医学界新聞

特定疾患治療研究に新たに3疾患を追加


 厚生省は,平成10(1998)年度の特定疾患治療研究事業の新規疾患対象として,これまでの40疾患に加え,(1)亜急性硬化性全脳炎,(2)バッド・キアリ(Budd-Chiari)症候群,(3)特発性慢性肺血栓塞栓症(肺高血圧型)の3疾患を昨年12月1日から追加することを発表した。
 同事業は,いわゆる難病の治療研究を促進するために,医療費の自己負担分を公費補助しているものであり,今回の追加により合計43疾患(下表)となった。なお,新規3疾患の定義は以下のとおりである。

亜急性硬化性全脳炎(SSPE)
〔定義〕亜急性硬化性全脳炎(SSPE:Subacute Sclerosing Panencephalitis)は,麻疹が治癒した後,長い潜伏期(5-10年後)の後に発症する中枢神経系が侵襲される病気で,比較的緩徐に進行する(亜急性)脳疾患である。
〔疫学・病因〕年間発症率は全年齢人口の100万人に1人,15歳未満人口の100万人に数人といわれる。発症年齢は5歳から12歳までが約80%を占め,男女比は1.6:1と男子に多く報告されているが,どのように持続感染が起こり発病するのかは,よくわかっていない。
〔症状〕精神状態の変化(注意力,集中力低下,性格変化,記憶力低下,知能低下,傾眠など)から,運動刺激症状(痙攣発作,ミオクローヌスなど),言語障害,運動麻痺症状が少しずつ加わる(第1-2期)。精神活動はさらに低下し,不随意運動が現れ,言語障害,運動麻痺症状が目立つようになり(第3期),やがて,歩行,経口摂取は不可能となり,昏睡。麻痺は極度に達し,筋緊張が低下(第4-5期)し,死に至る。
〔治療〕根治的治療はまだない。

バッド・キアリ(Budd-Chiari)症候群
〔定義〕肝臓から流れ出る血液を運ぶ肝静脈か,あるいはその先の心臓へと連なっている肝部下大静脈の閉塞によって,肝臓から出る血液の流れが悪くなり,門脈圧が上昇し,門脈亢進などの症状を示す疾患。
〔疫学〕有病率は人口100万当たり2.4人,男女比は1.6:1と男性にやや多い。平均発症年齢は,男性36歳,女性47歳。
〔病因〕肝静脈あるいは肝部下大静脈の先天的な血管形成異常,後天的な血栓などが原因として考えられているが,原因不明のものが約70%を占めており,はっきりとしたことはよくわかっていない。
〔症状〕門脈圧亢進により脾腫,食道・胃静脈瘤,腹水などの症状が出る。
〔治療〕肝静脈,肝部下大静脈による症状および門脈亢進による症状の改善が治療目標となる。
〔予後〕本症は発症形式により急性型と慢性型に分けられる。急性型は一般に予後不良。腹痛,嘔吐,急速な肝腫大および腹水にて発症し,1-4週間で肝不全により死の転帰をたどる重篤な疾患であるが,本邦ではきわめて稀である。一方,慢性型は80%を占め,多くの場合は無症状に発症する。

特発性慢性肺血栓塞栓症(肺高血圧型)
〔定義〕器質化した血栓により肺動脈が慢性的に閉塞を起こした疾患である慢性肺血栓塞栓症のうち,肺高血圧型とはその中でも肺高血圧症を合併し,臨床症状として労作時の息切れなどを強く認めるもの。
〔疫学〕本邦における急性および慢性例を含めた肺血栓塞栓症の発生頻度は,欧米に比べて少なく,米国の約10分の1とされている。
〔病因〕本症の正確な発症機序はいまだ不明。血栓が溶解されずに残存する機序が病因として重要とされている。
〔症状〕本症に特異的な臨床症状はない。労作時の息切れは最も高頻度に見られ,反復を繰り返す症例(反復型)では急性肺血栓塞栓症に類似した突然の呼吸困難,胸痛を主訴とすることが多い。
〔治療〕内科的治療法としては,長期間の抗凝固療法に加え,再発予防の意味で下大静脈フィルターの留置も有効とされる。本症は,労作時の息切れなどが強いため,日常生活が大きく制限されるばかりでなく,その予後も不良であり積極的治療が必要となる。内科的療法でも改善されない場合には,外科的治療(肺血栓内膜摘除術)の適応を検討する。
〔予後〕肺動脈平均圧30mmHg以下の症例は10年生存率100%。一方,肺動脈平均圧が30mmHgを超える症例では,在宅酸素療法や抗凝固療法の普及もあって,5年生存率は50-60%となっている。

特定疾患治療研究対象疾患一覧
疾 患 名実施年月
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
(9)
(10)
(11)
(12)
(13)
(14)
(15)
(16)
(17)
(18)
(19)
(20)
(21)
(22)
(23)
(24)
(25)
(26)
(27)
(28)
(29)
(30)
(31)
(32)
(33)
(34)
(35)
(36)
(37)
(38)
(39)
(40)
(41)
(42)
(43)
ベーチェット病
多発性硬化症
重症筋無力症
全身性エリテマトーデス
スモン
再生不良性貧血
サルコイドーシス
筋萎縮性側索硬化症
強皮症,皮膚筋炎及び多発性筋炎
特発性血小板減少性紫斑病
結節性動脈周囲炎
潰瘍性大腸炎
大動脈炎症候群
ビュルガー病
天疱瘡
脊髄小脳変性症
クローン病
難治性の肝炎のうち劇症肝炎
悪性関節リウマチ
パーキンソン病
アミロイドーシス
後縦靭帯骨化症
ハンチントン舞踏病
ウィリス動脈輪閉塞症
ウェゲナー肉芽腫症
特発性拡張型(うっ血型)心筋症
シャイ・ドレーガー症候群
表皮水疱症(接合部型及び栄養障害型)
膿疱性乾癬
広範脊柱管狭窄症
原発性胆汁性肝硬変
重症急性膵炎
特発性大腿骨頭壊死症
混合性結合組織病
原発性免疫不全症候群
特発性間質性肺炎
網膜色素変性症
クロイツフェルト・ヤコブ病
原発性肺高血圧症
神経線維腫症
亜急性硬化性全脳炎
バッド・キアリ(Budd-Chiari)症候群
特発性慢性肺血栓塞栓症(肺高血圧型)
1972年4月
1973年4月
1972年4月


1973年4月
1974年10月



1975年10月




1976年10月


1977年10月
1978年10月
1979年10月
1980年12月
1981年10月
1982年10月
1984年1月
1985年1月
1986年1月
1987年1月
1988年1月
1989年1月
1990年1月
1991年1月
1992年1月
1993年1月
1994年1月
1995年1月
1996年1月
1997年1月
1998年1月
〃 5月
〃 12月