いのちに驚く対話
死に直面する人と、私たちは何を語り合えるのか

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ニューヨーク訪問看護サービス(Visiting Nurse Service of New York)でホスピス緩和ケアに従事し、スピリチュアルケア・プログラム・マネージャーも務めた日本人による指南書。多文化都市ニューヨークで、多くの「死に向き合う人」とどのように出会い、いかに語り合ってきたのか。目の前に広がる患者さんと著者との物語と、言語や文化を超えた「対話」の現場感覚が味わえる1冊。

岡田 圭
発行 2024年09月判型:A5頁:240
ISBN 978-4-260-05745-5
定価 2,420円 (本体2,200円+税)

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  • 序文
  • 目次

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はじめに──

人が初めに聞いた呼びかけは
どう聞こえたのだろう
声の響きに心が聞こえた

目を開いた時 川が流れ出るように
この人生の旅路が始まった

人の人生は川のように流れ
川音のような心の声が 響き合っている
川は 流れ通ってきた山々や峡谷の景色を覚え
その川にしか知られない場所で聞いた
木々のざわめきや鳥のさえずりが
どう心に響くのかを知っている

私たちが幼かった頃
目に見える物すべては ありのままの姿を表し
肌に感じる風も 空を流れる雲も 森に立ち込める霧も
日の光に輝く 透明な水の流れや
人の温かな手や肩を感じる 手の感触も 目の表情も
すべてが名前を持たずに話しかけてきた

それから 大人になるべく 良し悪しを知った
親に教えられた 叱られた 褒められた
学校で教科書を開いた 読んで学んで覚えた 点数をつけられた
授業や講演会で 先生の話すのを聞いて 書き留めた

人と出会い 遊んだ 話した 心が動いた
人が病んだ 治った 老いた 亡くなった

季節が動いて 生き物が死に 花が枯れ 草木が葉を落とし
雪が溶けて また緑が戻った

人は健やかさを失うことがある
川が枯れ 澱み 流れる術を失うことがある

人は起きている現象に名前をつける
目に見える身体の各所に名前をつけ
研究された病気の構造の一部一部に名前をつけた
人の身体の健やかさが機能的に評価され比較され
力の強さが測られ 良し悪しが決められた

失った強さや機能は 元に戻されるべく
回復と呼ばれる所作のために効果的な手段が求められた

当の本人は 病を患う体験に 心動かされ
それに別の名をつけて行き先を定めている

それぞれの人の心に湧き出る思いの川音が
様々に流れを交わし合い その日の表情を見せ

生きる旅路の物語を語り進めながら 訴えかけてくる
その声が聞かれねばならない

医療や介護は 人を扱う
人は 関係の中で生きている
人は 関係そのものだ

病む人の声があり
病む人の役に立ちたいと願う 医療者の声がある
海に至る日まで 川と川とが出会い 対話を続け
互いの川音の響きに共鳴しながら 互いに海を慕う

ありのままの 川音の告白に 心寄せ
旅路で実ってきた美に 驚かされることを
期待し楽しめるような対話が生まれるように
そのための覚え書きが必要だと思われた

開く

はじめに

第1部 対話のお膳立て
 第1章 「人が居ること」を心に留める
   人が「居る」ことの力 / 「受け取りましたよ」と相手に返す / 
   習慣的な頑張り / 覚醒──萎んでゆく身体と広がる意識 / 
   見送られるのは私たち / 「一人」に込められた多くの人たち / 
   「自然に現れる美のあるがまま」を愛でる

 第2章 「人と人との間で起きていること」に気づく
   「権威」の力関係 / どう伝えるか / 癒しと毒 / 
   傷ついた癒し人 / 毒を癒しに変える知恵 / 意図的な在り方 / 
   重心が逸れる時 / 触発される痛みを知る / 鏡に映る自分

 第3章 「医療の人間性」を再考する
   変わる身体と生きてゆく術 / 世界で機運が高まる「人のための」医療 / 
   人を疾患だけで見ない / 人としての本質的な尊厳を力づける / 
   「個人的な価値」を尊重する / 旅人をもてなす

 第4章 「その人にしか語れない痛み」に必要性を聞き取る
   QOLについて / シシリー・ソンダース女史からの引き継ぎ / 
   「スピリチュアル」とは? / 緩和ケアの第五領域──霊的、宗教的、実存的側面 / 
   霊性の個人的な必要性を見逃さない / 痛みの四つの側面の重なり

 第5章 「痛み方と信じ方の舞台裏」を察する
   人の見方、考え方が形づくるもの / 信仰と人の心──宗教性と人間性 / 
   本人の表現から背景を知る / 奇跡と癒しの多様な意味 / 
   黒人教会で語り継がれてきた表現 / 畏怖の念を抱く時 / 心のクレーター / 
   人が怒る理由 / 安全のための線引き / 孤立から人を解く世界の苦痛

 第6章 「対話する人の健やかさ」を保つ
   道徳的疲れ「最善を尽くせていない」 / 誘惑と衝動 / 親しさの文脈 / 
   自己の最善を引き出す / あなた自身に優しさを

第2部 対話の波乗り
 第7章 「身体」の感覚と表現を意識して使う
   人に会う前の準備 / 対話空間を感じる / 相手の身体感覚に合わせる / 
   身体表現を読む / 「問題ない」と言う人の本心

 第8章 「言葉」に込められた心の声を聞く
   「その心は?」 / 「早く死にたい」と言う人の心変わり / 
   「早く死ねるよう助けてくれないか」 / 「いつ誰の決断にするのがいい?」 / 
   「もう選べない」 / 「どうなのですか? 教えてください」 / 
   「歩けるようになるといいのだけれど」 / 「何が起きているの?」 / 
   豊穣な沈黙──「間」を支える / 
   「あとどのくらい?」──それは何を問われているのか

 第9章 「時間」の全域を今に活かす
   「余命」が意味する時間の感覚 / 夜寝て、朝起きて、もう一日を迎えること / 
   駅で待たなくてもいいのだとしたら? / 嵐を凌いだ歌 / 最終楽章の残響 / 
   軟着陸の準備をするパイロット / 「思い出す」のか現れるのか / 
   サーファーの良い波探し / 時を超える貴重な時

 第10章 生死の多彩な「印象」に思いを馳せる
   「死」に抱く印象 / 絵で対話する子供たち / 縁側問答 / 
   自由になる決意をした人 / 再結晶する希望 / どんでん返し / 
   目による視力からの卒業 / 陣痛に変える比喩の力 / 向かい風 / 
   独楽(こま)の一生 / 命の川に浮かぶ舟 / 初めて見た海 / 
   死にゆく先を望み見た人

 第11章 故人の心は「物語」に紡がれる
   貴重な瞬間を家族に返す / 最期の神聖な別れの場で / 
   死を前にして起きる必然的偶然 / ちょっと席を外した時に亡くなる人 / 
   「死んでしまった人」との対話 / 悲しみとの友情を深める

 終章 いのちは続いている
   一期一会 / 虹色に光る帯の旅立ち / 森になった人

おわりに

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