医学界新聞

■第39回全国医学生ゼミナール in 信州 


メイン企画

薬害エイズアンケート

小林陽子(全国医学生ゼミナールin信州現地実行委員長,信州大学4年)

 信州医ゼミ現地実行委員会では,メイン企画「薬害エイズ」を企画するに当たって,薬害エイズの問題に関して,今の医系学生を対象に,アンケート調査を実施した。
 アンケートは現地実行委員会メインプロジェクトチームが作成し,全国の医学部,医科大学,看護学部(学科),医療短大,看護学校など,医学・医療系の学校の代表者(医ゼミ参加者の代表,自治会委員長等)に1部ずつ郵送し,各学校で印刷して配付してもらったものを回収した。回答人数は1812人であった。アンケートの質問項目ならびに回答結果は以下のとおりである。


質問項目と回答

その1:あなたが薬害エイズを初めて知ったきっかけは何でしたか?(複数回答)
a.テレビ(67.4%),b.新聞・雑誌(30.8%),c.知人の話(6.2%),d.学校の授業(2.0%),e.街頭での署名活動(0.3%),f.医ゼミ(1.5%),その他(3.1%),無回答(0.3%)
*その他(一部抜粋):『ゴーマニズム宣言』,川田龍平君・悦子さんの講演,予備校の論文の授業,「少年マガジン」のマンガ,パソコン通信

その2:現在,薬害エイズに対して国民の関心が高まってきているといわれますが,その原動力は何であったと思いますか?(複数回答)
a.新聞などのマスコミの連日の報道(64.5%),b.川田龍平君のカミングアウト(54.9%),c.学生・青年の運動の盛り上がり(11.4.%),d.地道な署名活動(2.6%),e.エイズ訴訟裁判の和解成立(5.2%),その他(2.0%),無回答(0.6%)
*その他(一部抜粋):地道な運動の下地ができたところで川田君の登場が絶妙だった,菅厚生大臣の働き・謝罪,世間で盛り上がったからマスコミも動いた,自分が被害者になる可能性があるから身近な問題になってきた

その3:85年当時,日本人男性同性愛者が国内第1号のエイズ認定患者として報道されたとき,国内の日本人エイズ患者の99%は血友病患者の被害者であったことをあなたは知っていますか?
a.はい(30.4%),b.いいえ(60.8%),無回答(8.8%)

その4:あなたは,この薬害エイズの責任はどこにあると思いますか?(複数回答)
a.厚生省(62.5%),b.製薬会社(51.3%),c.安部英元帝京大副学長ら,行政に携わった医師(56.8%),d.血友病専門医(11.0%),e.感染させた患者の主治医(12.3%),その他(5.7%),無回答(4.5%)
*その他(一部抜粋):誰にも責任があり,また誰にも責任がない妙なシステム,国全体(国民も含めて),エイズにかかる可能性やエイズを知っていて黙認していたすべての人たち,個々人の正当な主張が消されてしまう日本の社会構造

その5:今回の薬害エイズを考える上で,どのような立場の人の話をさらに聞いてみたいと思いますか?
a.厚生省の役人(53.1%),b.製薬会社の責任者(42.8%),c.安部英元帝京大副学長ら,行政に携わった医師(53.6%),d.血友病専門医(11.5%),e.感染させた患者の主治医(16.4%),その他(5.8%),無回答(2.9%)

その6:もし自分が当時の医療現場にいたとしたら,患者に感染させなかったという自信はありますか?
a.はい(15.7%),b.いいえ(82.2%),無回答(2.1%)

その7:(6でいいえと答えた方)なぜあなたはそう思いますか?(複数回答)
a.勉強不足(34.3%),b.国の機関が決定したことだから(13.9%),c.製薬会社がいいと言ったから(8.3%),d.受持ちの医者がいいと言ったから(7.3%),e.情報不足(39.2%),その他(4.9%),無回答(8.0%)
*その他(一部抜粋):コストと供給の関係から,大学システムには逆らえない,1人で抵抗しても押しつぶされそう,医師は全能ではない,看護面から関わるので医師の判断には逆らえない現状がある

その8:「知らなかったから,仕方がなかったのだ」という医師に対して,あなたは責任があると思いますか? また,あると答えた方はどのような点からそう思いますか?
a.ある(71.3%),b.ない(24.0%),無回答(4.7%)
*あると答えた理由(一部抜粋):勉強不足,患者の命を預かっているという自覚が足りない,自分の投与した薬に対して医師が責任を持つのは当然,知らないでは済まないと思う

その9:薬害エイズはすでに解決したと思いますか? また,どのような点からそう思いますか?
a.はい(2.0%),b.いいえ(96.0%),無回答(2.0%)
*その理由:これからのほうがもっとやるべきことがある,和解には妥協の色が濃いから,血友病患者以外でも血液製剤の被害にあった人のことが報告されている

その10:今回の薬害エイズの一連の運動によって,今後日本の薬害問題は改善されると思いますか?
a.はい(59.2%),b.いいえ(37.5%),無回答(3.3%)

その11:二度とこのような薬害を起こさない社会にするためには,これから何が必要だと考えますか?(複数回答)
a.もっと学習して学んだことを周囲に知らせる(35.8%),b.官僚の企業への天下りをなくす(36.0%),c.取り締まる法律を厳しくする(37.0%),d.民間のチェック機関を作る(45.3%),その他(8.1%),無回答(2.6%)
*その他(一部抜粋):厚生省の改革,広い意味での情報公開,国民の意識の向上,薬害を起こさないのは不可能だと思うので発見された時点で広げない努力が必要

その12:薬害をなくすために,これから学生ができることは何だと思いますか?(複数回答)
a.学習して周囲に知らせる(72.8%),b.署名をとる(6.5%),c.主体的に運動に参加する(27.6%),その他(6.6%),無回答(4.7%)
*その他(一部抜粋):自分で考え行動すること,今回の事件を流行やブームで終わらせない,薬を絶対視しない,何もできないのが現状では?

