医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

冠動脈インターベンションに携わる医師に

心血管内イメージング 血管内エコーと血管内視鏡 山口 徹 編集

《書 評》吉川純一(阪市大教授・内科学)

 今回出版された『心血管内イメージング』の編集に当たっておられる山口徹先生は,冠動脈インターベンションのみならず,日本の心エコー図のパイオニアの1人である。インターベンションが得意中の得意で,心エコー図にも長けている人は世界にもめずらしい。一般にインターベンションが得意な方は,心エコー図が苦手である。心エコー図が得意な方は,インターベンションが苦手である。この事実は昔も今も,日本でも西欧でも変わらない。山口徹先生と私は,なるべく早く両者をこなせる人を養成したいと,いつも話し合っている。その意味でも,この本は意義深い。この著作と同じ名前の「心血管内イメージング」研究会という会が山口徹先生の努力で日本にできており,今年で4回目の研究会を大阪で開くのも,そのためである。
 また,個人的なことではあるが,山口徹先生の会話は理路整然としていて,実になめらかである。よどみがない。羨ましいほど立派な才能の持ち主である。

血管内エコーと血管内視鏡の有用性見事にまとめる

 その山口徹先生の編集になる『心血管内イメージング』は,期待に呼応して現在の冠動脈インターベンションにおける血管内エコーと血管内視鏡の有用性を見事にまとめてある。全体の構成は,冠動脈インターベンションにおける心血管内イメージングの必要性から始まり,血管内エコーの基本と臨床応用,血管内ドプラの基礎と臨床的意義と続き,血管内視鏡をいかに使うかで締めくくっている。冠動脈インターベンションに携わっている医師やこれから始めようとする医師に,ぜひお薦めしたい著作である。さらに,心エコー図をやりながら,冠動脈インターベンションに興味をもっている医師にも薦めたい。ぜひ,この著作から多くを学び取ってもらいたい。
 あえてこの著作に苦言を呈すれば,それぞれの内容がやや簡略であり,若干物足りない点があることである。しかし,冠動脈インターベンションと血管内エコーの世界は,未だ発展途上であり,議論になる点が少なくなく,突っ込んだ記述が難しい。したがって,この点はやむを得ないと思われる。しかし,この著作の著者らは経験豊かで調和のとれた心臓病医であり,書かれている内容は合点のいくものである。この領域で研究意欲のある方々は,ぜひこの著作からヒントをつかみ,新しい臨床研究に取り組んでほしいものである。
 冠動脈インターベンションの世界は,new deviceの登場により新しい展開をみせつつある。そのnew deviceをいかにうまく生かすかや冠動脈インターベンションをいかにうまく成功させるかは,心血管内イメージングを常時併用していくことにかかっていると思われる。本書には現在までの心血管内イメージングのほとんどの情報が明確に記載されている。心血管内イメージングの長所はもちろんのこと,その問題点についても,かなり客観的に記載されており,山口徹先生のコンセプトを評価したい。心血管内イメージングと冠動脈インターベンションの最新情報を記載する本として,私は多くの人に本書を薦めたい。
(B5・頁232 税込定価14,420円 医学書院刊)


折にふれて繙かれるべき名著

COUINAUD肝臓の外科解剖 C. Couinaud著/二村雄次 訳

《書 評》長谷川博(茨城県立中央病院院長)

 畏友二村雄次教授のご指導のもとに日本語になったクイノー先生の著書を拝見し,改めて親友クイノー先生の偉大さを痛感した。また,すばらしい日本語にお化粧!というよりも,新しい本をクリエイトされた二村教授ご一派のセンスとご努力に改めて敬意を払いたい。

