高次脳機能障害学

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言語聴覚士を目指す学生のための教科書シリーズの1冊。視覚・聴覚認知の障害、行為障害、記憶障害など高次脳機能障害、さらに認知症、外傷による障害も網羅したうえで、高次脳機能障害の評価、認知リハビリテーションの実際も具体的に解説した。本書は初学者に必要な基礎的解説はもちろん、臨床の視点までも網羅した総合的なテキストであり、第一線の執筆陣が明確な筆致で書き下ろした、困ったときに頼りになる1冊でもある。
シリーズ 標準言語聴覚障害学
シリーズ監修 藤田 郁代
編集 藤田 郁代 / 関 啓子
発行 2009年03月判型:B5頁:260
ISBN 978-4-260-00766-5
定価 4,950円 (本体4,500円+税)
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 高次脳機能障害は,運動麻痺や感覚・知覚障害によらない言語,動作,認知,記憶などの障害であり,脳病変によって生じる.失語症も高次脳機能障害のひとつであるが,失語症は本シリーズでは別に1冊をなしているので,本書では失語症を除く障害を取り上げている.
 高次脳機能障害には,失認,視空間障害,失行,記憶障害,前頭葉症状など多様な障害があり,いずれもが患者の日常生活に多大な影響を及ぼす.ところが,高次脳機能障害は「目に見えない障害」であるため家族や周囲の方々に理解されにくく,専門的対応が遅れてしまうことが多い.言語聴覚士はわが国で早期から高次脳機能障害に専門的に対応し,臨床のみならず研究に取り組んできた職種のひとつである.
 高次脳機能障害の臨床の第一歩は,それぞれの障害を評価・診断し,障害構造と発現メカニズムについて検討することである.本書では,高次脳機能障害の病態と発現メカニズムおよび評価・診断法にかなりのページを割り当て,基本概念から最先端の理論・技法までくわしく解説した.また,障害像と評価・診断・治療のプロセスがイメージしやすいように,各障害について事例を豊富に提示しわかりやすく解説した.
 治療とリハビリテーションについては,現在,さまざまな観点からのアプローチが試みられているが,まだ仮説の段階にあり,今後,科学的検証を必要とするものが少なくない.本書では,基本概念と理論的枠組みをていねいに解説し,各種の治療理論と技法については現在の臨床で用いられている主要なものを取り上げた.これらの中には,適用や効果について科学的検証が急がれるものも含まれているが,いずれも最前線の臨床現場で創出されたものであり,今後の臨床および研究の手がかりを十分に与えてくれるであろう.
 本書は,言語聴覚士を志す学生のテキストとなることを念頭において著されており,内容は基本的知識から最先端の情報までを含んでいる.本書は初学者のほか,専門分野の新しい知識を得たいと願っている言語聴覚士,関連職種,近接領域の学生や研究者にも役立つことと思われる.執筆者は,高次脳機能障害に関する研究や臨床に第一線で取り組んでこられた医師,言語聴覚士,近接領域の研究者であり,本書にはこれらの方々の長期にわたる臨床経験に裏打ちされた深い洞察と臨床上のヒントが随所に散りばめられている.本書をお読みになれば,高次脳機能障害の臨床と研究,特に治療とリハビリテーションの地平が広がりつつあることを実感していただけるであろう.
 最後に,貴重な事例を提示してご執筆いただいた方々に心から感謝申し上げたい.同時に,刊行に関し,ご尽力いただいた医学書院編集部に深謝申しあげる.

 2009年3月
 編集
 藤田郁代
 関 啓子

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第1章 総論
 1 高次脳機能障害
 2 脳と高次機能
第2章 視覚認知の障害
 1 視知覚障害
 2 視覚失認
第3章 視空間障害
 1 半側空間無視
 2 地誌的見当識障害
 3 バリント症候群
 4 視覚性運動失調と視覚消去現象
 5 構成障害
第4章 聴覚認知の障害
第5章 触覚認知の障害
 1 触覚失認
第6章 身体意識・病態認知の障害
 1 ゲルストマン症候群
 2 病態失認
第7章 行為の障害
第8章 記憶の障害
 1 記憶の基本概念と分類
 2 症状
 3 原因と発生メカニズム
 4 記憶障害の種類
 5 評価とリハビリテーション
第9章 前頭葉と高次脳機能障害
第10章 失算
第11章 脳梁離断症状
第12章 認知症
第13章 脳外傷
 1 脳外傷とは
 2 脳外傷などによる高次脳機能障害
 3 コミュニケーション障害
第14章 高次脳機能障害の評価
第15章 認知リハビリテーション

参考図書
索引

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偏りのない,スタンダードに徹した教科書
書評者: 石合 純夫 (札幌医大教授・リハビリテーション医学)
 高次脳機能障害の臨床の基本は症候学である。時代が変わって疾病や外傷の種類と頻度が変化したといっても,脳損傷によって現れる症状は20世紀初頭と違いはない。20世紀初頭は,認知機能に関する巣症状を追求する神経心理学,あるいは,症状としての高次脳機能障害の基礎が築かれた時代である。この時代の先人の考え方は,脈々と今日まで流れ続けている。一方で,画像診断をはじめとしてさまざまな新しいアプローチがこの領域でも積み重ねられてきている。しかし,高次脳機能障害についていえば,症候学こそが本流であることに変わりはない。すなわち,古典症候・理論と新しい考え方の融合を日々の臨床の中で考えていくことが欠かせない。

 さて,本書はその序に記されたように,「言語聴覚士を志す学生のテキスト」として著された。教科書とはいかにあるべきか?─は難しい問題であるが,本書は一つのすっきりとした解答を示しているように思える。最初に述べたように,高次脳機能障害学はまさに「考える学問」であるが,その重たい歴史はともかくとして,今日の症候学の基本をスマートにまとめた一冊となっている。執筆陣は,いずれも学会などで理論を戦わせてきた研究・臨床のエキスパートである。しかし,教育者として,学生が高次脳機能障害をどのように理解すべきか,また,資格を取得して間もない言語聴覚士が臨床に立ち向かうときに何から取り掛かればよいか,について明確に述べることに徹しているところが興味深い。この領域の人間はとかくこだわりが強いところがあり,編著であってここまでスタンダードに徹して統一されている書は珍しい。

 症候から脳を探る神経心理学の醍醐味とは別の路線を行く,「こう考えたい!」的なこだわりを引きずらない「教科書」として,本書はお勧めできる。書名は「高次脳機能障害」でもよく,「学」は,あくまでも言語聴覚士養成の履修科目の一つとして付されたものと受け取れる。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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