精神科の薬がわかる本

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ざっと知っておきたい。大事なことだけ知りたい。副作用と禁忌だけは押さえたい――そんなニーズに応えます。「よくある質問への答え方」「患者さんへの説明のポイント」「副作用マップ」付き。
姫井 昭男
発行 2008年11月判型:A5頁:208
ISBN 978-4-260-00763-4
定価 2,200円 (本体2,000円+税)
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はじめに

 私が精神科医になったばかりのときのことです。
 いかにも“学者”という印象の先輩医師に、精神科のバイブルであるかのように、ほぼ強制的にたくさんの精神医学書を購入させられました(しかもドイツ語だったのでますます難解でした)。
 読まされた数多くの書物は私の知識の幅を広げることに貢献はしてくれましたが、臨床で役に立ったかというと、残念ながらほとんど役に立ちませんでした。その後もいろいろな精神科関連の書物に目を通しましたが、それらは一様に難解なものが多く、よい書物とは言い難かったのです。
 精神科の書物のなかには「“脳”や“精神”という高次なものを扱うのだから、難しくて当然だ」と言わんばかりに専門用語が羅列されるものが少なくありません。
 でも、私が愛読する某科学雑誌は、あの「相対性理論」を高校生の物理レベルの知識でいとも簡単に説明してくれます。こんなふうに、精神医学を本当の意味で簡単に概説し、臨床現場で即戦力になるような知識を得られるような書物がないものだろうか……そう考えていろいろと探しましたが、和書にはほとんど見当たりませんでした。特に難解さを誇っているかに見えたのは、精神科の“薬物”や“薬物療法”に関してでした。

 もう1つ困ったのは、“古い薬物”の薬理説明の記述がなかなかみつからないことでした。古い薬物でも有用なものはたくさんあります。でも、医学雑誌や、研究論文、レビューなどに出てくるアルゴリズムや処方のポイントに出てくる薬物は、新しいタイプのものがほとんどです。古い薬物にどのような役割があるのか調べたくても、調べきれないものさえあります。全く困った状況でした。
 その日も、大学の研究室で研究のプロトコールを立案しようとして行き詰まり、悪い癖とは知りつつも、いつものように「いい精神科の本がないからだ!」とグチっていました。すると後輩が、「そう感じるなら、後輩のことを考えて、自分が書けばいいじゃないですか」と返してきました。
 確かに当時、私はさまざまな精神疾患と神経伝達物質受容体の遺伝子の関連について研究していましたし、趣味で向精神薬の歴史や開発についても調べていましたので、“自費出版でもいいから本を出そうか”という思いがよぎりました。
 そんなとき、偶然にも医学書院の雑誌『精神看護』の編集部から、抗うつ薬を解説してほしいという執筆依頼がありました。当初は特集としての、単発での原稿依頼でした。それが読者の方々に好評をいただいたおかげで連載になり、1年近くの連載を終えると向精神薬全体をほぼ網羅する内容になっていました。
 熱意ある編集者のおかげでそれらの原稿が1つにまとまって結実したのが本書です。自らが欲しいと思ったものを、自分自身でつくることになるとは夢にも思いませんでしたが、現実(現物)がここにあります。

 向精神薬を正しく理解したい――そう願っているのは、精神科医療にかかわる専門職だけではないはずです。精神科が専門ではない医師や研修医にもそのニーズはあるでしょうし、さらにいえば向精神薬を服用している当事者の方たちのなかにこそ、そうした思いがあることと思います。この本が、少しでも皆さんの希望に応えるものに仕上がっていたならば、著者としてこんなに嬉しいことはありません。
 雑誌での連載時も、できる限り簡潔で、容易に理解できることを第一に考えて執筆しましたが、本書は連載当時のものをただ一冊にまとめただけではなく、さらに記述全体を見直し、より読みやすいものになるよう心がけました。

 この本は、果たして将来、「よい精神科の本」といわれる一冊に、名を連ねることができるでしょうか……。それは皆さんの判断にお任せしたいと思います。

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はじめに

1.「抗うつ薬」がわかる。
 ◎抗うつ薬へのQ&A

2.「睡眠薬」がわかる。
 ◎睡眠薬へのQ&A

3.「抗精神病薬」がわかる。
 (1)統合失調症とは
 (2)定型抗精神病薬の特徴
 (3)非定型抗精神病薬の特徴
 (4)重大な副作用
 (5)剤型による特徴
 ◎抗精神病薬へのQ&A
 Lecture 単剤化の方法

