運動器外傷治療学
初期治療からリハビリまでを網羅した、整形外科に携わる医療者必読の1冊
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臨床で遭遇するさまざまな運動器外傷について、基本的な治療から、数々の整形外科治療手段を講じて高度な技術が要求される外傷治療まで、包括的、系統的にまとめたテキスト。救急現場での対応、骨折の整復と固定、リハビリテーションといった外傷治療の流れに即した目次立てで総論を学び、各論では各部位に特有の問題を多くのシェーマやX線写真、術者の経験を通して解説した、実践に役立つ1冊。
編集 | 糸満 盛憲 |
---|---|
発行 | 2009年05月判型:A4頁:616 |
ISBN | 978-4-260-00761-0 |
定価 | 35,200円 (本体32,000円+税) |
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序文
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序
運動器の外傷,特に骨関節外傷の治療の目標は,傷害された運動機能を遅滞なく受傷前の状態に回復させることです.そのために古くから多くの治療法が取り入れられてきました.骨折部を固定しておけば癒合することは,古代からよく知られていた事実であり,長いあいだ保存的治療が広く行われてきました.しかし,軟部組織を介して行われる外固定では骨折部に対する固定性は必ずしも十分なものではなく,遷延癒合や偽関節,変形癒合が多発しました.また,骨癒合までの長期間の外固定による関節拘縮,筋・骨の萎縮,循環障害による障害などが大きな問題となり,18世紀になって骨折に対する手術的な治療法が取り入れられるようになりました.骨接合術の先駆者たちの涙ぐましい努力は,20世紀に入って科学技術の進歩に支えられ,近代骨接合術としてやっと日の目を見るようになり急速に発展してきたのは周知のとおりです.
「整形外科は骨折に始まり骨折に終わる」とまで言われるように,運動器外傷の治療は整形外科の基本をなすものであるにもかかわらず,わが国の卒前・卒後の教育において,運動器外傷の教育が実際の症例をもとに包括的・系統的になされている大学はきわめて少ないのが現状です.近代骨接合術の導入以来,骨関節外傷に対する考え方は大きく変化し,現在も急速に進歩していますが,整復・固定・リハビリテーションの基本的な原則は古くから変わりはありません.このような中で,ごく基本的な骨折の治療から,数々の整形外科治療手段を駆使しなければならない,高度な技術を要する多発外傷や重度の軟部組織損傷を伴う骨関節の損傷までを治療する機会が増えています.個々の外傷を科学的な判断力を持って評価し,最も適切な治療法を選択してそれを正しく患者に適応するのが私たち外傷外科医に与えられた使命です.日進月歩の骨折の癒合過程に関する研究と診断・治療手段の発展に関する知識と技術を修得することを怠ってはならないでしょう.
この本は,北里大学医学部整形外科学の関係者のみによって執筆されたものです.私たちは救命救急センターを有していますので,日常生活における小さな外傷から交通事故や高所からの転落による重度の外傷まで,365日24時間対応で受け入れて治療に携わっており,病院開設以来,北里大学整形外科のすべてのスタッフは,一貫した方針のもとに外傷治療に当たっています.このような中,従来の方法に問題を感じて,それを解決するべく開発したいくつかのユニークな骨折治療機器についても紹介しています.この本は私たちの運動器外傷に対する考え方を紹介するものであると同時に,それに基づいた治療の実際をお示しするものです.
北里大学整形外科の根底に流れる骨折治療の考え方は,初代山本真教授,当時の真角昭吾助教授(大分医科大学名誉教授)らによって打ち立てられたものであり,教室のモットーである「小さくても創意を」のもと,後に続く私たちが引き継いできたすばらしい伝統であります.北里における髄内釘ねじ横止め法の開発以来,cylinder nail,unreamed nail などと続く新しい発想は先達の輝かしい業績であり,ずっと私たちの中に大きな誇りとして息づいています.偉大な先輩たちに敬意と感謝を申し上げたい.
骨折に関する基礎的な研究の進展によって,骨癒合過程に関する知識は著しく増えましたが,まだまだ解決されていない問題が山積しています.この本が外傷外科医を目指す若い医師たちの骨折に対する理解の助けとなり,研究の糸口になることを期待しています.
最後になりましたが,この本の企画から完成に至るまで,ご指導,ご協力を賜りました多くの方々に心からお礼を申し上げます.
