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腎臓病診療でおさえておきたいCases36

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研修医や若手腎臓内科医が日常診療のなかで「どうしたらいいのか?」と疑問を感じたり、迷ったりするトピックスを抽出。それらに示唆を与える36症例を厳選して解説を展開する。慶應大学で診療を受けた患者の長年にわたるデータと腎生検所見の蓄積は極めて貴重。腎臓内科医が臨床で必要とされる知識や判断基準を症例から読み取り実践できるよう、オール慶應の執筆陣が丁寧に症例を読み解く!
編集 慶應義塾大学 腎臓内分泌代謝内科
編集代表 伊藤 裕
責任編集 脇野 修 / 徳山 博文
発行 2019年04月判型:B5頁:352
ISBN 978-4-260-03850-8
定価 6,600円 (本体6,000円+税)

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序 腎生検から観る腎臓病患者の「物語」

 現在,人工知能(artificial intelligence;AI)の発達により,病理診断はAIの手に委ねられる日が遠くない将来にくるとの予想があります.腎臓病学の領域でも,今後われわれは,AIが下した腎生検診断をもとに腎臓病診療にあたる時代になるのでしょうか? これは,安易に「イエス」とも「ノー」ともいえない重要な問いです.AIの力は決して侮れないものです.果たしてわれわれにできて,AIにできないことがあるのでしょうか.
 腎臓病学において,病理診断は,極めて大きな意義をもちます.腎臓病の最終診断は,病理診断によります.1951年,Iversonが光顕による腎臓の形態変化を眺める組織学的診断(病型診断)を始めた時代より,腎臓病の成因が次第に明らかにされるなかで,蛍光抗体法や電顕,臨床所見を合わせた病因診断がさまざまに示されるようになりました.現在,それらをお互いに関連づけようとする複雑な診断体系ができあがりつつありますが,いまだ完成に至らない建設途中の状況です.
 いうまでもなく,腎臓病理診断は,二次元の画像から得られる情報から診断を下すものであり,AIのアルゴリズムもそのように構築されます.AIは,やがては,顕微鏡下に見える世界に対しては,正確に,病型診断のレッテルを貼ることができるようになるでしょう.しかし,腎臓病の診断は,それが急性であれ,慢性であれ,壊れゆく腎臓の過去から未来への連続的過程を,生検がなされた時点のワンショットの画から“想像”するものであり,まさに“創造性の高い”行為です.そうした高次元の判断までをなすことができるようにするための教師データをAIに教えこむのは,まだまだ困難であると思われます.患者のこれまでの臨床経過と,以前なされたのであればその病理所見との比較,そして,これまで担当医師が経験した類似の症例の時期を違えた病理所見とその別の患者の予後情報を総合して,その当人の病気の方向性を占うことになります.腎生検から得られた1枚の絵からその患者の「物語」を知ろうとすることは,極めて難度の高い技です.
 本書は,われわれ慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科において,徳山博文講師を中心にこれまでなされた10年間,約800症例に及ぶ,腎生検の成果から選び抜かれた珠玉の36の症例集であります.
 「半学半教」という言葉は,われわれ慶應義塾大学に属する者には大変なじみがあります.もともとは,江戸時代の私塾の教育指針であり,教える側(教師)と,学ぶ側(学生)が別々にあるのではなく,お互いに教えあい,学びあい,そして啓発しあうことで深く学び,お互いを高めていくという考えです.福澤諭吉はこの精神を指針に塾(現・慶應義塾大学)を設立したといわれます.
 本書は,患者さんが痛みをもって提供してくれた貴重な腎臓組織をめぐり,われわれの教室で,若手とベテランの腎臓医師が,「半学半教」の精神に則り,真摯に議論しあい,その患者さんの過去の「物語」を探り,そして,これからの「物語」を予想しようとした赤裸々な記録であります.そして,何よりも,患者さんがわれわれに教えてくれた,経験知の結晶であります.腎臓病学を極めようとするすべての世代の医療者の力に還元することができれば幸いであります.

 2019年3月
 伊藤 裕

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Introduction 1
 腎臓病の考え方と,症例で学ぶ理由
Introduction 2
 腎生検の果たす役割―腎生検の適応と禁忌 腎生検は予後を改善させるのか?

