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日本臨床細胞学会細胞診ガイドライン新報告様式準拠 口腔細胞診アトラス

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口腔がんの診断に欠かせない口腔細胞診の組織像・細胞像をコンパクトにまとめたアトラス。近年普及してきている液状化検体細胞診(liquid-based cytology; LBC)により採取した標本を豊富に掲載。良性・悪性の判断が難しい細胞像の判定について、この領域の第一人者が余すところなく解説する。内容は全編、日本臨床細胞学会の細胞診ガイドラインにて決められた新報告様式に準拠。

編集 田中 陽一 / 平井 康夫
発行 2023年10月判型:B5頁:144
ISBN 978-4-260-05348-8
定価 13,200円 (本体12,000円+税)

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編集にあたって/序

編集にあたって

 口腔細胞診は,口腔領域の扁平上皮癌およびその前癌状態を早期発見するのに必要な検査法として,日本で普及が進んでいる.口腔細胞診とその結果報告のための記述式新報告様式は,日本では,OLSIL,OHSIL,SCCといった記述式分類カテゴリーが標準的報告様式として普及している.これらは,口腔領域の腫瘍性病変の臨床には欠くことができないものとなっている.本書は,口腔細胞診の判定に従事する医療者および,口腔細胞診を実施する側の医療者のための,他に類を見ない,詳細な解説書兼細胞診アトラスとして上梓された.
 この日本発の口腔細胞診の新報告様式は,日本臨床細胞学会の細胞診ガイドラインに掲載され普及が図られている.口腔細胞診の新報告様式は,世界的に臨床的有用性が評価された子宮頸部細胞診のベセスダスタイルの報告様式を取り入れた.したがって,クラス分類その他のカテゴリー分類を廃して,記述式報告様式が採用された.また,ベセスダシステム同様,口腔細胞診の各判定カテゴリーごとに,その定義,判定基準,判定における注意点などが,明記され,判定者間の判定のバラツキを最小化するよう配慮されている.さらに,口腔細胞診の信頼性向上に決定的に影響する高質な標本作製のために,LBCの採用が強く推奨された.本書では,LBCのカラー写真が多く採用されている.ベセスダシステム同様,口腔細胞診新報告様式では,各判定カテゴリーごとに,その後の臨床的取り扱いが明記されている.細胞診判定側の判定結果は,臨床側に直接伝達して,相互にコミュニケーションできるように配慮されている.細胞診は一般に検査による侵襲や疼痛が最小限で済む利点をもつが,一方でその判定結果の安定性,信頼性が問題視されることがある.口腔細胞診新報告様式は,ベセスダシステムと同様に,精度管理に適した記述式報告様式を採用し,判定基準を明確化することにより施設間や検者間のバラツキを抑え,標準的な臨床的取り扱いを明記することを可能とした.
 世界的にみても,口腔領域の悪性腫瘍とその前駆病変の重要性は近年ますます増加している.米国でも口腔癌は重要な癌の一つと認識され,The American Cancer Societyは,タバコやアルコール多量摂取者を含む口腔癌の高危険群を対象に,総合的な口腔癌スクリーニング検査を年1回以上受けることを推奨している.しかしながら,米国のこの総合的な口腔癌スクリーニング検査は,口腔の視診や触診を主とするもので,細胞診は必ずしも推奨されておらず,日本の現状との乖離は大きい.また,口腔癌の増加が問題となっている国々の中では,日本と同様に口腔細胞診を用いたスクリーニング検査の報告が散見されるが,日本の新報告様式のような精度管理や施設間の精度の比較が可能な国際的にも通用する標準的報告様式は見当たらない.
 一方日本では,口腔細胞診が一部の口腔細胞診専門家や臨床医が限定的に実施する特別な科目であった時代からみると,検査数は遥かに増加し,一般的認知度においても大きく飛躍した.今や,全国の歯科,耳鼻科,口腔外科を擁する病院はもとより,全国の歯科開業医が実施する口腔細胞診を受託する大小の細胞診受託機関にとっても,口腔細胞診は,細胞診のルーチン業務として日常的に毎日取り扱うことが求められる必須科目となった.本書は,口腔細胞診を含む多領域の判定業務に従事する一般の細胞検査士,専門医,医療者が,日常業務として,口腔細胞診の記述式新報告様式を用いて判定業務を実施する際に,座右の書として活用されることを第一に目指した.口腔細胞診領域の専門家間では違和感なく通用する用語でも,一般領域の細胞検査士や専門医には馴染みの薄い用語が少数ながらみられる.これらは本文中で,違和感なく使用されるように説明に努めた.口腔細胞診の記述式新報告様式は,臨床と直結した優れた報告様式ではあるが,従来のクラス分類や陰性,疑陽性,陽性の3分類に慣れた医療者にとっては,不慣れな面も否めない.その場合は,従来のクラス分類などに,新報告様式による判定を加えて報告することで,新報告様式の普及は進めるとよい.本書は,類書に比して,詳述された口腔細胞診記述式新報告様式とその明快な判定基準,多数の細胞診アトラス写真を有し,必ずや本邦の口腔細胞診の実務向上に貢献すると信じる.
 本書の口腔細胞診新報告様式は,ますます重要性を増す口腔領域の悪性腫瘍とその前駆病変を早期に最小の侵襲で発見する可能性を秘めている.本書が口腔細胞診に従事するすべての医療従事者の座右の書となり,活用されることを願う.また,臨床の現場では,新報告様式の結果に沿った標準的臨床的取り扱いが普及し,口腔疾患の診療の質が向上することを祈る.最後に,本書に示された日本発の口腔細胞診新報告様式が,世界的にも普及して標準的報告様式となり,世界の口腔疾患に苦しむ人々の一助になることを願う.

