医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


この1冊で消化器内視鏡の技と心が会得できる

日本のコロノスコピー
エキスパートに学ぶ心と技
日比紀文,他 編

《書 評》朝倉 均(新潟大名誉教授/(財)国際医学情報センター理事長)

コロノスコピストに必要なもの

 消化器内視鏡のうちコロノスコピーは術者の腕と心が問題になる。食道や胃・十二指腸内視鏡検査は鑑別診断には多くの経験と勉学の蓄積が必要であるが,挿入には食道入口部に問題があるものの内視鏡の経験を積めば何とかクリアできる。一方,コロノスコピーはまず回腸ないし盲腸までの苦痛なき挿入が鑑別診断の前に立ちふさがる。上手な内視鏡医による検査を受けた患者さんは,「コロノスコピーは上部消化管内視鏡より楽な検査ですね」と言うし,下手な内視鏡医に検査された患者さんはもう「二度と検査を受けたくない」と言う。すなわち,コロノスコピーには医師の患者さんに対するいたわりの心とともに挿入の技術が不可欠である。

達人に学ぶコロノスコピー

 本書は日本のコロノスコピーの実績と技ではトップレベルにある6人のコロノスコピストが,コロノスコピー挿入の心構えと挿入手技を解説している。今までの内視鏡の解説書は,1人の内視鏡医の解説で終わってしまっていたが,1人ひとりのコロノスコピストの挿入のノウハウが異なるように,読者は自分に合う挿入法をこの本から会得することが大事であることを示している。さらに,この本は前半に,コロノスコピーのための基礎知識編,今までの内視鏡の教科書では具体的に記載されていない事項,すなわちコロノスコピーをはじめる前の検査を受ける患者さんに与えるかもしれない苦痛や精神的なサポートと心得,コメディカルの問題,インフォームド・コンセント,鎮静薬・鎮痙薬などの注意を解説している。そして後半にはさらに一歩進めた内視鏡技術,すなわち色素/拡大内視鏡法,内視鏡的超音波断層法,ホットバイオプシー,ポリペクトミー,粘膜切除術(EMR),止血クリップ法,狭窄拡張術,ステント,ドレナージ,バーチャルコロノスコピーなど,この本1冊で消化器内視鏡の技術と心が理解できるように盛りだくさんに記載されている。
 初めてコロノスコピーを行なおうとしている医師,日ごろ内視鏡挿入に悩んでいる医師,指導を受けるために,あるいは指導するために知識を整理する必要があるレジデントや指導医にも必須の本である。将来改訂版が出る時には,挿入法や内視鏡付属部品がDVDかCDで動画的に見られるようにすると,一層わかりやすくなるであろう。
B5・頁224 定価(本体9,000円+税)医学書院


第一線の臨床家による日常救急診療の実践書

問題解決型救急初期診療
田中和豊 著

《書 評》大野博司(前舞鶴市民病院内科)

日本の実情をふまえ,かつ欧米のスタンダードをとり入れた内容

 地方の中規模病院の救急外来を中心に働いていると,内科,外科,小児を問わずあらゆる救急患者の初期評価・マネジメントを救急担当医が行なわなければならない。そのような忙しい日々の中,今回『問題解決型救急初期診療』という1冊の本に出会った。
 この本は内科・外科[特に整形外科領域(骨折以外の捻挫,打撲なども対応がきちんと書かれている),外傷]の分野を広くカバーしており,さらに簡潔な問題解決のアルゴリズム・初期治療のエッセンス(商品名,投与量の記載がありいっそう使い勝手がよい),そして心肺蘇生法ACLS,外傷初期診療JATECの最新のプロトコールまでまとまっている。
 まず日本で卒後10年の臨床第一線の医師が救急初期診療全般にわたって単独執筆されたことに驚いた。また無駄なく簡潔で読みやすい記述であり,自分の日常救急診療を振り返りながら短期間で読むことができた。
 この本は救急疾患のマニュアルであるが,専門医による三次救急主体の現場で片手間に行なわれる一次・二次救急の中で書かれた普遍性に乏しい本でもなく,かといって欧米一辺倒で日本の現状を大きく逸脱した本でもない。欧米の普遍性・問題解決型のアルゴリズムのもと,日本の現場を十分配慮した診療内容になっており,日本(特に都内の医療過密地域での救急医療)・アメリカの臨床現場を経験した著者だからこそ書くことができた本ではないかと感じている。

