高次脳機能障害を読み解く
病態と評価から考えるリハビリテーション
高次脳機能障害患者の行動を読み解き、効果的な介入につなげるための実践知
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身体機能の知識だけではひも解けない高次脳機能障害を、病態メカニズムの理解と評価の臨床応用を軸に捉える実践書。各症候を「患者の行動や生活機能を読み解く手がかり」と位置づけ、現場で活きる評価の使い方や動作との関連、他障害との鑑別を解説するとともに、最新のエビデンスを踏まえた介入戦略も簡潔に提示する。若手・中堅療法士から学生まで、患者を新たな視点で捉え直し、臨床での推論力と展開力を高められる一冊。
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序文
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序
筆者は理学療法士として長年,脳卒中患者のリハビリテーションに携わってきた.そのなかで繰り返し感じてきたのは,患者の動作や生活を理解するためには,筋力や関節可動域,運動学といった身体機能の知識だけでは十分ではないということである.
たとえば,筋力や感覚障害が比較的軽度であっても,注意障害や半側空間無視,pusher現象によって移動やADLが著しく制限されることがある.また,身体機能が改善しているにもかかわらず,失行や遂行機能障害の影響によって日常生活への適応が困難となる患者も少なくない.若い頃の筆者は,そのような症例に遭遇するたびに「高次脳機能障害さえなければ」と感じていた.しかし経験を重ねるなかで,高次脳機能障害は単なる阻害因子ではなく,患者の行動や生活機能を読み解くための重要な手がかりであることを実感するようになった.
近年,脳画像研究や神経科学の発展により,高次脳機能障害の病態や神経基盤について多くの知見が蓄積されてきている.また,評価法や介入方法についても研究が進み,臨床で活用できる情報は以前より格段に増えている.一方で,高次脳機能障害の症候は患者ごとに異なり,いまだ十分に解明されていない症候や,有効な治療法が確立されていない領域も少なくない.そのため,障害名や評価結果を表面的に理解するだけでは不十分であり,病態メカニズムや患者の行動特性を踏まえて解釈する視点が求められているといえよう.
本書では,そのような視点を養うことを目的として,臨床で遭遇する機会の多い高次脳機能障害を取り上げた.具体的には,脳卒中後認知機能障害,半側空間無視,pusher現象,失行,病態失認・身体失認・身体パラフレニア,視覚失認,注意障害,遂行機能障害を対象とした.それぞれについて,病態メカニズム,評価方法,そしてリハビリテーションへの応用をできるだけわかりやすく整理したつもりである.高次脳機能障害は,運動麻痺や感覚障害だけでは説明できない複雑な症候であり,その理解は患者の生活機能や社会参加を支援するうえで欠かすことができない.
また,高次脳機能障害への対応は,特定の職種だけで完結するものではない.医師,看護師,療法士,介護職をはじめとする多職種が共通の理解を持ち,患者の行動や生活背景を共有しながら支援することで,より効果的なリハビリテーションにつながるものと考える.
本書が,学生や若手臨床家にとって高次脳機能障害を学ぶ入口となるだけでなく,経験を積んだ臨床家にとっても患者を新たな視点から捉え直す契機となれば,編者としてこれに勝る喜びはない.
最後に,本書の刊行にあたり,ご監修ならびに多大なるご助言を賜った網本和教授,そして執筆にご協力いただいた諸先生方に,心より感謝申し上げる.
