異なり記念日

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「聞こえる家族」に生まれたろう者の僕と、「ろう家族」に生まれたろう者の妻。ふたりの間に、聞こえる子どもがやってきた! 身体と文化を異にする3人は、言葉の前にまなざしを交わし、慰めの前に手触りを送る。見る、聞く、話す、触れることの〈歓び〉とともに。ケアが発生する現場からの感動的な実況報告。

*「ケアをひらく」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ シリーズ ケアをひらく
齋藤 陽道
発行 2018年07月判型:A5頁:240
ISBN 978-4-260-03629-0
定価 2,200円 (本体2,000円+税)

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●『シリーズ ケアをひらく』が第73回毎日出版文化賞(企画部門)受賞!
第73回毎日出版文化賞(主催:毎日新聞社)が2019年11月3日に発表となり、『シリーズ ケアをひらく』が「企画部門」に選出されました。同賞は1947年に創設され、毎年優れた著作物や出版活動を顕彰するもので、「文学・芸術部門」「人文・社会部門」「自然科学部門」「企画部門」の4部門ごとに選出されます。同賞の詳細情報はこちら(毎日新聞社ウェブサイトへ)

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男の写真家は聴者の家庭で育ち、
日本語に近づく教育を受けました。
(本格的に日本手話を使いはじめたのは十六歳のときです)。
女の写真家はろう者の家庭で育ち、
生まれたときから日本手話で語り、聴きました。

日本語と日本手話は別の言語です。
言葉が違えば見ている世界も違います。

やがてふたりは結婚して、こどもを授かりました。
どうやら聞こえるらしい。聴者です。
からだが違えば見ている世界も違います。

そんな「異なる」三人が、
毎日をどんな風に過ごしているのか――。
本書は、男の写真家から見た記録です。

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1 唄っていた

2 よく看える

3 聞こえの兆し

4 手の物語

5 生活を見にいく

6 湯けむりひらめき

まなみというひと

7 電話をかけよう

8 世界はことば

9 隣接する平行線

10 Hの字で寝る

11 すき! すき! すき!

12 異なり記念日

あとがき

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●ラジオで紹介されました。
《すごいシリーズなんです。いつもこのコーナーでは、僕がすばらしいと思ったものを皆さんに紹介しているんです。いつもすばらしいと思ったものばかりなんですが、これは――「これも」というか――本当にすばらしく、「今、読まれるといいな」と特に思いました。》――高橋源一郎(作家)
(NHKラジオ第1「高橋源一郎の飛ぶ教室」2021年2月12日。「読むらじる」に全文掲載)

●新聞で紹介されました。
《2冊の本を違う出版社から同時に出した。若手としては異例の大型個展を開いたり、人気バンドの音楽ジャケットを手がけたりと注目を集める写真家。》
『朝日新聞』2018年10月13日 読書面「著者に会いたい」より)

《「異なることがうれしい」―。今の気持ちを率直につづった。写真家の著者は子供のころから補聴器を付け、日本語に近づく教育を受けた。妻はろう者の家庭で育った。手話で語り、聞いてきた。》
(『北海道新聞』2018年9月16日 読書面「訪問」より)

《穏やかな語り口の身辺雑記の中に、「異なる身体」を持つ人間同士がともにあるとはどういうことかという問いが隠れている。》
(『日本経済新聞』2018年9月8日 読書面「あとがきのあと」より)

《日々、成長する樹さんと暮らしながら、こんな思いを抱いた。「やがて僕たちは互いに考えていること、感じていることが全然違うことを知っていく。異なりを超えて交わろうとするところに、人間の力を感じている」》
(『毎日新聞』2018年8月1日 BOOK WATCHING 著者インタビューより)

●雑誌で紹介されました。
《聞こえないからこそ気づくことがある――こんな手垢にまみれた言い回しも、本書を読めば、真実であることがわかるのだ。》
(『週刊文春』2018年9月20日 文春図書館より)

