看護・介護で使えるナーシングマッサージ[Web動画付]
「触れる」をケアにする
触れること、さすることは確かにケアになる
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目の前にいる苦痛を抱えた人をなんとかしたいという思いで研究されてきたナーシングマッサージは、ケア場面で触れることがどんな意味をもつのかという原点に立ち戻り、試行錯誤を繰り返した結果、軽擦法(さする技術)を中心とする手技に進化した。本書では、触れることの意味をはじめ指圧マッサージの基本から安全に実施できる手技までを紹介。手技は35本の動画で確認できる。看護師・介護士の手はケアの道具になる!
編集 | 看護における指圧マッサージ研究会 |
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発行 | 2024年05月判型:B5頁:136 |
ISBN | 978-4-260-05373-0 |
定価 | 2,970円 (本体2,700円+税) |
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- 目次
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序文
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序
看護を必要とする方々の苦痛を少しでも軽減し,心地よい時間を過ごしてほしいという願いをもった有志で,「看護における指圧マッサージ研究会」は1992年に発足しました。研究会では,指圧・マッサージの基本手技やツボの活用の学習を積み重ね,看護や介護の場面での活用を検討し,実践事例報告を通して学び合い,学会や誌面などで実践報告を行ってきました。また,2020年以降コロナ禍の影響で休止状態にありますが,看護職を対象に「ナーシングマッサージ研修会」も開催してきました。研修会は,明日から使える手技の習得を目的とし,日々のケアについて意見交換を行い,さらに参加者が安らぎを得る癒しの場となっています。このような学びや研修会活動を通して,看護や介護の場面で「触れる」ことの意味や方法を探ってきた結果,ナーシングマッサージという方法が誕生しました。
筆者らは東洋医学のもつ,その人に備わっている力を引き出すという姿勢と,その人自身が健康のために養生していくという考え方を日々のケア場面で生かしたいと考えています。日々のケア場面では対象者に触れていることに着目し,手技の効果や対象者の安全・安楽を考慮することはもちろんのこと,看護職や介護職が日々のケアのなかで共有したり実践したりできるよう,ナーシングマッサージの手技を検討してきました。安全な手技のもと「触れる」ことがケアにつながり,対象者にもたらす効果は大きいと再認識してたどりついたのが,軽擦法です。「さする」ことは看護における手当てであり,ナーシングマッサージはこの軽擦法を重視してさまざまな場面に応用展開してきました。
本書では,筆者らが試行錯誤を重ねて作り上げてきたナーシングマッサージを紹介しています。東洋医学については基本中の基本にとどめ,読者の皆様がすぐに活用できるような手技を選定しています。また,対象者自身がセルフケアとして,あるいはレクリエーションとして実践できるものも提示しました。まずは,読者の皆様が仲間や家族にナーシングマッサージを行い,効果を尋ねてください。また,セルフケアとしてのナーシングマッサージをご自身に活用して反応を観察してください。徐々に看護や介護の場面でも「触れる」ことからケアにつなげていけると思います。
痛みや不快な症状のために,生活の質が低下している対象者は少なくありません。そのような対象者に遭遇すると,ケアを提供する者は,どうしても手を差し伸べたくなります。対象者の病気や治療の経過,症状を理解したうえで行うケアにナーシングマッサージを加えていただくことで,ケアの選択肢が1つ増えることになります。身体的・精神的側面をアセスメントしながら,医療情報に基づいてナーシングマッサージの実施の適否を判断し,時には多職種と連携しながら継続的に行うことで,対象者の痛みや不快な症状に寄り添い,安楽をもたらすことができると考えています。
筆者らはこれからも「手によるコミュニケーション」である「触れる」を大切にした活動を続けてまいります。本書をご覧になって,日々のケアのなかの「触れる」という行為について改めて一緒に考えていただければ幸いに存じます。
編集の労をお取りいただいた医学書院の藤居尚子様,高倉葉子様に深く感謝申し上げます。そして,ナーシングマッサージに関心をもってくださった皆様,研修会に参加いただいた皆様,尊敬する前代表小板橋喜久代先生をはじめとして本研究会にかかわってくださったすべての皆様に心から感謝の気持ちをお伝えします。
2024年4月
執筆者を代表して 兼宗美幸
目次
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第1章 ケア場面での「触れる」行為
