ティアニー先生の臨床入門

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「診断の達人」「鑑別診断の神様」と賞賛される米国を代表する内科医、ローレンス・ティアニー氏が、臨床医学の学び方と臨床修練の基本を綴った。医師はどう成長していくべきか、すぐれた臨床教育者として知られるティアニー氏ならではの臨床道が語られている。本書で初めて綴られたティアニー氏による「症例提示のスキル」も圧巻。医学生・研修医必読のシリーズ第2弾。 ●動画配信中! 本書および『ティアニー先生の診断入門』についての、ティアニー先生ご自身のコメントです。 >>>YouTube 「ティアニー先生のコメント」
ローレンス・ティアニー / 松村 正巳
発行 2010年11月判型:A5頁:164
ISBN 978-4-260-01177-8
定価 3,300円 (本体3,000円+税)

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 「ティアニー先生の診断入門」に続き,「ティアニー先生の臨床入門」を上梓できました.いくつかの偶然,幸運のおかげです.
 何らかの症状があって患者は医師のもとを訪れます.症状から鑑別診断を考えるということは,患者の問題解決(Clinical Problem-Solving)における自然なアプローチです.医師は正しい診断に努め,最善を選択し,これを患者に説明します.われわれは診療というプロセスを通して学んでいます.また,このプロセスの要約である症例呈示が,歯切れよく,明快であれば,病を患っている人へのよき診療の証となります.これら一連の実践は,医学生,初めて責任を負う研修医にとって容易ではありません.経験を重ねた医師にとっても,ときに困難を伴います.
 本書ではティアニー先生が,第1部「臨床入門」,第2部「症例呈示のスキル」を記述しました.第3部「診断へのプロセス─ケース・スタディ」には,病歴聴取のポイント,身体診察のTIPSも加え,病歴・身体所見から何を考えるかということを意識した構成にしました.
 本書が臨床医学を学ぶうえでの指針になり,未来を担う若い方々に医学を学ぶ楽しさ,臨床の奥深さをお伝えできるならば,これに勝る喜びはありません.
 今回も的確な助言をいただいた医学書院の滝沢英行氏,医学の教師ともいえる「経験」を与えてくれる患者さん,課題をもたらしてくれる医学生,私と日々診療にあたってくれる研修医たち,アドバイスをくれる同僚,さまざまな機会を与えていただいた山岸正和先生,生涯のメンターである佐藤隆先生,そして,家族に感謝します.

 2010年9月
 松村正巳

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 序

第1部 臨床入門
 臨床入門
 「経験は最もよい教師である」
 教科書を読む
 多くの患者を観る
 教育者を観察する
 EBM
 パール
 修養

第2部 症例呈示のスキル

第3部 診断へのプロセス-ケース・スタディ
 Case Study 1 痛み
 Case Study 2 違和感
 Case Study 3 典型的症状と所見
 Case Study 4 乏しい身体所見
 Case Study 5 診断を絞る所見
 Case Study 6 観察のち診断
 Case Study 7 正確な身体診察
 Case Study 8 不穏
 Case Study 9 コーラ色の尿
 Case Study 10 病歴,病歴,病歴
 Case Study 11 オッカムのかみそり
 Case Study 12 診断基準

あとがき
執筆協力
索引

column
 SIQORAAAの覚え方
 身体診察のTIPS:触覚振盪音,ホマン徴候
 身体診察のTIPS:リバー・スクラッチテスト(liver scratch test),
  浮腫の圧痕回復時間(pit-recovery time)
 肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-a較差)の求め方
 身体診察のTIPS:聴診器なしに診断できる三尖弁閉鎖不全と大動脈弁閉鎖不全
 研修医へのアドバイス:コミュニケーション
 身体診察のTIPS:腋窩リンパ節触診
 身体診察のTIPS:腸腰筋徴候を診る手技
 身体診察のTIPS:呼吸数
 身体診察のTIPS:眼瞼結膜の貧血
 研修医へのアドバイス:身体診察の上達法
 研修医へのアドバイス:経口糖尿病薬による低血糖

