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こころの扉が開く
ひきこもり状態にある本人と家族への訪問支援

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ひきこもり支援の要となる「訪問支援」に焦点を当てた一冊。中心的な手法でありながら、具体的なノウハウが体系化されてこなかった訪問支援について、熟練支援者が持つ暗黙知を徹底的に解体。それを「7つのステップ」として再構築し、提示する。ひきこもり支援の質を底上げする、これまでにない画期的な手引書。

船越 明子 / 斎藤 まさ子
発行 2026年04月判型:A5頁:144
ISBN 978-4-260-06525-2
定価 2,750円 (本体2,500円+税)

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はじめに

 ひきこもり支援の現場でこのような声を聞くことはないだろうか。「訪問しても本人に会えないから親と話をしている」「本人の部屋の前でドア越しに声をかけているけど、返事はない」「行っても会えないからやめた」「相談事例が増えてきて、訪問まで手が回らない」

訪問しても会えない
 政府がひきこもり支援でのアウトリーチ強化を掲げて数年が経った頃、現場の支援者から、「相談窓口に来てくれないから訪問を始めた」「親がとにかく自宅に来てくれと言う」といった声が私のもとにも聞こえてくるようになった。
 精神科訪問看護に携わった経験がある私は、ひきこもりの訪問支援に強い関心を持つようになった。そこで研修会や事例検討会で各地を訪れる度に、訪問をしているか、どんな人を対象にしているか、ひきこもっている本人に会えているのか聞いてみた。その返事は冒頭の通り。全国どこでも、似たような状況だ。訪問してもひきこもっている本人には会えないらしい。
 私がひきこもり界隈に足を踏み入れて約20年、ようやくあちこちで訪問支援が実施されるようになったが、どうやらうまくいっていないようだ。
 ひきこもり支援は、ひきこもり状態にある本人が当初から相談に訪れることはまれであるため、多くは家族支援から開始される。家族を支援していく中で、ひきこもり状態にある本人への相談が開始され、居場所などの中間的・過渡的な社会参加の場への通所を経て、就労支援へと進んでいく。
 しかし、ひきこもり状態にある本人に会えずに、家族支援のみが漫然と長期化してしまうことも少なくない。相談支援の窓口に訪れるのを待つのではなく、ひきこもり状態にある人の家庭や活動の場に足を運ぶ訪問支援の有効性が指摘されているが、マンパワーや支援者のスキルの課題などから普及が進んでいない。
 本書のねらいは、いつ、どのように訪問支援を行えば効果的かを解き明かすことである。訪問支援は、支援者にとって負担が大きいからこそ、切り札としてどう使うかはよく考えておく必要がある。そこで、本書ではどのような段階を踏まえて、どのように訪問支援を行っていけば効果的なのか、熟練支援者の実践知を交えながら解説していきたい。

訪問支援の実践知──熟練支援者は知っている!
 私は、訪問という支援方法が有効であると直感的には思っていた。自分の病気を受け入れようとしない人でも、根気よく訪問を続けて信頼関係を築くことで、その人らしい地域生活を継続していけることを、私は精神科訪問看護の経験を通して知っていた。そして、ひきこもり支援で名前が挙がる支援者たちのほとんどは「訪問もいとわない」スタイルなのだ。つまり、一部の熟練者たちは、どのように訪問支援を行えばひきこもっている本人の社会参加につながるかを知っているのである。
 こうして、私はひきこもりの熟練支援者に訪問支援の話を聞くという研究に着手することになった。

21名の熟練支援者たち
 北海道から沖縄まで熟練支援者を探し、全国を飛び回った。本書の登場人物は、ひきこもりにおける訪問支援の経験が2年以上あり、熟練者としてひきこもり支援に詳しい専門家や実践家から推薦され、私のインタビュー調査に協力してくれた21名の熟練支援者である。
 彼らの背景は、ひきこもり地域支援センターの相談員、保健センターの保健師、若者支援をしている民間団体の理事、精神科診療所の心理士、精神科病院のソーシャルワーカー、訪問看護ステーションの看護師、社会福祉協議会の職員、ひきこもりの家族会の方、ピアサポーターと非常に多様である。21名のうち13名が男性で、年齢は31~75歳(平均50.1歳)であった。実際の訪問支援の経験は2~25年(平均12年)であった。
 インタビューは27~190分(平均108分)で、Grounded Theory Approachという質的分析の手法を用いて理論化を行った。研究の詳細はすでに発表されている学術論文1)を参照されたい。

