感染症外来の帰還
感染症外来のプライマリをこの1冊で
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『感染症外来の事件簿』から3年。研修医世代から好評を博した前著をもとに、日本のプライマリ・ケア―外来診療を支えるベテラン臨床医向けに新たに生まれ変わった論考が本書。卒前教育で感染症を学ぶ機会の無かった世代に向け、世界的かつ日本的であり得る臨床感染症学の“中庸”を投げかける。小児・漢方・新型インフルエンザと、現場で求められる現代のニーズを満たす要素も盛り込まれた。
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
はじめに
『感染症外来の事件簿』(2006年)を書いてしばらくの時が経ちました.
新たに書き直さなければならないと思い,本書を皆さんにご紹介したいと思います.どうしてまた新しい本にしなくてはならなかったかというと,いくつかの理由があります.
1.本の内容そのものが古くなってきたこと
2.私自身の考え方が変化したり,以前に書いたことがあまり正しいと思えなくなってきたこと.いくつかの具体的な訂正
3.ターゲット・オーディエンスの変更
1,2についてはよろしいでしょうか.3について少し補足させてください.私は『事件簿』を書いたときに,医学生や初期研修医をターゲットに書きました.“これからは外来教育の時代”,と意気込んで書いたのでした.
“これからは外来の時代”,という当初の思いは今も変わっていません.しかし,外来「教育」のあり方は複雑で難しく,すくなくとも今の医学生や初期研修医のほとんどはそのスキームに組み込まれていません.だから,彼らに外来のことを教えても,あまり診療・実習現場で活かされないなあ,という矛盾を感じ始めました.理想と現実のギャップに気づかなかったのです.
一方,外来教育はどの辺から始めるかというと……これはどこでも行われていません.今でもほとんどの外来は,「来週から君も外来に入ってね」という感じで,いきなりぶっつけ本番,自学自習といえば聞こえがいいですが,我流・自己流・俺様流…という体系です.
外来診療の場は多様なフィールドです.患者さんもいろいろなニーズを持ってやってきますし,環境によって問題の対応策は異なります.だから,「いろいろあり」で,がちがちにマニュアル,ガイドラインで縛り付けるような診療は似合いません.
ただ,「いろいろあり」と「何でもあり」は違います.原理・原則を無視し,むちゃくちゃな診療をしてもよい,ということはないのです.
外来診療には質の担保がありません.保険診療のレセプトは? あれは全く質の保証を行っていません.レセプトが提供するのは診断名と医療内容の突き合わせだけで,それも質の低い「手引き」と合致しているかを確認するだけです.だから,オーグメンチン®の最大投与量を超えるとすぐにチェックが入りますが,「異なる名前の抗菌薬」であるサワシリン®を併用すれば,OKです.本当はどちらもアモキシシリンという成分が入っているので実質上は「最大量」が増えているのですが,質の担保を目的とせず,ただただ手続き上の正当性=アリバイ作りを追求するレセプト制度はそのような矛盾には知らん顔なのです.
要するに,日本の外来診療現場は全くの無法地帯,何でもありなのです.
「いろいろあり」と「何でもあり」は違います.原理・原則は重要です.
本書は,外来診療を実際にやっている医師で,しかし実は感染症診療についてはどこかで教わったわけではない,という方々をターゲットにしました.
『事件簿』からの大きな変貌です.よって,
1.保険診療を(できるだけ)継続できるよう工夫しました.
2.商品名や投与量をできるだけ具体的に明記し,現場で使いやすいようにしました.
3.コモンな問題に特化し,陥りやすいピットフォールを中心に記載しました.
4.前著ではほとんど記載のなかった漢方薬について追記しました.
5.小児感染症については,前沖縄県立中部病院小児科の豊浦麻記子先生に,小児科医の立場から追記してもらいました.
加えて,現在問題になっている「新型インフルエンザ」対策,とくに発熱外来のあり方についての章(第2章)を設けました.おそらく,これで困っている方も多いだろうと思ったからです.
これで,前著よりはずっと使いやすい本になったのではないかと思います.それでもまだまだ至らないところはあるでしょう.本書の問題点が見つかった場合,すべて岩田の責任のなかにあります.ご指摘いただき,さらに改善の機会を与えてくだされば幸いです.
