医学界新聞

 

「教えられ上手な研修医」
指導医から見たその条件とは?

箕輪良行氏(船橋市立医療センター・救命救急センター部長)に聞く


基本は「ホウレンソウ」とカルテ

――指導医からみて,教えられ上手な研修医になるための条件とは?
箕輪 どこでもいわれているように,まず「ホウ(報)・レン(連)・ソウ(相)」をしっかり行なうことです。報告して,連絡して,相談をする研修医になること。そして,カルテをマメに書く研修医になることです。カルテをマメに書いて,サインアップする研修医が,教える側からいうとありがたいし,いい研修医です。そういう研修医になってもらわないと皆が困ります。署名入りのカルテを書いて,その後に指導者の署名もちゃんともらうこと。研修現場ではまずこれが大切です。
 署名があれば,これは誰だなということがわかるし,すぐにフィードバックがかけられます。だから,「カルテを書く」のが二重丸ですね(笑)。カルテを書いて,署名して,指導医の署名をもらうことが最重要の条件です。
――カルテを記載することが不徹底な病院は結構あるのですか?
箕輪 あると思います。それは,裏返せば指導医の責任でもありますが,研修医みずからそれをやっていかなくては,「教えられ上手」になることはできません。

ベッドサイドの患者情報が重要

箕輪 もう1つは,最初の「報・連・相」と関連しますが,ベッドサイドで患者情報を適切に収集して報告するということが,大切なポイントです。「こういうことがありました」,「こうでした」,「こうなりました」,「こういうことが観察されました」ということを,自分で観察して,上手に報告・相談して,次の臨床検査につないでいけるような研修医が,指導する側としては教えやすい。ボーッとしていて,仕事にも集中していないし,見たものもフィードバックしないようだと,研修医としては育たちません。こんな研修医ではいけません。
 あとは,「元気がいいこと」ですね(笑)。元気よく「おはようございます」と挨拶できることも大事なポイントでしょうね。
 今言ったことを裏返したら,それがそのまま「教えたくない研修医」の条件となります。

すべての医師は1人でやることの限界を知るべき

――何よりもまして,情報を共有することが大切なのですね。
箕輪 そうです。すべての医師は1人でやることの限界を知る必要があります。医師など実際には,むしろ1人ではできないことのほうが多いわけです。だから,常に謙虚になって他の人たちと連携してやっていくことが大事です。
 その意味では,他の研修医に自分が経験したことをシェアさせるような研修医,つまり,自分の学んだことを知らせて,広げる研修医はやはり教えがいがあります。その研修医に言えば皆に伝わるわけですから……悪いことも広がるけれども……皆がそれを知るということで,それはこちら側としては大変ありがたいわけです。指導者側は彼を彼女を大事にしたくなると思います。

現場では意見の対立は当たり前

──対ナースではいかがでしょうか? とかく研修医はナースと衝突しやすいと言われますが?
箕輪 ベッドサイドという現場においては,誰しも自分の業務のプライオリティのほうが高いと考えています。これは,当然のことです。目の前に患者さんがいるような場面においては,自分のニーズが一番ですから,意見の対立は非常に起きやすいといえます。時として,そこでディスカッションをすることも必要となるでしょう。
 例えば,「CT行くより先に点滴とってください」「いや,CTが先だ」とか,「いまベッドメーキングがあるから行けません」などなど……。
 しかし,現場で解決が難しい時には,「わかりました。では,そのことは私から上の先生に伝えます」という対応こそが大事です。「わかりました。じゃあ,そのことは師長さんのほうから,何々先生に伝えてください」などという対応はしてはいけません。それでは間違った情報伝達になってしまいます。

医師間の情報伝達は直接やること

箕輪 現場で,ナースとうまくやるためのポイントを1つあげるとすれば,それは上級・同級の医師に連絡をとる時にナースを介さないということです。自分が指示を直接受ける。「報・連・相」もナースを通さないで直接やる。これは彼らにもいいことであり,自分にとってもよいことです。ナースをメッセンジャーにしたり,仲介者にしようとすると,「なによ,この人。自分で直接いえばいいじゃない。なんで私を使うの?」となって,彼女も困るし,伝言ゲームになってしまって正しく伝わらない。連絡を受けた医師にしてみても,「なんだこいつ,直接言えばいいのに,なんでそんなことをナースに言うんだ」となるから,これはよくない。指示や報告は,直接自分で話すことが,とても大事なことです。「ちょっと言っといて」とは言ってはいけないのです。
 ナースにはナースの意思決定があり,医師には医師の意思決定がある。そのうえでチームとして働くわけですから,互いの立場を尊重しあい,正確な情報伝達をしながら指導医も含めたチームで,問題を解決していくことが大切です。それをわきまえた研修医が,「教えられ上手」だし,よい研修医です。
──ありがとうございました。



箕輪良行氏
1979年自治医大卒業。同大大宮医療センター講師,三宅島中央診療所長等を経て,98年より現職。『医療現場のコミュニケーション』,『救急総合診療Advanced Course 21』(いずれも共著,医学書院刊)などの著作がある。