医学界新聞

 

なぜ研修医と看護師は衝突するのか?

平 葉子氏(天理よろづ相談所病院 副看護部長)に聞く


 患者中心の円滑なチーム医療の運営には,医師-看護師間の連携が不可欠。しかし,実際の医療現場では,しばしば研修医と看護師の間でトラブルが発生する。中には看護師に対して「プライドを傷つけられた」,「できるだけかかわりたくない」と拒否感を示す研修医もいるという。そうなってしまった原因は何なのか。また,どうすればともにチーム医療を行なう仲間としてよい関係を築けるのか。
 天理よろづ相談所病院で研修医-看護師関係の調査・研究を行なった平葉子氏に,看護師の立場から見た研修医について聞いた。


研修医と看護師のすれ違い

――病院内で起こりやすい研修医と看護師の衝突とは?
 看護師は「どうしても痛みが止まらない」ということを患者さんから聞くと,「先生,痛みがもう3日も止まらないらしいんですが,早く指示をください」と主治医である研修医に言うわけです。しかし,研修医の先生にはまだ経験もないし,知識もないし,詰め寄られたって返事のしようがないわけです。
 その一方で,「ごめんなさい。僕はペインコントロールのことはわからないから,いまから指導医に相談に行ってきます」とはプライドがあるから正直には言えないんですね。「まあ大丈夫だと思うので,様子を見ておいてください」と言って教科書を開いてみたりするわけです。何もわからないままでは指導医のところにも聞きにいけないでしょう? でも,本を調べて,「こう思うんですが,どうでしょうか?」なんて聞きにいったりしていたらどんどん時間が経ってしまうわけです。
 誠意のある先生なら一生懸命やってくださっているのがわかりますが,例えば「看護師さんはオーバーに言ってるんだ」といって取り合わない人もいるんですよ。そうなってくると,不信感を持ってしまって直接指導医に聞いてしまったりするんです。
 でも,その後で研修医の先生が指導医の先生の手の空くのを待って,やっと聞いた時に「あ,さっき看護師さんに返事しておいたよ」なんて言われてしまうと,「どうして僕が帰ってくるまで待ってくれなかったんですか」と看護師に怒ったりするんですね。でも,「ちょっと待って」と言ったきり,「指導医に聞いてくる」ともなんとも言わないわけですから,看護師としては「患者さんは痛がってるんだから,待てませんよ」となりますね。
――そのような衝突が多いのは,なぜでしょうか?
 医師にとっては診断・治療が一番大事なんですね。「ちゃんと診断・治療をするのが患者さんにとっていちばん大事なことで,そのためには患者さんにもちょっとぐらい辛抱してもらうのは当たり前だ」というようなところもあります。実際,診断の精度を上げるために,なるべく多くの検査を行ないたがる傾向もあるように感じています。
 一方で看護師のほうは,患者さんは病気で入院しただけでもつらいのだから,プラスアルファの苦痛は絶対に与えたくないと思っています。だから痛みは早くとってあげたいし,無駄な安静はなくしたいし,安眠を妨げることや,不必要な検査などは避けたいわけです。

関係改善への取り組み

――では,患者に対するプライオリティが異なる研修医と看護師がうまくやっていくにはどうすればいいとお考えですか?
 まず根本的なことですが,お互いが患者さんにいい医療をしようとしている仲間だという信頼関係を持つことです。信頼していたら「看護師さんは,その患者さんのことを考えて意見を出してくれるんだな」と聞けますよね。
 また,看護師側も研修医の先生が患者さんのことを思って言っているのだとわかれば,「先生はどうですか。私はこういうふうに思うんですけど」と話ができるわけです。「看護師さんはそうですか。でもこの視点からみると,僕はこのほうが優先度が高いと思うんですけど」というふうに率直な意見交換ができれば,何ももめごとにはならないと思うんですよ。
――お互いを信頼しあって,相手の言葉に耳を傾けないといけないということですね。
 両方とも,患者さんにしあわせになってもらいたいと思っていて,ただ切り口が少し違うだけですよね。だから,根本的な信頼関係を作るためにも,お互いの状況や考えをもっとオープンに知り合えるような人間関係を作らないといけないと思います。
――こちらの病院ではどのような取り組みをされているのでしょうか?
 日々,病棟の片隅で指導医と研修医と受け持ち看護師で小さなカンファレンスをすると,率直な意見が出るので実りがあるんですよ。
 医師は医師で治療方針についてのカンファレンスを行なっていますし,看護師も看護師で別々にやっています。しかし,「これはどうしても看護師側だけでは解決がつかない」という時には,研修医と指導医を呼んで,このミニカンファレンスを開くという形でリアルタイムに解決するようにしています。
――患者さんに実際に接している看護師と研修医と指導医とで,問題が発生する都度ミニカンファレンスを開催しているわけですね。
 そうです。看護師がカンファレンスをしているところに研修医や指導医が通りかかったら「あ,先生。ちょうどいいところに…」という感じだとうまくいきます。
 また,指導医の先生とも相談して研修医に看護研修をしてもらって,患者さんの24時間の様子や看護師がどんな援助をしているのかという現状を見てもらっています。
 この看護研修をする前と後でインタビューすると,最初に持っていた「看護師って冷たい」とか,「いじわるだ」とかいうマイナスなイメージが,「すごく患者さんに信頼されていて,医者には言えない本音も聞いている」とか,「看護記録を読まないようでは駄目だ」とか,いろんなことがわかるようです。自分たち研修医は「先生」と呼ばれはじめたばかりで,それだけでも患者との距離がある。「もっとベッドサイドに行って本音を聞けるようにしなければならない」ということを考えるようになっているんです。