注意
本書の記載内容については臨床現場で役に立つよう最大限の配慮をしたつもりですが,本書の記載通りに診療をして患者の治療成果を保証するものではありません.例えば,推奨した薬剤でアナフィラキシーを起こしたりする可能性はあります.紹介している「症例」は,実際にあったケースを若干デフォルメしています.本書をご利用になる皆さんには,その点を十分ご注意いただきますようお願い申し上げます.
2010年1月
岩田健太郎
『感染症外来の事件簿』(2006年)を書いてしばらくの時が経ちました.
新たに書き直さなければならないと思い,本書を皆さんにご紹介したいと思います.どうしてまた新しい本にしなくてはならなかったかというと,いくつかの理由があります.
1.本の内容そのものが古くなってきたこと
2.私自身の考え方が変化したり,以前に書いたことがあまり正しいと思えなくなってきたこと.いくつかの具体的な訂正
3.ターゲット・オーディエンスの変更
1,2についてはよろしいでしょうか.3について少し補足させてください.私は『事件簿』を書いたときに,医学生や初期研修医をターゲットに書きました.“これからは外来教育の時代”,と意気込んで書いたのでした.
“これからは外来の時代”,という当初の思いは今も変わっていません.しかし,外来「教育」のあり方は複雑で難しく,すくなくとも今の医学生や初期研修医のほとんどはそのスキームに組み込まれていません.だから,彼らに外来のことを教えても,あまり診療・実習現場で活かされないなあ,という矛盾を感じ始めました.理想と現実のギャップに気づかなかったのです.
一方,外来教育はどの辺から始めるかというと……これはどこでも行われていません.今でもほとんどの外来は,「来週から君も外来に入ってね」という感じで,いきなりぶっつけ本番,自学自習といえば聞こえがいいですが,我流・自己流・俺様流…という体系です.
外来診療の場は多様なフィールドです.患者さんもいろいろなニーズを持ってやってきますし,環境によって問題の対応策は異なります.だから,「いろいろあり」で,がちがちにマニュアル,ガイドラインで縛り付けるような診療は似合いません.
ただ,「いろいろあり」と「何でもあり」は違います.原理・原則を無視し,むちゃくちゃな診療をしてもよい,ということはないのです.
外来診療には質の担保がありません.保険診療のレセプトは? あれは全く質の保証を行っていません.レセプトが提供するのは診断名と医療内容の突き合わせだけで,それも質の低い「手引き」と合致しているかを確認するだけです.だから,オーグメンチン®の最大投与量を超えるとすぐにチェックが入りますが,「異なる名前の抗菌薬」であるサワシリン®を併用すれば,OKです.本当はどちらもアモキシシリンという成分が入っているので実質上は「最大量」が増えているのですが,質の担保を目的とせず,ただただ手続き上の正当性=アリバイ作りを追求するレセプト制度はそのような矛盾には知らん顔なのです.
要するに,日本の外来診療現場は全くの無法地帯,何でもありなのです.
「いろいろあり」と「何でもあり」は違います.原理・原則は重要です.
格に入りて格を出でざる時は狭く格に入らざる時は邪路に走るという言葉があるように,原理・原則,基本を学ばずいきなり応用問題を解きにかかると,それは「邪路」に走ってしまうのです.マニュアル医療,管理医療もよくありませんが,何でもあり医療もよくありません.程よい中庸を,妥当な中庸を模索する必要があります.
格に入り,格を出でて初めて自在を得べし
松尾芭蕉
本書は,外来診療を実際にやっている医師で,しかし実は感染症診療についてはどこかで教わったわけではない,という方々をターゲットにしました.
『事件簿』からの大きな変貌です.よって,
1.保険診療を(できるだけ)継続できるよう工夫しました.
2.商品名や投与量をできるだけ具体的に明記し,現場で使いやすいようにしました.
3.コモンな問題に特化し,陥りやすいピットフォールを中心に記載しました.
4.前著ではほとんど記載のなかった漢方薬について追記しました.
5.小児感染症については,前沖縄県立中部病院小児科の豊浦麻記子先生に,小児科医の立場から追記してもらいました.
加えて,現在問題になっている「新型インフルエンザ」対策,とくに発熱外来のあり方についての章(第2章)を設けました.おそらく,これで困っている方も多いだろうと思ったからです.