閑話
 その1 パール
 その2 城の崎にて
 その3 REMとNEJM
 その4 バーからの投稿
 その5 一発診断を超えるもの

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家庭医のクリニカル・パール 『ティアニー先生の臨床入門』を読んで (雑誌『JIM』より)
書評者: 藤沼 康樹 (医療福祉生協連 家庭医療学開発センター)
書評者:藤沼 康樹(医療福祉生協連 家庭医療学開発センター)
(本文は『JIM』のページをご覧ください 『JIM』 2011年12月号(21巻12号) Editorial
患者さんと真摯に向き合うことで導かれる診断
書評者: 山中 克郎 (藤田保健衛生大教授・総合救急内科)
 大好評だった前著『ティアニー先生の診断入門』に続いて本書が世に出た。「名匠に学ぶに勝るものなし!!」のキャッチフレーズに思わず読書欲がかき立てられる。

 第1部「臨床入門」では豊富な臨床経験をもとにティアニー先生が,医学の神髄をわかりやすく解説される。「より多くの時間を患者とともに過ごした医学生・研修医こそが優れた臨床医として成長していく」「同僚が主治医である患者をも観察できる機会にできるだけ参加し,病棟・外来・救命救急室で最大限時間を過ごすべき」…これらの姿勢は臨床能力を極めようとする者の不易の姿である。職人の年季奉公と同じく,良き指導医から導きを受け,額に汗し貪欲に患者さんから直接学ぶことの重要性が強調されている。

 さらに,指導医の心得に対しては,「最良の教育者のゴールは,生徒が教育者よりも,より良き医師に成長すること。教育者は常に,生徒の知識欲,より経験しようとする意欲を刺激しなければならない」と述べられている。心深くに楔を打ち込まれた,そんな強い印象を受けた。

 研修医は第2部「症例呈示のスキル」を読み実践すれば,指導医から必ずや賞賛の嵐を受けることだろう。

 第3部では12の症例を用いながら診断を導くためのポイントが解説されている。キーワードの適切な抽出と重要キーワードからの鑑別診断の展開が見事である。ここでは時に厳しく親愛の情を胸に,きらめくパールとともに医学の深淵が描かれている。医学教育におけるパールは「ある疾患の1つの側面を短く,明快に表現し,さらにユーモアをも加味されたもの」である。「50歳以上の患者で多発性硬化症を診断したら,真の診断はほかにある(If you diagnose multiple sclerosis over age 50, diagnose something else.)」臨床経験が増すほど,パールが語りかける真理がわかってくる。

 ティアニー先生,松村先生の共著によるこの書を読み終えて,私は利休の言葉「茶はさびて心はあつくもてなせよ」を思い出した。すべての過飾をそぎ落とし,シンプルな中に真理を見つけようとした日本の「わび」「さび」の精神と診断学は通じるものがある。診断では目くらましとなる雑多の情報の中から重要なキーワードだけを抽出しなければならない。パールには「美意識」が見事に集約され,厳しさと深さ,さらにはユーモアが同居し,われわれに医学の崇高さと学ぶ楽しさを語りかける。

 私がカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)で初めてティアニー先生にお会いし教えを乞うたのは10年前である。「各科の専門医と堂々わたりあうほど医学知識が豊富で,病歴と基本的身体所見だけからこれ程正確に診断を導く医師がアメリカにはいるのか!」と初対面から圧倒された。

 この本を読み,優れた内科医の芸術的思考プロセスを多くの医学生や研修医の皆さんに肌で感じて欲しい。高価な画像に頼るのではなく,患者さんとの「一期一会」を大切にし,診断への熱い情熱と研ぎ澄ました精神を持てば,シンプルな情報にも診断を導くヒントがたくさん隠されている。この本はこのようなことをわれわれに語りかける名著である。これは決して天才のひらめきではなく,たくさんの患者さんと真摯に向かい合った医師だけが体得できる境地なのである。
いかにして名医が形成されるか
書評者: 今井 裕一 (愛知医大教授・内科学)
 『ティアニー先生の臨床入門』が,前作の『ティアニー先生の診断入門』の続編として,ティアニー先生と松村正巳先生の共著で出版された。前作と同様に,名医の診断へのアプローチがわかりやすく解説されている。実は,英語のタイトルは,「Principles of Dr. Tierney's medical practice」であるので,「ティアニー先生の臨床現場での原則」とでもいうべき内容である。

 医師は,病態が理解できないいわゆる「むずかしい患者」「わけのわからない患者」を目の前にしたときにどのように問題を解決するのであろうか?その解決方法にのっとって,経験が蓄積されれば,比較的短期間に名医あるいは良医になれるはずである。