4.「抗てんかん薬」がわかる。
 ◎抗てんかん薬へのQ&A

5.「老年期に使う薬」がわかる。
 (1)薬を使う前に気をつけておきたいこと
 (2)認知症(アルツハイマー型認知症)の治療薬
 (3)パーキンソン病の治療薬
 (4)うつ病・抑うつ状態の治療薬
 (5)頭部外傷の後遺症の治療薬
 (6)夜間せん妄の治療薬
 (7)代謝性意識障害への対処
 ◎老年期に使う薬へのQ&A

6.「その他の精神科の薬」がわかる。
 (1)気分安定薬
 (2)抗躁薬
 (3)抗不安薬
 (4)抗酒薬
 (5)悪性症候群の治療薬
 (6)発達障害をもつ人への薬物療法
 ◎「その他の精神科の薬」へのQ&A

索引
おわりに

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この1冊で丸わかり!「精神科の薬」 (雑誌『看護管理』より))
書評者: 伊豆上 智子 (東京医科歯科大学医学部附属病院看護部)
◆一般病棟で「精神科の薬」の知識がなぜ必要か

 「精神科の薬」。ほとんどの看護の現場ではこれと関わっています。一般病棟では「睡眠薬」が代表的な「精神科の薬」という病棟もあるかもしれませんが,精神疾患の治療目的で「精神科の薬」を服用中の患者が他の疾患の治療目的で一般病棟に入院し,そこで抗精神病薬を含めた与薬業務を行なうことはめずらしくありません。

 また,入院患者の夜間せん妄に対して内服薬や注射薬で「精神科の薬」が使われています。夜間の看護管理責任者として病棟をラウンドすると,眠れない患者や眠らない患者の夜間の安全の確保と安楽な療養のために,現場のスタッフたちが試行錯誤している場面によく出会います。また,高血圧や糖尿病に代表される生活習慣病など複数の疾患を抱え,それぞれに処方された複数の薬を使用している患者の入院が増えていますが,ここ数年,一般病棟の入院患者が入院前から使用している薬のなかに「精神科の薬」が含まれる割合も増えています。

 看護管理者の場合は,部下の労務管理に関連して「精神科の薬」の知識が必要な場合があります。交替勤務で看護の仕事に従事している看護師のなかには,睡眠障害のために睡眠薬を服用している場合や,気分が落ち込み仕事に影響するために薬物療法を受けている場合があります。部下が服用している「精神科の薬」が,本人の苦痛の緩和や生活状況の改善に効果的に作用することは少なくありません。しかし,「精神科の薬」の服用が,「勤務予定通りに出勤できない」「業務に集中できない」など,割り当てられた仕事の遂行に影響するケースもあります。こうしたときに,看護管理者は「精神科の薬」に関する知識をもとに適切に対応することが求められ,それが労務管理上重要な判断となることも少なくありません。

◆なぜこれほどわかりやすく解説されているのか

 本書では,睡眠薬や抗精神病薬などの「精神科の薬」を10領域に分けて「○○薬がわかる」ように解説されています。薬の名前に焦点を当てて薬剤の詳細を手早く把握する本としては情報量に限りがあります。しかし「○○薬」が用いられる主な疾患や症状について領域ごとに整理されており,主に用いられている薬の種類とその作用についてわかりやすく解説されています。特に「精神科の薬」の使用に関して患者からよく受ける質問に対するQ&Aは,回答もさることながらバラエティーに富んだ質問は参考になります。本書の帯の「“ざっと”知りたいあなたへ」,まさにその通りの内容です。

 本書に紹介されている治療アルゴリズムと治療概念図と題したフローチャートは,精神科領域における知識モデルの例ですが,「“ざっと”知る」にはこのような知識モデルを利用した表現がぴったりです。

 本書は患者の看護にあたる看護師から,「精神科の薬」を使用している部下の労務管理を担当する看護管理者まで,さまざまな場面で「精神科の薬」に関する知識を整理するために役立つことでしょう。

(『看護管理』2009年4月号掲載)
ひとの目線を大事にした,あたらしい薬のガイドブック (雑誌『看護教育』より)
書評者: 深見 恵子 (帝京平成大学ヒューマンケア学部看護学科・精神看護学)
 精神科臨床において,薬物調整は大きな治療目的のひとつであり,臨床の看護師は薬物の作用,副作用を意識しながら観察をしている。

 しかし学生は未熟さゆえに,病態や薬理作用と援助の根拠を関連して理解しきれず,ただ「症状」「副作用」「観察ポイント」を呪文のように覚え実習にやってくる。自身の教育の至らなさを実感する瞬間だが,実習が始まってしまうと日課や日常生活を追うのに手一杯となってしまい,結局,治療の根幹まで学びが深まらない場合が多いように思う。

