医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


がん患者を対処可能な症状で苦しませないために

トワイクロス先生の
がん患者の症状マネジメント

Robert Twycross,Andrew Wilcock 著
武田文和 監訳

《書 評》垣添忠生(国立がんセンター総長)

 『トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント』が刊行された。これは,Drs. Robert Twycross and Andrew Wilcockによる『Symptom Management in Advanced Cancer』の翻訳である。
 武田文和先生の監訳によるもので,実際の翻訳は,わが国の緩和ケアに携わる,いわば第2世代に相当する,現場で活発に診療に従事している医師や看護師があたった。これが,原書がしっかりしていることに加え,この訳文を生き生きしたものにした大きな理由だろう。

英国ホスピスに学ぶ

 英国は近代ホスピスの発祥の国である。有名なホスピスが数多くあるが,中でもオックスフォードにあるSir Michael Sobell Houseは,そこで実践されている全人的ケアのレベルの高さから,緩和ケアに従事する多くの専門家から高く評価され,その活動が注目されてきた。本書の著者,Dr. Robert Twycrossは,このホスピス創立以来20数年にわたって所長を務めてきた。本書には,同ホスピスで研究され,実践され,有効性が確認されているがん患者の症状マネジメントが,簡潔で包括的に記述されている。

末期がん患者の症状を網羅

 がん患者が終末期に入った時,つまり,もはや完治を望むことができなくなった時点でも,がん患者が訴えるさまざまな身体的苦痛,症状に医学的に対処することは極めて重要だ。疼痛や呼吸困難に代表される症状がコントロールされた時の,患者の安堵した顔を一度でも体験した人は,患者の立場でものを考え,行動するようになる。
 実際には,がん患者の痛みは多様であり,その対応に使われる薬剤は非オピオイド,弱,強オピオイド鎮痛薬やナロキサンがある。これらに個々に触れ,さらに鎮痛補助薬や非経口投与法も触れられている。
 消化器の症状としては,口臭,口内乾燥,口内炎から食欲不振,胸やけ,便秘,下痢,腹水など多彩であるが,これらの対処法が網羅されている。その他に,呼吸器の症状,精神症状,生化学的症候群,血液学的な症状,神経の症状,尿路の症状,皮膚のケア,リンパ浮腫,治療上の緊急事態,そして臨床的ガイドライン。本書はがん患者の症状マネジメントに関して欠けるところがない。
 本書を病棟や外来に各1冊,座右の書として常備しておくと,そこに働く医師も看護師も,患者の対応上で「困ったな」と思った時,気軽に手にとって参照でき,とても有用と思われる。本の大きさも重さも,その意味で使いよくできている。
 がん患者が,医療従事者の不勉強から,本来は医学的に対処可能な症状や苦痛で苦しむことがないよう,本書を臨床現場で十分に生かしていただければと思う。
A5・頁508 定価(本体3,500円+税)医学書院


「落差」を埋める最後の思考

自宅でない在宅
高齢者の生活空間論

外山 義 著

《書 評》宮崎和加子(グループホーム福さん家ホーム長・訪問看護師)

 友人から電話が入った。「おい,外山先生が亡くなったんだってよ。知ってた? 急に亡くなったようだよ」と。その前後からその訃報は業界をめぐった。
 外山義先生を信頼し慕う人の数は多い。神様のような,あるいはカリスマのような存在だった。医療の世界ではなじみが多くはないかもしれないが,福祉・介護の世界では超有名人。高齢社会のありようを示唆しつづけ,特別養護老人ホームの個室化,痴呆性高齢者グループホームの制度化,身体拘束ゼロ作戦などに,その中心的存在として取り組んでこられた。

施設の暮らしは 本当にこのままでいいのか

 その外山氏の本が死後出版された。これまで外山氏が主張してきた「高齢者」「住宅」「施設」「地域」についての集大成の本ともいえよう。氏はもともと建築の専門家だが,ケアの内容までも突っ込んで討議しながら,そのありようを考えた貴重な人でもある。本の内容は非常にシンプルでわかりやすい。
 高齢者がやむなく要介護状態になった時,自宅・地域での暮らしが継続できずに「施設」に入所する。そこでの「生活」は本当にこのままでいいのだろうか? それまでの生活とさまざまな落差(空間・時間・規則・言葉・役割)がある。その落差を埋めるために「思考」「実践」しようと問いかけている。