これで,前著よりはずっと使いやすい本になったのではないかと思います.それでもまだまだ至らないところはあるでしょう.本書の問題点が見つかった場合,すべて岩田の責任のなかにあります.ご指摘いただき,さらに改善の機会を与えてくだされば幸いです.
注意
本書の記載内容については臨床現場で役に立つよう最大限の配慮をしたつもりですが,本書の記載通りに診療をして患者の治療成果を保証するものではありません.例えば,推奨した薬剤でアナフィラキシーを起こしたりする可能性はあります.紹介している「症例」は,実際にあったケースを若干デフォルメしています.本書をご利用になる皆さんには,その点を十分ご注意いただきますようお願い申し上げます.
2010年1月
岩田健太郎
目次
開く
はじめに
第1章 熱
病歴聴取が大事/慢性の経過をたどる熱→普通の感染症ではない/
病歴聴取はストーリー作り.形式主義では失敗する/身体所見の流れ
熱型パターンは役に立つ?
○小児科での「発熱」
第2章 咳-新型インフルエンザ対策
外来での「時間軸の自由度」を生かす/間違いは織り込み済み/
リスクヘッジのために/医師はどのように患者に説明したらよいか/
風邪の診断/風邪の治療/
外的なものとの付き合い方-コミュニケーション・スキルと日本の外来診療精度/
インフルエンザ,インフルエンザ様疾患(ILI)/曝露後予防/
インフルエンザ,インフルエンザ様疾患(ILI)の診断/
インフルエンザの治療/その他の付け加える点/新型インフルエンザ対策/
急性気管支炎/肺炎/急性の咳嗽-対症療法/慢性の咳/外来では時間軸が大事/
診断のキーとなる「ヒストリー」
○小児科での「咳」
各論
第3章 咽頭痛
診断までのアプローチ/システムレビュー/ウイルス性か細菌性か/
EBウイルスの血清学的検査の解釈/急性咽頭炎の診断-細菌性か,ウイルス性か/
外来診療における第3世代セフェム
○小児科での「咽頭痛」
各論
第4章 頭痛,首の痛み
海綿静脈洞血栓症/もっともコモンなのは副鼻腔炎/合併症としての副鼻腔炎/
慢性副鼻腔炎
○小児科での「頭痛」
各論
第5章 下痢,腹痛
ウイルス性あるいは細菌性の腸炎/抗菌薬関連の下痢/慢性の下痢/
上手な「食歴」のとり方/集団発生例への対応/病中の食事指導/
抗菌薬の選択/「旅行歴」の確認も忘れない/治療のオプションとしてのORS/
腹痛/腹痛はCTよりも「病歴」が大事/診察は優しく/打診に役立つ基礎知識/
胆嚢炎と胆管炎とSBP
○小児科での「下痢,腹痛」
各論
第6章 ピロリ菌の検査と治療
ピロリ菌のあれこれ/ピロリ菌検査のタイミング/
治療のパターン/除菌薬の副作用
第7章 排尿時の異常,生殖器の異常
病歴聴取のポイント/グラム染色の重要性/性行為に関する情報/
高齢者を診る際の注意/中間尿の採取法/尿培養の陽性カットオフ/
患者をハッピーにする外来診察/治療/細菌感受性試験のトリック/
高齢者の尿路感染症の注意点/ニューキノロンの選択/
どうして新発売の抗菌薬を使わないほうがよいのか/
ふたたび,だれのための診療か/腎盂腎炎の場合/患者指導とワークアップ/
無症候性細菌尿への注意事項/STDの基本-外来のポイント/
陰部潰瘍を持つ患者/軟性下疳の診療/鼠径リンパ節腫脹/尿道炎・頸管炎/
子宮頸管炎/腟炎/PIDの診療/精巣上体炎の診療/男性生殖器の診察/
女性生殖器の診察/尖圭コンジローマの診療/再び,梅毒について/
HIVの外来/一般外来・救急外来におけるレイプ対応
○小児科での「排尿時の異常」
第8章 リンパ節腫脹
急性全身性リンパ節腫脹/非感染性/頸部(あるいはその周辺)リンパ節腫脹/
急性頸部リンパ節腫脹/慢性頸部リンパ節腫脹/その他
○小児科での「リンパ節腫脹」
各論
第9章 目が赤い
眼瞼炎の基礎知識/結膜炎の基礎知識/性感染症としての結膜炎/
感染症以外/「赤い目」外来のまとめ
第10章 耳が痛い,聞こえない
日本版ガイドラインの評価/成人の急性中耳炎治療/
入院が必要なケース-耳鼻科専門医紹介
○小児科での「耳痛」
各論
第11章 関節痛,関節炎
関節痛,関節炎の一般的なアプローチ/化膿性関節炎/反応性関節炎/