 また,精神科薬のほとんどが神経伝達物質に作用するものの,その神経伝達物質をターゲットの部位ごとに採血などの簡便な方法でモニタリングすることは現時点では不可能であるため,「検査データを読む」といった数値を用いた方法で病状の理解ができない。このことは学生にとっての「とっつきにくさ」に繋がっているように思う(ゆえに看護師による観察が重要であり,そこが精神看護のやりがいだと個人的には思うのだが)。さらに,実習の期間が短く,学生が薬物調整による変化に居合わせることは稀であり,このことも理解の難しさの原因となっているのであろう。

  『精神科の薬がわかる本』は,『精神看護』誌に掲載された精神科薬についての連載をまとめた本である。精緻になりがちな薬理作用の説明が絶妙なバランスで執筆されており,個人的な感想で恐縮だが“眠くならない本”であった。観察ポイントとして重要である副作用については,人体イラストを用いて視覚的な説明がされている。実習の繰り返しで疲れている学生の脳にも記憶されやすいだろう。フローチャート式の治療概念図も,病態理解に役立つと思われる。執筆者自身の治療体験がそこここに記されているためか治療の流れがイメージしやすく,「精神科って何をやってるんだろう」という疑問を持つ人に適した一冊と言えるのではないか。

  かと言って,大雑把な説明しかなされていないわけではない。特に統合失調症については,病態や症状はもちろん,治療に用いられた薬の歴史まで丁寧に解説されている。他の薬についても読み応えがあった。私はこの本で抗躁薬が日本独自のカテゴリーだと知ったのだが,日本の文化的背景が垣間見えたいへん興味深い。ただ,本書では精神科薬に関連したニュースや事件の紹介はなかった。教材として用いる場合,精神科薬の持つ社会的側面については補足が必要なように思う。

 服薬した人の目線,服薬した人を観察する人の目線,を大事にした「薬の本」はとても珍しく新しいのではないか。精神科領域に関連した人間のみならず広く読まれてほしい1冊であった。

(『看護教育』2009年2月号掲載)
本を読むとき『精神科の薬がわかる本』 (雑誌『精神看護』より)
書評者: 長嶺 敬彦 (清和会吉南病院内科部長)
◆本当に「わかる」向精神薬の本は少ない

 このたび医学書院から姫井昭男先生が書かれた『精神科の薬がわかる本』が出版された。これは精神科で使われている全領域の薬の使い方、作用、副作用、禁忌、患者さんへの説明の仕方がざっと理解できるお薦めの本である。解説されているのは「抗うつ薬」「睡眠薬」「抗精神病薬」「抗てんかん薬」「老年期に使う薬」「気分安定薬」「抗躁薬」「抗不安薬」「抗酒薬」「悪性疾候群の治療薬」「発達障害をもつ人への薬物療法」と、ざっと11領域にわたる。コンパクトながら、精神科の薬が“ざっと”理解できる。このような本を望んでいた人は多いのではないだろうか。

 向精神薬に関する本は、一般的に言って非常に難解である。脳のさまざまな受容体や神経回路がひと通り頭に入っていることを前提に書かれているからである。

 もっと簡便で、それでいて臨床の場で使える向精神薬の薬理の本はないものかと思っていたところ、姫井先生のこの本を見つけた。タイトル通り、向精神薬が「わかる」本である。

◆現実的な記述のなかに込められた意図

 向精神薬の薬理は複雑で、簡単な模式図で示すことが困難である。その上、抗うつ薬、睡眠薬、抗精神病薬、抗てんかん薬、認知症の薬、気分安定薬と、種類も多い。それらを網羅し、その作用と臨床的意義を簡便に記述することは不可能に近い。

 しかしこの本を一読すると、難解な向精神薬の薬理が身近に感じられる。それはこの本が、理論の押し売りをしていないこと、それから表面的で辞書的な記述を避け、現実的な記述を用いているためと思われる。ここに著者ならびに編集者の、「薬理は難しいからと毛嫌いするのではなく、臨床現場での向精神薬の振る舞いを知ってほしい」という真摯な願いが感じられる。

◆素顔の向精神薬の美しさがみえる

 大多数の精神薬理の本は、薬理学的理論を重視するあまり、向精神薬の一面をデフォルメしてしまう危険性がある。それは向精神薬を分厚く化粧し、見せかけの美人に仕立てるようなものである。だから読んでいても実感が湧かない。私は、優れた向精神薬は過剰に化粧をしなくても美しいと思っている。だから向精神薬は、多くの患者さんに福音をもたらしているのである。著者もおそらく同じ意見ではなかろうか。