肝臓外科医をめざす若い医師に

 訳者序文にあるように,私は“Le Foie etudes anatomigques et chirurgicales”というクイノー先生の不朽の名著(Masson & Cie, 1957)を読みかじって肝臓の外科を始めた。フランス語というのは,日本語と言語体系が違い,考え方に飛躍があってよく面食らった。1つの極端な例が数列で,91と日本語ではサラリと言う所を,フランス語では4×20とeleven(11)という。この複雑な言い方のほうが間違いがなく,かえって早いというのがフランス語の神髄らしい。したがって,翻訳途中で日本語に訳し切れない,暗礁に乗り上げた時には,二村先生はクイノー先生と頻回な直接面接ないし頻繁なFAXのやりとりがあった由。このような翻訳作業は前例がないのではないかと尊敬している。
 1981年に私がさくらんぼ模型という単純な,いや超単純な肝の模型のスライドを持ってフランスの外科学士院の招待講演に呼ばれた時以来,クイノー先生は私を弟のように面倒をみてくれた。そのおかげで1982年から学士院正会員に推挙されたが,彼はフランスでは奇人扱いされている面と,超博学で尊敬されている面とがある。
 まず,奇人扱いの点であるが,hilar plateが左にあって右にないのは変だと私が質問したところ,「明朝9時にあの安宿に迎えに行くから」との返事。翌朝サンルイ病院に彼の車で連れてゆかれ,いきなり床屋のおじさん風(土産物の人形的な)の人が,われわれ2人にぶ厚いマントを着せてくれた。入った部屋は解剖室か霊安室,早速「Allez!」(やろう!)。結局,肝実質を割らずにhilar plate的な所には入れないことがわかったが,もう一度クイノー先生が「Allez!」,おじさんが「Oui」で終わり。病理医もおらず。その晩,自宅でご馳走になったが,その時の服装は手術?の時と同じで,なんとなく私は食欲にブレーキがかかった。
 超博学な点はパリの医師皆が認めるところで,学士院の定例学会でも,最高の椅子が指定席だったようだ。また外来~臨床でもクイノー教授の退官前には,シンパの人がいつも数人いて,私に対して教授を褒め称えていた。しかし,肝切除の実際の経験としては乏しい模様で,たとえば上述のhilar plate(左)を一括りで離断すると糸が外れる危険がある,とは書いてない。この点は,常識で対応すればよい。

肝の発生に関する形態学の引用文献の豊富さ

 本書『肝臓の外科解剖』を繙いて驚くことは,ヒトの胎児期の肝の発生に関する形態学の引用文献が実に豊富なことである。これは,われわれが術前の画像診断で,血管系の奇形や胆道の発生異常に由来する病態に遭遇した際にどれほど参考になるかわからない。
 本書は肝臓外科を目指そうとしておられる若い医師の方々のみならず,学問の深淵を覗く楽しみをこれから始めようとしておられる方々にも,座右の書として,折にふれて繙かれてよい名著であると信じて疑わない。
(B5・頁200 税込定価7,828円 医学書院刊)


臨床免疫学を詳しく記述した入門書

医科免疫学入門 Playfair J.H.L.他 著/湊 長博 監訳

《書 評》山本一彦(九大教授・臨床免疫学)

 免疫学は,現代の医学生物学を学ぶものにとって,非常に重要な分野である。それは,免疫現象が生物学的に魅力的な研究材料であり,生命科学として重要な研究が数多く行なわれているだけでなく,免疫機構が生体を守る重要な防御機構であり,多くのいわゆる難病といわれる病気の原因と関係していると考えられているからである。
 さて,このような免疫学をどのように学んだらよいのであろうか。厚い教科書はたくさんある。英語のものでも日本語でも,そのどれを読み進めるのもよいだろう。がっちりと免疫学に取り組むにはこれが一番である。小生も学生の時,いくつかの教科で厚い教科書にチャレンジした経験がある。しかし,残念ながら大方の結果は,全体の5分の1に達する前に敢えなく断念,というのが常であった。そうすると少なくとも全体の5分の1は身についたかというと,そうではなかった。むしろ,あたかもその本は自分には縁がなかったかのように思え,いやな記憶はすぐ忘れるように,きれいさっぱり,まるで1ページも読まなかったような印象になってしまったのである。その分野からの撤退である。

