尿路結石症の外科的治療

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URSおよびPCNL/ECIRSを中心に、上部尿路結石症の積極的治療の基礎知識から実際までを解説した実践書。日本を代表するエキスパートである3名の著者が、豊富な経験から得た知識や技術を惜しげもなく披露した。後半のCase Discussionでは、具体的な症例に沿って達人の考えかたや技が学べる。誰も教えてくれなかったTips&Tricksが満載の一冊!

井上 貴昭 / 岡田 真介 / 濵本 周造
発行 2024年10月判型:A4頁:168
ISBN 978-4-260-05440-9
定価 14,300円 (本体13,000円+税)

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    2024.12.16

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 本書を手に取っていただき,ありがとうございます.
 上部尿路結石症に対する外科的治療は,周辺機器の発展に伴い,体外衝撃波結石破砕術から高い結石除去率を得ることができる内視鏡手術へと急速に移行しました.その中心となる尿管鏡手術は泌尿器科医にとって基本的な手技ですが,新しい技術や機器に対応した指導・教育システムは残念ながら確立しておらず,レーザー熱による尿路狭窄をはじめとする新たな合併症が増加しています.私たちの師である,はちのへ江陽クリニックの三浦浩康先生から伝授された方法は,器用不器用にかかわらず誰でも安全にできるものです.本書は,確実で安全な治療に必要な基本的な知識や手術手技を体系的に学べるように構成されています.私たちは,これから始める先生から多くの症例経験をもつ先生まで,最初に必要な知識の習得から日常臨床で遭遇する困難への対応にお役に立てるよう,できるだけ実践的な内容を盛り込むことを心がけました.
 第I部では,上部尿路結石症の外科的治療の概要について詳述し,治療に必要な基礎知識を解説しています.体外衝撃波結石破砕術の原理,経尿道的,経皮的砕石術に必要な医療機器,治療選択に必要な診断方法を確認します.第II部は,それぞれの治療法について,準備から実際の手術手技を解説します.手術に従事するすべてのスタッフで知識を共有し,統一した方法で行うことを目指します.そして第III部では,私たちが経験した症例の術前計画から実際の経緯までを提示しました.治療に難渋する尿管嵌頓結石や感染結石に対する治療の組み立てや,尿路変向術,移植腎,小児患者など,まれな症例の経験とその反省点を共有することで,いざというときに恐れずに治療に立ち向かっていただく一助となると信じています.
 私たちは2014年に SMART study groupを立ち上げ,議論を重ね,海外のエキスパートとの交流などさまざまな機会を得ることができました.本書の執筆の目的は,施設間の垣根を越えて治療の考え方や手術手技の統一を図り,次世代の教育に繋げることです.本書を通じて,私たちが学んだことが継承され,新しい議論が生まれることで,新しい技術に対応した治療へ発展することを願っています.そして結石治療を牽引する次世代のエキスパートの台頭を期待します.
 最後に,本書の構成・編集にあたりご尽力いただきました,医学書院の飯村祐二氏をはじめ関係者の皆様に深く感謝申し上げます.

 2024年9月
 岡田真介・井上貴昭・濵本周造

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第I部 上部尿路結石外科的治療の基礎知識
 第1章 上部尿路結石治療における用語
  1 体外衝撃波結石破砕術(SWL)
  2 経尿道的尿路結石除去術(URS)
  3 経皮的尿路結石除去術(PCNL)
 第2章 上部尿路結石外科的治療の現状と動向
  1 各治療方法の歴史
  2 本邦における上部尿路結石外科的治療の現状
 第3章 上部尿路結石外科的治療に必要な医療機器
  1 上部尿路結石外科的治療に必要なデバイス
  2 上部尿路結石外科的治療に必要な結石破砕装置
  3 上部尿路結石外科的治療に必要な超音波装置
  4 上部尿路結石外科的治療に必要な尿路内視鏡
 第4章 画像診断と治療戦略
  1 画像診断
  2 ガイドラインに基づく治療戦略
 第5章 術前の感染マネジメント
  1 上部尿路内視鏡手術における敗血症性ショックのリスク因子
  2 結石性腎盂腎炎に対するドレナージ
  3 術前の抗菌薬使用方法

第II部 上部尿路結石外科的治療の実際
 第6章 体外衝撃波結石破砕術(SWL)
  1 SWLの砕石メカニズム
  2 SWLの治療適応
  3 SWLの実際
  4 SWLの主な合併症
 第7章 経尿道的尿路結石除去術(URS)
  1 術前準備と患者体位
  2 治療手技
  3 周術期合併症
 第8章 経皮的腎砕石術(PCNL/ECIRS)
  1 術前準備と患者体位
  2 手術器具の準備
  3 術前計画
  4 治療手技
  5 周術期合併症とトラブルシューティング
 第9章 腎・尿管切石術
  1 尿管切石術
  2 腎切石術
  3 腎盂切石術
  4 単純腎摘出術,腎部分切除術

