医学界新聞

第49回日本消化器外科学会開催



 第49回日本消化器外科学会総会が,中山和道会長(久留米大教授)のもとで,さる2月20-21日の両日,福岡市の福岡サンパレス他において開催された。
 第50回の節目を控えた今回は,「消化器外科における手術療法は,根治性を求めるあまり過大侵襲を与え,術後のQOLを損なっている面が見られる。またその反面,診断面の目覚ましい進歩による縮小手術の普及の結果,当座のQOLにとらわれ過ぎて適応が甘くなり,癌治療の流れに主客転倒を来たしている場合もみられる。そこで消化器外科の現状をすべての分野において厳しく反省し,新しい飛躍の基礎にする」という会長の認識のもとに,「反省,そして飛躍」をテーマに掲げた。
 会議では,会長講演,特別講演4題,招待講演3題,シンポジウム3題,パネルディスカッション4題,ワークショップ8題,さらには,手術映画撮影の妙技を駆使したユニークな特別シンポジウム「卓越せる手術手技と映像の美」が企画された。


 会長講演「胆道外科とともに-胆道癌の臨床を中心に」の他に企画された4題の特別講演は,(1)「消化器疾患の治療の面からみた外科の流れに思う」(東北大名誉教授 佐藤寿雄氏),(2)「わが国近代医学の温故知新」(九大名誉教授 井口潔氏),(3)「早期肝細胞癌の発生と進展」(久留米大教授 神代正道氏),(4)「2001年の医療情報」(国立大蔵病院長 開原成允氏)。  また3題のシンポジウムは,(1)「消化器癌における至適切除範囲(胆・膵)」,(2)「同(消化管)」,(3)「胆管細胞癌(肝内胆管癌)の病態に応じた手術術式」。4題のビデオシンポジウムは(1)「膵臓手術に体する新しいアプローチ」,(2)「合併症を起こさないための再建術式の工夫(胆・膵)」,(3)「同(消化管)」,(4)「鏡視下手術-最新のテクニック」,(5)「肝尾状葉切除術」。
 さらにパネルディスカッションは,(1)「良性胆管狭窄に対する治療法の選択と成績」,(2)「遠隔成績からみた肝胆膵府術の反省」,(3)「直腸癌における機能温存術式の問題点」,(4)「サイトカインと癌集学的治療-反省と展望」が行なわれ,ワークショップは,(1)「周術期における抗生物質に関する反省」,(2)「消化器癌における科学療法の新しい展開」,(3)「SS胆嚢癌に対する手術術式の選択」,(4)「先天性胆道拡張症-新しい知見」,(5)「閉塞性黄疸と減黄術」,(6)「重症急性膵炎の至適治療」,(7)「幽門側胃切除の再建術」,(8)「器械吻合の功罪」の8題が企画された。

シンポ「消化器癌における至適切除範囲-消化管」

「食道癌」「上部胃癌」「中部胃癌」に対する至適切除範囲

 シンポジウム「消化器癌における至適切除範囲-消化管」(司会=千葉大 磯野可一氏,山形大 塚本長氏)では,小出義雄氏(千葉大)と桑野博行氏(九州大)が「食道癌」を取り上げた。
 まず小出氏は,(1)食道の切除範囲,(2)リンパ節郭清範囲,(3)周囲臓器合併切除,の3点について食道癌における至適切除範囲を考察し,「深達度sm以上の胸部食道癌に対しては3領域リンパ節郭清を伴う胸部 食道全摘術を標準的術式とすべきである」と報告した。
 次いで桑野氏は,食道癌切除例における癌の口側への進展形式を考察し,切除範囲選択の指標を検討。その結果,「食道口側切除線決定は,内視鏡検査および切除標本のルゴール染色による病変の範囲の把握は内腔に突出した病変が先進部の場合は容易であるが,食道壁内の進展の場合はその範囲決定は困難で,特に進展した症例で上皮下進展の可能性を十分に考慮する必要がある」と述べた。
 「上部胃癌」については嘉悦勉氏(昭和大)が,特にC領域の早期癌に対する噴門側胃切除の適応に関して,リンパ節転移と壁深達度の点から分析。「(1)C領域の早期癌ではD1+No.7の噴門側胃切除が可能,(2)C領域のmp癌においてもD1+No.7,No.11の郭清を加えることにより,噴門側胃切除は適応となる,(3)深達度ss以深では第2群以上のリンパ節転移が高率であり,リンパ節郭清の点から噴門側胃切除の適応にはならない」と述べた。
 続いて太田恵一朗氏(癌研究会附属病院)は,長径4cm未満の上部胃癌に対する噴門側切除,および中部胃癌に対する幽門輪温存術の適応の問題を取り上げた。長径4cm未満の症例では,上部胃癌の噴門側切除の適応となるNo.4d,5,6に転移を認めない条件は,限局型,30mm未満の表在型,SEを除く分化型癌で,未分化型では腫瘍近旁に転移を認めない症例である。また,「中部胃癌に対する幽門輪温存の適応となるNo.1,2,5,6に転移を認めない条件は,漿膜浸潤のない分化型は20mm未満,未分化型は18mm未満の症例である」と述べた。

「多発胃癌」「大腸癌」に対する至適切除範囲

 また,仁瓶一郎氏(東医歯大)は「多発胃癌」に対する胃切除範囲の縮小が可能か否か検討。仁瓶氏によれば,胃粘膜切除の適応を高分化型の隆起型,2cm以下または潰瘍のない陥凹型1cmとすると,副病巣の確認が可能である症例および病巣に関しては40%弱において胃粘膜切除が可能であり,「多発胃癌といえども,胃粘膜切除のみ,または胃切除+胃粘膜切除で切除可能な症例が存在し,多発病巣の存在する可能性の高い症例では術前に副病巣を入念に検索することが肝要」と報告した。
 大腸癌に関しては,「右側結腸癌」および「低位直腸癌」の切除範囲について,手術後の排便習慣からの検討を取り上げた安野正道氏(都立駒込病院)に続いて,「横行結腸癌」の至適切除範囲を2氏が検討。
 井原厚氏(北里大東病院)は,「(1)術前検査で低分化腺癌,未分化癌と診断された横行結腸進行癌の場合は,拡大右半結腸切除の適応と考える。(2)壁深達度がmpより浅層の横行結腸癌では,横行結腸切除術の適応と考える。(3)術前・術後診断で明らかに奬膜面に癌の露出がある症例では,surgical trunkの郭清を考えた拡大右半結腸切除も考慮すべき」と報告。 
 また,肥田仁一氏(近畿大)は,「直腸癌手術」における“根治性の向上”と“機能温存”の両立を目的として,肛門側腸切除量,total mesoretal excision(TME)の適応,側方郭清の適応,J型結腸嚢再建法,自立神経温存手術の適応を検討した結果を報告した。