ウイルス性関節炎/感染性滑液包炎/腰痛と熱
○小児科での「関節痛,関節炎」
各論
第12章 四肢の腫れ,痛み
見逃したくない,重症感染症
○小児科での「皮膚・軟部組織感染症」
各論
第13章 皮疹
ステロイドと抗菌薬外用薬を使う前に/疥癬/白癬症/カンジダ/
全身感染症の一表現たる皮疹-急性ウイルス性感染症
○小児科での「皮疹」
第14章 予防接種
オランダの予防接種プログラム/予防接種に関する質問の例
○小児科での「予防接種」
第15章 旅行外来(トラベルクリニック)
感染症だけでよいのか/旅行に出発する前に/予防接種/予防薬/
その他のアドバイス/旅行から帰ってきたあとで/
マラリアを忘れず,旅の楽しみを忘れず/下痢の原因は多彩
第16章 慢性期における感染症治療
日本の感染症診療,その問題点/感染症の診断/在宅診療について/
点滴薬について/難問に対して
あとがき
索引
第1章 熱
病歴聴取が大事/慢性の経過をたどる熱→普通の感染症ではない/
病歴聴取はストーリー作り.形式主義では失敗する/身体所見の流れ
熱型パターンは役に立つ?
○小児科での「発熱」
第2章 咳-新型インフルエンザ対策
外来での「時間軸の自由度」を生かす/間違いは織り込み済み/
リスクヘッジのために/医師はどのように患者に説明したらよいか/
風邪の診断/風邪の治療/
外的なものとの付き合い方-コミュニケーション・スキルと日本の外来診療精度/
インフルエンザ,インフルエンザ様疾患(ILI)/曝露後予防/
インフルエンザ,インフルエンザ様疾患(ILI)の診断/
インフルエンザの治療/その他の付け加える点/新型インフルエンザ対策/
急性気管支炎/肺炎/急性の咳嗽-対症療法/慢性の咳/外来では時間軸が大事/
診断のキーとなる「ヒストリー」
○小児科での「咳」
各論
第3章 咽頭痛
診断までのアプローチ/システムレビュー/ウイルス性か細菌性か/
EBウイルスの血清学的検査の解釈/急性咽頭炎の診断-細菌性か,ウイルス性か/
外来診療における第3世代セフェム
○小児科での「咽頭痛」
各論
第4章 頭痛,首の痛み
海綿静脈洞血栓症/もっともコモンなのは副鼻腔炎/合併症としての副鼻腔炎/
慢性副鼻腔炎
○小児科での「頭痛」
各論
第5章 下痢,腹痛
ウイルス性あるいは細菌性の腸炎/抗菌薬関連の下痢/慢性の下痢/
上手な「食歴」のとり方/集団発生例への対応/病中の食事指導/
抗菌薬の選択/「旅行歴」の確認も忘れない/治療のオプションとしてのORS/
腹痛/腹痛はCTよりも「病歴」が大事/診察は優しく/打診に役立つ基礎知識/
胆嚢炎と胆管炎とSBP
○小児科での「下痢,腹痛」
各論
第6章 ピロリ菌の検査と治療
ピロリ菌のあれこれ/ピロリ菌検査のタイミング/
治療のパターン/除菌薬の副作用
第7章 排尿時の異常,生殖器の異常
病歴聴取のポイント/グラム染色の重要性/性行為に関する情報/
高齢者を診る際の注意/中間尿の採取法/尿培養の陽性カットオフ/
患者をハッピーにする外来診察/治療/細菌感受性試験のトリック/
高齢者の尿路感染症の注意点/ニューキノロンの選択/
どうして新発売の抗菌薬を使わないほうがよいのか/
ふたたび,だれのための診療か/腎盂腎炎の場合/患者指導とワークアップ/
無症候性細菌尿への注意事項/STDの基本-外来のポイント/
陰部潰瘍を持つ患者/軟性下疳の診療/鼠径リンパ節腫脹/尿道炎・頸管炎/
子宮頸管炎/腟炎/PIDの診療/精巣上体炎の診療/男性生殖器の診察/
女性生殖器の診察/尖圭コンジローマの診療/再び,梅毒について/
HIVの外来/一般外来・救急外来におけるレイプ対応
○小児科での「排尿時の異常」
第8章 リンパ節腫脹
急性全身性リンパ節腫脹/非感染性/頸部(あるいはその周辺)リンパ節腫脹/
急性頸部リンパ節腫脹/慢性頸部リンパ節腫脹/その他
○小児科での「リンパ節腫脹」
各論
第9章 目が赤い
眼瞼炎の基礎知識/結膜炎の基礎知識/性感染症としての結膜炎/
感染症以外/「赤い目」外来のまとめ
第10章 耳が痛い,聞こえない
日本版ガイドラインの評価/成人の急性中耳炎治療/