2009年 桜をめでながら
糸満 盛憲
運動器の外傷,特に骨関節外傷の治療の目標は,傷害された運動機能を遅滞なく受傷前の状態に回復させることです.そのために古くから多くの治療法が取り入れられてきました.骨折部を固定しておけば癒合することは,古代からよく知られていた事実であり,長いあいだ保存的治療が広く行われてきました.しかし,軟部組織を介して行われる外固定では骨折部に対する固定性は必ずしも十分なものではなく,遷延癒合や偽関節,変形癒合が多発しました.また,骨癒合までの長期間の外固定による関節拘縮,筋・骨の萎縮,循環障害による障害などが大きな問題となり,18世紀になって骨折に対する手術的な治療法が取り入れられるようになりました.骨接合術の先駆者たちの涙ぐましい努力は,20世紀に入って科学技術の進歩に支えられ,近代骨接合術としてやっと日の目を見るようになり急速に発展してきたのは周知のとおりです.
「整形外科は骨折に始まり骨折に終わる」とまで言われるように,運動器外傷の治療は整形外科の基本をなすものであるにもかかわらず,わが国の卒前・卒後の教育において,運動器外傷の教育が実際の症例をもとに包括的・系統的になされている大学はきわめて少ないのが現状です.近代骨接合術の導入以来,骨関節外傷に対する考え方は大きく変化し,現在も急速に進歩していますが,整復・固定・リハビリテーションの基本的な原則は古くから変わりはありません.このような中で,ごく基本的な骨折の治療から,数々の整形外科治療手段を駆使しなければならない,高度な技術を要する多発外傷や重度の軟部組織損傷を伴う骨関節の損傷までを治療する機会が増えています.個々の外傷を科学的な判断力を持って評価し,最も適切な治療法を選択してそれを正しく患者に適応するのが私たち外傷外科医に与えられた使命です.日進月歩の骨折の癒合過程に関する研究と診断・治療手段の発展に関する知識と技術を修得することを怠ってはならないでしょう.
この本は,北里大学医学部整形外科学の関係者のみによって執筆されたものです.私たちは救命救急センターを有していますので,日常生活における小さな外傷から交通事故や高所からの転落による重度の外傷まで,365日24時間対応で受け入れて治療に携わっており,病院開設以来,北里大学整形外科のすべてのスタッフは,一貫した方針のもとに外傷治療に当たっています.このような中,従来の方法に問題を感じて,それを解決するべく開発したいくつかのユニークな骨折治療機器についても紹介しています.この本は私たちの運動器外傷に対する考え方を紹介するものであると同時に,それに基づいた治療の実際をお示しするものです.
北里大学整形外科の根底に流れる骨折治療の考え方は,初代山本真教授,当時の真角昭吾助教授(大分医科大学名誉教授)らによって打ち立てられたものであり,教室のモットーである「小さくても創意を」のもと,後に続く私たちが引き継いできたすばらしい伝統であります.北里における髄内釘ねじ横止め法の開発以来,cylinder nail,unreamed nail などと続く新しい発想は先達の輝かしい業績であり,ずっと私たちの中に大きな誇りとして息づいています.偉大な先輩たちに敬意と感謝を申し上げたい.
骨折に関する基礎的な研究の進展によって,骨癒合過程に関する知識は著しく増えましたが,まだまだ解決されていない問題が山積しています.この本が外傷外科医を目指す若い医師たちの骨折に対する理解の助けとなり,研究の糸口になることを期待しています.
最後になりましたが,この本の企画から完成に至るまで,ご指導,ご協力を賜りました多くの方々に心からお礼を申し上げます.