《このインタビューは筆談で行われた。感嘆符や絵を交えて書かれる齋藤さんの「ことば」は、私には表情豊かな魅力的な「声」として聞こえた。いつまでも話していたかった》――南陀楼綾繁(ライター・編集者)
(『サンデー毎日』2018年9月23日号 著者インタビューより)

●編集者が紹介しました。
《本書の著者、齋藤陽道(さいとう・はるみち)さんは、プロの写真家です。赤々舎から出され話題を呼んだ『感動』などの写真集のほか、若い人たちには窪田正孝フォトブックの写真家といったほうが通りがいいかもしれません。》⇒続きを読む(WANサイトへ)
(女性をつなぐ総合情報サイト「ウィメンズ アクション ネットワーク(WAN)」より)


違いを受け入れて家族するということ
書評者:澁谷 智子(成蹊大文学部准教授・現代社会学/『コーダの世界』著者)

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 この本の著者は,耳の聞こえない写真家であり,幼い子のパパである。著者は書いている。

 《「聞こえないことは不幸ではない」。それは,本当にそうだと思う。だけどそのあとに「でも,ちょっと寂しいね。ちょっと不便だね」が続いてしまうことも否めない。》

 結婚し,子どもが生まれ,いとおしい存在を守りたい,子どもといろいろなことを共有したいという思いが強くなったとき,著者は「音がわからない」というもどかしさを痛切に感じるようになった。

 夫婦で自転車に乗っていたとき,後ろを走っていた妻が転倒して意識を失ったことに気づかず先に行ってしまった。旅行先の宿で1歳11か月の息子がベッドから落ちて激しく泣いていたとき,妻も自分も気づかずに寝ていた。

 どちらの場合もしばらくして気づき,大事に至る前に対応できたのだが,著者は「すぐそばで起きている,いとおしい存在の危機に気づけない」ことを噛み締める。その衝撃。落ち込み。でも,著者はそれで終わらない。自分にはできないことがあるという自覚をもって,謙虚に寄り添う。意識して寄り添う。


 なかでも,本のタイトルにもなった「異なり記念日」のエピソードは,圧巻である。ドラッグストアのBGMに喜んで「音楽,あったー,ね!」と言ってくる息子に,自分は音楽がわからないと伝えると,上機嫌だった息子はうなだれてしまう。著者は息子を抱っこして伝える。

 お父さんもお母さんも音楽は聞こえないけれど,音楽を聞いて楽しそうに笑っている樹(いつき)さんを見るのが好きなこと。樹さんとお父さんとお母さんはそれぞれに違っていること。それは残念だけれども,大丈夫だということ。違いには,嬉しいことも楽しいこともあるということ――。

 異なることの痛み,共有できないせつなさをこれまでにも感じてきたろう者であるからこそ,それを今度は「聞こえる子」という立場で経験するであろう息子に対して,しっかりと伝えようとする。息子が経験していく“親との違い”,“聞こえる親をもつ聞こえる子”との違い。幼い息子を「樹さん」とさん付けで呼び,限りない愛情と優しさをもって「違っているのは残念だけれども大丈夫」と伝える言葉には,胸に迫るものがある。しなやかで強い。


 意識して伝える言葉のみずみずしさも,この本の魅力だろう。著者が漫画を見て覚えた表現や手話表現の日本語表記,視覚的に用いる文字列などは,あぁ,なるほど……と思わせる。

 内容的にも表現の面でも,多くの人をハッとさせる何かを秘めた本である。

同一化を求める治療を越えて
書評者:酒井 邦嘉(東大大学院教授・言語脳科学)

