レジデントサバイバル 愛される研修医になるために
CHAPTER 2
ホウ・レン・ソウ〈報告・連絡・相談〉を忘れるな(後編)
本田宜久(麻生飯塚病院呼吸器内科)
【前回からのつづき】
「卒後研修を楽しく,実りあるものにする」ために,教えられ上手な愛される研修医となりたい。研修医時代を少なくともサバイブするためには,どんなコミュニケーション技術が必要なのか?
前回,以下の(1)-(3)について事例をあげて検討してみた。
(1)報告されていないものは,責任の取りようがない!
(2)悪いニュースほど早めに相談
(3)相手を気遣う魔法の言葉「今,よろしいですか」
報告することの大切さを覚えた((1))。そして,早い相談が大事件を未然に防ぐことも学んだ((2))。指導医も人間なので,気遣いの言葉をかける大切さも知った((3))。
では,どのように相談したらよいのか,また会話の中で,指導医から質問された時に気をつけるべき点は何か? 失敗という名の宝の山から,今回もいくつかを紹介したい。
結論を先に言う
ある夕方の研修医室。研修医たちの質問に指導医が答えている。コーヒーの香りが漂い,リラックスした雰囲気。そんな最中に,1人の研修医が入ってきた。研修医「先生。今よろしいですか?」
指導医「あぁ,いいよ」
研修医「50歳の男性。主訴は呼吸困難です。1週間前から発熱,咳嗽がありました。レントゲン上は右下葉に‥‥‥」
指導医「ちょっと待って。何が言いたいのかな」
研修医「今,暴れてガラスを割っています」
指導医「それを早く言え!」
みんなで駆けつけたのは言うまでもない。

コメント
指導医の苦痛の1つに「わかりにくいプレゼンテーションに耐えること」があげられる。論点がわからないいまま,質問を聞くのは難しい。何に焦点をおいて聞けばよいかわからないため,精神的にも疲れる。 実は,研修開始の当初は,研修医も自らの話の結論がわからないまま報告や相談をしていることが多い。見たままを解釈なしで実況中継してしまうのだ。ある程度は仕方ないが,1年目の10月を目標に,「結論を最初に言えるようになる!」と,意識するとよいだろう。風邪が流行りだす冬。指導医への相談が必要な症例に手間取り,迫り来る大量の感冒患者に対処できなくなる。 さらには研修も2年目になると,もたもたする1年目研修医をカバーするために,君は仕事の速い重宝な先輩になっている必要があるのだ。 その他の事例●指導医に電話であれこれ相談している最中,「あぁ! もういいわかった,行く!!」とプレゼンを遮られた。結論がわかりにくいために指導医が診に来てくれるというのは,正直,お互いに悲しい。●不整脈の患者について,救命センターから指導医に電話相談していたところ,「脈がおかしいかはよくわからないが,おかしいのは君だよ!」と言われて落ち込んだ。 CAUTION
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Yes or Noを はっきりと答える
ある日のカンファレンス中,研修医は質問を受けた。指導医「血液培養は採った?」
研修医「あのぉ,発熱は37.8゜Cで悪寒戦慄もはっきりしなくてですね。血管もなかなか出にくいみたいで……」
指導医「STOP! で,採ったの,採らなかったの?」
研修医「あ。採ってません」
指導医「まずは,それだけ言えばいい」
コメント
質問に答えられない時がある。その理由は「答えを知らない」,「答えたら怒られる」,が主な原因だろう。しかし,はっきりと答えないことで,貴重な時間がいたずらに過ぎ去ってしまう。ただでさえ睡眠時間の少ない研修医時代。恥をかくことを恐れるよりも,時間を創ることを優先しよう。沈黙や言い訳に付き合ってもらうより,指導に時間を割いてもらうかゆっくり休んだほうが,指導医・研修医双方にとって有益である。 その他の事例CAUTION
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うそや言い訳で その場をとりつくろわない
指導医「腎機能はどう?」研修医「はい。正常です」
指導医「本当? どれ,確かめてみよう。腎障害あるじゃない!!」
研修医「ああ,そうでした。すみません。」
指導医「まあいいや。レントゲンは撮った?」
研修医「はい,撮りました。」
……と答え,研修医はあわてて,見つからないようにオーダーした。
コメント
研修開始当初,さわやかな弁舌の研修医に心地よさを感じていたところ,時間がたつと何か違和感を持ちはじめることがある。間違いを指摘して教えようとした時に,うまい具合にかわされてしまうのだ。どうしてこの検査ができなかったのか,どうしてこんな状態になってしまったのか,そのような理由説明が大変上手なのだ。しばらくすると,その研修医が要領よく言い訳でその場をつくろっていることがわかってくる。指導医としても残念だ。教えてあげようと思うが,とりつく島がない。結局は研修医自身が損をしている。そして,度が過ぎると要注意人物になり,信頼がなくなる。 怒られることを恐れないでほしい。 |
怒った人は,怒ったことを 意外に気にしている。
これまで紹介してきたような失敗経験をしたならば,落ち込むこともあるだろう。ひどく怒られることもあるだろう。しかし,指導医の怒りによって研修医が萎縮する場面を振り返り,「また,怒ってしまった」,「どうやったら感情をコントロールできるのか」と,指導医同士で話し合うこともある。怒られた後の帰宅前の「お疲れさまでした」や「ありがとうございました」。怒られた翌朝の「おはようございます」。これを忘れずに。そんなすがすがしい挨拶でお互いの仕事が気持ちよくリスタートされる。
たとえ怒られたとしても,「先生に教えてもらってよかった」と思ってくれる研修医がいることで,実は指導医もホッとしている。指導医のよきモチベーターはそんな研修医なのだ。
【筆者略歴】 1973年生まれ。長崎大卒。麻生飯塚病院での研修医時代より院内でのコミュニケーションに興味を持ち,以来事例を集めている。 yhondah2@aih-net.com |