2009年 桜をめでながら
糸満 盛憲
目次
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総論
第1章 骨折と骨折治療
A.骨折治療の歴史と治療の基本的考え方
B.骨の構造と恒常性維持機構
C.骨折の治癒過程
第2章 外傷患者の救急管理
A.初期評価と全身管理
B.根本的治療の計画
第3章 開放骨折の(初期)治療
第4章 骨折
A.四肢の骨折の種類とバイオメカニクス
B.骨折の症状,診断
C.骨折の分類
D.急性期合併症・副損傷
E.遅発性合併症
第5章 骨折の治療法
A.骨折の整復法
B.骨折の固定法
C.遷延癒合と偽関節の治療法
D.外傷性骨髄炎の治療
第6章 運動器外傷のリハビリテーション
第7章 関節部損傷
第8章 靱帯損傷・腱損傷
第9章 小児の骨折と骨端線損傷
第10章 高齢者の骨折
第11章 脊椎・脊髄損傷
A.脊椎・脊髄の解剖
B.脊髄損傷
C.胸・腰椎損傷
D.脊椎・脊髄損傷の治療法
各論
第1章 肩甲帯の骨折・脱臼
A.鎖骨骨折
B.胸鎖関節脱臼
C.肩鎖関節脱臼
D.肩甲骨骨折
第2章 上肢の骨折・脱臼
A.外傷性肩関節脱臼・脱臼骨折
B.上腕骨近位部骨折
C.上腕骨骨幹部骨折
D.成人の肘関節部骨折・脱臼
E.小児の肘関節周囲骨折・脱臼
F.前腕骨骨折・脱臼
G.手根骨骨折・手指骨折・脱臼
第3章 骨盤・寛骨臼の外傷
A.骨盤の外傷
B.寛骨臼の外傷
第4章 下肢の外傷
A.大腿骨近位部骨折
B.小児の大腿骨近位部骨折
C.大腿骨骨幹部骨折
D.大腿骨遠位部(顆部・顆上部)骨折
E.膝蓋骨骨折
F.膝関節骨軟骨骨折
G.外傷性膝関節脱臼
H.膝関節靱帯損傷
I.大腿四頭筋損傷と膝蓋腱損傷
J.脛骨近位部骨折
K.下腿骨骨幹部骨折
L.足関節骨折(果部骨折)
M.下腿遠位部骨折(pilon骨折)
N.足関節捻挫,靱帯損傷,脱臼
O.足根骨骨折・脱臼
P.前足部骨折・脱臼
Q.アキレス腱損傷
資料
索引
第1章 骨折と骨折治療
A.骨折治療の歴史と治療の基本的考え方
B.骨の構造と恒常性維持機構
C.骨折の治癒過程
第2章 外傷患者の救急管理
A.初期評価と全身管理
B.根本的治療の計画
第3章 開放骨折の(初期)治療
第4章 骨折
A.四肢の骨折の種類とバイオメカニクス
B.骨折の症状,診断
C.骨折の分類
D.急性期合併症・副損傷
E.遅発性合併症
第5章 骨折の治療法
A.骨折の整復法
B.骨折の固定法
C.遷延癒合と偽関節の治療法
D.外傷性骨髄炎の治療
第6章 運動器外傷のリハビリテーション
第7章 関節部損傷
第8章 靱帯損傷・腱損傷
第9章 小児の骨折と骨端線損傷
第10章 高齢者の骨折
第11章 脊椎・脊髄損傷
A.脊椎・脊髄の解剖
B.脊髄損傷
C.胸・腰椎損傷
D.脊椎・脊髄損傷の治療法
各論
第1章 肩甲帯の骨折・脱臼
A.鎖骨骨折
B.胸鎖関節脱臼
C.肩鎖関節脱臼
D.肩甲骨骨折
第2章 上肢の骨折・脱臼
A.外傷性肩関節脱臼・脱臼骨折
B.上腕骨近位部骨折
C.上腕骨骨幹部骨折
D.成人の肘関節部骨折・脱臼
E.小児の肘関節周囲骨折・脱臼
F.前腕骨骨折・脱臼
G.手根骨骨折・手指骨折・脱臼
第3章 骨盤・寛骨臼の外傷
A.骨盤の外傷
B.寛骨臼の外傷
第4章 下肢の外傷
A.大腿骨近位部骨折
B.小児の大腿骨近位部骨折
C.大腿骨骨幹部骨折
D.大腿骨遠位部(顆部・顆上部)骨折
E.膝蓋骨骨折
F.膝関節骨軟骨骨折
G.外傷性膝関節脱臼
H.膝関節靱帯損傷
I.大腿四頭筋損傷と膝蓋腱損傷
J.脛骨近位部骨折
K.下腿骨骨幹部骨折
L.足関節骨折(果部骨折)
M.下腿遠位部骨折(pilon骨折)
N.足関節捻挫,靱帯損傷,脱臼
O.足根骨骨折・脱臼
P.前足部骨折・脱臼
Q.アキレス腱損傷
資料
索引
書評
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整形外科医が身につけるべき外傷治療の知識を網羅
書評者: 松下 隆 (帝京大教授・整形外科学)
本書の帯には,「整形外科医である以上,『外傷治療』は外せない」と書いてある。ところが,編者の糸満教授が序文に書いておられるように,「運動器外傷の教育が実際の症例をもとに包括的・系統的になされている大学はきわめて少ない」。
