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運動学×解剖学×エコー
関節機能障害を「治す!」理学療法のトリセツ

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運動器疾患の特徴は、「患者が痛みに困っていること」である。そして、運動器理学療法の醍醐味は「治すこと」にある。解剖学で関節周辺の構造を把握し、運動学で機能障害のメカニズムを理解し、エコーで徒手・運動療法を「見える化」する。関節機能障害において、関節周囲の疎性結合組織に着目し、アプローチすることで、即時効果を存分に引き出せる可能性がある。本書では、その可能性を具体的かつ詳細に可視化して提示する。

編集 工藤 慎太郎
発行 2023年02月判型:B5頁:224
ISBN 978-4-260-04621-3
定価 5,280円 (本体4,800円+税)

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  • 序文
  • 目次
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20年で変わったことと変わらないこと
 理学療法士になり,20年が過ぎた.20年前,運動器理学療法のトピックは“運動連鎖”だったように思う.毎日のように,患者や選手の歩行,走行,ジャンプ,投球動作を観察し,今よりもとても解像度の低いカメラで記録していた.臨床業務が終わると,そのよくわからない動画を見ながら,日付が変わる頃まで先輩に指導していただいたことを思い出す.
 時代は変わっても,運動器理学療法の醍醐味が「治すこと」だということは,変わらないと信じている.そして,機能障害を治すために必要なことは知識であり,技術であり,それを習得するための努力を続ける志だと信じている.しかし,それだけでは他人に伝わらない.伝えるためには,正確な取扱い説明書(トリセツ)を作らなければならない.トリセツがしっかりしていれば,複雑な手技や評価を,同じように再現することができる.

スペシャリストが関節機能障害を「治す」ために書いたトリセツ
 高度に発展し,細分化された現代の医療のなかで,どの分野にも精通した人になるのは不可能だろう.もちろん,異なる分野に幅広く対応できる人も必要ではあるが,それと同時に特定の分野に精通している人がその分野を牽引し,新しい何かを産み出すことはまぎれもない事実であり,その事実を科学的な手法で証明することで,はじめてキチンとしたトリセツが完成する.もちろん,このトリセツは科学の発展とともに進化していく.
 本書は,急性期や回復期の臨床で活躍している理学療法士,整形外科クリニックで運動器疾患のリハビリテーションを専門にしている理学療法士,徒手療法を中心に研鑽している理学療法士,最先端の理学療法を開発しようとしている理学療法士,そして解剖学研究を専門とする理学療法士が,それぞれの立場から打ち合わせを重ねて,各関節の機能障害に対する理学療法のトリセツを書いている.多様な才能をもった専門家の知識と経験を,関節機能障害を「治す」という目的の下に集約した.まさにダイバーシティ&インクルージョンの賜物である.

運動学×解剖学×エコーで,疎性結合組織をとらえてみる
 本書の大きな特長は,関節機能障害を引き起こす構造を,運動学と解剖学で明らかにし,その構造に対する運動療法を,超音波画像装置(エコー)を使って可視化している点にある.さらに,関節機能障害が生じるメカニズムを組織学的に考えて,関節周囲の疎性結合組織の存在にフォーカスを当てている.
 理学療法において,筋や関節包,靱帯を治療対象とすると,その効果は緩徐かつ自然治癒を阻害しないという考えになるだろう.しかし,関節機能障害において,関節周囲の疎性結合組織の存在に目を向けると,それらに対する理学療法には即時効果を存分に引き出せる可能性があり,なおかつ侵襲性の低い「治療」となる.これまで行ってきたストレッチングや筋力トレーニングに加えて,本書を開くことが,臨床で患者とともに闘っている理学療法士の新たな武器になると確信している.関節周囲に存在する疎性結合組織の分布と機能,そこに対する治療効果は,これから明らかになっていくことも多い.本書が,この未知なるものへの読者の興味を惹きつけることになれば幸いである.

 本書の企画は,私が会長を務める形態学と運動学に基づく理学療法研究会(MKPT研究会)において,多くの議論を重ねるなかで生まれたものである.これまでMKPT研究会の運営に携わってくれたすべての仲間に深謝している.また,医学書院の金井真由子氏には筆者達のわがままに応えていただくだけでなく,いつも素晴らしいアドバイスをいただいていた.信頼する編集者との仕事により,素晴らしい書籍に仕上がったことを誇りに思っている.最後に,仕事ばかりで寂しい想いをさせている2人の愛息子 圭一郎と蒼士,そして妻 美知に感謝を捧げたい.

