Facial Danger Zones 日本語版(フェイシャルデンジャーゾーン)[Web動画付]
手術・注入療法・非侵襲機器療法を安全に行うために
顔面への安全な施術に必要不可欠な解剖と手技を豊富なイラストと写真でまとめた実用書
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顔面の美容外科施術を安全に行うために必要不可欠な解剖と実際の手技を、豊富なイラストと写真でコンパクトにまとめた。美容外科医のみならず、美容皮膚科、審美歯科、形成外科、再建外科さらには顔面神経にかかわる耳鼻咽喉科や脳神経外科まで顔面にアプローチするすべての医師に役立つ実用書。
原書編集 | Rod J. Rohrich / James M. Stuzin / Erez Dayan / E. Victor Ross |
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監訳 | 宮脇 剛司 / 石田 勝大 |
訳者代表 | 西村 礼司 |
発行 | 2024年11月判型:A4頁:160 |
ISBN | 978-4-260-05739-4 |
定価 | 22,000円 (本体20,000円+税) |
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日本語版推薦の序/日本語版の序/序/献辞/謝辞
日本語版推薦の序
本書で述べられている顔貌の“若返り”のための治療法は,健康保険制度とはほぼ無縁で,医学部の教育でも取り扱われないが,このような願望や手法は古くから存在し,今日では健康であることと同様に人間のもつ根源的な欲求の1つに対応する医療分野である.
この本の原著をお読みになった東京慈恵会医科大学の宮脇剛司教授は,著者のRod J. Rohrichがその序文で述べているように,現在のように発展した顔貌の若返り法を安全に施行するには,相応の形成外科の経験と本書で記されているFacial Danger Zonesのことなどを熟知している必要があると思われ,そして,細かな解剖的表現は日本語に訳したほうが読みやすいと判断され,このたびの出版につながった.これはまさに英断で,今日の顔貌の若返り法を安全に施行する手引き書となることが期待される.
形成外科としての顔貌の若返り法は,この外科の開祖Gilliesが1930年代に完成させた皮弁法によるフェイスリフト手術に始まるとされる.このGillies法は,両頬に手のひらを置いて手を斜め上方向に引き上げたとき,加齢に伴って弛んだお肌が引き上がって,お顔が若いときの様子に一新するさまを手術に置き換えたような方法で,実際には,耳前部に置かれたフェイスリフト切開線から鼻唇溝に至る皮弁を剥離挙上し,引き上げ,余る皮弁を切開線上で切除して縫合する手法であった.
Gillies法は,Gilliesの弟子たちの間に受け継がれ,第二次世界大戦後,彼らがそれぞれの母国に帰国しこの方法でフェイスリフト手術を施行したので,当時のスタンダードとなった(筆者は1971年に,Gilliesの弟子のManchesterがなさるこの手術をニュージーランドで拝見したことがある).
その後,1970年頃までには,顔貌の老化に伴う変化は皮膚だけでなく,軟部組織や顔面骨の萎縮や変形なども加わった複合的な変形であるとの認識が広まるなか,さらなるリフト効果を求めて,Mario Gonzales-UlloaのEar Island法のようなトータルフェイスリフト手術時代へと向かった.
しかし,この時代までのフェイスリフト手術では,多少の工夫はあっても基本的には皮弁法なので,切開線から挙上された皮弁を強く引けばリフト効果は上がるが,このようにすれば,皮弁の血行が障害されて皮弁の部分壊死を招くといったジレンマがあった.
このようななか,Skoogは1970年頃から,耳前部の切開線から剥離挙上される皮弁を最小限にして,後にMitzらによってSMASと呼ばれることになるような皮下のこのシステムをリフトすることで,皮弁に緊張を与えることなく効果的な中顔面のフェイスリフトできる方法を模索し,1974年に自身の著書で示した.この手法はSkoog法あるいはSMAS法として世界中に広まった.
その後,SMAS法は数々の変法を生みながら発展し,より確実なフェイスリフト法を求めて1990年代にはこのSMASの裏側,すなわち顔面神経が走行する深さまで手術操作が及ぶようになった.
したがって,1990年以降の本格的フェイスリフト手術では,手術とかかわる顔面神経の解剖を正しく理解しながら行わないと患者の安全は守れなくなった.