 向精神薬はけっして「魔法の薬」ではない。言い換えれば、非のうちどころがない「絶世の美女」ではない。向精神薬の欠点を理解し、それでもなおかつ素顔の向精神薬は美しいと感じるからこそ、著者は難解な薬理がわかりやすく書けるのだと思う。

 この本を紹介するのに「臨床での向精神薬の振る舞いを、著者の膨大な薬理学的知識を背景に解説した本である」と簡単に記すこともできる。しかしそれではこの本の本当のよさは伝わらない。この本で著者ならびに編集者は、「素顔の向精神薬の美しさ」を表現しようとしたのではなかろうか。私にはそう思えるのである。

(『精神看護』2009年1月号掲載)
「やさしく」「わかりやすく」にかける著者の情熱
書評者: 今井 必生 (神戸市立医療センター中央市民病院 精神科レジデント)
 精神科の薬の本で,これほど目に優しく,読みやすいものは見たことがありません。

 それぞれのページにはゆったりとスペースがとられており,文字も程よく大きく,権威的な威圧感がありません。随所にイラストも取り入れられています。文字を読むのに疲れる頃にイラストが現れるので,頭を休めながら読み進めることができます。著者がやや高度と考えた項目(例えば薬理的作用機序など)は独立したページに小さなフォントで説明されており,大雑把に読むときには簡単にとばし読みすることができるし,逆に,詳しい説明を読みたいときにはすぐにそのページを参照することができます。

 しかし,読みやすさという点で本書が優れていると感じるのは,レイアウトだけではありません。

 精神科の薬物の書物といえば,権威ある医師が独断により執筆しているものがほとんどです。そういった本には情報がたくさん詰め込まれていて,私などは「これ一冊読めるかな」と臆してしまうことが多々あります。また,そうした本の文章は,小説のようにリラックスして読むような雰囲気とは違い,緊張感を感じさせる博物館のような雰囲気を持っているように感じてしまうこともありました。しかし本書は,著者の周りで働いている医師や精神科ソーシャルワーカーの目を通して文面が練り直されているためでしょう,医師の視点だけではつくりあげられなかったであろう視点やポイント,そして「読む人にわかるように書く」という配慮にあふれています。文体も「です,ます調」で表現され,自分が語る早さで情報をかみしめることができます。勤務が終わってから本書を読み進めましたが,寝る前にいつの間にか読了していました。本書はそのような本です。

 前書きには,読者対象として「当事者」も意識されていることが書かれていますが,当事者も含め,多くの人に読みやすい本にしようとする今回の試みは成功しているように思います。対象となる読者層も広がるのではないでしょうか。私のような研修医の立場からしても,高度な知識を一般の方にいかにわかりやすく説明するかを知る術としても,本書の文章は参考になるところが多いと感じました。

 では,自然に読者を引き込む本書は,どのような内容を伝えているのでしょうか。実は意外に幅広い内容を網羅しています。イオンチャンネルレベルでの薬剤の働きから,看護上での注意など,なぜこのゆとりをもった体裁でここまで取り入れることができるのかと驚きました。

 しかしここまでくると,読み手として本書に対して「もっとこうしてほしい」という欲も出てきます。

 1つは,「著者の経験」としての話題と,「広く受け入れられたスタンダードな知識」を明確に区別してほしいということがあります。本書は著者の豊富な経験が盛り込まれている点が特徴の一つなのですが,それが著者の経験なのか,一般的知識なのか,入門者にとっては区別しづらい部分がありました。その意味で,データが存在する部分については巻末に参考文献を掲載してもらえたほうがありがたいと思います。また,より深く勉強したい人のための書籍などの指針もいただけたらと感じました。

 2つ目に,細かい点になりますが,抗不安薬や気分安定薬がそれぞれ個別の章で説明されるのではなく,「その他の精神病治療薬」のなかにこぢんまりと付け加えられている感じがしました。特に気分安定薬などは最近の双極性障害の概念の広がりを考えると重要な薬剤になってくるので,もう少しボリュームを割いて解説してほしかったです。

 いずれにしても,本書は難解と思われている精神科治療薬を,“広く,深く,優しく”,紹介してくれる優れた水先案内人です。今後,本書が版を重ね,入門者をさらに精神科の森の奥深くへと誘うよきガイドとなることを期待しています。

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