MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


要介護者増加の時代,自立支援の実践家に贈る技術手引書
図解 自立支援のための患者ケア技術初山泰弘 監修
潮見泰藏,齋藤昭彦 編
《書 評》武田秀和(神奈川県立保健福祉大助教授・理学療法学)
障害者本位のケアの提供が必要

このような施策は,高齢者や障害者が有する能力に応じて自立した生活ができるよう支援することをめざしているが,その自立支援を推進していくためには,「障害者本位のケア」を提供することが大切である。障害者の自立支援の現場では多くの専門職が関わり合いをもつ。ケアに携わる保健・医療・教育・福祉の各専門家は,障害者や家族が真に望む地域社会のなかでの質の高い豊かな生活を構築していくために,障害者に対して共通の理解と目標を追求する気持ちを持ち,自己の役割の効用と限界を知りつつ互いに連携して支援を継続することが重要である。
離床から自立生活獲得までの支援技術を紹介
このたび障害者の自立支援のための手引書が医学書院から出版された。本書は800点を超える写真と図表を用いて,障害者のケアに関する基本的な技術を簡潔かつ具体的にまとめ,看護,理学療法,作業療法,介護,福祉など幅広い分野の人々にも利用しやすい内容になっている。本書の特徴はベッドサイドの離床から自立生活を獲得するまでに必要な支援技術を紹介していることである。また各章の冒頭に,その章の内容と学ぶべき目標が簡潔に述べられており理解しやすい配慮が施されている。具体的には,バイタルサインのとり方にはじまり,日常起こりやすい事故と救急法,感染予防と創傷ケア,排尿ケア,廃用症候群の予防,ベッドサイドにおける体位と関節運動,車椅子の種類と使用法,トランスファー,歩行補助,住環境整備や社会資源の活用など自立に必要な過程におけるチーム活動にいたるまでの内容が網羅されている。したがって現場に立つ実践家の技術手引書として,また,今後専門家をめざす学生にも役立つテキストとして活用できる。わが国では高齢化の進展とともに要介護者も増加している。今後,高度な介護を必要とする人の数も増えることが予測され,高齢者や障害者の自立支援の取り組みはきわめて重要な課題である。本書は,その問題解決のための参考書となるに違いない。
B5・頁272 定価(本体3,800円+税)医学書院


精神医学の基礎と臨床を有機的に結びつける
臨床精神薬理ハンドブック樋口輝彦,小山 司,神庭重信 編
《書 評》村崎光邦(CNS薬理研究所/北里大名誉教授)
神経精神薬理学と臨床精神科薬物療法の視点を統合