2000年代頃からは,新鮮死体を用いた顔面の老化現象の研究が盛んになって,顔面の脂肪のコンポーネントや顔面の形態を保持している顔面保持靱帯の研究も進捗して,フェイスリフト手術はさらに進化し,かつてのSMASの存在を否定する意見も登場しながらさらに発展している.
1970年頃に探求の始まった老化に伴う顔面の軟部組織や骨の萎縮や変形に対しては,シリコーン注射やシリコーンプロテーゼの挿入などが用いられたが,これらが使用される機会は減って,次第に脂肪の注入移植法や各種のフィラーの注入法などが用いられるようになった.
これらの注入法は一見簡便に見えるが,誤って動脈に注入すれば塞栓を生じ,この結果,失明や鼻翼の壊死といった重大な合併症が生じることが,まれではあるが,知られているので,本書で解説されている脈学とフィラー注入の実際をマスターすることをお勧めする.
特にわが国では,終戦の混乱期にシリコーンオイルなる物質を注入する豊胸術や隆鼻術などが流行し,この結果があまりに酷く,社会問題化したこともあり,注入法には常に慎重であるべきである.今日では,厚生労働省が美容目的での使用を認めているフィラーが存在し,これに合わせて厚生労働省が承認するボトックス注射や各種レーザー機器も顔貌の若返り治療に利用することができる.
顔貌は,その“見た目”が機能で,社会生活のなかでは人の“自信”と関係するため,各種の若返り法は多くの方々の人生を豊かにするだろう.
2024年8月9日
元東京警察病院形成外科部長
日本美容外科学会名誉会員
銀座グランフォレクリニック院長
大森喜太郎
日本語版の序
“顔面の危険地帯”,人目を引く印象的なタイトルだ.危険地帯,すなわち重要な神経や血管の走行を知ることで,より安全に治療を提供することを目的に本書は出版された.初版のFacial Danger Zonesは1990年代初頭に流行したsub SMAS face liftに対する安全性への警鐘としてBrooke Seckelが20年以上前に出版した.2010年には次世代の形成外科医に向けて再版された.その後ヒアルロン酸に代表されるフィラーを用いた治療やボツリヌス毒素による表情筋の制御治療,さらにはLASER機器に代表されるエネルギーデバイスの発展など,低侵襲で新しい治療の選択肢が急速に普及してきた.その一方で,かつて経験したことのない失明などの重篤な合併症も散見されるようになった.本書はこれらの新しい医療技術に付随するリスクを補完するために,2020年にRod J. Rohrich,James M. Stuzin,Erez Dayan,E. Victor Rossがタイトルを変えずに内容を刷新して出版したものである.
外科医の仕事は人体の解剖を熟知しなければ成り立たない.外科医は手術の前に解剖書を読み,手術書を手にする.しかし実際の手術では,書物との違いに大いに戸惑い,時に手が止まってしまう.なぜなら,解剖書は解剖学者が書き記したもので,手術という航海の手順は示されていない.手術書は経験豊富な外科医が,手術で最も気を使う場面を中心に記述しているため,やはり目標地点までの到達方法が不十分となる.手術は皮膚の切開から目的部位までの剥離において幾度となく重要な構造体に直面し,その都度立ち止まり判断し決意して前進する.そのアプローチが特に難しいのが顔面であり,まさに本書の存在価値がここにある.本書は外科医の目線から顔面の神経と血管の走行について過去の論文や実際の解剖所見を交えて細やかに記述している.特に耳下腺を出た後の顔面神経が走行する深さについて,顔面の層構造との関係をもとに解説している.そして何度も解説が繰り返されて読者の頭に焼きついていく.まさに手術の実践書にふさわしい内容であり,読者の見たい場面は動画で確認できるようにも仕掛けられている.フィラーの注入操作においても血管内への注入を防ぐ手法が示されているが,危険部位を知り危険回避できる手技を習得することが安全への近道である.
さて,SMAS(superficial muscular and aponeurotic system)は本書の中で最も多用される用語で,SMASをどのように扱うかが本書の大きなテーマでもある.しかし,SMASの解剖学的構造には否定的な意見もある.この日本語版の序文の執筆と前後して,face lifterとして有名なMendelsonのチームから「SMASは実在するのか」と題された論文がPlastic and Reconstructive Surgery誌にpublishされ,2本の続報も掲載された.1976年のVladimir Mitzに端を発するSMASは,その後多くのface liftの論文で取り上げられ,50年近く経った今,その存在が議論されている.この議論によってSMASの定義がより明確になったが,しかし,本書の役割が薄れることはない.顔面の危険地帯である顔面神経,三叉神経,血管などの走行は解剖学的に不変であり,SMASという用語の外科的意義も変わらず,むしろSMAS議論によって組織の剥離方法や術式のコンセプトがより明確化されたからである.次の改訂の際にはSMASの明確な定義が追加されることであろう.