 2022年12月
 工藤 慎太郎

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第1部 運動器の機能障害と構造破綻を理解する
  1章 運動器理学療法に必要な運動学とその病態
   1 可動性の低下は,伸張性と滑走性の低下を考える
   2 安定性の低下は,構造破綻と筋力低下を考える
  2章 運動器理学療法に必要な解剖学とその病態
   1 運動器理学療法の根拠を知るための組織学
   2 運動器理学療法にかかわる支持組織
   3 運動器理学療法の治療対象と治療戦略
   4 疎性結合組織が存在する器官の構造
   5 筋膜という結合組織の正体

第2部 関節機能障害を「治す!」理学療法
  1章 肩関節
   1 肩関節の可動性と安定性の病態ポイント
   2 肩関節の機能改善に必要な解剖学
   3 肩関節の機能を改善させるエコーガイド下アプローチ
     (1)肩峰下滑液包(SAB)周囲・烏口上腕靱帯(CHL)へのアプローチ
     (2)烏口腕筋の周囲組織へのアプローチ
     (3)棘下筋周囲へのアプローチ
     (4)外側腋窩隙(QLS)へのアプローチ
     (5)副神経・肩甲背神経周囲へのアプローチ
     (6)長胸神経・胸背神経周囲へのアプローチ
     (7)鎖骨下筋・烏口鎖骨靱帯周囲へのアプローチ
     (8)腱板筋群の安定化エクササイズ
     (9)肩甲胸郭関節周囲筋の安定化エクササイズ
  2章 肘関節
   1 肘関節の可動性と安定性の病態ポイント
   2 肘関節の機能改善に必要な解剖学
   3 肘関節の機能を改善させるエコーガイド下アプローチ
     (1)上腕筋深層の脂肪層の柔軟性を高めるアプローチ
     (2)上腕三頭筋深層の脂肪層の柔軟性を高めるアプローチ
     (3)正中神経の滑走性を促すアプローチ
     (4)橈骨神経の滑走性を促すアプローチ
     (5)尺骨神経の滑走性を促すアプローチ
     (6)前腕回内屈筋群の伸張性を高めるアプローチ
     (7)上腕二頭筋・円回内筋・回外筋部の疎性結合組織に対するアプローチ
     (8)前腕回内屈筋群の筋力トレーニング
     (9)前腕伸筋群の筋力トレーニング
  3章 手関節・手部
   1 手関節の可動性と安定性の病態ポイント
   2 手関節・手部の機能改善に必要な解剖学
   3 手関節・手部の機能を改善させるエコーガイド下アプローチ
     (1)方形回内筋深層の脂肪層へのアプローチ
     (2)浅指屈筋,深指屈筋,長母指屈筋へのアプローチ
     (3)短橈側手根伸筋へのアプローチ
     (4)回外筋へのアプローチ
     (5)長母指外転筋,短母指伸筋,橈骨神経浅枝へのアプローチ
     (6)尺側手根伸筋へのアプローチ
     (7)外側前腕皮神経へのアプローチ
     (8)正中神経掌枝へのアプローチ
     (9)腱鞘・手内筋へのアプローチ
     (10)手関節関節包へのアプローチ
     (11)三角線維軟骨複合体へのアプローチ
     (12)掌側板へのアプローチ
  4章 頸椎
   1 頸椎の可動性と安定性の病態ポイント
   2 頸椎の機能改善に必要な解剖学
   3 頸椎の機能を改善させるエコーガイド下アプローチ
     (1)項靱帯へのアプローチ
     (2)後頭下筋群の過緊張に対するアプローチ
     (3)頭・頸半棘筋の過緊張に対するアプローチ
     (4)胸鎖乳突筋・斜角筋群周囲の疎性結合組織へのアプローチ
     (5)頸部の皮神経・副神経周囲の疎性結合組織へのアプローチ
     (6)姿勢管理
  5章 腰椎
   1 腰椎の可動性と安定性の病態ポイント
   2 腰椎の機能改善に必要な解剖学
   3 腰椎の機能を改善させるエコーガイド下アプローチ
     (1)胸腰筋膜より浅層での滑走性を促すアプローチ
     (2)脊髄神経後枝の内側枝の滑走性を促すアプローチ
     (3)固有背筋の柔軟性を高めるアプローチ
     (4)LIFT 周囲の可動性を促すアプローチ
     (5)腰方形筋の柔軟性を高めるトレーニング
     (6)仙腸関節の安定性を高めるアプローチ
  6章 股関節
   1 股関節の可動性と安定性の病態ポイント
   2 股関節の機能改善に必要な解剖学
   3 股関節の機能を改善させるエコーガイド下アプローチ
     (1)殿部から大腿後面における坐骨神経の滑走性を促すアプローチ
     (2)大腿直筋周囲の滑走性を促すアプローチ
     (3)股関節包-腸骨関節包筋間の滑走性を促すアプローチ
     (4)大腿内側部における伏在神経の滑走性を促すアプローチ
     (5)大殿筋-外側広筋間の滑走性を促すアプローチ
     (6)外側大腿皮神経周囲の滑走性を促すアプローチ
     (7)小殿筋の選択的トレーニング
     (8)荷重下での小殿筋・中殿筋の活動を促すトレーニング
     (9)深層回旋筋群の選択的トレーニング
  7章 膝関節
   1 膝関節の可動性と安定性の病態ポイント
   2 膝関節の機能改善に必要な解剖学
   3 膝関節の機能を改善させるエコーガイド下アプローチ
     (1)広筋群周囲へのアプローチ
     (2)膝蓋下脂肪体の滑膜の滑走性を促すアプローチ
     (3)膝蓋下枝(伏在神経)の滑走性を促すアプローチ
     (4)鵞足構成筋の柔軟性を高めるアプローチ
     (5)半膜様筋の滑走性を促すアプローチ
     (6)腓腹筋内側頭の滑走性を促すアプローチ
     (7)PLSの機能を高めるアプローチ
  8章 足関節・足部
   1 足関節・足部の可動性と安定性の病態ポイント
   2 足関節・足部の機能改善に必要な解剖学
   3 足関節・足部の機能を改善させるエコーガイド下アプローチ
     (1)距骨前脂肪体と伸筋腱へのアプローチ
     (2)長母趾屈筋へのアプローチ
     (3)後脛骨筋腱へのアプローチ
     (4)腓骨筋腱へのアプローチ
     (5)腓腹神経へのアプローチ
     (6)足根洞へのアプローチ
     (7)足部外来筋のトレーニング
     (8)足部内在筋のトレーニング