免疫学のエッセンスをコンパクトに

 『医科免疫学入門』は,表紙は立派な厚い教科書のようだが,横から見るとかなり薄く,100ページそこそこのコンパクトな本である。基礎免疫学,免疫病理学,臨床免疫学の領域が要領よくまとまっている。特に臨床免疫学のところが詳しい。各項目が見開きの2ページになっていて,左のページに記載が,右のページに図や表が載っている。エッセンスしか載っていないが,それだけにどんどん読める。訳本ではあるが,それをほとんど感じさせないくらい,簡潔でこなれた文になっている。免疫学の最先端をいく,京都大学の湊研究室での一貫した作業だからであろう。
 免疫学は,激しく進歩しつつある領域である。厚い教科書を1年かかって読み終わった時,免疫学はさらに進んでいるであろう。だから免疫学に興味があり,これからしっかり勉強しようと思っている人が,厚い教科書じっくり型でなくても全然問題はない。まず数日かけてざっと『医科免疫学入門』を読んだら,その興味ある分野の最新の総説を読むとよい。参考図書はこの本の中にも書いてあるが,日本語でも多くの総説がある。教科書よりホットな,刺激的な内容が,躍動する免疫学を伝えてくれるであろう。一方,この本だけで免疫学から離れていく多くの学生にとっても,この本に書かれている数々の図表の中の幾つかは,その脳裏に残るであろう。数年後に,免疫の関係したことが目の前に現れた時,決して自分と無関係な領域だと思わないことが,何より重要である。
(A4変・112頁 税込定価3,914円 MEDSi刊)


先天性奇形症候群診療を身近に感じる教科書

先天奇形症候群 イラストとパソコンによる診断の手引き 木田盈四郎,他 編

《書 評》和田義郎(名市大教授・小児科)

 先天奇形症候群に属する疾患数は余りに多いが,個々の疾患頻度は極めて低く,合計すれば全出生数の2ないし5%は何等かの奇形を有すると言われながら,これを幅広く取り扱った成書は少ない。特に邦文で書かれたものは少ないので,ついついSmithやMcKusickの書物に頼る傾向があったが,元来が地域特異性のある疾患群だから,本邦の専門家による教科書が待望されていたのも当然のことと言えよう。

洗練されたモノグラフ

 すでに昭和49年に木田盈四郎氏がパンチカード方式を応用した解説兼検索書を出版しておられるが,その後22年間の進歩・変遷の上に立って,全く新しいアイディアの下で装いも新たに出版されたのが『先天奇形症候群-イラストとパソコンによる診断の手引き』(医学書院)である。この分野で活躍する第一線の研究者が分担して,みるからにスマートで洗練されたモノグラフに仕立て上げられている。
 本書の第1の特色は,先天奇形症候群の診断法が「症状のみかたと解説」として詳細に記述されていることである。例えば白色の前髪と白髪,小耳介と耳介欠損の区別が明白にされているが,ここには症状の正しい認識なしには正しい診断へ行きつかないとする基本的理念に基づくものであろう。また外形上のことに留まらず,尿や血液の異常にも言及されている点は,研修医や医学生にとってありがたい配慮である。
 本書の第2の特色は,各症候群についての充実した解説にある。総計318種の疾患(これはパンチカード方式の書での174種に比して1.8倍となっている)について解説・頻度・原因・予後と治療・文献の項目に分けて記載されている。この内容だけで1冊分の価値があるものだが,それを「症状のみかた」と組み合わせたことにより,初心者から指導者層に至るまで幅広い階層に活用される内容になっている。

パソコンソフトMALF

 本書の第3の特色は,末尾に添えられているMALF(パソコンソフト「先天奇形症候群診断エキスパートシステム」)である。従来のモノグラフの概念を打ち破ったユニークな発想に驚かされる。MALFは知識ベースと推論エンジンとから成り立ち,MALFが画面上に提示する質問に利用者が答えていくと,最後にもっとも可能性の高い疾患名と,鑑別診断のため効率的な検査法を指示するもので,人工知能の臨床応用としてみごとな実例である。
 本書を取り扱う上で巻末の厚紙(FD収納部分)が取り外せないこと,FDがNEC PC-98シリーズ対応でマッキントッシュ等と互換性がないこと*などに今後の工夫の余地は残されているが,本書を得て先天奇形症候群の診療が一段と身近に感じられたので,本年の一収穫として江湖にお勧めする次第である。
*互換性のあるものが既に完成し,近々本書読者に無料配布予定とのことである。
(A5・頁712 税込定価24,720円 医学書院刊)


頸髄損傷者と正面から向き合う人のための本

頸髄損傷 自立を支えるケア・システム 松井和子 著

《書 評》前田朋子(中部労災病院リハビリテーション診療科)

 脊髄損傷,とりわけ頸髄損傷は,本書の中でも「専門医でさえ,頸髄損傷は最も悲惨な外傷と定義する」と述べられているほど,臨床で直接関わるスタッフにとっては力量の問われる対象である。身体機能に対するアプローチは,ある程度マニュアル化されている部分もあるが,心のケア,特に重度の障害者に将来の展望を示し,生きる希望を与えることは,並大抵のことではない。