入院が必要なケース-耳鼻科専門医紹介
○小児科での「耳痛」
各論
第11章 関節痛,関節炎
関節痛,関節炎の一般的なアプローチ/化膿性関節炎/反応性関節炎/
ウイルス性関節炎/感染性滑液包炎/腰痛と熱
○小児科での「関節痛,関節炎」
各論
第12章 四肢の腫れ,痛み
見逃したくない,重症感染症
○小児科での「皮膚・軟部組織感染症」
各論
第13章 皮疹
ステロイドと抗菌薬外用薬を使う前に/疥癬/白癬症/カンジダ/
全身感染症の一表現たる皮疹-急性ウイルス性感染症
○小児科での「皮疹」
第14章 予防接種
オランダの予防接種プログラム/予防接種に関する質問の例
○小児科での「予防接種」
第15章 旅行外来(トラベルクリニック)
感染症だけでよいのか/旅行に出発する前に/予防接種/予防薬/
その他のアドバイス/旅行から帰ってきたあとで/
マラリアを忘れず,旅の楽しみを忘れず/下痢の原因は多彩
第16章 慢性期における感染症治療
日本の感染症診療,その問題点/感染症の診断/在宅診療について/
点滴薬について/難問に対して
あとがき
索引
書評
開く
外来の実態に即した,現場のニードにマッチした本
書評者: 青木 眞 (感染症コンサルタント)
本書は『感染症外来の帰還』と文学的なタイトルがついているが,優れた内科・小児科領域の感染症に関する外来診療マニュアルである。
自分が80年代前半に渡米し,内科専門のプログラムでインターンとして働き始めたとき,仲間が「メドゥピーズ」(英語でMed-Pedsと書く)という聞きなれないプログラムの研修医であると聞いた。Med-Pedsとは,内科と小児科の両者の訓練を受け,2つの領域の専門医資格を4年間で取得するというプログラムである。都市部における外来診療の核となるべき2つの専門性を一度に短期間で取得できるということで,とくに将来開業をめざす医師たちに人気が高い競争の激しいプログラムであった。内科と小児科,両専門領域の感染症をカバーする本書も外来の実態に即した,現場のニードにマッチした本である。
さて本書の一部を紹介すると,まず基本的な構成は「目が赤い」「咽頭痛」「リンパ節腫脹」など日常外来診療で問題になる事項だけが章ごとに整理され,極めて読みやすい。また診療上の基本的なアプローチの仕方,考え方が「ルール」として整理されており,雑多な知識の集積になりやすい危険から本書を守っている。クループに関する「ルール」に「母親に抱っこさせたまま診察…」とある事に感心しつつ,やがて本書の「ルール」が診療上のPearlでもあることがわかる。これら各所に散らばるPearlは著者ご自身の経験に加え恩師や仲間からの受け継がれたものもあるに違いない。頻用する検査の適応,使用上のポイントなども現場に即した形で解説され,処方例も懇切丁寧,具体的で好感が持てる。
さらに所々に「ケース」として代表的な臨床状況が,その対処法と共に2~3行で簡潔に提示されている。臨床状況をたったの2~3行でEssentialな情報に整理・抽出する潔さ。それは研修医が成長する過程でみられる能力であり,よき指導医にみられる資質である。
外来診療は入院診療とは異なる。一般に外来のほうが医師として求められる力量が高く,腕の見せ所が多い。病態が成熟し症状が出揃った時点で潤沢な検査を駆使できる入院担当医(後医)が名医ならば,これら名医になる条件が与えられていない外来診療担当医(前医)には臨床医としてのセンスとルールが頼りである。外来というやり甲斐のある仕事であるが,また失敗や冷や汗と背中合わせの場所に本書が与えられたことは本当に喜ばしい。
個人的な感想を許して頂けるならば,数ある岩田本の中でも本書はBestの1つに入るのではないかと思う。神戸大学に移られ教育者としてさらに経験を積まれた岩田健太郎先生が豊浦麻記子先生という強力な共著者を得られ現場に送られた本書。沖縄県立中部病院の喜舎場Spiritが伏流水のように流れる好著として推薦致します。
Early majorityの感染症診療にアプローチする好著
書評者: 徳田 安春 (筑波大大学院教授/水戸協同病院総合診療科)