ひきこもりを超えて社会的孤立状態にある人を支援する専門職へ
 読者としては、ひきこもりだけでなく、社会的孤立状態にある人への支援に関わる専門職も想定している。2024年4月の孤独・孤立対策推進法の施行に象徴されるように、さまざまな形で社会的に孤立した人々の存在が注目されるようになった。彼らは、不登校、ニート、貧困、発達障害グレーゾーン、ヤングケアラー、介護離職、セルフ・ネグレクト、孤独死などと表現され、「ひきこもり」と密接な関係がある。実際に、ひきこもり支援には、外に出られるかどうかというよりも、社会から孤立し、居場所を失った人たちが訪れている。そして、彼らは、共通して、自ら支援を求めて来所することが極めて困難なのである。本書に登場する支援者たちは、ひきこもりの有無を超えて、社会的孤立状態にある人たちを支援の対象として受け入れていた。

本書の構成
 第I部は、ひきこもり支援における訪問支援の位置付けと訪問支援の展開の全体像をお示しする。第II部は、熟練支援者の訪問支援のノウハウを7つのステップに分けて具体的に紹介する。最後に、第III部では困難な事例への7つのステップの応用や、支援を受けた当事者から見た訪問支援について説明する。特に、第13章では、訪問支援を受けることによって自分に合った働き方を見出すまでの当事者の心理的変化を、共同研究者の斎藤まさ子さんがひきこもり経験者3名のインタビューをもとに描いてくれた。実際にひきこもりを経験した人の声は、心に響く。

熟練者による支援のリアル
 人口2万人程度の小さなまちの保健師は、この調査への協力について下記のように語ってくれた。

 “このまちは、一人暮らしになっても一人ぼっちと感じさせないような、ここに住んでよかったなと思えるあたたかい地域を目指しています。ひきこもっていたとしても、安心して生活できるような、そのための支えになりたいと思っているんです。”

 また、ひきこもりの家族会の訪問支援活動について、社会福祉士でもある家族会の代表は下記のように話した。

 “私の訪問支援は、普通の支援者が行うものとは違うんですよ。私は、ひきこもりの子を持つ親だっていうことです。ピアってことですよね。ですから、子どもの考えることや親の気持ちがある程度分かるので、自分の子をモデルにした支援の教科書みたいなのが頭にあるんです。”

 ひきこもり支援には、専門職だけでなくさまざまな地域の人が関わる。公的な支援が全くなかった時代から訪問支援を地道に続けてきた親の会の活動や自らひきこもった経験を活かした当事者活動から学べることも多い。
 本書では、このインタビュー調査で明らかとなった熟練支援者の訪問支援のノウハウを彼らの「語り」を使って紹介していく。語りの引用にあたっては、個人が特定されないよう文脈を損なわない範囲で一部改変するなどの配慮を行った。特定の事例や自治体の支援内容についても、その全体像は明らかにしていない。それでも、支援者の語りは十分な説得力で、研究から導き出された実践知をリアルに読者に伝えてくれるだろう。

 2026年2月
 船越明子


1) Funakoshi A, Saito M, Yong R, et al: Home visiting support for people with hikikomori (social withdrawal) provided by experienced and effective workers.
Int J Soc Psychiatry, 68(4): 836-843, 2022.

