,強い不安・抑うつ状態に陥り絶望感にさいなまれている。こうしたクライアントに対して,ベック親子がどのように面接を構造化し各種技法を用いて介入するか,そしてクライアントがどのように変化していくかをつぶさに観ることができます。認知療法の実施に必要な面接の構造化や介入技法の実際の用い方を元祖・認知療法家のお二人が目の前で見せてくれるのですから,こんなぜいたくな学びの機会はないでしょう。

 このほかにも,ベック親子の面接から学び楽しめる余得がいろいろあります。お二人は,風貌も面接に臨むスタイルもそれほど似ていないように見受けられます。お父さんは(年をとってからの)俳優ジョージ・チャキリスと囲碁の石田芳夫九段を足して二で割ったような風貌で,クライアントに傾聴しつつゆったり物静かに語りかけるスタイルです。一方のジュディス・ベックは,女優ジェーン・フォンダと田中真紀子を足して二で割ったような感じで,頭の回転が速く語り口もまた速めです。二人の面接を通じて認知療法の共通基盤が明らかになるのと同時に,その多様性も示唆されているように感じられます。また,お二人の対応がクライアントとややかみ合っていない場面や,応対の仕方に疑問が残るところも散見されるようで,そうした部分もまた読者をさまざまな形で刺激してくれます。

 さらに本書の価値を大きく高めているのは,日本語版監修・解説を担当しておられる古川壽亮先生作成の秀抜な「解説書」です。この解説書は3部構成で,DVDに出てくる諸場面を引用しながら「認知行動療法の基本原理」を具体的にわかりやすく解説している第1部,3つの面接の原文・日本語訳に加えて,「当該の面接の箇所で何が行われているか」を説明する「注釈」がついている第2部,「認知療法尺度」と古川先生の手による「認知行動療法についてよくある質問」が読める付録,からなっています。かゆいところに手の届く懇切丁寧なガイドであり,古川先生の認知療法に関する該博な知識と豊かな経験,この仕事に傾けられた強い情熱,融通無碍の域に達しておられる語学力の3者が合体して初めて生まれた力作です。認知療法に興味を持つ人すべてに贈られた,古川先生からの最高のプレゼントといえましょう。最高の素材を最高のシェフが調理したこの一品を楽しまない手はありませんよ,と読者の皆さまを誘惑して筆を擱かせていただきます。
感動に近い驚きを呼び起こすベック親子の面接を収録
書評者: 堀越 勝 (筑波大大学院・臨床心理学)
◆「百聞は一見に如かず」:Beck & Beckの認知行動療法ライブセッションを見て

 医学書院から「Beck & Beckの認知行動療法ライブセッション」の書評を依頼され,認知療法の創始者アーロン・ベックの30年前の面接とその直系,ジュディス・ベックの最近の面接を画像で見ることになった。本書は前述の2枚のDVDに古川先生の解説書が付属する構成になっており,解説書には療法の説明だけでなく,面接内での会話がすべて逐語録として収められている。これらのDVDを見ての反応には,私自身,感動に近い驚きを禁じ得なかった。日本でべック親子の面接をライブで見ることができることの重要性を改めて認識することができた。2枚のDVDを流して見ただけでも見逃せないと思う部分が多々あったが,その内の2つだけをリストすることで書評に代えたいと思う。

◆「見ると聞くとは大違い」:認知行動療法は感情を重視する

 かつてアーロン・べックは,フロイトが「無意識への王道は夢である」と言ったのに対し「認知への王道は感情である」と言った。一般に認知行動療法というと,面接中に色々な用紙を出しては自動思考などを探り当てる作業という印象を持たれがちである。しかし,見ると聞くとは大違いで,本家本元のベック親子は面接中,敏感に感情を追いかけ,実に共感的であることに気付く。また,その感情をうまく使って認知にたどりつく様子を目の当たりにすることができる。認知行動療法には,歪んだ認知を同定し,その認知の歪みを修正したり,問題解決法を実施したりする前にやるべきことがあるということである。ジュディス・ベックがこの療法は基本的な面接スキルをマスターした上で実施するように言っていることが納得できる。DVDを見ることによって,主義や理論としての「認知行動モデル」という骨格に,療法としての肉付けがどのようになされるのかを学ぶことができる点がとにかく素晴らしい。