『…の帰還』というタイトルから,筆者の頭にはまず,立花隆氏の『宇宙からの帰還』が浮かんだ。立花氏のノンフィクションは,宇宙から帰還した宇宙飛行士の精神世界の変貌を詳細に報告した大作である。研修医世代では,RPGのファイナルファンタジーIV「月の帰還」などを連想するだろう。でも,「はじめに」を読み進めると,『感染症外来の事件簿』を書き直したということで,“帰還”というタイトルとなったことが理解できるようになる。
『感染症外来の事件簿』は“帰還”すると変貌していた。岩田氏の前著の読者対象は研修医となっていたが,本書の対象は「より幅の広い臨床医」となっている。しかも今回は,沖縄県立中部病院インターン時代の同級生である豊浦麻記子氏との共同執筆ということで,小児科領域の感染症診療もカバーしている。
Implementation Scienceによると,社会において,新しい知識体系を次々に紹介するInnovatorの後をフォローするのはEarly adopterであり,その後速やかに大多数のEarly majorityが続き,そして遅れてその後にLate majorityが続く。岩田氏と豊浦氏がInnovatorである理由は,本書を一読するとすぐに理解できる。Innovatorは,既存の知識体系とは異なった切り口で新しい知識体系を構築する人々のことである。本書は,ブログ的な散文調の流れで読みやすく書かれているが,全体を通して著者2人の個性的な切り口による思考過程で体系化されている。
これまで数多く出版されてきた岩田氏の書籍を読み,臨床感染症の知識体系をすばやくフォローしている研修医や若手医師はEarly adopterである。しかしながら,新しい知識体系が社会全体を変える「うねり」となるためには,大多派のEarly majorityの行動変容を促すことが必須である。全国で研修医は年間で約8,000人であるが,医師の総数は約27万人であり,開業医師総数は約10万人という。このうち,感染症診療に全く関与しないという医師はほとんどいないであろう(精神科医師などを除いて)。著者が述べているように,本書は「中庸」的内容であるが,適度に「中腰」も勧めており,臨床現場でのバランス感覚を重視しているのがよい。“私の処方箋”的な具体的処方内容例も提示されており,現場の臨床医にはうれしい限りである。いつものブラックジョークも満載であるが,本書を読んでも,医学教科書を読んだときのような「疲れ」を感じないのはそのせいであろうか。
宇宙から帰還した飛行士がその精神世界を変貌させたように,本書が多くのEarly majorityの感染症診療を変貌させることを期待する。
書評者: 青木 眞 (感染症コンサルタント)
本書は『感染症外来の帰還』と文学的なタイトルがついているが,優れた内科・小児科領域の感染症に関する外来診療マニュアルである。
自分が80年代前半に渡米し,内科専門のプログラムでインターンとして働き始めたとき,仲間が「メドゥピーズ」(英語でMed-Pedsと書く)という聞きなれないプログラムの研修医であると聞いた。Med-Pedsとは,内科と小児科の両者の訓練を受け,2つの領域の専門医資格を4年間で取得するというプログラムである。都市部における外来診療の核となるべき2つの専門性を一度に短期間で取得できるということで,とくに将来開業をめざす医師たちに人気が高い競争の激しいプログラムであった。内科と小児科,両専門領域の感染症をカバーする本書も外来の実態に即した,現場のニードにマッチした本である。
さて本書の一部を紹介すると,まず基本的な構成は「目が赤い」「咽頭痛」「リンパ節腫脹」など日常外来診療で問題になる事項だけが章ごとに整理され,極めて読みやすい。また診療上の基本的なアプローチの仕方,考え方が「ルール」として整理されており,雑多な知識の集積になりやすい危険から本書を守っている。クループに関する「ルール」に「母親に抱っこさせたまま診察…」とある事に感心しつつ,やがて本書の「ルール」が診療上のPearlでもあることがわかる。これら各所に散らばるPearlは著者ご自身の経験に加え恩師や仲間からの受け継がれたものもあるに違いない。頻用する検査の適応,使用上のポイントなども現場に即した形で解説され,処方例も懇切丁寧,具体的で好感が持てる。