索引

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これからの理学療法のトリセツであり,バイブル
書評者:宮武 和馬(横浜市大助教・整形外科学)

 理学療法士は,整形外科医が治せない痛みや機能を治せる力を持っている。私は以前からそう思っている。今まで見てきた数多くの現象から,理学療法の魅力に取りつかれてきた。

 ただ,その一方で,理学療法士が何をどう治しているのか,理学療法士と話していても全く理解できなかった。「ここを緩めたから良くなりました」,「ここが痛いのは,このアライメントが悪いからです」と言われても,原理も含めて納得のいく答えは返ってこなかった。

 また,理学療法にはさまざまな流派があり,流派ごとに言葉や考え方が全く異なる。同じ痛みをみているのに,なぜここまでアプローチの仕方が変わるのか,理解できなかった。医師からみると,理学療法は神の手の世界であり,サイエンスからは遠ざかっているように感じられるときもあった。

 2000年代に入り,整形外科でエコーが普及しはじめ,骨や関節だけでなく軟部組織への関心が急激に高まった。少し遅れて,理学療法士もエコーを使うようになり,身体の中がどうなっているのか,アプローチによって何をどう変えているかが,見えるようになった。感覚で行っていたことをエコーで可視化することで,医師と理学療法士の共通認識が生まれ始めた。また,共通認識ができて初めて,医師と理学療法士の共通言語が構築されてきた。同じ言語で会話ができるようになり,理学療法士との距離が近づいた。

 本書は,理学療法をエコーで可視化し,しっかりと裏付けられた理学療法の方法論をサイエンスとして明確に提示している。医師でも理学療法士が何を行っているかを理解することができる教科書である。

 また,理学療法の基本である解剖についても豊富なイラストと共に詳細に記述されており,エコーだけではイメージすることが難しい3次元的な動きの解釈も,本書を読むと可能になる。エコーと本書を組み合わせることで,患者の身体の中が透けて見えてくるような感覚になる。理学療法士にとっては,誰もが「神の手」を再現できるようにする技術書である。

 本書は,これからの理学療法のトリセツであり,バイブルである。医師も理学療法士も必ず読むべき1冊である。


運動器理学療法のブレークスルーとなる一冊
書評者:江玉 睦明(新潟医療福祉大教授・理学療法学)

 本書は,新型コロナウイルス感染症により全人類の日常が大きく変化する中,その状況に動じることなく運動器理学療法の根幹である関節機能障害を「治す」ことに焦点を当てた一冊である。