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なぜ思い出が薄かったのか
 著者の齋藤陽道(はるみち)さんは写真家であり,ろう者である。ただし聴者の環境で育ち,日本手話を本格的に使い始めたのは16歳からだ。それまで補聴器を付けて日本語の発音訓練を受けたが,他人の声は9割方わからず,「ひとり空回りする会話しかできなかった時期の思い出は,とても薄い」と言う。ところが20歳を過ぎて補聴器と訣別し,手話が馴染んでからは,「ことばを取り戻していくうちに,自分のものとして瑞々しく思い出せる記憶が増えてきた」。そして,「今ならわかる。思い出すことができなかった理由は,こころと密接に結びついたことばを持っていなかったからだった。ぼくはことばの貧困に陥っていた」と述懐している。

 私はそこに「こころ」の一部としての「ことば」の本質を見る。それと同時に,補聴器や人工内耳などの医療器具が人間の尊厳を奪いうるという事実に愕然とする。

異なったままでつながるために
 陽道さんのパートナーである真奈美(まなみ)さんは,デフファミリー,つまり家族が皆ろう者という家庭で育ったから,母語は日本手話である。もちろん夢も手話で見る。その2人から生まれた樹(いつき)さんは,ろう者を両親に持つ聴者であり,日本手話と日本語のバイリンガルでもあるコーダ(Coda;Children of Deaf Adultsの略)なのだ。この異なる「ことば」と体験を持った3人の生活から自然と溢れてくる会話を通して,陽道さんは笑い,怖れ,そして本当に大切なことに気づかされる。陽道さんは次のように記している。

 「『異なり』は,勝ち負けを決めたり,同一化を求めるためにあるのではない。異なりの溝はそのままに,そこを超えて交わろうとするところから,知恵や覚悟が生まれる」

まなざしもまた「声」である
 聴者は声が聞こえるから,常に相手の目を見ながら話す必要がなく,目を合わせずに話をする人も多い。ところが手話は見ていないと伝わらないから,ろう者は相手と目を合わせて手話をするのが基本であり,視線をそらせば,その視線の方向が指示対象を意味することになる。手話ではまさに「目は口ほどにものを言う」のであり,表情もまた非手指動作として文法要素になっているのだ。さらに陽道さんは,「ぼく自身が写真を通して,まなざしも『声』のひとつだということを学んだからかもしれない」と述べている。

 本書に綴られたことばは,とても美しい。「自然は常に何かが豊かに流動している。ただ行われる奇跡のような何かを,いつも潤沢にこぼしている」という何気ない一節に心が洗われる。全体として随想というより詩の連作に近く,それ故,抒情的で温もりのある写真と静かに響き合う。魂を揺さぶられるアート作品だと私は感じた。

研ぎ澄まされた観察力と対話力(雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者:鶴岡 浩樹(日本社会事業大学専門職大学院教授/つるかめ診療所副所長)

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想像を拡げる著者の「ことば」
 『異なり記念日』の著者、齋藤陽道さんは今をときめく写真家だ。障害をお持ちの方を活きいきと写し、ミスチルや窪田正孝さんともコラボする。『精神看護』誌の表紙もその作品と知れば読者は親しみが湧くであろう。僕の場合は園子温監督のポスター1に魅せられた。

 陽道さんはろう者で、聴者の家庭に育ち、日本語に近づこうと大変なご苦労をされた。妻のまなみさんもろう者で、ろう者の家庭に育ち、日本手話を母語とする。2人が授かった樹さんは聴者である。本書は身体も言葉も異なる3人の日常生活を、父親となった陽道さんが綴った。

 まず感じたのは、陽道さんの「ことば」が音楽的で色彩豊かなことだ。文中の音の使い方、オノマトペは、奇想天外でサーカス2のようだ。手話による子守歌のくだりは幻想的で、短編映画を観ているような気分になった。心の耳で聴き取り、歌っているのだ。