学問的知識だけでなく患者の心のケアや社会参加まで

 本書は著者の豊富な経験と頸髄損傷者との深い交流から生まれたものであり,経験の少ない関係者には特に助けとなるであろう。本書は3部から構成されており,第1部の「頸髄損傷とは」では受傷後搬出時の二次損傷の問題や,初期の予後予測の問題などが指摘されている。第2部の「日本の頸髄損傷」の中ではフィリピンで生活する日本人の頸髄損傷者や,ベンチレータ離脱訓練の様子などが生の声で紹介されている。受傷直後の気持ちから,10年以上経過した人の生きざままで,健常者をも励まされるほどの内容である。そして第3部ではカナダBC州の頸髄損傷プログラムが紹介され,現在の日本では考えられないようなすばらしいケアシステムがあることを知らされる。

患者や家族の貴重な情報源

 本書はやさしい言葉で書かれているため,医療従事者はもちろん頸髄損傷者本人や家族の方にも読んでいただきたい内容である。ただ,医学系の出版物であるため,本人や家族の目に止まる機会は少ないと思われる。医療従事者からの情報提供を望みたい。良い情報を適した時期に提供することで,頸髄損傷者自らが前向きに生きるきっかけをつかんでくれるかもしれない。本書はその良い情報源となるであろう。しかし学問的知識のみ必要な方や,試験の参考書を探しておられる方にはお推めできない。頸髄損傷者と正面から向き合い,その心のケアや社会参加まで含めて考える人のための本である。
(A5・248頁 税込定価2,884円 医学書院刊)


保存修復学の体系化をめざす教科書

標準保存修復学(第3版) 石川達也,他 編集

《書 評》田上順次(東医歯大教授・歯科保存学)

 石川先生,藤井先生そして故勝山先生は保存修復学を30年以上にわたってリードし続け,世界に範たるわが国の保存修復学の確立に貢献し,多くの臨床家や研究者を育成し指導してこられた。その先生方が第2版がわずか4年前に出版されたにもかかわらず,この間の変化を重大なものとしてとらえ,改訂の必要を感じてここに項目の追加と既存項目の改稿とが行なわれ,第3版が出版された。
 確かにこの間の歯科医学,医療の進展や変化はめざましく,最新情報を網羅した教科書は現実に存在していないといえる。また一方では様々なメディアによる情報過多のために,臨床においてもまた学部教育においても混乱を生じかねない状況となっている。本書はまさに新しい息吹と伝統とがうまく調和された保存修復学の体系化をめざしたものという感が強く,さすがに長年にわたって第一線で活躍してこられた先生方ならではの編集と敬服する次第である。いたずらに新しいものを羅列することで読者に混乱を起こすことなく,新しい追加項目については十分に討議されたうえで取捨選択されている。まさに『標準保存修復学』というタイトルにふさわしい内容の教科書といえよう。

新知見を加え,高度化する国家試験に対応

 高度化する国家試験に対応できるようにというのも発刊時の目標の1つであったが,第3版においても変わることなく,新知見の追加や,最新の知識が収録されている。このような教科書こそが国家試験や歯科医学を好ましい方向に着実に変えてゆくのかもしれない。試験のための教科書というと単語の羅列だけのものも多いが,記述は親切丁寧,かつ平易である。さらに随所に模式図やイラストを用いた解説により,さらに内容の理解を容易にしている。写真を使った記述よりもかえってわかりやすく,長年教育にも熱心に取り組んでこられた編集者らの配慮が感じられる。学生のために必要な情報が理解しやすく使いやすく整理され,各章ごとにまとめられた参考書のリストも利用しやすく,巻末の和文索引,英文索引も豊富で非常に使いやすい。
 具体的には,消毒や滅菌に対する客観情勢の変化,レーザーによる治療,CAD/CAMの導入,変色歯の処置法の変化に対応すべく新しく追加されている。また関連領域として,支台築造,金属焼き付けポーセレン,接着ブリッジ,歯内骨内インプラントについての項目があり,臨床の実際を意識した構成である。
 保存修復を既存の枠組みに押し込めるのではなく,社会情勢をも含めて将来の修復学を考えてゆかねばならないことを語りかけているように感じられた。
(B5・頁334 税込定価6,695円 医学書院刊)