標準精神医学 第4版

もっと見る

「精神医学の面白さが分かる!」と好評を博している医学生向け教科書の改訂第4版。新進気鋭の編集、執筆陣により、精神医学の「現在のスタンダード」がやさしく示されている。今版から国試によく出るポイントを中心に重要箇所が太字で明示され、益々学びやすい構成になった。付録に「医師国家試験精神科関連問題解説」を掲載、本文の参照ページが示され、日々の学習も国試対策もこれ1冊で万全の内容。新設コラム「こころの病を描いた映画」で精神障害の理解がさらに深まる。
シリーズ 標準医学
編集 野村 総一郎 / 樋口 輝彦 / 尾崎 紀夫
発行 2009年03月判型:B5頁:536
ISBN 978-4-260-00707-8
定価 7,150円 (本体6,500円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く

第4版 序

 わが国を代表する精神医学の教科書を作ろうという大いなる意気込みのもとに,本書第2版の編集を行ってからほぼ9年の月日が流れた.その間に精神医学は変わったのであろうか? 基礎神経科学のテクノロジーは大きく進歩したが,臨床精神医学の現場ではそれに見合った大変化はみられていないように感じられる.しかし,「呼称の変更」や「概念の微調整」が行われた部分はかなりあり,薬物治療を中心に治療技術も進歩していると言えよう.これらは近未来での革新的な変化を予感させる動きではないかとも思われる.一方で,精神医療に対する一般の人の期待にも微妙な変化がみられ,卒後研修制度も含めた医学教育に対する思いも然りである.また,法律の新設や改正もあった.これらを包括して,そろそろやや大きめの改訂を行っておこうと考え,第4版が完成した.どうせ改訂するからには,「若返り」ということも意識して,編集に尾崎紀夫が加わり,特に最近変化の著しい領域を中心に執筆担当者も世代交代した.その他に,第4版で大きく変えた部分は以下の通りである.
・本文の重要箇所を太字としたこと:本書は教科書ではあるが,読み物的な色彩を持たせようという基本方針もあり,これまで重要箇所の太字強調は行っていなかった.しかし,試験勉強,特に医師国家試験対策には,これでは勉強しにくいというご意見がかなり多く寄せられた.もちろん太字化した部分は,必ずしも国試のみを意識しているのではない.精神医学のポイントを浮き立たせ,親しみを増そうというねらいもある.しかし,ここだけ読んでおけば精神科はOKだ,という意味でないことは確かである.太字以外の部分にも精神医学の本質が隠されているかもしれないと考えて,これを上手に利用してほしい.
・医師国家試験精神科関連問題解説を付録につけた:上記のことと重なるが,本書はやはり医師国家試験のための勉強も大いに意識している.世に所謂「国試対策本」なるものがある.真面目な学生はきちんとした成書を買い,国試のためにこの対策本をもう1冊買うとも言う.この2種類の本は目的が違うので,これも当然のことだという意見もある一方で,無駄だという見解もある.最悪の場合,国試対策本しか読まない学生もいると言う.これは問題であろう.以上を考えて,本書にも具体的に国試の問題を検討した解説を付録としてつけ,勉強しやすく,しかもためになる体裁を意図した.それも単なる解答の解説とならず,精神医学の面白さを伝える,いささか欲張ったねらいがある.
・「こころの病いを描いた映画」のコーナーを新たに設けた:これも精神医学の面白さ,奥深さを知ってほしいという意図である.精神医学は決して難解な硬い学問ではない.そこはまさに心のドラマが展開される舞台である.そのことを,精神障害をテーマに描かれた映画を通して知ることができ,患者の立場にたっての障害理解が可能になるかもしれない.そんな願いもある.
 以上,この教科書が,学生や臨床家,そして精神医学に関心をもつ多くの学徒に有用な存在であり続けることを願って,第4版を世に送り出したい.

 2009年初春
 編者

開く

総論
 第1章 精神医学とは
 第2章 精神機能とその異常
 第3章 精神発達
 第4章 精神医学的診察と診断
 第5章 精神科治療学
 第6章 コンサルテーション・リエゾン精神医学
 第7章 精神医療と社会

各論
 第8章 神経症性障害と心身症
 第9章 パーソナリティ障害と行動異常
 第10章 ストレス反応と適応障害,反応性精神病
 第11章 統合失調症
 第12章 気分障害
 第13章 児童・青年期の精神疾患
 第14章 認知症
 第15章 器質性精神障害
 第16章 症状性精神障害と化学物質中毒などによる精神障害
 第17章 睡眠覚醒障害
 第18章 てんかん
 第19章 精神作用物質使用に伴う精神および行動の障害

付録
 1 精神科臨床実習の手引き
 2 医師国家試験精神科関連問題解説

資料
 1 医師国家試験出題基準(平成21年度版)
 2 医学教育モデル・コア・カリキュラム(平成19年度改訂版)

