医学界新聞

 

共用試験-トライアルの実施状況と今後の展望

佐藤達夫氏(東京医科歯科大学・上席学長特別補佐/医歯学教育システム研究センター長)に聞く


共用試験のトライアルを実施

―――今年から共用試験のトライアルが始まりました。
佐藤 共用試験システムには全医学部80校が参加を表明しています。CBTについては,そのうち77校が本年度からトライアルに参加しています。本年度不参加の3校についても設備環境等,ハード面での問題から今年の参加を見送っただけで,来年からは全80校が参加する見込みです。また,今年2月から6月1日までの間にCBTを実施する74校については,そのデータを統計的に処理し,どのような問題点があるか,全体の傾向がどうあるかということを把握します。

2005年実施を今年の新入生に予告

―――共用試験は2005年に本格実施されますが,それまで毎年トライアルを積み重ねていくことになるのですか。
佐藤 そうです。その一方で,今年入学してくる学生たちには,入学時のオリエンテーションの際に,「皆さんが,臨床実習に入る前には,共用試験が実施されます」ということを予告します。そうでないとフェアでないという考えからですね。
 臨床実習に入るのが非常に早い大学では,学生たちが3年次の終わりに受けることになりますが,多くの大学では,彼らが4年次の時に受験することになります。3年生が受験する場合と4年生が受験する場合とで,問題の質を調整するかどうかは今後の検討課題です。
―――本年度の実施状況はどうですか?
佐藤 概ね順調です。しかし,ハード面の設備が大学によってかなり異なっています。私も6か所ほど見学しましたが,120人が一度に受けられるような設備を有するところもあれば,共用試験に使用できるパソコンが20台ほどしかなく,5回に分けて行なうところもあります。しかし,来年になれば,そのような環境整備はかなり進むのではないかと思います。

医学教育は長丁場
到達度を確認するポイントが必要

―――学生・教員の反応はいかがですか。
佐藤 最も心配したことは,学生がアレルギーを起こすのではないか,ということでした。しかし,いまの学生はコンピュータの扱いには慣れているし,「どのようなものなのか」という好奇心もあるようで,非常に協力的でした。しかしながら,試験の結果を申し上げると,4年生で勉強したことは比較的よくできているのですが,2-3年生の時に履修した解剖や生理といった基礎科目のことはかなり忘れていて,「難しかった」と感想を洩らす学生が少なくありませんでした。採点した結果――何点ぐらいだったかということはいま申し上げられないのですが――,学生が思っているよりは悪いのではないかと思います(笑)。また,学生や先生方から,「良問が多い」という感想をいただき,どちらかというと肯定的な反応で,ホッとしております。
 共用試験は,臨床実習へ進む前の到達度をチェックする総合的な試験です。学生にとっても自己チェックに大いに役立つのではないかと期待しています。自分にはどういうところが足りないのか,自分はどういうことを忘れているのか,ということを確認できます。医学教育は長丁場ですから,どこかで到達度を確認するポイントを置く必要があります。そうでないと,だらだらと6年目を迎えてしまうことになりかねません。学生もそのことをよくわかっているようで,共用試験の導入の必要性についても素直に受けとめているように思いました。医学生全体のレベルの底上げにつながることを期待しています。

問題数は増やす方向

―――この試験の結果を,どのような形で学生なり大学に示すのですか?
佐藤 すべての受験者についての,いわゆる素点を大学単位にお送りします。今回は100問ですから非常にすっきり点数が出てくるわけですが,それを大学にお送りして,大学が学生に還元します。
―――例えば分野別に得点や平均点が示されるようなことはないのですか。
佐藤 今後の検討課題ですが,今年はそこまで手が回りません。
―――この100題というのは,今後も変わらないのですか?
佐藤 いえ,変えていくことになると思います。例えば,今回は2時間で実施していますが,これを4-6時間の試験にすることも考えられます。医師国家試験と同じ550問まで増やさなくともよいと思いますが,ある程度増えることは間違いないと思います。どの程度増やすかは今後の課題です。
―――このトライアルの実施により,すでに浮かんできた改善点はありますか?
佐藤 今回,時間を余らせて終わっている学生が多く目につきました。第1回ということでどうしても単純な形式の問題が多かったのですが,それを見ていて,主文が長い問題を交えることが可能ではないかと考えています。また,いままでは紙の試験だったわけですが,紙の試験なら「この5つのうち正しいものを1つ選びなさい」というときには,間違っているものに印をしていって最後に残ったものを選ぶということができるわけですが,コンピュータ画面ではそれができない。つまりメモ機能がないということについての不満は多かったです。それをどう捉えるかですが,コンピュータ上でメモ書きができるようにするのか,あるいは,コンピュータの試験の特徴はむしろそのようなところにあるわけですからこのままにするか,そのような検討もしなくてはなりません。

OSCEのトライアルも実施

―――共用試験では,CBTだけでなくOSCEも実施されることになっていますが,そちらのトライアルはいかがですか?
佐藤 現在,2校ずつがペアになり評価者が相互派遣を行なう形で,合計12校の参加によるトライアルを行なっています。今回は参加校は少数でしたが,その結果を評価し,次年度から本格的な形でトライアルを実施できると思います。参加校も一気に増えると思います。
―――今回のトライアルを踏まえ,課題の標準化や評価基準の標準化などが行なわれるのですね?
佐藤 そうです。その標準化は,CBTの標準化よりも難しいですね。CBTでもそれぞれの学生の試験問題は異なるわけですし,そこに完全な平等というのはあり得ないでしょうが,その難易度のぶれは最低限に抑えられなければならないと考えています。

直接的に教育の中身の改善めざす

―――医師国家試験との関係はどうお考えですか?
佐藤 医師国家試験というのは,間接的に医学教育に影響していますが,今回われわれが取り組んでいる,コア・カリキュラムの策定や臨床実習前の共用試験の導入は,より直接的に教育の中身をよくしようという試みです。これにより,教育内容が明確になり,臨床実習に入る前に,ある程度の心構えや準備ができるわけですから,臨床実習はより効率的に行なわれるようになると思います。その結果として,その後の医師国家試験あるいは卒後臨床研修に影響を与えるのではないかと思います。
―――各大学でのカリキュラム改革の動向はいかがでしょう?
佐藤 昨年,発表されたコア・カリキュラムを受け,各大学の先生方の間に,どう教育を変えるべきか,真剣に考える機運が生まれたように感じています。コア・カリキュラム自体をどう活用するか,あるいは,それぞれの大学の特徴をどう出すのか,現在,各大学で真剣な議論が行なわれていると聞いています。すでにいくつかの大学で意欲的な新カリキュラムが作成されたようです。この1-2年で新しいカリキュラムを立ち上げる大学は少なくないものと思われます。
―――本日はありがとうございました。