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市中感染症診療の考え方と進め方 
IDATEN感染症セミナー

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日常診療で誰もが遭遇する市中感染症。医師は目の前の患者をどう診断し、治療していったらよいのか? 感染症診療の新時代を拓くIDATEN(日本感染症教育研究会)講師陣が、そのプロセスをわかりやすく解説する。相互レビューによって吟味された1つひとつの項目に、「市中感染症診療のスタンダード」が示されている。
編集 IDATENセミナーテキスト編集委員会
発行 2009年08月判型:B5頁:216
ISBN 978-4-260-00869-3
定価 3,850円 (本体3,500円+税)

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 日本感染症教育研究会(IDATEN)は日本の感染症診療と教育を普及・確立・発展させるために活動している.活動の柱の1つは,年に2回夏と冬に行われるIDATEN感染症セミナーである.全国から応募した医学生・医師を対象に,臨床感染症の考え方から各論まで幅広く講義が行われる.指導的立場にあるIDATENのメンバーが講師として参加し,毎回大変な賑わいを見せている.

 セミナーを重ねるなかで,課題として浮かび上がった点があった.第1には,希望者皆が参加できるわけではないということである.応募しても参加できない方々も毎回多く,われわれは満たされていないニーズに対して応える必要があった.参加できない方々に対してセミナーの内容を伝える手段が必要となったのである.第2には,IDATENの教育内容のさらなる普及のためにテキストを開発する必要性が出てきたことである.臨床感染症の妥当な知識・思考法の普及・啓発に力を入れていくなかで,IDATENとしての考え方を示す「活字化された内容」の必要性がきわめて高いことを認識した.セミナー内容も活字化されていればその伝達が容易になる.そればかりか「ディスカッションの対象」となり,ディスカッションをもとにさらに内容を発展させていくことが可能となるわけである.
 このようにして,「IDATENセミナーの内容をテキストにする」プロジェクトが立ち上がった.セミナーの講師の面々に執筆を依頼し,内容は相互でレビューを行い意見を交換しつつ内容を詰めていった.その結果できあがったのが本書である.皆様ぜひ手にとっていただき,本格的な臨床感染症の考え方・知識というものを感じていただければと思っている.

 さて,このセミナーテキストを語るうえで忘れてはいけないことがある.IDATENセミナーの前身は,本テキストの編集委員会メンバーである大野博司医師が研修医時代から続けてきた感染症セミナーである.彼が地道に回を重ね開催してきたこのセミナーが,やがては発展的にIDATENセミナーとなった.つまり大野医師がたった1人で始めたこの活動がなければ,そもそもIDATENセミナーが誕生することもなく,当然ながらこのテキストも生まれることはなかったわけである.忙しいなか,今も本セミナーの企画開催に獅子奮迅の働きをしている大野医師に敬意を表したい.

 2009年6月

 日本感染症教育研究会 第2期代表世話人
 大曲 貴夫

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 序(大曲貴夫)

第1章 市中感染症へのアプローチ
 感染症診療の基本原則(青木 眞)
 初期治療に反応しない場合の評価と治療のストラテジー(大野博司)

第2章 臨床でよく出遭う市中感染症のマネジメント
 1.肺炎のマネジメント(岩渕千太郎)
 2.細菌性髄膜炎のマネジメント(笹原鉄平)
 3.皮膚・軟部組織感染症のマネジメント(大曲貴夫)
 4.骨・関節・軟部組織感染症のマネジメント(岩田健太郎)
 5.感染性心内膜炎のマネジメント(大曲貴夫)
 6.胆道系感染症のマネジメント(矢野晴美)
 7.急性下痢症のマネジメント(土井朝子)
 8.尿路感染症のマネジメント(藤田崇宏)
 9.急性腹症のマネジメント(岩田健太郎)
 10.STI・骨盤内炎症性疾患のマネジメント(本郷偉元)
 11.敗血症のマネジメント(大野博司)
 12.急性咽頭炎・急性副鼻腔炎のマネジメント(上田晃弘)
 13.深頸部感染症のマネジメント(具 芳明)
 14.腹腔内感染症・腸管穿孔のマネジメント(大野博司)

第3章 臨床で重要な微生物
 Introduction
 グラム陽性球菌(山本舜悟)
 グラム陰性桿菌(山本舜悟)
 嫌気性菌(岩渕千太郎)

第4章 臨床で重要な抗菌薬
 ペニシリン系抗菌薬(大野博司)
 セフェム系抗菌薬(大野博司)
 マクロライド系抗菌薬(大野博司)
 キノロン系抗菌薬(大野博司)

 あとがき(大野博司)
 索引

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すべての臨床医に贈る,感染症診療の指南書
書評者: 後藤 元 (杏林大教授・呼吸器内科学)
 79歳の女性。認知症があり,自宅で半ば寝たきりで過ごしていた。2,3日前から元気がなくなり,食欲も低下してきた。37℃台前半ではあるが微熱が出現している。胸部X線を撮ると右下肺野の透過性が低下しているようにみえる。血液検査では白血球数は4,800/μLであったが,CRP(C-reactive protein)は3.2mg/dLと軽度ながら上昇していた。とりあえずキノロン系抗菌薬を経口で開始した。3日間使用したが,微熱は相変わらず続き,全身状態も改善がみられなかった。このため入院とし,抗菌薬をカルバペネムに変更した。しかし1週間経っても状態は同様であった。喀痰検査を行ってみたところ,Stenotrophomonas maltophilia とMRSAが検出された。薬剤感受性成績をみるといずれもカルバペネム耐性である。そうか,だからカルバペネムは効かないのだ。この菌種を狙って抗菌薬を変更しようと今,考えているあなたにとって,本書は大きな助けとなってくれるであろう。