本書の想定読者は美容外科医であるが,美容皮膚科,審美歯科,形成外科,再建外科さらには顔面神経にかかわる耳鼻咽喉科や脳神経外科の医師にとっても,安全に手術や非手術療法を提供するうえで大いに役立つものと確信している.本書を通して顔面のさまざまな医療が普及すれば訳者一同これに勝る喜びはない.
謝辞
本書の翻訳にあたり著者であるRod J. Rohrichに橋渡しいただいたNorthwestern University Feinberg School of Medicine外科(形成外科専門)の山田朗教授,翻訳と用語に関して的確なアドバイスをいただいた銀座グランフォレクリニックの大森喜太郎先生に感謝申し上げます,また,翻訳を快く引き受けてくれた東京慈恵会医科大学形成外科学講座の医局員と同窓の先生方,耳鼻咽喉科学講座の山本裕教授,そして膨大な事務作業を捌いていただいた形成外科学講座秘書の内藤恩さん,蒲生原光代さんに感謝申し上げます.
表紙の薔薇の絵は,著名な現代画家である井上文太氏によるものです.“美しい薔薇には棘がある”──まさに本書の意図するところです.素晴らしい作品のご提供に心より感謝申し上げます.
2024年パリオリンピック,そして未曾有の酷暑の夏に
監訳者 宮脇剛司,石田勝大
訳者代表 西村礼司
序
なぜ『FACIAL DANGER ZONES』を刷新したのか? それはこのトピックに関する新たな文献を今まさに共有したいと感じたからです.
原点となる教科書は,20年以上前に神経学と美容外科という2つの専門医資格をもつDr. Brooke Seckelによって書かれました(Quality Medical Publishing,1994).Dr. Seckelが初版を執筆するきっかけは,1990年代初めに報告されたより積極的なSub-SMASフェイスリフトによって起こりうる顔面神経損傷への懸念でした.彼の教科書は,その時代に再建手術および顔面美容外科手術を行う外科医にとっての参考書となり,次世代の形成外科医のために2010年に再出版されました.
この10年間に美容外科手術と美容医療の世界は大きく変化しました.美容手技の世界的な需要は急速に増加し,それに伴って患者の安全性確保の必要性も高まっています.美容手術は今や外科的および非外科的な技術の両方を含み,さまざまな分野の医師によって実施されています.そして,この需要の増加に伴い,今までにないより深刻な合併症が増加していることにわれわれは気づいています.Dr. Seckelが『FACIAL DANGER ZONES』を執筆した頃には,フィラーの注入による失明について耳にすることはありませんでしたが,今では残念ながら頻繁に報告されています.形成外科研修では一般的に再建手術が重視される一方で,顔面解剖学の教育は表面的であり,顔面美容外科手術の微妙なニュアンスにはあまり時間が割かれていません.われわれの施設のレジデントはフェイスリフトよりも複雑な微細血管吻合による再建手術のほうが快適に行えるようですが,開業医になると研修期間に十分な教育を受けていない治療を患者に提供するのはよくあることです.本書の初版から20年が経った今も,患者の安全確保は依然として最優先事項であり,われわれの思いは『FACIAL DANGER ZONES』の最新情報を再定義することにあります.
多くの分野で専門家が美容施術を行うなかで,技術は変化し,治療の提供方法も進化しましたが,解剖学は不変です.われわれの視点からは,顔面の軟部組織解剖と血管解剖の3次元的な知識が,運動神経損傷,失明,組織虚血などの合併症回避の鍵と考えています.非侵襲機器やレーザーの普及も,これらの機器を使用する際の安全性の配慮と制約の理解が必要となります.
この本の目標は次の3つです.
▪ 顔面解剖の最適な知識は,顔面美容外科手術において最良かつ安全な結果を得るために不可欠です.これは特にフェイスリフト手術における顔面神経の複雑な解剖の際に必要となるもので,Dr. James Stuzinが解説します.
