医学界新聞

 

DPC時代の医療とパスを検証

第6回日本クリニカルパス学会開催


 第6回日本クリニカルパス学会がさる12月2-3日,佐藤博会長(新潟大医歯学総合病院)のもと,朱鷺メッセ(新潟市)にて開催された。メインテーマを「DPC時代が求める患者本位の医療とは――地域疾病管理から医薬品・材料などの物流管理まで」とし,医療の質評価,電子カルテ,個人情報保護法など,時宜を得たテーマでプログラムが組まれた。本紙では,“DPC下の医薬品マネジメント”の観点からも注目される「ジェネリック医薬品」と,“パスの要”とも言える「チーム医療」に関するプログラムのもようを報告する。


 2006年度診療報酬改定において,DPC対象病院が拡大する見通しだ。現行の「DPC対象病院」(82病院)に加え,特定機能病院以外でDPCによる支払いを行っている「試行的適用病院」(62病院)はすべて「DPC対象病院」に移行。さらに,出来高払いのままDPCに関するデータ提出を行っていた「調査協力病院」(228病院)も,一定基準を満たせば「DPC対象病院」に再編される。

 包括支払い下においては,先発品よりも安価で,欧米では普及している「ジェネリック医薬品」が注目される。しかし,臨床現場では,ジェネリック医薬品の臨床効果や安全性に関し,不安の声も根強い。ワークショップ「これから求められるジェネリック医薬品」(オーガナイザー=国立病院機構長野病院・武藤正樹氏,福井大・政田幹夫氏)では,「推進」「慎重」両方の立場から,ジェネリック医薬品(以下,ジェネリック)のあり方が議論された。

“安全・安心”のジェネリックへ情報収集と発信の仕組みを

 池田俊也氏(慶大)は,世界各国のジェネリックのシェアや,経済的効果に期待する各国の使用促進策を紹介するとともに,問題点も提示した。例えば,生物学的同等性の基準には許容範囲があり,同等性が確認されたからといって治療効果が同等とは言い切れない。こうしたことが周知されないまま普及が進むことに懸念を示し,有効性・安全性に関する情報を蓄積していくことが,医療者の責務であるとした。

 藤巻高光氏(帝京大)は,臨床医の立場から,情報提供体制の整備を求めた。ジェネリックメーカーはMR数が少なく,全社のMR数を足しても大手先発品メーカー1社とほぼ同数となる。氏自らも,ジェネリック投与中の女性から妊娠に伴う質問を受けた際,そのメーカーでは対応できず,先発品メーカーからの情報に基づいて指導を行った経験を語った。

 増原慶壮氏(聖マリアンナ医大)は,院内におけるジェネリック導入の取り組みを紹介した。DPC導入に伴い,氏の大学病院では2003年5月から注射薬をジェネリックに切り替え,年間の医薬品購入費を約1億5000万円(薬価ベース)抑制した。さらに04年5月からは地域の薬剤師会などの協力も得て,一般名処方を開始している。一般名処方には,患者への情報提供や薬局との連携が不可欠であり,それらの取り組みもあわせて紹介。この結果,現在は約4分の1(門前薬局では半数)の患者がジェネリックを選択しているという。また,さらなる普及のためには,代替調剤への移行が必要であるとの見方を示した。

 後藤伸之氏(福井大病院)は,ジェネリックの積極的利用を医療資源の有効活用という面で評価しつつ,品質・薬効面で課題が残ると指摘した。ジェネリックを「先発品と同じ成分で,同じ効き目の医薬品で,先発品より安価な薬」と自信を持って説明できるよう,治療効果の同等性を報告する制度や毒性試験などの実施を求めた。

消費者の立場からは中村雅美氏(日経新聞編集委員)が登壇。経済性だけでなく,信頼性の向上や品質の保証,十分な情報提供体制の確立に向けた医療者の努力を求めた。

 討論では,審査基準の厳格化を求める声があがったほか,メーカーの情報公開や市販後の副作用情報の集約などの課題も多くあがった。武藤氏は「情報の収集と発信の仕組みづくりの必要性を感じた」と話し,“安全”と“安心”のジェネリックに向けた指針を示した。

■パスの成功は“チーム医療”あってこそ

 招待講演「M.D.アンダーソンがんセンターにおけるがん治療とクリニカルパス」では,同センターの上野直人氏が登壇した。メディカル・コンプレックス「テキサス・メディカルセンター」の中にある州立病院「M.D.アンダーソンがんセンター」は,新薬の治験や遺伝子治療など最先端のがん治療・研究が行われる世界有数のがんの専門病院として知られている。

 「名医はいらない」という同センターで,その根幹を支えるのが「チーム医療」。そのチーム医療を推進するうえで欠かせないのは,「バカバカしいと思うかもしれないが重要」と上野氏が強調した,組織のミッションとビジョン,ケアバリューの徹底である(約1万5000人の従業員に試験が課され,これらを暗唱できるほどになる)。

コメディカルの役割拡張と医師のサポート

 さらに,「日米の比較論をやめて,歴史的経緯をみるべき」との持論から,アンダーソンにおけるチーム医療の変遷を1960年代から追って説明した。中でも特に強調したのが,コメディカルの“役割拡張”である。当初は医師同士のコミュニケーションから始まったチーム医療が,看護師や薬剤師,ソーシャルワーカーなどを含めたものになった。それは単に“医師のサポート業務”に終始するものではない。例えば,上級看護師は医師と同じような知識を持ち,身体所見を取り,医師の管理下で指示を出し,カルテを書く。上級看護師と薬剤師が役割拡張すれば,研修医と同程度のことができ,プライマリケアの多くを担うことが可能となる。

 では,こうしたチーム医療の形成は「アメリカだからできた」ことなのか。氏はこれを否定。現在の状況は40年近く経ってできたことであり,“マインドセット”をすれば,日本でも可能であると述べた。さらに医師への提言として,時間をかけてコメディカルの知識の底上げと役割拡張をサポートし,彼らのやる気をつみとらないこと。看護師は知識の底上げをして医療に関与すること,また「ローテーションをやめるべきでは」とも助言した。薬剤師は,「医師よりも薬の知識を持っている」という自負を持ち,チーム医療に参画してほしいと話した。

 最後に「チーム医療ができて初めて,ガイドライン・パスウェイが生きてくる」と指摘。“パス作成がうまくいっていない”という場合,作成プロセスだけでなく,“その病院のチーム医療に問題がないか”と振り返ることも重要,というメッセージを残し,講演を閉じた。