2026年6月
編集を代表して 深田和浩
目次
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Chapter1 高次脳機能障害総論
高次脳機能とは
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害の評価
高次脳機能障害の治療
高次脳機能障害とクロスリアリティの活用
Chapter2 高次脳機能にかかわる脳構造・脳機能のポイント
脳の各領域の構造と特徴
大脳の皮質間結合ネットワーク:機能的ネットワーク
大脳の皮質間結合ネットワーク:構造的ネットワーク
Chapter3 高次脳機能障害の評価と治療のポイント
[1 脳卒中後認知機能障害]
定義
疫学
発症と回復の軌跡
症状
脳画像所見
機能予後と自立度
運動機能障害
評価
リハビリテーション
非侵襲的脳刺激
Virtual Reality(VR)
[2 半側空間無視]
定義
疫学
メカニズム
脳画像所見
評価
治療
[3 pusher現象]
定義
疫学
メカニズム
脳画像所見
評価
治療
[4 失行]
定義
疫学
メカニズム
脳画像所見
評価
治療
[5 病態失認・身体失認・身体パラフレニア]
定義
疫学
メカニズム
脳画像所見
評価
治療
[6 視覚失認──物体失認,色彩失認,街並失認,道順障害,相貌失認]
物体失認
定義
疫学
メカニズム
脳画像所見
評価
治療
色彩失認
定義
疫学
メカニズム
脳画像所見
評価
治療
街並失認
定義
疫学
メカニズム
脳画像所見
評価
治療
道順障害
定義
疫学
メカニズム
脳画像所見
評価
治療
相貌失認
定義
疫学
メカニズム
脳画像所見
評価
治療
[7 注意障害]
定義
疫学
メカニズム
脳画像所見
評価
治療
[8 遂行機能障害]
定義
疫学と病態
脳画像所見
評価
治療
COLUMN
高次脳機能障害者の就労支援
索引
書評
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脳血管障害患者を担当するセラピストの羅針盤
書評者:森下 元賀(令和健康科学大教授・理学療法学)
脳血管障害の患者を担当する機会のあるセラピストであれば,高次脳機能障害を合併している患者に出合ったことがない方は,ほとんどいないのではないでしょうか。とはいえ,特に理学療法士の中には,「高次脳機能障害は苦手」という方も多いと思います。かくいう評者も,これまで臨床で高次脳機能障害を合併する患者を数多く担当してきましたが,長らく苦手意識を持っていました。その理由としては,病態が理解しにくいことや,治療法がわからないことなどが挙げられます。もちろん,作業療法士や言語聴覚士らと連携しながら高次脳機能障害にアプローチをしていくものの,理学療法の中では,リスク管理やコミュニケーションの工夫という位置付けにとどまり,高次脳機能障害そのものに理学療法としてアプローチできているという方は,それほど多くないように感じます。
高次脳機能障害について学ぼうとする際に,しばしばぶつかる壁の一つが,障害の発現機序です。多くの成書では,病巣や神経ネットワーク,物的表象(イメージ),身体的表象などの観点から説明されていますが,その内容をじゅうぶんに理解できず,途中で挫折してしまうセラピストも多いのではないでしょうか。
本書『高次脳機能障害を読み解く』は,現在のエビデンスに基づき,定義,疫学,メカニズム,脳画像所見について非常にわかりやすく解説されています。例えば,半側空間無視の項目では,空間性注意ネットワークの機能不全と注意の解放障害の観点から,そのメカニズムが明快に説明されています。また,脳画像所見に関しても,半側空間無視のサブタイプ別の病巣を示した上で,臨床家が見るべき責任病巣のポイントが整理されています。多彩な病巣で生じる半側空間無視について,特にどの病巣が予後不良であるのかという点に焦点を当てて解説されており,初学者にも理解しやすい内容となっています。
一方,高次脳機能障害の中でも,失行,視覚失認などは,臨床であまり遭遇しないと考えている理学療法士も多いのではないでしょうか。例えば,失行の症状として,道具の使用障害,パントマイムの障害,ジェスチャーの障害などを養成校で学んでいる人も多いでしょう。しかし本書では,失行はこうした典型的な症状だけでなく,運動や動作の不自然さとして現れる場合があり,それを失行ではなく,運動麻痺や失語症,全般的認知機能の低下によるものととらえてしまう可能性があることに警鐘を鳴らしています。このように理学療法の場面で見られる現象の背景に,実は高次脳機能障害が潜んでいることも少なくありません。本書では,高次脳機能障害が姿勢や基本動作,日常生活活動,歩行などの場面にどのように影響を及ぼすのかについても,具体的に示されています。
本書は,理学療法士をはじめとするセラピストが,高次脳機能障害をどのように評価し,治療を行っていくべきかを示した一冊です。概念的な知識を解説するだけでなく,具体的な方針,いわば「羅針盤」を示してくれます。脳血管障害を担当し,日々の臨床に困難を感じているセラピストはもちろん,卒後間もないセラピストにもぜひ手に取っていただきたい一冊です。