第III部 Case Discussion
  Case 1 尿管嵌頓結石①
  Case 2 尿管嵌頓結石②
  Case 3 尿管屈曲
  Case 4 尿管狭窄症
  Case 5 馬蹄腎に発生した腎結石
  Case 6 移植腎に発生した尿管結石
  Case 7 海綿腎における腎・尿管結石
  Case 8 回腸導管患者の上部尿路結石
  Case 9 小児腎結石,膀胱結石
  Case 10 腎杯憩室内結石
  Case 11 20mmを超える下腎杯結石
  Case 12 感染を伴う腎結石
  Case 13 高度肥満症例
  Case 14,15 サンゴ状結石

索引

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なかなか伝えにくい手術手技の極意を懇切丁寧に説明
書評者:奴田原 紀久雄(武蔵野徳洲会病院尿路結石治療24時間センター長/杏林大名誉教授)

 かつての開放手術では,手術の助手につき術野を観察してその外科手技を獲得していった。術者の手の動きと術野でのはさみや鉗子の動きは術野を見ているだけでほぼ正確に把握できた。現在主流の内視鏡手術において,手術野は開放手術と比較にならないほどよく観察できる。しかしこの視野を展開するために,術者の手元ではいかなる操作が内視鏡や操作器具に加えられているのかは,術野から目を離さないとわからない。すなわち同時にこの2つを観察し理解することは困難である。この壁を越えるためにシミュレーターやハンズオンがあるが,それでも術者の手元で行われている操作テクニックを解説し尽くすことは難しい。

 本書は上部尿路結石治療のスタンダードを示しつつ,それを完遂するためのテクニックを解説した世界的にも類がない良書である。手術テクニックを言語化する難しさは大変なものであるが,第I部で使用機器と術前診断,術前感染症対策につき簡潔ながら十分な解説を加え,第II部で各術式の基本的手技を驚くほど深入りして紹介している。さらにこれで説明しきれなかった細部を第III部のCase Discussionで補足(というよりこれ自体が卓越した技術伝授書といえるが)している。今まで数多くの手術とハンズオンセミナーを行ってきた著者らの経験に基づいた,他書ではまねできない解説書といえる。これらのテクニックを惜しむことなく記載しているのは,著者たちの安全性を確保した上で上部尿路内視鏡外科治療を普及させようとする情熱に他ならず,同じ道を歩んできた者として尊敬せざるを得ない。

 本書の個々の特徴や読ませどころを上げればきりがないが,もし読者が初心者であれば術式別の体位の取り方を,本書を参考にお互い被験者となり経験するとよいであろう。どの部位に荷重がかかるかを実感できるはずである。バスケットカテーテルの操作を,術野ではなくベンチ上で練習し(p.61参照),分解組み立てを行うことは(p.72参照)すぐに役立つテクニックになる。

 またレーザー砕石装置を使用する全ての術者に精読していただきたいのはp.13~17のレーザーの特性などが詳説されて部分である。レーザーの特性と砕石原理を本書によって十分に理解し,特に発生する熱による有害事象をなくすコツを広く共有することが重要で,これは今後普及する新しいレーザー砕石装置が導入される段階で特に大きな意味を持つであろう。

 また経験を積んだ術者の方々にも,少し手強いと思われる症例があった際には第III部のCase Discussionの類似した症例を一読しておくことをお勧めする。もちろんそのようなことをしなくても手術を遂行する力があると思うが,トラブルが起こったとき,どのような判断で手術を続行するのか,あるいは撤退するのかなどについて有用な示唆が得られるであろう。

 繰り返しになるが,本書はなかなか伝えにくい手術手技の極意といえるものを懇切丁寧に説明している。そしてこれはこのことを踏まえての評者からの著者へのお願いになるが,このテキストをもっと有用に活用できるように,付随した動画集を編さんしていただければと思う。

 最後になるが,これこそ著者たちが大いに望んでいたことであると確信するが,本書がこの分野の手術手技の普及と安全性の向上に大いに役立つことを期待してやまない。


実臨床,治療戦略,患者管理に有用な実践的書籍
書評者:宮原 誠(入間川病院泌尿器科部長)

 本書は尿路結石治療に携わる全ての医療者(医師,看護師,臨床工学士,放射線技師)へ,確かなエビデンスと実践的技術の解説および提供を目的とした書である。著者の三氏は,尿路結石治療を現役でけん引する誰もが認めるエキスパートでありながら,謙虚にかつ貪欲により良き治療をめざし常にディスカッションを重ね,現場にフィードバックし,日本に海外に情報発信する素晴らしき医師たちである。それ故に本書は実臨床,治療戦略,患者管理に極めて有用かつ実践的な内容で構成されている。

