医学界新聞

 

新しい国際障害分類「ICF」

上田 敏氏(前東京大学教授・WHO国際障害分類日本協力センター代表)に聞く


――2001年5月22日,WHOの第54回世界保健会議(The 54th World Health Assembly)において,新しい国際障害分類(International Classification of Functioning,Disability and Health:ICF)が採択されました。これは1980年に制定されたICIDH(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps)を改訂した,新しい障害分類です。
 本日は,WHO日本協力センター代表として,改訂に深くかかわってこられた上田敏先生に,ICFについて解説いただきます。

ICIDH改訂の背景

上田 1980年に「ICIDH」が提出され,その後,「国際障害者年」「障害者の権利に関する標準規則」(国連)でもその理念が取り入れられるなど,ICIDHは大きな影響を与えました。
 これは医学,特にリハビリテーション(以下,リハ)医学という,障害者と直接関係してサービスを提供する分野での障害のとらえ方を明確にしたという点で,大きな意義がありました。
 しかし,実際に使用する中では不備な点も目立ち,建設的な立場からさまざまな批判が出てきました。
 「ICIDH」初版では,「機能障害」「能力障害」「社会的不利」と,障害を3つに分けて考えています。これは正しい考え方でしたが,一方で,これらは障害の客観的な面を見ているにすぎず,主観的な面を見落としている,という批判がありました。

障害は環境からも作られる

上田 また,障害者運動やカナダの研究グループから,「環境の影響についても考慮すべき」との指摘がありました。障害とは「本人の問題」と考えられやすいのですが,環境の関わりも非常に大きいのです。例えば,脊髄損傷で両足が動かない場合,上半身の力で車椅子でどこにでも行けるし,手だけで運転できる自動車もありますが,このような車椅子や自動車なども環境であり,「プラスの環境」と考えます。
 しかし段差があったり,階段を昇る必要がでてきたりすると,1人ではお手上げになってしまいます。これはマイナスに働く例です。
 障害,特に「社会的不利」とは本人だけの問題ではなく,環境との相互作用において決まるので,この両方を考えなければいけません。特に障害者はそのことを強く感じています。したがって,これは今回の改訂で全面的に取り入れられました。
 その他に,「ICIDHは運命論的モデルであり,ある病気は必ずある機能障害を生じ,能力障害,社会的不利を生ずる。病気を担った以上は,そのような状況に置かれるのは当然と言っているに等しい」という批判がありました。しかし,これはまったく誤解です。「機能障害」がかなり重くても,車椅子を使えば,「能力障害」のレベルで移動能力は回復させることになりますし,段差をなくすことで環境に対処すれば,「社会的不利」はなくせます。このように障害を3つに分けて把握するという階層論に,実は最も大きな意義があったと思います。 さらに,「社会的不利」を分類したことは,WHOという医療面に重点を置く組織としては画期的なことでしたが,他の分類は100項目以上あるのに,「社会的不利」は7項目だけで,あまりにも単純すぎるという,妥当な批判もありました。
 それから,ICIDHは医学関係の専門家だけで作成され,障害者や社会福祉の専門家などの意見を聞かなかったことに対する批判もありました。これも妥当と思います。加えて,欧米の学者だけで作ったので,文化や社会状況の異なる地域には通用しないのではないかという批判もありました。
 これらのことが,今回の改訂を促したと言えると思います。