本書を執筆された北里大学整形外科学教室はその数少ない「外傷に取り組んでいる教室」であり,主任教授である糸満先生は日本骨折治療学会の初代理事長を務められ,日本の骨折治療の進歩に尽力された先生である。先生が総論の冒頭に書いておられる「骨折治療の歴史と治療の基本的考え方」は骨折治療の進歩がわかりやすく整理されており,現在行われている治療のコンセプトを理解したり,骨折治療をどのように進歩させていけばよいかを考えるのにとても役立つ内容となっている。執筆陣は北里大学整形外科学教室出身の15名であり,この人数でこれほどの内容の書籍を執筆するのは大変な作業であったことと思う。その能力と努力とに敬意を表したい。
さて,多くの先進国では外傷患者を集め,集中的に治療する外傷センターが整備されている。そのような国では症例も専門医も集約されているので,外傷の治療は外傷専門医のみが行うシステムが確立している。そして外傷センターでは極めて効率よく短期間に外傷治療の教育を行うことができる。しかし,外傷センターが整備されていない日本では,外傷患者が多くの病院に分散し,ほぼすべての整形外科医が外傷の治療にあたらざるを得ない。その結果,骨折治療の教育をすべての整形外科医に対して行わなければならないのが現状である。
教育の内容は,大きく知識と技術とに分けられる。技術については,すべての整形外科医が難しい骨折を治療する技術を身につける必要はなく,症例数が多く治療手技が比較的容易な骨折を確実に治療する技術を身につければよいと考える。ただし,知識については難治骨折も含めてすべての知識を身につけ,自分が手術してよい骨折と,専門家に転送すべき骨折とを見極められる能力を身につけておかねばならない。
本書はすべての整形外科専門医が身につけておくべき外傷治療の知識を網羅した書である。この書が一人でも多くの若い整形外科医に読まれ,日本の外傷教育に役立つことを願っている。
整形外科医の必読書
書評者: 鳥巣 岳彦 (九州労災病院長)
このたび,医学書院より2009年5月刊行の『運動器外傷治療学』の書評を依頼された。編集者の糸満盛憲教授は日本骨折治療学会の前理事長である。白い表紙に赤の帯が付いたかなり大きな書籍である。帯には“整形外科医である以上,外傷治療は外せない”“この一冊で,臨床で遭遇するさまざまな運動器外傷に対する治療法を包括的,系統的に学べる”と書いてあった。色彩鮮やかで立体感があるイラストがまず正直に私を魅了した。
表題の“運動器”という呼称は,整形外科学の同義語として,ようやく一般に認知された感がある。「Bone and Joint Decade」を直訳した「骨と関節の10年」を「運動器10年」に改称したのは,元厚生省事務次官の幸田正孝氏の示唆に基づくと越智隆弘先生が懐古しておられる。2010年から始まる新たな“健康日本21”という施策に“運動器”という用語が盛り込まれるとの情報も喜ばしい。
まず第1章の“骨折治療の歴史と治療の考え方”を読んでみた。骨折治療学の変遷を理解しやすく,読み応えがある。ギプス包帯法が西南戦争で活用されながら,衛生兵の技術的未熟さで成績がはかばかしくなく以後しばらく普及しなかったとある。このことは現在の日常診療でもいえることで,安全で効果的なギプス包帯法には整形外科医の局所機能解剖を熟知した巧みな技法が必要である。
この書籍の要所要所に挿入された200字程度のコラムも題名が面白く,先人の豊かな着想を気楽に学べる利点がある。コラム欄の企画を取り入れたもくろみは見事に成功している。挿図の解説,Pitfall,Pointを読むだけでもこつが学べる。
医学生が整形外科外傷で骨折・脱臼・靭帯損傷を思い浮かべるのは納得できる。しかし運動器外傷の専門医をめざすならば,軟部組織である血管,神経,腱,皮膚欠損の修復や再建の基本的手技程度は修練していて欲しい。この書籍では40頁にわたり外傷患者の救急管理や軟部組織の修復法の基本が解説してあり,勉強になる。
最近,救急救命センターが主だった病院に次々と設置されているが,生命の蘇生術に終始し,多くを占める運動器外傷患者が手厚い治療を受けられず機能低下のままで退院を余儀なくされている。そのため外傷センターの整備が喫緊の課題であるとの動きも活発化している。整形外科医の積極的な取り組みが期待される。
この書籍は,整形外科医すべての必読の書であるといえる。ぜひ,ひもといて適切な治療に活用してほしいと願い書評を書かせていただいた。
書評者: 松下 隆 (帝京大教授・整形外科学)
本書の帯には,「整形外科医である以上,『外傷治療』は外せない」と書いてある。ところが,編者の糸満教授が序文に書いておられるように,「運動器外傷の教育が実際の症例をもとに包括的・系統的になされている大学はきわめて少ない」。