▪ 失明や皮膚欠損を含む重篤な合併症を予防しつつ,安全にフィラー注入を行うためには顔の血管の解剖学に関する知識を洗練し,明確にすることが重要です.ここはDr. Rod Rohrichが解説します.
▪ レーザーや超音波技術,radiofrequencyの最小侵襲技術による治療の限界や安全領域を明確にし,顔面頚部領域における治療を最適化することと,最大限の安全性の確保について,Dr. Erez Dayan とDr. Victor Rossが解説します.
『FACIAL DANGER ZONES』の執筆にあたっては,提示した解剖が正確であるか,顔面軟部組織の複雑な解剖がわかりやすく伝えられているかを確認するために解剖実習室に立ち戻りました.文章による説明ではわかりにくい複雑な内容については読者が簡単に理解できるように,解剖写真やイラストと短編動画を組み合わせて示しました.本の書式は知識を効率化するためのもので,動画や電子書籍とともに,本書で得た知識をもとに手術室や治療室の現場で,自信をもって安全に美容手技が実施できるように心から願っています(訳注:日本語版では電子書籍は付けていない).
美容医療手術を行う医師の責任は,結果の精度を高めることと患者の安全を確保することにあります.美容医学の芸術性は視覚的で直感的ですが,一貫した分析基盤は基本的かつ徹底的な解剖知識と,解剖と顔面形態の関係性の理解です.本書を通して読者が顔面軟部組織解剖を3次元的に理解し,手技の際にデンジャーゾーンに気づくように心から願っています.そして患者と医師の両者にとって,安全で満足のいく結果が得られるように心から願っています.
Rod J. Rohrich, MD
James M. Stuzin, MD
Erez Dayan, MD
E. Victor Ross, MD
献辞/謝辞
われわれはすべての患者の安全のためにこの本を捧げます.われわれのこの仕事によって臨床医が安全に目を向けるようになることを願っています.読者にとって本書は,本書が示した手技により最高の治療を提供できる最高の形成外科,皮膚科,顔面形成外科,眼形成外科の専門医になるための手引きとなるでしょう.
美容外科はあなたの患者と,彼らの安全および治療結果を最優先事項としています.本書はこの必要性に注目し,医師として有害事象を起こさない「Do No Harm(訳注:ヒポクラテスの誓いより)」という責任をもつことを使命としています.
日常診療において医療の実践を通じて,われわれがより優れた,より思いやりのある医師にとなる手助けをしてくれたすべての患者に,謝意と敬意を表します.
特に,本書の完成を手伝ってくれたスタッフ,われわれの長期的なアシスタント兼管理者であるDiane Sinn,われわれの偉大なThiemeのスタッフであるJudith Tomatと出版社のSue Hodgson,そしてこの素晴らしい本の各ページに専門知識を活かしたイラストを描いてくれたAmanda Tomasikiewiczに感謝します.
Rod J. Rohrich, MD
James M. Stuzin, MD
Erez Dayan, MD
E. Victor Ross, MD
目次
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日本語版推薦の序
日本語版の序
序
献辞/謝辞
Video Contents
執筆者一覧
I 顔面神経
1 顔面組織解剖の概要
2 顔面脂肪のコンパートメント
3 概要:顔面神経のデンジャーゾーン
4 顔面神経側頭枝
5 頬骨枝と頬筋枝
6 顔面神経下顎縁枝と頚枝の保護
7 大耳介神経
8 手技上の配慮:拡大SMAS剥離と外側SMAS切除/広頚筋開窓
II フィラーと神経調節因子
9 はじめに
10 デンジャーゾーン1──眉間領域
11 デンジャーゾーン2──側頭部領域
12 デンジャーゾーン3──口唇領域
13 デンジャーゾーン4──鼻唇溝領域
14 デンジャーゾーン5──外鼻領域
15 デンジャーゾーン6──眼窩下部領域
III エネルギーデバイス
16 アブレイティブレーザーの安全性を最大限に高める
17 ノンアブレイティブレーザーの安全性を最大限に高める
18 トリクロロ酢酸とジェスナー液を併用したケミカルピーリングの安全性
19 ラジオ波(RF)機器の安全性を最大限に高める
20 低温脂肪溶解法の安全性を最大限に高める
21 マイクロニードル法の安全性を最大限に高める
索引