■「生活機能・障害・健康の分類」

ICIDHからICFへ

――ICIDHからICFへの改訂は,いまお話にあがった批判をクリアする形で進んだと思いますが,どのような内容に変わったのでしょうか。
上田 最初に,名称が「ICIDH」から「ICF」と変わった理由は,前者は障害というマイナス面だけ見ていたのを,マイナスとプラスを含めた障害者の全体像を見ることに変わったことが1つの大きな理由です。
 初版に対して,狭い意味での「医学モデルにすぎない」と強く批判されました。リハ医学はそうではなかったのですが,医学全般としては,患者や障害者に対する社会的存在としてのとらえ方が足りなかったことは間違いなく,その意味でこのような非難はやむを得ないと思います。
 今回は,その反省の上に立って作成されています。その過程には,医学の専門家はもちろん,福祉の専門家,行政,障害者自身と,最後まで全員が平等に参加して作ってきました。これはまさに「医学・社会モデル」であり,総合的なモデルになっていると言えます。
 改訂の流れとしては,1990年から改訂が始まり,1996年に「α案」,翌年に「β1案」が出されました。日本を含む世界各国でフィールドトライアルを行ない,実状に合わない点はないか,どう改善すべきかなどを検討しました。
 1998年3月,第8回国際改訂会議が東京で開催され,そこで「β1案」の中間評価が行なわれました。それまで関心の薄かったアジア地域から十数人のリハ関係者および障害者自身と福祉関係者を招待し,その意見をまとめると同時に,アジア地域での普及を図りました。
 1999年に「β2案」が提出され,そのフィールドトライアルの結果をWHOに報告した後,総会で正式に採択されました。

プラス面もマイナス面も

上田 ここで変更された点を,図1に示しました。障害を3つのレベルに分けてとらえる考え方は同じですが,今までは障害のマイナス面の分類であり,名称も「……ができない」「……が悪い」というマイナスイメージで呼ばれていました。今回はその考え方を大きく転換して,マイナスもプラスもすべて含めてみることができるように,中立的な名称を使うことになりました。
 例えば,ICIDHでは障害を起こす原因は「疾患」ですが,ICFでは「健康状態(health condition)」と呼ぶ,という具合です。
 これは単に言葉を変えただけではなく,内容的にも変化があります。今まで考えられていた「疾患」に加えて,妊娠や高齢,ストレスにさらされている状態も,その中に含めます。
 それから,「機能障害」を「心身機能・構造」としました。ただし,これが障害された状態は英語で「impairment」――日本語では『機能・構造障害』あるいは『機能障害』(構造障害を含む)としています。
 それから,「disability(能力障害)」は「activity(活動)」になりました。活動が制限された状態は,まさに「activity limitation(活動制限)」となります。
 さらに,「handicap(社会的不利)」は「participation(参加)」とし,それが制限されている状態は「participation restriction(参加制約)」です。その間の相互関係については,双方向的な矢印でつなぐことになりました。これらが大きな相違点です。
 障害を持つ人は,障害というマイナス面だけでなく,プラスの側面もたくさん持っています。リハはそのプラスの側面を伸ばすことによってマイナス面を補うという性格が強いものですし,障害から立ち直った人は,その障害自体がなくなったというより,自分のプラスの力を発揮して,マイナスを克服した場合が多いのです。そういうことをきちんととらえることができるという意味では,今回の考え方は非常によいと思います。
 それから,「参加」の分類は,今回は100を超える項目があがり,詳しくなりました。 もう1つの大きな変化は,批判されていた「環境因子」として,小項目で約200の詳しい分類が入ったことです。しかも先ほど述べたように,環境を一般的なものだけではなく,車椅子や杖など,「人間の身体の外にあるものはすべて環境である」ととらえます。加えて家族や友人,社会がどういう態度であるかという人的環境,それから制度や社会のシステム,教育・医療・社会福祉のサービスもすべて環境ととらえています。これも画期的なことだと思います。

「disability」=障害

上田 また,「disability」という言葉は,ICIDHにもICFにもありますが,同じ言葉でありながら意味が大きく変わっています。ICIDHでは,障害の3レベルの真中にあり,「能力障害」と訳していましたが,ICFでは障害全般を示す包括用語に変わっています。つまり,日本語の「障害」に完全にあてはまる包括用語となったわけです。
 日本語には以前から包括的な用語としての「障害」という言葉がありましたが,それを3つに分ける用語がありませんでした。逆に英語では,「障害」全体を示す包括用語がないことが不便でした。
 もともと,「disability」という言葉は,「handicap」とともに,一種のタブー語でした。差別用語のように受け取られ,障害者自身がこう呼ばれることを嫌っていました。
 ところが,時代が変化して,障害者の権利が認められたり,障害者運動が盛んになる中で,自分たちを「people with disability」と呼ぶようになってきました。そして,「disability」という言葉が不愉快な響きを持たなくなり,包括用語になる条件が熟してきたわけです(handicapは依然として嫌われています)。しかし,今回意味が大きく変わったので,当分は混乱が起こるかもしれません。