1 どのような場面で「触れる」という行為が生じるのか
2 どのような触れ方がケアにつながるのか
3 看護と東洋医学の視点に共通すること
第2章 看護としての指圧マッサージ
1 指圧マッサージとは
2 指圧マッサージの心構え
3 指圧マッサージに必要な知識・技術
4 ナーシングマッサージという方法
5 ナーシングマッサージを活用する
第3章 看護・介護場面のナーシングマッサージ
基本手技を用いたナーシングマッサージ
1 基本となる手順
2 効果的に行うための5つのポイント
3 上肢や下肢のナーシングマッサージ
4 肩・背部や腰・殿部のナーシングマッサージ
触れるケアとしてのさする手技──軽擦法
1 生活援助場面での軽擦法
2 コミュニケーションとしての軽擦法
よく出会う症状やつらさへのナーシングマッサージ
A 「便秘でおなかが張る」との訴えに対して
B 「身体がだるい」との訴えに対して
C 「手足が冷える」との訴えに対して
D 「眠れない」という訴えに対して
E 「首/背中が痛い」との訴えに対して
セルフケアとしてのナーシングマッサージの活用
1 セルフケアの指導における留意点
2 ストレスを和らげリラックスを促すマッサージ
3 症状緩和のためのマッサージ
レクリエーションとしてのナーシングマッサージの活用
1 高齢者のレクリエーションとして
2 母親学級や両親学級のレクリエーションとして
3 歌と組み合わせたレクリエーション
索引
COLUMN
皮膚の機能
「気」と「血」そして「津液」
衛気
あん摩,マッサージ,指圧について
プリューゲル・アルント・シュルツの法則
指圧の3原則──垂直圧,持続,集中の原則
ツボのとらえ方
対象者に応じたツボと経絡の選び方
ナーシングマッサージの目的・部位から離れて反応が生じるとき
便秘による腹部の張り感や痛みの見方
書評
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「より深く,より実践的なニーズ」に応える,最適な指南書
書評者:北田 志郎(大東文化大看護学科教授・精神医学・伝統医学)
私たちが「東洋医学」と呼んでいるものは,中国では中医学,韓国では韓医学と呼ばれ,それぞれのヘルス・ケア・システムに確固たる地位を占めている。それらの地では西洋医学を学ぶ医学部とは別の(ただし修養年限は医学部と同等の)伝統医学の医師(中医師・韓医師)養成課程がある。そしてコメディカル・スタッフの教育においても,伝統医学が一定の割合で織り込まれている。
しかし日本では,医療系資格制度の成り立ちとも関連し,医療系教育における伝統医学の占める割合は,東アジアの中では例外的に少ない。日本看護系大学協議会会員校を対象に行われた2016年の調査において,「漢方医学・東洋医学」の科目を取り入れているのはわずか3.4%と,特に看護教育においては極めて手薄な状況である。
評者(医師)は大学の看護学科で,中国の中医薬大学で護理(看護)学を修めた看護教員とともに,「東洋医学」(必修),「東洋文化と看護」(選択)の授業を担当してきた。伝統医学の考え方や手法が日本の風土,文化に根差し,対象者とその家族にとって親和性の高い体系であること,看護実践のみならずセルフケア支援・健康教育,看護師自らの健康管理にも応用し得ることなどを教えている。中でも「東洋医学的体質自己診断」と「ツボ押し体験」の授業は好評で,「家族にも伝えたい」「より深く,より実践的に学びたい」との感想が例年少なからず寄せられる。看護学生・看護職にとって伝統医学の教育機会は少ないが,潜在的なニーズは高いことを示しているものと思われる。
本書はこの「より深く,より実践的に学びたい」ニーズに,極めて高い水準で応えた指南書である。
伝統医学の体系を本格的に学ぶ機会は,専門職であるはり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師の養成課程においてですら(他の東アジア諸国・地域と比べ)十分であるとは言えない。まして看護教育にこれを本格的に導入する余地はほとんどないように見える。しかし本書の執筆陣は,長年この問題に取り組み,看護におけるマッサージの意義とその実践応用について考え抜いてきた方々であり,その結論が副題「『触れる』をケアにする」に込められているように思える。「東洋医学に根差した指圧マッサージをケアとしての触れる技術ととらえ,看護の視点を踏まえたうえで,ナーシングマッサージと昇華」(本書より)させることで,これを旧くて新しい看護技法としてこの国に根付かせようとする,強い意志が感じられる。
その成果は本書の豊富な写真とWEB動画とに,遺憾なく発揮されている。洗練された手技が収録されている動画と,そのエッセンスが抜き出された写真とを交互に見ることで手技が「身につく」ように工夫されている。ナーシングマッサージの実技講習を授けることができる人材が極めて限られている現時点で,その限界を大いに補う教材として本書を強く推薦する次第である。
付録・特典
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