現場で役立つポイントを強調

 胸痛の項で“急性心筋梗塞を疑う時には,必ず急性大動脈解離に伴う急性心筋梗塞を否定する”という記述がある。非外傷性胸痛患者の初期対応で,いわゆる“4 killer chest pain”(急性冠症候群,肺塞栓,大動脈解離,食道破裂)を否定する必要があり,まれな食道破裂(患者背景から十分疑うことは可能)を除くと他の3疾患では,抗凝固を行なうもの(急性冠症候群,肺塞栓)と行なってはいけないもの(大動脈解離)に分ける必要がある。マネジメントのうえで,このような大局的な考え方を強調している点は読んでいて非常に有用である。
 また腹痛の項での“排便があっても便秘による腹痛は否定できない”,“救急室で最も頻度の高い腹痛の1つは便秘である”,便秘の項での“便秘が必ずしも腹痛を起こさないで,嘔気・嘔吐のみの症状を呈することがある”という記述は,教科書に載っていないが,日常臨床ならではであり,臨床の第一線で働いていなければ決して書けないだろう。
 その一方で気になる点もある。失神の項で一過性脳虚血発作TIAについて,失神は稀でDrop attackになる場合が多いという記載がないことや,咽頭痛の項で“penicillin抵抗性のA群溶血連鎖球菌が増えているためロセフィン・8244・を選択する”点(ペニシリン耐性肺炎球菌ではないかと思う)が気になった。
 これらの見直しとともに,小児科領域の救急疾患へのアプローチや,救急診療で研修医・若手医師を悩ませ,また誠実に取り組まなければいけない“救急外来での看取り”についても著者なりの考えの記述があればと思う。紙頁を増やすことなく内容をどこまで充実させるかは非常に難しいことだと思うが,今後の第2版以降に期待したい。
 私にとって臨床医学のよい本とは,(1)短期間で読める(数日-2週以内),(2)臨床の現場ですぐ開け,役に立つ,そして何よりも(3)著者に実際に会いたくなる,一緒に働いてみたくなる,そんな本である。
 本書を強い味方に,日々の救急外来業務に取り組んでいこうと思った次第である。そして,今回偶然にも強烈な輝きを放つ日本の医学書に出会えたことを感謝したい。
B6変・頁512 定価(本体4,800円+税)医学書院


急性疾患を診るすべての医師必携の1冊

内科救急プロトコール 第2版
Acute Medicine: A Practical Guide to the Management of Medical Emergencies, 3rd Edition David C. Sprigings, John B. Chambers 著
森脇龍太郎,上原 淳 監訳

《書 評》森田 大(大阪府三島救命救急センター所長)

内因性の救急患者に対応できる 人材が不足している

 わが国の救急医療は重度外傷患者の救命治療,集中治療を主体に発展してきたため,救急は外科というイメージが強く残っています。しかし,全国的にみても多様な内因性の救急患者が増加しているのは事実で,これらに適切に初期対応できる人材が求められており,現状では不足しています。急性疾病の患者はバイタルサインが安定していても急変することが往々にしてあります。診断に至る思考過程も外傷とはまったく異なり,相応の臨床訓練が必要なのですが,医学部では救急のプライマリケアを体系的に教えてきませんでした。
 救急患者はどこの救急病院へ搬送されるか,担当医のみたては大丈夫か,不安な気持ちでいっぱいです。医師のほうも当直時には不安な気持ちでマニュアル本を片手に対応しているのではないでしょうか。お互いに矛盾を抱える救急診療の現状に対してよくみられる急性の症候を的確に診断し初期治療できる基本的診療能力,患者の急変を見抜く判断能力の涵養をめざした新臨床研修が開始されようとしています。

診療のピットフォールを加筆し, より実践的に

 そのような時に,救命救急センターに勤務する数少ない内科専門医である森脇龍太郎先生らのグループにより『内科救急プロトコール』第2版(原著第3版)が翻訳されました(患者を総合的に把握できる内科専門医が積極的に救急領域に参入されることを期待しています)。最新のガイドラインとエビデンスをもとに,救急患者を前に何をみてどう考えるか,専門医にコンサルトするタイミングは,それまでに行なうべき治療は……など,実践に即して系統的,合理的かつ簡潔にまとめられ,日本のマニュアル本とはひと味違います。さらに,原著にはない「陥りやすいピットフォール」が加筆され,永年の診療で多くの落とし穴を見てきた評者も共感しながら読みました。
 臨床研修中の医師だけでなく,入院・外来を問わず急性疾病の診かたを指導する上級医もきっと得るものがある,お薦めの手引き書です。
A5変・頁456 定価(本体6,200円+税)MEDSi