「functioning」=生活機能

上田 新たに「functioning」という言葉も出てきました。これは,「disability(障害)」という包括用語に対応する中立的な包括用語が必要になって出てきたものです。
 英語の「function」という言葉は,広くさまざまな場面に使われます。例えば,「social function」と言ったり,日常生活行為(ADL)で,食事ができるか,外を歩けるかということを含めて「functional status(機能状態)」と言ったりします。ですから,英語ではまだよいのですが,日本語にこういう言い方に慣れていないので,「機能状態」と訳せば,手足の動きだけにとられてしまい,社会的な要素まで含めた概念ではなくなってしまいます。そこで苦肉の策として,「生活機能」と訳しました。「生活」という言葉をつけることで,多少幅が広くなるだろうと考えたのです。
 この概念そのものは,世界的にみてもまったく新しいものです。「人間が生きること全体を示す中立的な言葉」というのは,これまでありませんでした。それを,英語で「functioning」と言うのも無理があり,さらに日本語に訳して「生活機能」と言った場合にもかなり無理があります。しかし,皆さんに慣れていただくしかないと考えています。

「健康」の概念

上田 この新しい国際障害分類「ICF」の日本語訳は,「生活機能・障害・健康の分類」です。しかし,「健康」という意味をまだ十分に議論しないうちに言葉だけ入ってしまったという感もあります。
 WHOの「健康」の概念とは,「身体的,精神的なwell-beingだけでなく,社会的well-beingである」というもので,数年前には「スピリチュアルなwell-beingまで含めよう」という話もされています。そういう広い概念なのです。
 もしも,世界中の人が「健康」と言う時に,すべてを含んだものであると理解するのであれば,今回のICFは,100年以上の歴史をもつICD(国際疾病分類)とは別の「健康の分類」と言ってもよいかもしれません。しかし,そこまでは熟しておらず,「健康」の分類として間違いなく理解されるところまでいっていません。

■ICFの目的

共通言語としてのICF

上田 この改訂過程で,ICFの目的が明確になりました。ICIDHは,ICDと同様に,「統計を取るための道具」ということが第1目的でした。しかし実際は,多くの方がこれとは違った使い方をされ,それがどんどん広がってきたことが確認されました。
 そこで,ICFの第1目的は,「共通言語」であると強調されています。
 例えば,医学の中でも異なった科の間では,必ずしもお互いに簡単に理解できるような用語や言葉を使っているわけではありません。それに加えて,医学と福祉学の間,医学と教育学の間,また医学の中でも医師とコメディカルとの間,またソーシャルワーカーのように医療の中にいても社会福祉的な背景を持つ人との間でもそうです。それぞれの専門によって現場で使っている用語が違っていることがあります。
 それから,専門家と障害者やその家族,代弁者との間の意思の疎通がなかなかできにくいことも大きな問題になっています。専門家と行政あるいは障害者と行政の間でも同様です。
 つまり,障害に取り組むすべての人々の間で,物の考え方や使う言葉が違っていて,共通の理解が得にくいことが大きな問題になっています。そのような障壁を取り除く「共通言語」として使うことが,最も大きな目的となりました。