本書を執筆された北里大学整形外科学教室はその数少ない「外傷に取り組んでいる教室」であり,主任教授である糸満先生は日本骨折治療学会の初代理事長を務められ,日本の骨折治療の進歩に尽力された先生である。先生が総論の冒頭に書いておられる「骨折治療の歴史と治療の基本的考え方」は骨折治療の進歩がわかりやすく整理されており,現在行われている治療のコンセプトを理解したり,骨折治療をどのように進歩させていけばよいかを考えるのにとても役立つ内容となっている。執筆陣は北里大学整形外科学教室出身の15名であり,この人数でこれほどの内容の書籍を執筆するのは大変な作業であったことと思う。その能力と努力とに敬意を表したい。
さて,多くの先進国では外傷患者を集め,集中的に治療する外傷センターが整備されている。そのような国では症例も専門医も集約されているので,外傷の治療は外傷専門医のみが行うシステムが確立している。そして外傷センターでは極めて効率よく短期間に外傷治療の教育を行うことができる。しかし,外傷センターが整備されていない日本では,外傷患者が多くの病院に分散し,ほぼすべての整形外科医が外傷の治療にあたらざるを得ない。その結果,骨折治療の教育をすべての整形外科医に対して行わなければならないのが現状である。
教育の内容は,大きく知識と技術とに分けられる。技術については,すべての整形外科医が難しい骨折を治療する技術を身につける必要はなく,症例数が多く治療手技が比較的容易な骨折を確実に治療する技術を身につければよいと考える。ただし,知識については難治骨折も含めてすべての知識を身につけ,自分が手術してよい骨折と,専門家に転送すべき骨折とを見極められる能力を身につけておかねばならない。
本書はすべての整形外科専門医が身につけておくべき外傷治療の知識を網羅した書である。この書が一人でも多くの若い整形外科医に読まれ,日本の外傷教育に役立つことを願っている。
整形外科医の必読書
書評者: 鳥巣 岳彦 (九州労災病院長)
このたび,医学書院より2009年5月刊行の『運動器外傷治療学』の書評を依頼された。編集者の糸満盛憲教授は日本骨折治療学会の前理事長である。白い表紙に赤の帯が付いたかなり大きな書籍である。帯には“整形外科医である以上,外傷治療は外せない”“この一冊で,臨床で遭遇するさまざまな運動器外傷に対する治療法を包括的,系統的に学べる”と書いてあった。色彩鮮やかで立体感があるイラストがまず正直に私を魅了した。
表題の“運動器”という呼称は,整形外科学の同義語として,ようやく一般に認知された感がある。「Bone and Joint Decade」を直訳した「骨と関節の10年」を「運動器10年」に改称したのは,元厚生省事務次官の幸田正孝氏の示唆に基づくと越智隆弘先生が懐古しておられる。2010年から始まる新たな“健康日本21”という施策に“運動器”という用語が盛り込まれるとの情報も喜ばしい。
まず第1章の“骨折治療の歴史と治療の考え方”を読んでみた。骨折治療学の変遷を理解しやすく,読み応えがある。ギプス包帯法が西南戦争で活用されながら,衛生兵の技術的未熟さで成績がはかばかしくなく以後しばらく普及しなかったとある。このことは現在の日常診療でもいえることで,安全で効果的なギプス包帯法には整形外科医の局所機能解剖を熟知した巧みな技法が必要である。
この書籍の要所要所に挿入された200字程度のコラムも題名が面白く,先人の豊かな着想を気楽に学べる利点がある。コラム欄の企画を取り入れたもくろみは見事に成功している。挿図の解説,Pitfall,Pointを読むだけでもこつが学べる。
医学生が整形外科外傷で骨折・脱臼・靭帯損傷を思い浮かべるのは納得できる。しかし運動器外傷の専門医をめざすならば,軟部組織である血管,神経,腱,皮膚欠損の修復や再建の基本的手技程度は修練していて欲しい。この書籍では40頁にわたり外傷患者の救急管理や軟部組織の修復法の基本が解説してあり,勉強になる。
最近,救急救命センターが主だった病院に次々と設置されているが,生命の蘇生術に終始し,多くを占める運動器外傷患者が手厚い治療を受けられず機能低下のままで退院を余儀なくされている。そのため外傷センターの整備が喫緊の課題であるとの動きも活発化している。整形外科医の積極的な取り組みが期待される。
この書籍は,整形外科医すべての必読の書であるといえる。ぜひ,ひもといて適切な治療に活用してほしいと願い書評を書かせていただいた。
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