医学界新聞

 

Dream Bookshelf

夢の本棚 1冊目

渡辺尚子


心を元気にする色彩セラピー

著:末永蒼生
PHP
2003年
A5判・145ページ
1575円(税5%込)

 今日患者さんに言われたことが気になった。「あなた,色のない人ね」という一言。どういう意味なのだろう……。

 私は夢の中に,自分の書斎を持っている。気にかかっていることがあると,必ずそこに導かれていく。とにかく今日も,あの患者さんに言われた一言を引きずって,ベッドに入った。

 「また来たね,あなたの書斎に」。いつものように誰かが私に話しかけてきた。そして壁一面を埋める本棚から一冊の本がカタッと音をたてて出てきた。その本は『心を元気にする色彩セラピー』。表紙にはやさしい色の輪が描かれており,心を柔らかくしてくれるようだ。ぱらぱらページをめくると,最後の方に塗り絵のページがあった。「大人の本に?!」と思いながらも色鉛筆で塗ってみた。しかしどうしたことだろう……色がつかない!

 私はいつもの椅子に座って,最初からその本を読み始めた。「色と心の不思議な関係」から始まり,色別に様々なことが書いてある。「心で語る色,癒す色」「色でみんな元気」と,3つの章から成り立っている。ゴッホの幼少期と黄色との関係。ゴッホは,こんな思いで,死んだお兄さんの名前とともに生きてきたのか……。ピカソが,青,それも深い海を思わせる色にこだわった時期と友人の自殺。様々な事例を出しながら,色が人の生活や気持ちの変化に大きくかかわっているのが理解できる。読み進めていくうちに,自分の気持ちに気づいたりもした。そうか,あの時期,あんなことがあったからこの色を好んでいたのだ……と。また,有名なフランスの画家ユトリロのあの独特のタッチと皮膚病。彼の深い悲しみや辛さが,私の心に伝わってくる……。ページをめくると,先ほどの塗り絵のページになった。「心のマッサージのための『塗り絵』」というページ。再び色鉛筆をとり,塗り始める。すると,どうだろう! 今度は鮮やかな色がそのページを染めていった。次のページに移ろうとしたとき,ふっと目が覚めた!

 すでに朝日がでていた。そしてまたあの患者さんの言葉を思い出した。そうか,そういうことだったんだ。忙しい中で,そういえば最近「感動」がなくなっていた。以前は夜勤明けで帰る疲れた朝でも,季節を感じさせる花の色や香りに感動したり,夜遅く帰ると,空に浮かんだ月の丸さに魅入っていたことを思い出した。それなのに今は,自分の通勤の道にどんな花が咲いているのか,昨日の夜空の月が満月だったのか三日月だったのかなんてまったく思い出せない。出勤途中は,今日やることを整理しながら,ただ目的地の病院に向かって歩いていた。患者さんに会えば,いつもと同じ気持ちのない業務的な挨拶。もう少し,自分の気持ちを大切にしていこう。時間をゆっくり一人で過ごしてみよう。そんな気になって,また仕事に出かけた。

 気づいてますか? あなたも夢の本棚を持っているんですよ。


渡辺尚子
職業,看護師。現在はまっていることは映画と英語。「えい」つながりだが,言葉以上のつながりはなく,特に洋画が好き,というわけでもない。しかし,最近見たのは洋画「モナリザ・スマイル」。この映画の結末にちょっと納得がいかない日々を過ごしている。