 2023年9月
 平井 康夫


 口腔細胞診を取り巻く環境は,この10年で大きく変わった.年2回の日本臨床細胞学会の学術集会でも,毎回興味深いシンポジウムやワークショップなどが必ず開催されている.施術者の技量に左右されることなく,簡単に細胞診標本が作製される液状化検体細胞診(LBC)の登場により,全国の歯科医師会などを中心とした関連病院との連携による口腔がん検診なども行われるようになってきた.判定する施設も,大学病院や市中の一般病院をはじめ,全国の検査所など増加傾向にある.そして,大きな転換点として2015年に刊行された「細胞診ガイドライン」シリーズ(金原出版)では,口腔細胞診新報告様式が発表され,従来のパパニコロウ分類からの脱却が図られた.発表から7年あまりが経過し,新たな報告様式に関しても,実際の診断・判定においても関心が集まるようになってきた.新報告様式は,記述式や臨床への伝達への重視など,婦人科のベセスダシステムの理念をベースに作られた.口腔がんの最前線であろう歯科クリニックで口腔粘膜を注視し,予後の悪い病変の拾い上げの有力な方法として口腔細胞診を普及させる狙いもあった.従来のパパニコロウ分類では,Class IIやClass IIIには,少なからず腫瘍性病変や扁平上皮癌が含まれていた.また,組織診との対応においても,初期癌や上皮内腫瘍性変化に対する診断基準に変遷があったとはいえ,臨床からの信頼性も高いとはいいがたいものであった.そして,新報告様式の発表以来,細胞判定の現場では試行錯誤が繰り返され,様々な意見も交わされてきた.細胞診判定は,子宮頸がんを基準に行われてきたので,癌の発育過程や粘膜の修復過程が大きく異なる口腔粘膜には適していない.そのため多くの細胞検査士や専門医にも戸惑いがあるように思われる.しかしながら,現在まで我が国ではその手引きや解説書はなく,施設ごとに解釈,判定が行われているのが現状であろう.本書は,2015年の細胞診ガイドラインの口腔細胞診新報告様式や2022年の同補遺版を基本に作成されているが,口腔細胞診は,まだまだ発展途上である.今後も様々に変更があろうが,本書がそのたたき台となれば幸いである.