 感染症は,どの診療科であっても日常臨床の中で否応なしに対応を迫られる頻度の高い疾患である。しかし現在,わが国で感染症を専門としている医師は多くはない。ありていに言えば少ない。実際このような症例に遭遇した時,的確なアドバイスを与えてくれる上級医がそばにいてくれないという状況は少なくない。

 こうしたわが国の医療環境の中で,感染症診療と教育を普及・確立・発展させたいという思いを持って活動を続けているグループが日本感染症教育研究会(IDATEN)である。毎年2回セミナーを開催し,全国から応募した医学生・医師を対象に,臨床感染症の考え方から各論まで幅広く講義している。しかしセミナーに参加できる人数は,当然のことながら限定され,全ての希望者を受け入れることはできない。そのような方たちにもセミナーの内容を伝える必要があり,またIDATENの教育内容のさらなる普及のために本書は発行された。

 冒頭の7ページに目を通すだけで,本書の意図は明らかである。「感染症の存在を考えるにあたり,発熱やCRPといった『いわゆる』炎症反応を示す指標に依存しすぎないことが重要である」「『CRPや白血球数上昇の程度=感染症の重症度』といった初歩的な誤解も散見される」「市中感染症ではきちんとした問診と身体所見の検討により7~8割の症例で問題臓器が絞れる」「臨床状況から得た情報をもとに原因微生物を想定することは,習慣的に塗抹や培養検査を提出することよりもはるかに重要である」。

 本書では,感染症診療の基本原則に引き続き,日常臨床でよく出遭う市中感染症のマネジメントとして,肺炎,細菌性髄膜炎,皮膚・軟部組織感染症,骨・関節・軟部組織感染症,感染性心内膜炎,胆道系感染症,急性下痢症,尿路感染症,急性腹症,STI・骨盤内炎症性疾患,敗血症,急性咽頭炎・急性副鼻腔炎,深頸部感染症,腹腔内感染症・腸管穿孔の各疾患を取り上げ,おのおの実例に即しながら,その際の考え方と診療の進め方について具体的に示されている。

 引き続いて,臨床で重要な微生物と抗菌薬について解説されているが,いずれも冗長にならず,ポイントをおさえた大変わかりやすい内容となっている。

 2002年に「病院内感染症勉強会」として始まったIDATENが,その力を結集して本書をまとめられたことに敬意を表したい。
感染症教育の真髄に出合える
書評者: 山中 克郎 (藤田保健衛生大准教授・内科学)
 「いだてん」って,韋駄天(増長天八将軍の一神,小児の病魔を除く足の速い神)? いやいや日本感染症教育研究会こそ「IDATEN」なのである。歴史は古くなんと…大野博司先生(洛和会音羽病院)がまだ研修医だった2002年に,麻生飯塚病院で始められた「病院内感染症勉強会」にさかのぼるという。現在は大曲貴夫先生(静岡県立静岡がんセンター)が代表世話人を務められ,年に2回感染症セミナーが全国で開催される。私は2008年の夏に参加させていただいたが,市中感染症のreviewを豪華講師陣から聞くことができ,実に充実した感動の3日間だった。

 「IDATENセミナーの本が発売されるらしい」との噂を聞き,居ても立ってもいられず馴染みの本屋に注文した。「お~,これぞまさにIDATENセミナーではないか!」冒頭の「感染症診療の基本原則」では,青木眞先生が「発熱=感染症の存在ではない」こと,「CRPや白血球数上昇の程度=感染症の重症度ではない」ことを熱く語られる。

 各論ではIDATENセミナーにも登場する著名講師陣から「肺炎」「髄膜炎」「急性腹症」など市中でよく遭遇する疾患14ケースについて,診断への具体的アプローチ,鑑別診断,治療がしなやかに語られる。どの項目も非常に具体的で日常診療の即戦力となる。さらに「グラム陽性球菌」「グラム陰性桿菌」「嫌気性菌」というカテゴリーから見た臨床で重要な微生物,「ペニシリン系」「セフェム系」「マクロライド系」「キノロン系」抗菌薬特性の解説が続く。

 私は救急診療の場で研修医教育を行っている。感染症は進行が早く重症化しやすいので,極めて重要な分野であるが,系統立てて理論的に教えることはなかなか難しい。抗菌薬使用前の血液培養(2セット),感染症が起こっている臓器を特定し起炎菌を想定,迅速な治療の開始,さらに広域から狭域抗菌薬への変更という「感染症のベーシックアプローチ」をこの本では学ぶことができる。

 「間断(かんだん)の 音なき空に 星花火(ほしはなび)」

 窓を閉ざしているため音のない花火…それが満点の星よりも美しく空に咲く。27歳の若さで白血病のため早世した女優 夏目雅子の絶句である。

 セミナーで教育を受けたIDATEN魂を持つ若者が全国で大花を咲かせようとしている。この本は,これから感染症の勉強を始めたいと思っている医学生,感染症診断・治療の実践を学びたい研修医,どのように感染症を教えればよいか迷っている指導医にとって大変参考となる。豊穣の時を刻み続けるIDATEN,感染症教育の真髄に出合える,そんな魅力がこの本にはある。しんと静まり返った秋の夜長こそ,夏目雅子の句に想いをはせながら,この良書をじっくりと楽しみたい。

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