ユニットケア,グループホームで何が変わるか

 最近よく聞く「ユニットケア」とは? 外山氏がいうには「ユニット」とは「生活単位」であると。これまで施設では「介護単位」「管理単位」として数十人を1つの単位としてケアしてきた。そうではなく,そこで生活している高齢者が主役になり暮らすというところから出発して「6-15人程度」を1つの単位としている。ハード面・ソフト面ともに小規模単位での運営が望ましいのではないかといっている。そうすることにより,スタッフも入居者もなじみの関係になり自然に入居者が意欲を取り戻すだろうと。
 「ユニットケア」を念頭に入れ,ケアのあり方を再検討しようと,その根拠を詳しく提示していることの意味は非常に大きい。多くの施設ですぐにでも手がけなければいけない課題である。なんといっても入居している高齢者から出発した論点が素晴らしいと思う。
 また,グループホームについても言及している。最近は痴呆性高齢者のグループホームが介護保険の中でも位置づけられ,全国に4000か所余がある。小規模な生活単位と介護単位が一致したものがグループホームである。1人ひとりの顔が見えるようになり,表情が変わり,スタッフと高齢者の人間関係が大きく変わるといっている。
 私も2001年からグループホームの運営を行なっているが,確かにそういう面はある。ハード・生活単位規模を変えるだけでさまざまなことが変わってくることは確かである。

激論を闘わせたかった!

 私は建築やハードの専門家ではない。まして施設などでの介護の経験が多いわけではなく,外山氏に学ぶことが非常に多い。しかし,ケアのプロとしてこの本を読んでいくうちに,「ええっ?」と首をかしげたり,「そうなんだろうか」と疑問に思ったこともいくつかあった。
 たとえば,「小規模単位にするだけで入居者に表情が出てくるのだろうか?」「見かけや形ではなく実際のケアのありようが重大な課題では?」など。介護・ケアのありようまでしっかりと念頭に入れた氏だからこそ,ぜひ討論してみたかったと思うのである。
 残念ながらお会いしたことはなかったが,一度ゆっくりと激論を闘わせたかった! そんな題材がいっぱい含まれた本である。一読をお薦めしたい。
A5・頁144 定価(本体1,800円+税)医学書院


ICUで遭遇するあらゆる問題に対処できる

ICUマニュアル 第3版
Richard S. Irwin,James M. Rippe 編
福家伸夫,高田真二 監訳

《書 評》前川剛志(山口大医学部附属病院総合治療センター長,山口大教授・生体侵襲医学)

臨床現場での長い経験を生かした翻訳

 日本で最初の集中治療部(ICU)が開設されてから30年が過ぎるが,現在,各病院のICUは重症患者管理のシンクタンクとして機能している。この原書は質の高いエビデンスを背景に書かれたものであるが,ICUの臨床現場でシンクタンクのリーダーとして長年勤務してきた翻訳者らの目を通して,しっかりと和訳されたこのICUマニュアルは非常にわかりやすく,実践的なものに仕上がっている。

マニュアル以上の充実した内容

 ICUで遭遇しうるほとんどの傷病が取り上げてあり,その病因,病態生理,診断法,治療や手技が簡潔に述べられ,索引も充実している。また,記載内容に対する最新の文献が数多く示され,これはEBM検索ソフトに匹敵するほど充実している。さらに個々の文献に短い説明文がついているのは,目新しい取り組みである。ICUで必要とされる処置と手技,各臓器別の疾患,感染症,中毒,外科系急性疾患,ショックと外傷,移植,免疫疾患,ICU独特の精神疾患・病態について記載されている他に,日本でも問題になりつつあるマネージドケア,すなわち重症患者の治療に関連する倫理的問題にも言及しており,大いに参考になる。182項目に分けて病態の把握と実践すべき処置や手技が述べられており,あらゆる病態に対処できる具体的なアドバイスが凝縮して記載されているので,臨床現場の座右の書となるもので,マニュアル以上のものである。
A5変・頁1128 定価(本体9,800円+税)MEDSi