リハビリテーション医療の健全な発展はこの1冊からはじまる

FITプログラム
統合的高密度リハビリ病棟の実現に向けて
才藤栄一,園田 茂 編

《書 評》里宇明元(慶應大助教授・リハビリテーション医学)

日本の集中的リハビリテーションの現状

 最近公表された脳卒中関連の5学会による脳卒中合同ガイドラインにおいては,機能障害および能力低下の回復をより促進するために,リハビリテーションの量を増やし,集中して行なうことの必要性が勧告されている。事実,欧米では1日3-4時間,週7日間のリハビリテーション医療が当たり前のように行なわれ,短期間でより大きな機能的利得が得られている。
 一方,わが国では,現行の診療報酬体系のもとでは,保険請求が認められている量は,理学療法,作業療法,言語療法をあわせて,最大でも1日6単位(120分)である。さらに,多くの施設では(特に公的医療機関においては),週休2日制のもとに,訓練は週5日しか行なわれていないという現実があり,集中的なリハビリテーションという観点からみると,わが国の現状は,まだまだ欧米に遅れをとっている。
 診療報酬上,病棟での生活訓練を重視するという名目で設けられている日常生活動作(ADL)訓練加算についても,病棟の構造上の問題,病棟と訓練室間の移送の問題,実際に行なっているADLと訓練室でできるADLとの解離,リハビリテーションスタッフ間の認識や相互コミュニケーションの不足,家族の関与の不足などの問題があり,必ずしも真の意味で生活の中での集中的リハビリテーションに結びついていない。
 したがって,われわれリハビリテーション医療者がこれまでのやりかたを踏襲し続ける限り,十分な量と質のリハビリテーションを提供することは困難な状況にあるといえよう。

従来の問題を解決するための 具体的なプログラム

 このような中で,集中的かつ高密度のリハビリテーション医療を効率的に提供し,最大限の効果を最短期間で達成するための具体策として提案されたのが,Full-time Integrated Treatment(FIT)プログラムである。
 FITの開発は,従来のリハビリテーション医療に内在していた,1)運動学習には患者の能動性が必要,2)治療には長時間の繰り返しが必要,3)多職種のコミュニケーションとチームワークが必要,という3つの弱点の洞察からはじまった。これらの問題をトータルなシステムとして解決するために,1)能動性に働きかける(アフォードする)環境の整備,2)週7日,1日中の訓練による訓練量の確保,3)IT技術を駆使した情報の共有化を核として,訓練室一体型病棟,6m幅の大廊下,LANデータベース,ADLに対する作業療法士-看護師の協調,療法士の複数担当制,週末の家族教室などといった,ハードとソフトが一体になったきわめてユニークなプログラムが創出された。

本書を参考にする場合の心構え

 本書ではFITの考え方やノウハウがわかりやすく解説されており,一見するとすぐにでも日常臨床に取り入れられそうな内容に思われるかもしれない。ただし,FITは藤田学園という全学的にリハビリテーション医学・医療を強力にサポートする土壌がある中で,才藤教授,園田教授の強力なリーダーシップのもとに,熱意に溢れた創造的スタッフたちが一体になって作り上げたプログラムであることを押さえておく必要がある。
 すなわち,読者が自らの置かれた環境において「集中的,高密度リハビリテーション医療」を展開していこうとする際には,単に本書からFITの具体的なノウハウを吸収するだけでなく,FITが誕生した背景にある運動学習の原理,動機づけの心理学およびチームの理論を十分に理解し(本書ではこれらのエッセンスがわかりやすく解説されている),自らの実情を踏まえたうえで,実現可能性のあるプログラムを創造していくことが求められるであろう。
 理念やスローガンばかりが先行しがちな日本のリハビリテーション医療において,きちんとした理論的枠組みのもとに,いつ,どこで,誰が,何を,どのように行なうかという,きわめて具体性のあるプログラムを提案したという意味で,本書の果たす役割は大きい。今後,FITに負けないような具体性かつ実効性のあるプログラムがどんどん開発され,実践されていくことが,日本のリハビリテーション医学・医療を健全に発展させていくうえで重要であり,その大きな一石を投じた本書を心から歓迎したい。
B5・頁152 定価(本体3,800円+税)医学書院