 齋藤家の生活の実態と喜怒哀楽を陽道さんが言語化してくれたことで、在宅医である僕にはさまざまな気づきがあった。オッパイを欲しがる樹さんの泣き声が聞こえない。ベッドから転落した樹さんの物音がわからない。自転車で転倒し怪我したまなみさんに気づかない。気づいたけれど、救急車を呼べない。1つひとつ書いてくださったことで、僕たち専門職は想像力を膨らませることができる。ありがたい。在宅ケアは当事者の生活をどれだけ想像できるかでケアの質が決まる。陽道さんの語りは多くの気づきを専門職に提供している。たとえば災害時の町内放送はろう者に届かない等々、想像が拡がる。

本書は優しく温かいララバイである
 身体と言葉が違う3人がつながるには対話が必要で、違ったままつながれることを本書は教えてくれる。このことは、来たるべく地域共生社会の大きなヒントといえる。陽道さんの対話力の凄さは、晶文社より同時発売された『声めぐり』3を読むとよくわかる。補聴器を外し、できることを駆使して懸命に対話しようとするプロセスに心を揺さぶられる。手話や抱擁ばかりか、写真も、はたまた頭突きまでも「声」であり「ことば」なのだ(あえて頭突きを挙げたのは、陽道さんがプロレスラー「陽ノ道」としてもご活躍だからだ4)。

 社会的マイノリティーとして常に他者との「異なり」を感じていた陽道さんは想像を絶する悲しみや怒りを心に秘めていたであろう。これを乗り越え「異なることがうれしい」という境地に達したことに僕は素直に感動を覚えた。『声めぐり』が陽道さんのブルースとすれば、『異なり記念日』は優しく温かいララバイである。息子と妻へのリスペクトの気持ちが心地よい。「あきれるほど無力ないのち」「いのちは、ただただ圧倒的なまでにいのちだった」など素敵なことばが散りばめられている。音のない世界で、見ることに全力で集中する。研ぎ澄まされた観察力からこの素晴らしい感性と作品が生まれるのであろう。

 海辺で老木につかまる母と子の写真(本書7頁)があまりにも美しく頭から離れない。本書を読み終えて、僕も一歩踏み出してみようと勇気をもらった。


1 映画「園子温という生きもの」のポスター
2 中原中也.サーカス.In:山羊の歌・在りし日の歌.創元社、1951.
3 齋藤陽道.声めぐり.晶文社、2018.
4 齋藤陽道.解説 祈りにも似た感動.In:北島行徳.無敵のハンディキャップ.筑摩書房、2018.

(『訪問看護と介護』2019年2月号掲載)

「異なり」の言葉の裏に家族の力強い連帯を感じる(雑誌『助産雑誌』より)
書評者:棚木 めぐみ(マザリーズ助産院)

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 絵画でも文章でも,白眉と謳われるものは皆,作者がその作品にたどりつくために,前人未踏の地への心の旅をして帰ってきた感が漂っています。読み始めてすぐ,「ああ,この本はそういうものだ」って思いました。

 著者であるパパの感性が炸裂しています。実用書でも育児書でもない。ハイクオリティな詩,純文学にも似た筆致。何とも言えない輝きが,行間から眩しく放たれています。写真家さんなので合間に差し込まれた写真もいい。一瞬のきらめきを切り取る技が卓越しています。

 ろう者であるパパは,夜,むずかるわが子を屋外の散歩中に抱いてあやしながら,ひとりでに歌が湧いてきたことに驚きます。久しく使っていなかった声帯を使い,月の下で紡がれるパパのその子守歌に,坊やはすうすう眠りにつきます。

 ママは,素敵な手の物語の名手です。樹君の顔の前でさまざまな動物がいきいきと現れては消え,最後には流れ星となって樹君の顔に落ち,砂粒となって消え去る……。樹君の目を通し,読者はママの手話をまるで絵巻物みたいに感じます。