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はじめに

第I部 切り札としての訪問支援
 第1章 社会的孤立としてのひきこもり
  ひきこもりの基礎知識
  なぜ支援につながりにくいのか
  問題の本質は「社会的孤立」にある
  これからの支援が目指すもの
 第2章 ひきこもり支援における訪問支援の位置付け
  ひきこもり支援のプロセス──実は裏道もある?
  「訪問支援」というカードをいつ切るか
  誰と支えるか──ネットワークによる支援体制
 第3章 自分なりの社会参加のあり方を見出す支援
  支援の全体像──自分なりの社会参加へ至る7つのステップ
  支援の序盤──絶望から「困りごと」を取り戻すまで
  支援の中盤──特定の支援者から「支援チーム」と「仲間」へ
  支援の終盤──社会とのつながりを見守る

第II部 知っておきたい熟練支援のノウハウ──訪問支援の基本の7ステップ
 第4章 ステップ 1 ゴールまでの見通しを立てる
  暗闇の中での親子の歩み
  熟練支援者は「暗闇」の中をどう進むか
   ✔︎ひきこもりの背景にある課題を見立てる
   ✔︎危機が切迫しているときは危機介入を判断する
   ✔︎本気で本人と向き合う力が家族にあるか見極める
   ✔︎支援全体における訪問支援の位置付けを明確にする
 第5章 ステップ 2 本人に働きかけるための環境を整える
   ✔︎本人または家族の危機に介入する
   ✔︎本人と家族の関係性を再構築するために家族を支援する
   ✔︎関係機関と情報を共有し、訪問支援のバックアップ体制を構築する
   ✔︎ひきこもっている自分に対する葛藤を喚起させる
 第6章 ステップ 3 会いたいというサインを送る
  「隠さない」ことから始まる信頼関係
  本人を支援に誘うタイミング
   ✔︎本人とつながるための訪問方法を考える
   ✔︎本人の興味があることを事前に調べて話題をつくっておく
   ✔︎訪問支援の開始を家族から提案してもらう
   ✔︎会えなくても定期的に訪問する
  支援が停滞したとき──家族相談が長期化する背景と次の一手
 第7章 ステップ 4 本人との接点を継続的なものにする
  本人と会えた、ここからが本当のスタート
   ✔︎次の訪問の同意を本人から得る
   ✔︎安心できる場をつくる
   ✔︎本人の生きづらさを受け止める
   ✔︎本人のニーズに合わせて支援の方向性を再設定する
   ✔︎キーパーソンとしての家族を支える
 第8章 ステップ 5 生活上の困りごとや希望に対応する
   ✔︎現在の希望や困りごとを見つける
   ✔︎希望を叶え、困りごとを解決する
   ✔︎支援のメリットを感じてもらう
 第9章 ステップ 6 活動範囲・関係性を拡大させる
  なぜ訪問は「短期決戦」なのか──次のステップへ進むべき時
   ✔︎自宅外で体験を共有する
   ✔︎関わる人を増やす
   ✔︎自分なりの社会とのつながり方の自己決定に伴走する
   ✔︎社会と再会するための道具的サポートを提供する
   ✔︎活動する楽しみや人の役に立つ喜びを感じてもらう
  社会との再会を果たす場──「居場所」が持つ意味
 第10章 ステップ 7 社会とのつながりが維持されるのを見守る
  訪問は卒業?──「役割の獲得」と「自己実現」
   ✔︎その人なりの社会とのつながりができたら訪問支援は終了する
   ✔︎後方支援をしながら見守る
  ひきこもり支援は地域づくり

第III部 訪問支援を極める
 第11章 さまざまな事例へのアレンジ
  当事者の年代によって異なる支援の方向性
  ケース別のアレンジ①──不登校
  ケース別のアレンジ②──8050世帯
  ケース別のアレンジ③──精神疾患が背景にある場合
 第12章 支援者に求められるもの
  支援者に求められるもの
  組織に求められるもの
 第13章 当事者から見た訪問支援──訪問支援を受けてから自分らしい働き方を見出すまでの心理的変化
  ひきこもり経験者の紹介
  心理的変化の流れ
  流れに沿った語りの紹介
  歩みを進めるための支援ポイント

おわりに
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