正直な研修医に

――教えられ上手な研修医,下手な研修医というのはいるものですか?
 いますね。やはり,わからないのにわかったふりをしては駄目だと思います。自分をオープンにして,「僕はこう思うんだけれども,看護師さんはどう思いますか」と,看護師の意見をちゃんと聞いて,それに対して自分の意見を率直に言えることですね。だから,妙なプライドでガードを張らないで,ありのままの自分をさらけ出して,いろんな助言をたくさん得たほうが早いと思います。
 例えば「術後の痛み止めを,僕は使ったことがないんですが,いままではどういう感じでした?」と聞かれたら,「いつもはこうですよ」と答えられますよね。こんなふうに相談してもらったほうが,よりよいと思います。
 いま考えていること,自分のレベル,今後どういうふうに動こうとしているかということを,もっと正直に伝えてもらったほうが,一緒にやる仲間としては安心ですね。
――研修医はなかなか正直にはなれないのですか?
 それはすごく難しいことなのだと思います。プライドもありますし,「どうしましょう?」と聞かれているのに,「わからないから聞きに行ってくる」とさらけ出すのは,おそらく医師としてはなかなかつらいですよね。
 しかし,看護師に聞かれた時に,とりあえず「もう少し様子を見ていてください」と言って陰で調べたり,聞きに行ったりしないで,「僕も手ぶらではオーベンのところへ行けないから,ちょっと調べてから行きます。午後の1時までには絶対に指示を出します」と言ってもらえれば「では,それまで患者さんをお慰めしながら待っています」となり,看護師も安心できます。一方,何の説明もなく「もうちょっと辛抱してもらってください」と言ったままどこかへ行かれたら不安で仕方がありません。自分のいまの状況をオープンに伝えたほうが協力は得られます。

一緒にいい医療を!

――最後に,研修医に持っていてほしい心得とはどんなものでしょう?
 看護というのは,患者さんの人生や社会背景,どういう思いをもって,いまここにいらっしゃるのかということ全部を視野において接する仕事です。そのうえで,患者さんが少しでも安楽で,健康に近づくように援助をしているわけですね。
 研修医の方々は診断・治療がいちばん大事だという教育を受けてこられているけれども,その患者さんの人生にとっては,それはいちばん大事なことではないかもしれないわけです。若い先生たちは,「この病気の診断・治療をする」というところにスポットが当たってしまっていて,その人の人生まで考えられないことが少なくありません。だから,「診断・治療は何のために大事なのか?」ということを考えていただきたいと思っています。
 私たち看護師も,いい医療をしようと思って一生懸命研修をされている先生方の気持ちを大事にしなければいけないと思います。そこで嫌われて「看護師にはなるべく近寄らないでおこう」,「また何かうるさいことに巻き込まれる」といって逃げられてしまったら,どんなに患者さんのためにいいメッセージを送ろうと思っても振り向いてくれません。だから,看護師も研修医も最初に「ウェルカム! 一緒にいい医療をやりましょう」という感じで,お互いを信頼しあうところから出発しないといけないと思っています。
――ありがとうございました。



平 葉子氏
1969年天理高等看護学院(現天理看護学院)卒。以後,天理よろづ相談所病院に勤務。95年より,初期研修病棟である総合病棟の看護師長を務め,2002年より副看護部長。著書『「憩の家」祈りの看護』(天理教道友社)の他,研修病棟における看護師と研修医の関係について『看護管理』誌,『医学教育』誌に発表している。