 2023年9月
 田中 陽一

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第1章 口腔細胞診新報告様式の概念と概略
 1 新報告様式の目的
 2 なぜクラス分類ではダメなのか
   癌の発育過程の違い
   再生過程の違い
 3 新報告様式の構成
   各判定の解説
    ・適正(adequate),不適(inadequate)検体とは
    ・新報告様式の5分類
    ・NILMとは?
    ・OLSILとは?
    ・OHSILとは?
    ・SCCとは?
    ・IFN(Indefinite for neoplasia)とは?
    ・扁平上皮系以外の病変(others)の記載方法
 4 細胞判定の基本事項
   OG好性光輝性細胞
   LG好性細胞
    ・LG好性表層細胞:NILMとすべき,反応性ないし修復(再生)性変化
    ・LG好性深層型異型細胞:OLSIL以上とすべき,深層型異型細胞
 5 採取部位と細胞診
 6 肉眼形態と細胞診
 7 口腔細胞診標本の染色法
 8 口腔擦過細胞診手技
   細胞採取に使用される器具と採取法
    ・細胞採取ブラシ
    ・細胞採取法(液状化検体細胞診:LBC)
 9 依頼書,報告書の書き方
   依頼書に記載すべき事項
   報告書に記載すべき事項

第2章 細胞診ガイドライン口腔細胞診新報告様式による結果報告
 1 SCC(Squamous cell carcinoma)──扁平上皮癌
   SCCに出現する癌細胞の特徴
   修復(再生)細胞との違い:LG好性細胞の鑑別
   SCCと判定し得ない場合の対応
   OG好性角化細胞のみで,SCCの判断は可能か?
   LG好性細胞のみで,SCCの判断は可能か?
   判定において注意すべき疾患
    ・紅斑症
    ・SCC特殊型
 2 OHSIL(Oral high-grade squamous intraepithelial lesion or oral high-grade dysplasia)──高異型度上皮内腫瘍性病変あるいは口腔上皮性異形成相当
   ガイドライン・フローチャートの使い方
   ガイドライン2022年補遺版との整合性
   OHSILとSCCの境界──どのように判定するか?(OHSILとSCCの鑑別)
 3 OLSIL(Oral low-grade squamous intraepithelial lesion or oral low-grade dysplasia)──低異型度上皮内腫瘍性病変あるいは口腔上皮性異形成相当
   口腔細胞診にみられる角質球とは
   ガイドライン・フローチャートの使い方
   ガイドライン2022年補遺版との整合性
   OLSILとOHSILの境界──どのように判定するか?(OLSILとOHSILの鑑別)
   NILMとOLSILの境界──どのように判定するか?(NILMとOLSILの鑑別)
   IFN(Indefinite for neoplasia)とはどのような場合に使用されるか?
   扁平上皮系以外の病変(others)の判定はどのように行うか?
 4 NILM(Negative for intraepithelial lesion or malignancy)──正常および反応性あるいは上皮内病変や悪性腫瘍性変化がない
   正常と炎症像
   乳頭状病変
    ・乳頭状過形成
    ・扁平上皮乳頭腫
   白斑病変
    ・上皮過形成
    ・白板症
    ・疣贅型黄色腫
    ・口腔扁平苔癬
   炎症・感染による細胞変化
    ・カンジダ症
    ・抜歯窩治癒不全の場合
    ・歯周病の場合
    ・エプーリスの場合
    ・細菌感染の場合
    ・ヘルペス性口内炎
    ・口腔トリコモナス症
    ・歯肉アメーバの場合
   その他
    ・尋常性天疱瘡

参考文献
謝辞
索引

Memo
 希少がん
 口腔外科と口腔細胞診
 光学機器と細胞診
 擦過器具と擦過法
 口腔細胞診検体の提出場所
 なぜ,口腔細胞診?
 多様性──diversity
 “化生細胞”あるいは“化生様細胞”
 口腔細胞診の教育
 2022年WHO改訂版への対応
 口腔がん検診
 歯肉アメーバ
 世界の口腔細胞診

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