◆「百聞は一見に如かず」:ソクラテス式問答による協力的実証主義の妙技

 認知行動療法の効果を左右するものの一つに,介入側の受け答えがある。ソクラテス式問答は認知行動療法を支えるコミュニケーション技法であるが,それはこの療法の土台となる協力的実証主義を確かなものにするために必要不可欠なスキルと言ってもよい。臨床現場で何を行うかだけでなく,誰がそれを行うのかが重要なのである。つまり,介入者自身がどのようなスキルを身につけているかによっては,認知行動療法は生きた療法ではなく,取ってつけたような事務作業やお説教になってしまう。質問をすることで相談者が自らの答えに到達するとする,ソクラテス式問答について,これまで日本ではあまり取り上げられることもなく,練習も行われてこなかった。これらのDVDを見ることによって,そのソクラテス式問答の何たるかを知るためのヒントをそこここに見つけることができる。

 紙面の都合で多くを語ることは出来ないが,あとはDVD上で直接二人のベックに出会っていただきたいと思う。「百聞は一見に如かず」とはよく言ったもので,似非認知行動療法家の口上を百篇聞くよりも本物を見ることがどれだけ重要であるかは,私のような聞きかじりの臨床家にもわかる単純明快な事実である。最後に,本筋からは外れてしまうが,字幕を見ながら,英語のヒヤリング練習に興じるのも悪くないことを付け加えておきたい。ジュディス・ベックの会話でまず耳を慣らし,難解なアーロン・ベックの会話を上級編にして挑戦する。見ることで認知行動療法に対するこれまでの認知を新たにし,そして聞くことでソクラテスの耳を養う。利用方法によっては,十分に元が取れる価格設定でもある。英語の授業は英語でという本物時代の到来を先取りするためにも,是非入手して見ていただきたい貴重なDVDである。
百聞は一見に如かず Beck&Beckに学ぶ認知行動療法
書評者: 井上 和臣 (鳴門教育大教授・認知療法学)
 この出版物は,認知療法の創始者Aaron T. Beck, M.D.(以下,Dr. Beck)とその娘Judith Beck, Ph.D.(以下,Judith)が登場するDVDと,DVDの面接全文(英語)とともに日本語版を監修した古川壽亮氏による解説が掲載されたBookから成る。

 DVDビデオ2枚組からDisc 2を取り出し,パソコンに挿入する。『Aaron T. Beck 1 絶望感―初回面接』を再生する。画面の乱れが落ち着くと,Dr. Beckと女性患者が現れる。

 一挙に20年前にタイムスリップする。書斎がフィラデルフィアの認知療法センターになる。古ぼけた日本製ビデオデッキを操作しながら,聞き取りにくい音声に耳を澄ませた記憶が蘇る。フィラデルフィアに行かなければ見られなかった映像が目の前に展開する。

 歴史を感じさせるDVDの女性はうつ病で,すっかり絶望してしまっている。面接の導入部,「これが私の最後の望み」と患者が語り泣いたとき,すかさずDr. Beckが問いを発する。“What was going through your mind?(あなたの頭の中にはどんなことが浮かんでいましたか?)”,質問することを重視する認知療法の最も基本的な問いである。

 Book第2部の日本語訳には,「⑦ホットな認知を見逃さず,⑧-a自動思考を同定」と注記されている。Book第1部から⑦の部分を探すと,古川氏の詳しい解説を読むことができる。DVDで認知療法を目の当たりにする初学者にとって,このBookは貴重である。監修者の期待通り,「そうか,これが教科書にあったホットな認知か!」と納得することだろう。

 今度は『Aaron T. Beck 2 家族の問題―初回面接』をクリックして,Dr. Beckの肉声を聞きながら日本語字幕を追ってみる。この女性もうつ病で,学校で物を盗む息子と帰りが遅い夫のことで落ち込んでいる。音声は比較的明瞭に聞こえるが,字幕は簡潔で読みやすい(もちろん字幕部分はBookで読むこともできる)。面接の最後にDr. Beckがフィードバックを求めたとき,「蝶ネクタイの男性は好きじゃないけど」と患者は応じる。映像から蝶ネクタイの色まではわからないが,いつもの赤に違いないと評者は思いながら,ビデオの中の患者と一緒に笑ってしまった。

 Judithの登場するDisc 1は短期精神療法シリーズの1巻である。カラーの映像が美しく,うつ病の女性患者とJudithが二重写しになる工夫などもあって楽しめる。面接の内容についてJudithが解説しているのも役に立つ。彼女の得意とするイメージ再構成は必見である。5歳の頃から教師になりたかったというJudithの述懐は初耳だが,認知療法という教育的な精神療法の中で夢は存分に生かされているように思える。

 DVDは198分間に及ぶ。百聞は一見にしかず。繰り返しBeck & Beckから学ぶことを勧めたい。

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