 残念ながらハリソンのテキストブックを精読しても,UpToDateをいくら調べても,PubMedでいくら検索しても答えは得られない。本書は,ずばり,その解答を示している。

 第1部と第2部を要約すると,4つのキーワードを抽出することができる。1つは,経験(experience)であり,もう1つは,その対極の根拠(evidence)である。さらには,病態生理に代表される科学的推論(logic)であり,最後の1つは,経験に裏打ちされたパール(clinical pearl)である。これらの4つをどのような臨床場面で,どのようにして使用するのかをケーススタディーで目の当たりにすることができる。

 私も33年間医療に従事してきて,また教える立場になって気が付くことは,臨床医学は,先輩から代々教わった世代を受け継がれた縦糸のような知識・経験と書物あるいはインターネットによる同世代の横糸の知識・経験が織りなす模様でできている。縦糸と横糸がうまく混ざり合って美しい織物を作っているのである。ティアニー先生も同じようなことを話している。

 さらに,重要なことは,若い医師は,経験のある師匠(メンター)を目標にすることは,好ましいことであるが,常に師匠を乗り越えてようやく一人前であり,その努力を惜しまないことが重要であるということが書いてある。

 名医がどのようにして形成されるのか,若い医師も経験のある医師もぜひ一読することをお勧めする。
丁寧に症例を紐解く思考過程を的確に文章化
書評者: 岸田 直樹 (手稲渓仁会病院総合内科・感染症科)
 幸せにもティアニー先生のケースカンファレンスへ幾度となく参加し,ケースプレゼンテーションもさせていただくことができた。そんな自分が回を重ねていくうちに,その真の魅力として感じはじめていることがある。「鑑別診断学の神様」として名高いティアニー先生のすごさを皆で語ると,“網羅的な鑑別疾患”や“稀な疾患の知識”となることがやはり多い。しかし,それは真の魅力ではないのであろうと…。ティアニー先生のすごさは,鑑別疾患を網羅的に挙げるマシーンとしてのすごさ,重箱の隅まで行き届いたサイボーグのような知識量,そんなものでは全くないと回を重ねるごとに感じている自分がある。「いくつもあるプロブレムリストから,鑑別疾患を挙げるに値するプロブレムのみを抽出し,優先順位をつけて鑑別疾患を挙げていく時間的空間的アプローチ」そのすごさである。

 自分では言葉にできなかった,瞬時に判断するその眼力が,なんと本書では単なるセンスとして語られるのではなく,的確に文章化されている。読者には,症例によってどの陽性所見を組み合わせたかや,鑑別疾患に優先順位を与えうるclinical pearlの使い方にぜひ注目してほしい。そして,結局はティアニー先生の鑑別は2つか3つとなっている(が,2つ目以降にも,もはや重みはそれほどない)ことに気がつく。診断がつかないときは,多くの微妙な陽性所見に振り回されているのであるが,ティアニー先生にはそのブレがない。最近では,なんとかティアニー先生を振り回してやろうとケースプレゼンテーションで仕掛けている自分がいるが,敗北する。

 本書は診断の神様として有名なあのティアニー先生の本であり,マニアックな最終診断となる難しい症例のオンパレードと思っている方も多いかもしれないが,そうではない。そのほとんどが誰もが知らなくてはいけない基本的な疾患であり,非常に丁寧に症例を紐解くそのさまは,初学者にもとても良いこと間違いない。にもかかわらず中級者以上が読むとなぜか味わい深く,網羅的な鑑別なようで,実はclinical pearlを自在に操り,基本的な疾患に対してもいつもと同じように数点の真のactive problemに瞬時に注目しているその思考過程がしっかり文章化されており,新鮮さとともに感動をも感じるであろう。自分自身,文章化はできていないが,clinical pearlは僕たち日本人の思考過程には非常に馴染みやすい。本書をきっかけにティアニー先生の魅力を垣間見ることができるだけでなく,その診断過程が僕たち日本人の思考過程にも違和感なく,何とも言えない心地良さすら与えてくれていることに気がつく。何より本書をきっかけに,ティアニー先生のケースカンファレンスに足を運んでいただきたい。そこにはまた本では表現しきれないティアニー先生独特の“間”としての診断アプローチの魅力を感じることができる。

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