本書の特徴は神経精神薬理学と臨床精神科薬物療法の両方の視点から,すなわち基礎と臨床の有機的結びつきを意図して,両者と統合する形で編成されている。したがって,「神経精神薬理の基礎」,「精神薬理の理論と実際」,「向精神薬の臨床試験」の3編から成り立っている。まず,第I編の「神経精神薬理の基礎」では,神経情報伝達のメカニズム,向精神薬のスクリーニング,薬物動態学と相互作用,薬物遺伝学,生理学的手法による精神薬理研究,血中濃度モニタリングの6つの章からなり,第II編へ進むにあたって必要にして十分なテーマが解説されて,基礎医学を専門とする方との理解を深めながら,臨床の先生方にも十分理解されるようにとの苦心がうかがわれる。こうした内容の書物を手元に持たない臨床医にとって理解するのに難しいところも少なくないが,ここであきらめずに熟読玩味しておきたいところである。
第II編の「精神薬理の理論と実際」では,統合失調症,気分障害,不安障害,睡眠障害,てんかん,痴呆,依存性薬物の薬理,自閉症,注意欠陥/多動障害,チック,せん妄など精神医学における主要な疾患あるいは病態の本態の成り立ちを薬理生化学的あるいは生物学的仮説に基づいて説明している。疾患や病態の理解を深めるにはきわめて優れた内容となっており,読むのに楽しさを与えてくれる。こうして生物学的仮説に基づいてそれぞれの薬物療法が合理的に培われる本書の構成はすばらしい。具体的な症例をあげての処方例や,ガイドラインに基づく治療の順序などが取り入れられて画期的といえる。ただ,本書が編集された時点からすでに時代が進んでおり,例えば統合失調症の治療アルゴリズムは古いものになっており,また,抗精神病薬を中心とした処方の単純化や用法の減量化などにテーマが移っているところまで言及されていない。また,抗うつ薬,特にSSRIでの離脱症状の重大性などが問題となってきており,うつ病や不安性障害にSSRIが多用される今日,ここに力点を置いてもらいたいところである。このあたりについては,ぜひ改訂版に期待したいところである。
第III編は,「向精神薬の臨床試験」が取りあげられ,治験の方法論と進め方として,新GCP,臨床評価・評価尺度,治験の進め方がきわめて要領よく解説されている。現実には,わが国での治験の空洞化が叫ばれて数年を経ており,海外で広く用いられている向精神薬がわが国では承認されないで,精神科薬物療法の後進国となっている現状がある。この状況をどう打開するかという点も本書の改訂時にぜひ取りあげてもらいたい。
基礎的研究に偏りがちな精神医学に一石
本書の意図した神経精神薬理学と臨床精神科薬物療法の有機的結びつきは十分に達成されており,神経精神薬理学と生物精神医学があまりにも基礎的研究に偏り,臨床医が離脱しようとする傾向の中で,本書の果たすべき役割への期待は大きい。精神科医や心療内科医はもちろん,中枢神経系を研究されている基礎の先生方,精神医学への興味を持たれている他科の臨床医の方とに基礎と臨床の豊富な知識が満載されているハンドブックとしてぜひご利用いただきたいものである。B5・頁360 定価(本体8,500円+税)医学書院


臨床血液学の実践的テキストに日本語版登場!
ウィリアムズ血液学マニュアル奈良信雄 訳
《書 評》長澤俊郎(筑波大教授・血液内科)
日本における血液学の現状を考慮した翻訳
血液疾患研究の進歩は目を見張るものがあり,血球を顕微鏡のみで観察する形態学の時代から細胞形質の時代を経て,瞬く間に遺伝子の時代に到達した。その結果,造血器腫瘍の患者さんの予後も著しく改善し,多くの患者さんでは治癒を勝ち取っている。その基礎となっている血液学の研究の進歩は著しく,血液疾患の診療にはきわめて質の高いEvidence-Based Medicine(EBM:論拠にもとづいた医療)が要求されている。“Williams Hematology”はWintrobeの“Clinical Hematology”とならぶ血液学の成書である。本書はMcGraw-Hill社がWilliams Hematology 6th editionの姉妹書として発刊した“Williams Manual of Hematology”を,奈良信雄博士が原著の内容を変更することなく,日本での血液学の現状を考慮し,筆者の目を通して和訳したまったく新しい成書といっても過言ではない。質の高いエビデンスが簡潔にまとめられる
このWilliams Manual of Hematologyは,もともと質の高いハンドブックであるが,本書の1行ごとに簡潔にまとめられた文章は質の高いエビデンスの集積であり,血液専門医のみならず,研修医,医学生,看護師,臨床検査技師にも役立つ実践的でかつ日常診療に直結する成書である。手もとに置き,日常診療の傍らに常備すべきテキストブックである。奈良信雄博士は東京医科歯科大学医学部を卒業後,第一内科で血液内科を専攻され,白血病研究の第一人者であるトロント大学オンタリオ癌研究所のMcClloch教授のもとに留学し,白血病コロニーの研究に従事し,白血病の基礎研究から臨床研究にわたる臨床血液学のspecialistである。
本書は奈良信雄博士の目を通してより質の高い新たな教科書にgrade upしている点は通常の和訳書とは異なる。本書が血液疾患の診療に役立つことを大いに期待している。
A5変・頁616 定価(本体6,400円+税)MEDSi