 本書を熟読してまず感じたのは,この書籍は「トリセツ」であり,いわゆる「マニュアル(ハウツー)」ではないということである。ちまたに「ハウツー本」が多く存在するなか,運動学×解剖学×エコーのいわばマリアージュのような組み合わせで,関節機能障害を「トリセツ」に基づいて丁寧にひもといており,執筆陣の理学療法に対する信念をも感じることができる。理学療法士のみならず,整形外科疾患の治療とリハビリテーションにかかわる全ての医療職の方々に有益な書籍であるといえる。

 本書は2部構成であり,第1部は「運動器の機能障害と構造破綻を理解する」というテーマである。ここでは,「トリセツ」における概要部分が記載されている。本書をしっかりと理解するためには,まずこの第1部を熟読することをお勧めする。そうすると,第2部からの各論の理解が飛躍的に深まる。機能障害を可動性と安定性の観点からとらえ,疎性結合組織をキーワードに組織の伸張性や滑走性をどう考えるか,第1部にはそのヒントが詰められている。

 第2部の各論は,関節ごとに,病態ポイント,機能改善に必要な解剖学,エコーガイド下アプローチの3部構成となっている。病態ポイントは臨床に即した記載で,項目末に可動性と安定性に着目した「まとめ」があり,読者の理解を促す構成となっている。また,エコーガイド下アプローチについてはエコーと運動療法の動画を同時に見ることができ,理解を深めるための効果的な工夫がされている。

 運動器理学療法の領域にエコーが導入されてから,医師のみならず理学療法士の評価・治療にブレークスルーが起きていることはいうまでもない。そして,編者である工藤慎太郎氏はそのパイオニア的存在であるといえる。工藤氏の周りには,非常に優秀で多様な才能を持った専門家が集結している。その専門家の知識と経験を「治す」という目的の下に集約して作成された本書は,著者の言う通り「ダイバーシティ&インクルージョン」が体現された賜物といえる。


運動器理学療法分野に革命を起こすバイブル
書評者:赤羽根 良和(さとう整形外科リハビリテーション科)

 本書の編集である工藤慎太郎先生がご卒業された平成医療専門学院理学療法学科(現 平成医療短期大学)は私の母校でもあり,彼は学生の頃からとても優秀でした。臨床,研究,教育に力を注いでおり,後輩でありながら,尊敬する理学療法士の1人です。

 私は現在,運動器疾患を中心に理学療法を行っています。運動器疾患に対しては機能解剖学の知識を中心とした評価を行いますが,特に重要な点は,臨床的に意義のある圧痛所見を確実にとることです。最近では,超音波画像診断装置(エコー)を用いることで,圧痛を認める組織がどのような病態であるかを可視化できるようになりました。理学療法士はこれらの情報をベースに治療戦略を組み立て,的確な触診と操作技術を持った上で運動療法を実施する必要があります。

 運動器疾患は,「関節運動に伴う疼痛による障害」とも言えます。疼痛以外の愁訴もいろいろとありますが,患者さんの多くは疼痛に苦しめられています。疼痛は,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,中枢神経障害性疼痛に分類されます。侵害受容性疼痛の要因には疎性結合組織由来のものが多く,理学療法士に求められる疼痛の改善効果は,まさにここにあります。疎性結合組織は柔軟性に富み,関節運動に伴って機能的に変形・滑走・伸張しています。しかし,本来の機能を失うと侵害刺激に起因した疼痛が発生し,可動域制限や筋力低下を引き起こす要因となります。

 つまり,疎性結合組織の病態を改善することができれば,多くの疼痛は軽減・消失し,関節運動機能が回復します。しかし,エコーを扱うことができなかった時代では,疎性結合組織の病態を推測することしかできず,想像しながら運動療法を行っていました。エコーが理学療法分野で普及したことで,急速な進歩を遂げ,今後ますます発展することが期待されます。本書は,疎性結合組織の病態にフォーカスを当てており,運動器理学療法分野に革命を起こすバイブルになると確信しています。

 本書は,解剖学や運動器理学療法などそれぞれの分野の専門家がわかりやすく執筆されています。目から鱗が落ちる記述が随所に見られ,初学者やエキスパートを問わず,多くの理学療法士に読んでいただきたい一冊です。

 これまで「なぜ痛い?」「なぜ動かない?」「なぜ力が入らない?」というワードに悩まされてきた理学療法士が,この「なぜ〇〇?」を説明できるようになってきました。これも大きな革命であると私は考えています。

 本書は,運動器理学療法の「可視化」と「言語化」にチャレンジした素晴らしい書籍です。ぜひ,手に取って読んでみてください。

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