 本書は「基礎知識」,「治療の実際」,「Case Discussion」の三部で構成されており,それぞれがとてもユニークである。まず第I部の「基礎知識」の内容が必要十分を究めている。他書のような無駄なうんちくは全くなく,しっかり網羅かつ伝わる文章・写真で,これ以上簡潔に伝えることは無理であろうという解説である。また,「術前の感染マネジメント」を基礎知識に入れており,患者への畏敬の念を感じた。

 第II部の「治療の実際」では,リアルに手術しているかのような印象を受けた。先輩方が作り上げてきた正しき方法論をエビデンス,理論をもってわかりやすく解説している。手術前の準備や機器類の配置まで事細かに提示していること,手術中の医師の動きや合併症の種類や対処法を曖昧にせず具体的に記していることは本当に役立つ内容である。特にECIRSにおいて,具体的な腎盂鏡の操作方法を解説したり,それによる尿管蛇行の発生を正しく言語化したり,尿管ステント,腎瘻カテーテルを留置する場合の状態を具体的に列挙かつ網羅している内容は,本書以外にない。つまりII部は手術中に悩むこと全てに答えを提供しているのである。

 第III部の「Case Discussion」は,結石治療に携わっている医師が必ず出合い悩み苦労する症例ばかりを集めた実践的な部門である。その症例おのおのに,治療戦略から予測される合併症,患者への説明内容を事細かに記しており,即臨床に応用できる内容である。エキスパートがこの章を読めば反省と共感が湧き出てくるであろうし,ビギナーが読めば起こるかもしれない合併症を極限まで低減できるであろう。最初にこの章から読むのもお薦めである。

 この本に課題があるであろうか? もしあるとしたらこれから結石治療を始めようという医師たちにはあまりにも膨大な知識と注意点に戸惑いを感じるかもしれない。しかしどんな外科的治療もそうであるように,事前に得られる情報は全て取り入れてこその尿路結石治療である。この書を読み終えた後そんなメッセージが聞こえてくるくらい著者らの熱量を感じた一冊である。


長年の経験からしか知り得ない誰も教えてくれなかった知識が一冊に濃縮
書評者:三浦 浩康(はちのへ江陽クリニック院長)

 国内で年間8万人以上が手術を受ける上部尿路結石症であるが,これまで時代にあった本当にわかりやすい外科的治療のための教科書といえるものはなかった。尿路結石症ガイドラインや文献を眺め,または近くにいる先輩の意見を聞きながら不安の中で治療に当たってきたというのが本音であろう。朗報である。この度本邦を代表する3名のエキスパートのTips & Tricks全部が書かれた本書『尿路結石症の外科的治療』が刊行された。長年の経験からしか知り得ない誰も教えてくれなかった知識がこの一冊に濃縮された,これぞ待望の必読必携の教科書である。

 本書は第I部 上部尿路結石外科的治療の基礎知識,第II部 上部尿路結石外科的治療の実際,第III部 Case Discussionの三部構成となっている。第I部においては用語解説から外科的治療の歴史変遷,治療機器やデバイスが写真や表でわかりやすく解説されており,さらに結石治療ガイドラインをベースにエキスパート視点からの治療戦略,術前の合併症予防対策にまで詳細に触れている。第II部ではSWL,URS,PCNL/ECIRS,腎・尿管切石術の4項目に分かれている。それぞれにおいて手術体位,準備,機器の設定,治療手技,デバイスの使い方などを多くのイラストや写真を使用し詳細に解説している。第III部は特に本書の魅力である。ベテランでも難渋する15例の実際の手術と臨床経過を提示し手術手技やコツそして注意点,トラブルシューティングなど手の内を隠すことなく詳述され,さらに合併症予防対策などもしっかりと盛り込まれている。これを知ればもう結石治療で迷うことはない。

 さて意欲溢れる諸氏であればどんな症例でも難なく治療するエキスパートになることをめざすであろう。しかしながら,多くの手術を行うことと合併症をきたすこととは表裏一体である。もちろん合併症という苦い経験を昇華していくことがエキスパートへの道ではあるが,その程度によっては問題となり得る。しかしこの書があれば心配はいらない。できる限り合併症をきたさないまたは最小限に抑える知識,そして有事の際の解決策が明瞭に記載されているからである。

 本邦を代表するエキスパートが書かれた本書は,若手,ベテラン,職種を問わず尿路結石治療に携わる全ての方々に役立つ必読の教科書であり,全国全ての泌尿器科医を結石治療のエキスパートへと導く必携のバイブルである。ぜひご覧いただきたいと思う。

 さらには,今後時代とともに治療機器やデバイスが進化を続け,未来のエキスパートによる改訂版が発刊され,末永く愛読される書として継続されることを願ってやまない。

 最後にこのような優れた書籍を発刊された井上貴昭先生,岡田真介先生,濵本周造先生のご努力に敬意を表したい。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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