 パパとママの,静謐で饒舌なろうの世界の奥深さに圧倒され,聴者である坊やとの可愛さMAXの世界に魅了されます。

 ろうの方の「ことば」は,聴者の「言語」とは異なり,3Dです。生き物です。感情です。空気の揺らめき,一瞬のまなざし,ぬくもり,独特の舌打ちの音。「言語」によらない豊かすぎることば。読んでいて,どんどん心が滋養されます。小さくて,甘美な,秘密のお菓子を1人でこっそり食べている気分です。

 もちろん,ろうゆえの苦悩や,葛藤や,恐怖やトラウマもあります。パパと坊やは聴力という点で隔たりがある。圧倒的な「異なり」がある。

 でも,それでいい。異なることが嬉しい。違っていていい。私はこの本のタイトルの「異なり」という言葉の裏に,その100倍,200倍もの,力強い連帯を感じました。「異なり」から始まる,力強い未来を感じました。

 病棟で日々疲れ果てている,大勢の助産師の皆さん,頁を繰って癒されてください。そしてあなたの大事な人や愛する人に,ここぞという時,贈ってください。「好き好き好き!」という,樹君がお得意の手話……人差し指と親指であごを挟むように滑らせて前に出す,すっかり覚えてしまったあの手話とともに,私も,私の大切な人に,この本を贈ろうと思います。

(『助産雑誌』2018年11月号掲載)

愛おしき「ことば」の世界(雑誌『看護教育』より)
書評者:木村 映里(看護師・ライター)

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 本書は,家族の日常を綴った物語であると同時に,良質な当事者研究の書である。ろう者の夫婦と,その間に産まれた聞こえる子ども,樹さんの生活が,独特の比喩を用いて豊かに表現されている。泣きそうになるエピソードや散りばめられた写真で描かれており,とても暖かくて少し切ない。

 著者は,他者に向けて自分の意思を伝える手段として,意味や文法が定められているものを「言葉」,幼子が発するような声,踊り,絵画,動物の吠え声といった,意味に値することがむずかしいふるまいを含めたものを「ことば」として使い分けている。そのうえで,意味や利用価値を求めて「言葉」にこだわろうとするとき,人間的な「ことば」を失ってしまう危険があると述べる。この概念を読んだときに,ふと閃くものがあった。

 私は重度の認知症高齢者を多く抱える病棟で看護師をしている。乳幼児と認知症患者はどこか似ていると前々からぼんやりと思っていたが,本書を読んで,樹さんのする「きょとん」の表情は,そのまま認知症患者に当てはまることに気づいた。青年期や成人期,壮年期の多くの患者は「きょとん」をしない。目の前の相手に呆けた顔を見せないのは無意識の警戒とも,他者への気づかいともいえるが,自分を飾っていることに変わりはない。一方,乳幼児や認知症患者は自分を良く見せるための飾りつけをしない。その前では私たちも個を隠せないし,だからこそルールの決められた「言葉」よりも,仕草や表情に重点を置き,全身で伝えたいことを表現する「ことば」が有効となるのだと思う。そしてその直接的なコミュニケーションのなかで感じた愛おしさは,膨らんだり分裂したりすることはあっても磨り減ることはない。だから著者の家では「すき!」という手話が飛び交っているし,私の職場では毎日仕事後には誰からともなく「今日の受け持ち患者の愛おしかったエピソード」の発表が始まるのだ。

 本書は,ろう者が日常で感じる不便や困りごと,受けた教育による手話への意識の違いといった,聞こえない生活を具体的に表現しており,それだけでも非常に気付かされることが多い。しかし著者の感性の魅力は,「聞こえない」ことにあるのではなく,もっと本質的な聡明さと他者への愛ではないか。忙しない日常で失いがちな豊かさを,本書に突き付けられたように感じる。

 切り取られた日常の何気ない場面には誰でも懐かしさを覚える一方,著者の感性によってもたらされる新鮮な驚きは,私たち読者を豊かな想像力の森へ踏み込ませてくれるだろう。秋の夜長の一冊として,ぜひお勧めしたい。

(『看護教育』2018年10月号掲載)

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