ICFをどう使うか

上田 また,医療や福祉の専門家が,障害者のニーズを正確に把握して,最も適したサービスを提供するためには,障害を分析し,障害者の持つマイナス面とプラス面とを全面的にとらえることが必要です。第2の目的は,それを意識的に行なう道具として使うことです。そういう道具がないと,自分の得意分野だけをとらえて,ニーズの全体像を見落としがちです。
 その他にも,統計または研究や調査のためのツールとして,行政のサービスを点検したり計画する時のツールとして,さらには学生に教育する時に問題を整理するためにも,ICFは適していると言えるでしょう。
――ICFについて,「リハ医の日常臨床の中では使いにくいと受け止められる側面がある」という声を聞きますが。
上田 そのような声があることは確かで,いくつかの原因が考えられます。1つは,医学はマイナス面をみることに慣れすぎてきた点です。医学教育ではわずかな異常でも目ざとく見つけて診断する目を養うことが大事だとされ,そのためのトレーニングを日々行なっています。また医学用語はマイナス用語ばかりです。
 ところがそれでは,人のプラス面や正常な機能が残っている部分や,ノーマルな面についての関心が薄くなってしまいます。その点,マイナス面を見るICIDHは医師の側からみるとわかりやすく,使いやすかったわけです。
 例をあげれば,「失語症」という項目は,ICFでは「話し言葉によるコミュニケーションの理解」や,「話し言葉による表現」,「言語に関する記憶」という項目に分かれて,それがどの程度障害されている,という表現になります。使い方の例として,説明の中に「失語症」という言葉は出てきますが,主なる分類にはこのようなマイナスの用語は出てきません。頭を大きく切り替えなければならない点では大変です。
 しかし,これまで患者さんや障害者の方,あるいは福祉関係の人は,「失語症」と言われても,その本当の意味は必ずしもわからなかったわけです。ところが,今回の分類に則って「話し言葉を理解する上で中等度の障害があります」と,日常用語に近い言葉で説明されると,とてもわかりやすくなります。その意味では,医師が慣れ親しんできた世界からみると,この考え方になじむのに少し時間がかかるかもしれませんが,医学以外の,行政まで含めた多くの人たちにとっては,非常に理解しやすくなったわけです。医学においてもマイナス面ばかりでなく,プラス面を見るという姿勢は大事ですし,リハ医学はその点に先鞭をつけたわけですから,ぜひICFに慣れてプラスの面を中心に見るようにしていただきたいと思います。
 ICFの評価法は,障害の程度に添って0-4までに小数点以下の数字をつけます。0は「問題なし・正常」で,少し悪くても5%ぐらいまでの障害は「正常」とみます。4は「完全に悪い」ということです。例えば足の切断や完全な麻痺という場合にあたり,その間を1・2・3と分けています。逆に言えば,その程度にしか分けていません。これは共通言語ですから,詳しく分ければよいというものではないわけです。専門分野にとっては,目が粗すぎるということは当然あるでしょう。
 これは,今まで使ってきたテストや評価法を全部これに置き換えるというものではありません。共通言語としての制約はどの分野にもあるわけで,詳しいことをみたい場合には,それぞれの分野で適した詳しいものを使ってよいのです。
 「ICF」は,自分の専門領域のことを人に伝える時,逆に他分野からの情報を得て理解を円滑にする時の道具です。今後は医療と福祉,専門家と障害者とが協力していかなければなりませんので,ますます共通言語は必要となります。

一般医療の中での利用

上田 現在,一般医にとっても,例えば介護保険判定における「かかりつけ医の意見書」作成などからも,障害をきちんと把握することが大切になってきています。一般医の日常診療にも,介護に関する問題や,「活動」,「参加」,あるいは「環境」の問題を考えなければいけなくなっています。医師が身体の問題だけを考えればよいという時代ではありません。「ICF」は,そのニーズによくフィットすると思います。
 しかし全部の項目を使うのは無理ですから,現在,厚生労働省の研究班で,課題の1つとして,日本医師会とも協力し,一般医向けの「簡略版ICF」を検討しています。これは,例えば,精神医療では身体のチェックリストは大まかでよく,精神機能関係は詳しいものが必要でしょうし,運動障害であれば,内臓機能などについては簡略でよいなどです。WHOも「それぞれの分野で使いやすい,臨床的なバージョンがあってよい」としています。
 また逆に,研究用には今のままでは十分ではありませんので,項目を詳しくしたいという希望もあります。例えば「ICD」には,がんや精神障害に関する詳細な補助分類があります。これと同様に,「ICF」においても,研究目的のための詳しいバージョンの作成などを,将来の課題として考えています。リハの現場では使いにくいとされる点に対しても,そのような方向で解決できると思っています。
 最も大切なことは,ICFは一般医療全般に大きな影響を持つものですし,うまく使いこなせば,現在強く要望されている包括医療,全人間を診る医学に役立つツールになり得ると思います。そのための道具が提供された,と理解していただきたいと思います。