その13:最後に,薬害をなくすことは可能だと思いますか? また,どのような点からそう思いますか?
a.はい(45.4%),b.いいえ(49.3%),無回答(0.6%),その他(4.7%)
*その理由:人間のやることだからなくせない,情報公開をきちんとすれば可能,減らすことは少なくとも可能なはず

アンケートを終えて

 その1では薬害エイズを知ったきっかけを聞いているが,テレビ,新聞,雑誌などのマスコミが多かった。その他のところでも,「少年マガジン」,『ゴーマニズム宣言』などの本,マンガなどがあがっており,メディアの影響は大きいようだ。それは,その2で国民の関心の高まった原動力を聞いたとき,「マスコミの連日の報道」と答える人が多かったのにも表れている。「学校の授業で知った」というのが少ないのは残念である。
 その4で薬害エイズの責任がどこにあると思うかを聞いたところ,半分以上が製薬会社,厚生省,安部英氏ら専門家であると答えている。これはやはり,昨年からのHIV訴訟の取り組みの中でこれらの立場にある人の責任が明らかにされてきた結果であると言えるだろう。血友病専門医,患者の主治医と答えた人は案外少なかった。医師個人の問題だけではないということだろう。その他のところでは国全体,社会全体に問題があると答えた人が多かった。
 その6ではもし自分が当時の医療現場にいたとしたら,患者を感染させなかった自信があるかどうかを聞いた。やはり,圧倒的に「いいえ」と答えた人が多い。理由としては,その7にもあるが,勉強,情報不足などの個人の知識には限界があるといったものと,知識があったとしても医学界のシステム(上下関係),大学,医局の上下関係,看護学生からは医師と看護婦の関係(医師の判断には逆らえない)など,医学・医療界の封建的なシステムを指摘したものが多かった。個人の力の限界を感じていると言えると思う。
 その8では「知らなかったから,仕方がなかった」という医師に対する意見だが,「仕方がなかったでは済まされない」というものが多かった。その理由については,知らなかったこと自体悪いとするものと,結果的に関与してしまったからという意見が多かった。

薬害は終わったか?

 その9では学生の大半は薬害エイズは解決していないと思っていることがわかる。理由としては,医療制度,医療界全体の改革,厚生省と製薬会社の癒着の撤廃,差別をなくすこと,治療体制の確立など,今後の対策が重要であり,以上のようなことが変わらないかぎり,薬害は起こり続けるから,という内容が主であった。しかし,その10にあるように,今回の一連の運動によって,今後日本の薬害問題は改善されると思っている学生が6割おり,一定改善の兆しを見ているのではないかと思う。ただ改善されないとした学生も4割弱おり,薬害を引き起こす力は根強いとする見方もあるようだ。
 その11では二度と薬害を起こさない社会にするためには何が必要かを聞いたが,まず知って広めることだとする意見が多かった。また,天下りをなくす,民間のチェック機関を作るというのが多かったのは,厚生省に対する不信を示しているのかもしれない。その他で医学生の教育,医師の養成に着目した意見が出たのは興味深かった。

学生にできること

 その12では薬害をなくすためにこれから学生ができることを聞いた。「学習が大事だ」という意見が多かったのはその11と共通している。主体的に運動に参加するという意見が一定数いるというのは自ら主体となって変えていきたいという意識の表れであろうか?
 最後にその13で,薬害をなくすことは可能だと思うかと聞いたところ,「はい」と「いいえ」が半々だった。その理由を見ると,社会全体のいろいろな面が変わらないとなくならない,と思っていることが受け取れる。ただ薬害と副作用の区別を知らず,薬の害はなくならないから,というような内容もあり,みんながちゃんと区別できていれば,割合も変わると思う。
 全体的にアンケートの結果を見て,医系学生は将来の医療従事者として,自分自身の問題としてこの薬害エイズの問題を捉えていると同時に,この問題を解決するに当たっては,個人の力の限界を感じている,ということが言えると思う。また,薬害エイズの問題は,これで終わったわけではなく,これからどうしていくかが重要だという認識はあるが,薬害をなくすために自分自身がどうするか,ということについては,全体的にはまず薬害について知る,という段階である。しかし,思っていた以上に「主体的に運動する」と答えた人が多く,自分も何かしたい,動きたい,という意識はなかなか高いようだ。
 アンケートは取り始めが少し遅かったため,1800枚程度しか集まらなかったが,アンケートを集めた学校では,かなり高い割合(6-7割)で回答が得られている。今後のことはまだ検討中だが,できれば回収を続けていき,もっと広範な学生の声を集めると同時に,アンケートを取ることによって,より多くの医系学生がこの問題を考えるきっかけになればと思っている。