さらに所々に「ケース」として代表的な臨床状況が,その対処法と共に2~3行で簡潔に提示されている。臨床状況をたったの2~3行でEssentialな情報に整理・抽出する潔さ。それは研修医が成長する過程でみられる能力であり,よき指導医にみられる資質である。
外来診療は入院診療とは異なる。一般に外来のほうが医師として求められる力量が高く,腕の見せ所が多い。病態が成熟し症状が出揃った時点で潤沢な検査を駆使できる入院担当医(後医)が名医ならば,これら名医になる条件が与えられていない外来診療担当医(前医)には臨床医としてのセンスとルールが頼りである。外来というやり甲斐のある仕事であるが,また失敗や冷や汗と背中合わせの場所に本書が与えられたことは本当に喜ばしい。
個人的な感想を許して頂けるならば,数ある岩田本の中でも本書はBestの1つに入るのではないかと思う。神戸大学に移られ教育者としてさらに経験を積まれた岩田健太郎先生が豊浦麻記子先生という強力な共著者を得られ現場に送られた本書。沖縄県立中部病院の喜舎場Spiritが伏流水のように流れる好著として推薦致します。
Early majorityの感染症診療にアプローチする好著
書評者: 徳田 安春 (筑波大大学院教授/水戸協同病院総合診療科)
『…の帰還』というタイトルから,筆者の頭にはまず,立花隆氏の『宇宙からの帰還』が浮かんだ。立花氏のノンフィクションは,宇宙から帰還した宇宙飛行士の精神世界の変貌を詳細に報告した大作である。研修医世代では,RPGのファイナルファンタジーIV「月の帰還」などを連想するだろう。でも,「はじめに」を読み進めると,『感染症外来の事件簿』を書き直したということで,“帰還”というタイトルとなったことが理解できるようになる。
『感染症外来の事件簿』は“帰還”すると変貌していた。岩田氏の前著の読者対象は研修医となっていたが,本書の対象は「より幅の広い臨床医」となっている。しかも今回は,沖縄県立中部病院インターン時代の同級生である豊浦麻記子氏との共同執筆ということで,小児科領域の感染症診療もカバーしている。
Implementation Scienceによると,社会において,新しい知識体系を次々に紹介するInnovatorの後をフォローするのはEarly adopterであり,その後速やかに大多数のEarly majorityが続き,そして遅れてその後にLate majorityが続く。岩田氏と豊浦氏がInnovatorである理由は,本書を一読するとすぐに理解できる。Innovatorは,既存の知識体系とは異なった切り口で新しい知識体系を構築する人々のことである。本書は,ブログ的な散文調の流れで読みやすく書かれているが,全体を通して著者2人の個性的な切り口による思考過程で体系化されている。
これまで数多く出版されてきた岩田氏の書籍を読み,臨床感染症の知識体系をすばやくフォローしている研修医や若手医師はEarly adopterである。しかしながら,新しい知識体系が社会全体を変える「うねり」となるためには,大多派のEarly majorityの行動変容を促すことが必須である。全国で研修医は年間で約8,000人であるが,医師の総数は約27万人であり,開業医師総数は約10万人という。このうち,感染症診療に全く関与しないという医師はほとんどいないであろう(精神科医師などを除いて)。著者が述べているように,本書は「中庸」的内容であるが,適度に「中腰」も勧めており,臨床現場でのバランス感覚を重視しているのがよい。“私の処方箋”的な具体的処方内容例も提示されており,現場の臨床医にはうれしい限りである。いつものブラックジョークも満載であるが,本書を読んでも,医学教科書を読んだときのような「疲れ」を感じないのはそのせいであろうか。
宇宙から帰還した飛行士がその精神世界を変貌させたように,本書が多くのEarly majorityの感染症診療を変貌させることを期待する。
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