Case 1
 発症から5か月後に血液透析離脱した
   急性腎障害合併微小変化型ネフローゼ症候群
Case 2
 完全寛解後3か月の経過で急性腎障害を呈し
   維持透析導入となった微小変化型ネフローゼ症候群の一例
Case 3
 原発性膜性腎症の一例
Case 4
 Xp11.2転座腎細胞癌に合併したPLA2R陽性腫瘍関連膜性腎症
Case 5
 真性多血症に合併したネフローゼ症候群(巣状分節性糸球体硬化症)
Case 6
 低出生体重児で生まれ,その後巣状分節性糸球体硬化症を呈した一例
Case 7
 自家末梢血幹細胞移植後に発症した血栓性微小血管症の一例
Case 8
 妊娠分娩後血栓性微小血管症
Case 9
 ネフローゼ症候群発症を呈したIgG4高値を伴う膜性増殖性糸球体腎炎の一例
Case 10
 肺高血圧症を伴ったPOEMS症候群による腎機能障害の一例
Case 11
 C型肝炎による非代償性肝硬変患者のIgA腎症
Case 12
 急速進行性糸球体腎炎を呈したIgA血管炎の一例
Case 13
 腎臓機能正常であったが腎臓組織障害が進行していた糖尿病性腎症の一例
Case 14
 肥満関連腎症の一例
Case 15
 基底膜菲薄病の母親をドナーとした生体腎移植を施行した
   常染色体劣性アルポート症候群
Case 16
 全身型多発血管炎性肉芽腫症を合併した腎型ファブリ病の一例
Case 17
 ループス腎炎V型の一例
Case 18
 シェーグレン症候群による二次性膜性腎症
Case 19
 潰瘍性大腸炎に伴う間質性腎炎
Case 20
 クローン病による腎症(アミロイドーシス,IgA腎症)
Case 21
 C型肝炎ウイルス陽性,クリオグロブリン血症を伴う膜性増殖性腎炎
Case 22
 経カテーテル的大動脈弁植込み術後に発症したコレステロール結晶塞栓症
Case 23
 IgA-IRGN(感染関連糸球体腎炎)
Case 24
 アポリポ蛋白質AII変異による腎アミロイドーシス
Case 25
 症候性多発性骨髄腫によるALアミロイドーシス
Case 26
 単クローン性γグロブリン血症によるlight chain proximal tubulopathy
Case 27
 原発性アルドステロン症に伴うmasked CKDの一例
Case 28
 拒食症(anorexia)関連腎症
Case 29
 多数の沈着物と半月体形成の組織所見を示した
   MPO-ANCA関連急速進行性糸球体腎炎症候群
Case 30
 急速進行性糸球体腎症を呈したPR3-ANCA陽性の膜性腎症
Case 31
 抗甲状腺薬内服中にMPO-ANCAが陽性となった腎症の一例
Case 32
 ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体
   (免疫チェックポイント阻害薬)による腎障害
Case 33
 生体肝移植後,B型慢性肝炎の治療中にアデホビルによる
   ファンコニ症候群を呈した一例
Case 34
 イホスファミドによる薬剤性腎障害
Case 35
 TINU症候群の一例
Case 36
 移植後6か月で発熱,移植腎腫大がみられた一例

Column 1
 糖尿病性腎症の始まりは近位尿細管尿細管―糸球体連関という概念
Column 2
 慢性腎臓病における経口血糖降下薬の使用法
Column 3
 ステロイド糖尿病の治療
Column 4
 膵島数と糖尿病 腎組織との対比から
Column 5
 慢性腎臓病と腸内細菌
Column 6
 SPRINT試験が与えたインパクト
   120mmHg未満を目指す厳格降圧は日本人にも有用か?
Column 7
 IgMPC-TINという新しい疾患概念
Column 8
 腎移植後高血圧の治療において留意すべきこと

あとがき
索引

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AIに置き換えられない「人間的腎疾患診療」とは?
書評者: 槇野 博史 (岡山大学長)
 腎臓病診療には血尿,蛋白尿,腎機能の低下といった臨床所見,その原因となる疾患の臨床検査,さらに腎生検で得られた腎組織を免疫組織化学,光学顕微鏡,電子顕微鏡で探索することによって病因診断がなされ,それらは有機的に関連した複雑な診断体系となっています。

 その中でも病理診断は重要な位置を占めており,腎組織のスナップショットから病態,さらにその時間的・空間的な経過を説明できるようになるにはかなりの時間と訓練が必要と思います。本書の序文でも述べられていますが,腎病理診断は人工知能(artificial intelligence;AI)に完全に置き換わってしまうでしょうか? 腎臓病にはまだ確立していない疾患概念があり,臨床症状,検査所見,病理所見から新しい疾患概念を提出することは,まさしくクリエイティブな仕事であり,AIには不可能と思います。また腎疾患の経過を腎生検組織から読み取って,患者さんの病態の「物語」を構築し,それを患者さんの心にわかりやすく響かせることもAIには不可能です。さらに腎疾患診療における答えのない臨床的ジレンマに対峙したとき,問題解決能力を発揮して患者さんを導いていくこともAIには困難と思います。つまり腎臓病診療には「人間的な仕事」が多く残されています。

 慶大腎臓内分泌代謝内科における選び抜かれた腎生検症例36例は,AIにできない「人間的な腎疾患診療」を行うための道場になっています。症例集やコラムには「原発性アルドステロン症によるmasked CKD」「免疫チェックポイント阻害薬による腎障害」「糖尿病性腎症の始まりは近位尿細管」「IgMPC-TINという新しい疾患概念」など新たに認識された病態や疾患概念がわかりやすく述べられています。またそれぞれの症例提示が病歴,検査所見,プロブレムリスト,腎生検所見,プロブレムリストに関する考察と「物語性」をもって一気に読み進めることができます。さらに,症例提示の最後にある「臨床医として考察を要するポイント」は臨床医の病態の理解に役立つだけでなく,診療上の多くの臨床的ジレンマも取り上げられており,問題解決能力の向上をもたらすものと思います。

 困った症例に遭遇したときに本書を手にするのもよし,また美しい腎組織とカラフルな経過表を楽しみながら通読するのもよし,本書の使い方は読者の皆様の選択と思います。36例の症例をまとめ上げるには並々ならぬ努力が必要であったと思います。慶大の伊藤裕教授,脇野修准教授,徳山博文専任講師,および教室員の皆さまの努力に敬意を表するとともに,多くの腎臓内科医,さらには腎臓内科を志す医師にぜひ読んでいただきたいと願ってやみません。

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