今後の課題

――ICFの今後の課題について,教えてください。
上田 われわれは現在,ICFを1枚のCD-ROMにまとめて,プラスの概念からでもマイナスの概念からでも,項目を検索できるようにしたいと考えています。いちいち本を開かなくても,患者さんと話をしながら入力すれば適切な項目が探せて,他の分野の人にもすぐに伝えられるということです。これはIT時代になって本当に活用できるものだと思います。
 またこれが進み,患者用・障害者用のバージョンもあってよいと思います。項目を減らす必要はありませんが,言葉をもっとわかりやすくして,索引を充実させ,自分が困っていることを,キーワードから分類に到達することができるようになるとよいでしょう。
 ICFの本体は1つでも,このように将来的には,まだまだやることがたくさんあります。ICFの使い方の活用はこの4-5年かけて,その可能性を検討していきたいと思います。

「主観的」な障害

上田 また今回は入りませんでしたが,障害には,それを有する人の心の中に存在する「体験としての障害」があります。障害者を苦しめているのは,客観的な障害はもちろんですが,それが自分の心の中に内面化され,自分は人間としての価値を失い,生きる意味のない存在になったという内面の悩みが,直接的にその人自身を苦しめている場合が多いのです。またそれは,リハを行なう時に,俗に言う「患者さんの意欲が出ない」状況を作り出し,客観的な障害を克服しようという時に,患者さんの主体性が発揮できず,大きな問題になります。
 今度の改訂には時間的,その他の理由で間に合わなかったのですが,この「主観的な障害」に関する研究をさらに深めて,次回改訂にはぜひ入れるようにしたいと思います。
 それから,障害は本人だけの問題ではなくて,「第三者の障害」もあるということが非常に重要です。これは「the third party」という法律用語からきたもので,家族,それから友人,利害関係にある人たちをさします。例えば,企業の社長が倒れて会社が倒産したら,従業員やその家族は困るし,うまく立ち直れば皆が助かります。そのような意味での「第三者の障害」の考え方を,障害概念として確認し,普及していくことが今後の課題になると思います。
――ありがとうございました。


●福祉からみたICF

佐藤久夫氏(日本社会事業大学教授・WHO国際障害分類日本協力センター事務局長)

 ICDは病気の分類で,それを補足するために「病気の諸帰結」の分類として国際障害分類(ICIDH)が開発されました。それが今年5月に,「生活機能・障害・健康の分類」(国際障害分類第2版,ICF)へと改訂されました。
 ICFでは,社会生活面の分類が充実するとともに,新たに環境因子の分類も作成されました。環境には人々の態度,価値観,物理的環境,自然環境,法律や政策・制度,商品やサービスも含まれます。ICFにおける「障害」とは,病気や健康問題を持った人と環境との相互作用として理解されます。したがって,ICIDHはリハ関係者になじみやすいものでしたが,ICFは福祉や情報保障など,さらに広い分野で活用されるでしょう。
 福祉分野では,「訓練からサポートへ」の移行を促すものと思います。その政策面での表現は,社会参加支援型の総合障害者福祉法の制定だろうと思います。現在3種類ある機能障害別の福祉法は,機能障害の違いが最も重要であるという理解の反映です。それを,機能障害の違いを考慮しつつ,「サービスと環境改善により参加制約をなくす制度」へと変えねばなりません。
 福祉の援助実践面では,ケアマネジメントが導入されつつあり,種々の評価表を使って現状とニーズを評価し,援助計画が立てられます。ここにはすでにICFと共通する考え方が取り入れられていますが,各要素の構造的関連をより意図的に探り,計画に生かしていく上で,ICFの併用が有効ではないかと思います。
 障害者統計の分野でも,ICFの活用が期待されています。「活動制限」をスクリーニングに使う障害者実態調査は,先進国では一般的になりつつあります。ADLの困難や「眼鏡をかけても新聞や雑誌などの字を読むのが困難」,「3-4人での会話を聞き取るのが困難」などで障害者を把握し,その上で機能障害や原因となっている疾患を調べ,他方で社会参加状態や環境(障壁因子や促進因子)を調べることができます。