索引

開く

教育に奮闘中の執筆陣による,新鮮で整理された内容
書評者: 笠井 清登 (東大大学院教授・精神医学)
 精神医学は,ライフステージに沿って,人間の精神機能の失調である精神疾患を修復し,精神的な幸福の実現をめざす医学である。精神疾患は,一般人口における有病率が高く,その多くが人生早期に始まるため,疾病による社会的・経済的負担の主要因であり,ガン・生活習慣病と並ぶ三大国民病である。この克服をめざす精神医学は,その重要性にもかかわらず,日本の医学における位置付けは必ずしも高くなかった。しかし,卒後臨床研修制度の改革に伴い,すべての(来年度からは大多数の)医師が精神科研修を行うようになったことは大変喜ばしいことである。『標準精神医学 第4版』は,この要請に応えるものであり,現役の大学講座担当者を中心として,今まさに精神医学の卒前・卒後教育に奮闘している執筆陣による,新鮮で整理された内容は,これまでの日本の精神医学教科書になかった大きな特徴である。将来精神医学の道をめざすかどうかにかかわらず,すべての医学生・研修医に精神医学の素養を身につけてもらうことは,全人的な医療を行える医療人の育成という卒前・卒後臨床教育にとって極めて重要なミッションであり,それに対する執筆陣の静かで熱い情熱が感じられる。

 総論には,編者らの精神医学に対するバランスのとれた見識が述べられており,精神医学の教育に携わる立場の方々にもぜひ読んでいただき,明日からの教育活動に役立てていただきたい内容である。各論では,目を通していただければわかるように,どの章も,基本的知識から新しい知見まで,大変よくまとまっており,学ぶ側にとっては非常にわかりやすい。また,教える側にとっても,自分の普段使っている講義資料をブラッシュアップするのに役立つであろう。こうしてみると,本書のタイトルの「標準」には,バランスのとれた内容をわかりやすく述べ,日本の精神医学の卒前・卒後教育を,学ぶ側の身につける内容も,教える側の伝える内容も,標準化していきたいという,編者らの強い意図が込められているといえる。

 本書のような優れた教科書を編まれた関係者の方々の精神医学教育に対する熱意と見識に深く敬意を表するとともに,すべての医学生・研修医,そして精神医学教育者に本書をお薦めしたい。日本に近代精神医学をもたらした呉秀三は,「わが国十何万の精神病者は実にこの病を受けたるの不幸のほかに,この国に生まれたるの不幸を重ぬるものと言うべし」(1918)との言葉を残した。呉先生の深い悲しみの解決に本書が貢献することを切に願う。
学びやすさと斬新さ
書評者: 佐藤 光源 (東北福祉大大学院教授・精神医学)
 これまでの精神医学の教科書はどちらかというと難解な印象の専門書が多く,医学生や研修医,一般臨床家にとって読みやすく理解しやすいものは少なかった。しかし,この『標準精神医学(第4版)』には,精神医学は難解なものという既成概念を打ち破る斬新な工夫が凝らされており,それが本書の大きな特長となっている。

 初版は1986年に医学書院「標準教科書シリーズ」として上梓されたが,特定の学問的立場に偏らない標準的な内容で,医学生・研修医の要望に応えるものであり,さらに医師国家試験の参考書として役立つことをめざして編集された。この基本方針は版を重ねた今回も変わることはないが,この第4版はかなり大幅に改訂されている。

 それは,読み物的な色彩を持たせるという基本方針が加わって,とても読みやすくなったことである。それには編者とともに執筆担当者の多くが世代交代して若返ったことも関係しているようで,各章の初めに学習目標とキーワードを示し,章の終わりに重要事項を箇条書きで要約しているが,それらに目を通した後で本文を読むと一層理解しやすい。

 総論(207頁)は「精神医学とは」「精神機能とその異常」「精神発達」「精神医学的診察と診断」「精神科治療学」「コンサルテーション・リエゾン精神医学」「精神医療と社会」の7章で構成され,新しい知見を明解に解説している。重点箇所を太字で強調し,イラストを挿入して図表をわかりやすくしているだけでなく,例えば「精神医学とは何か」の項では,「精神医学にはロマンの香りがある」「精神医学は科学たりうるか」「精神科医という医者」という見出しで解説し,精神医学を身近に感じさせようと努力している。

 各論は12章(234頁)で,「神経症性障害と心身症」「パーソナリティ障害と行動異常」「ストレス反応と適応障害,反応性精神病」「統合失調症」「気分障害」「児童・青年期の精神疾患」「認知症」「器質性精神障害」「症状性精神障害と化学物質中毒などによる精神障害」「睡眠覚醒障害」「てんかん」「精神作用物質使用に伴う精神および行動の障害」を取り上げている。心身症,反応性精神病の位置付けには病因・病態を重視し,摂食障害にはライフステージを重視しているが,わかりやすさを優先したのだろう。

 本書の付録には医師国家試験精神科関連問題の解説がついており,国試対策にも役立つであろう。このほか「こころの病を描いた映画」のコラムを新設するなど,精神医学の面白さと奥行きの深さを伝えたいという編者の意欲がうかがえる。

 これからの精神医学・医療・福祉においては,精神障害への偏見・差別の解消が急務とされている。特に医療従事者間の内なるスティグマの解消には,医学教育の段階で適正な精神医学の知識を身につけることが肝要である。そうした意味でも,本書は精神医学への関心を深め,標準的な知識を身につけるのに好適であり,医学とその関連領域の教科書として推奨したい。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。