医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


豊富なケアスタディで理解を助ける

看護モデルを使う(3) リールの相互作用モデル B.Kershaw, B.Price 著/数間恵子・他 訳

《書 評》広瀬寛子(都精神研・医療看護研究部門)

 リールの看護モデルは,表題が示しているように,看護婦と患者との間に成立した関係に立脚する相互作用モデルである。
 ところでリールの名前を初めて聞く読者がほとんどではないだろうか。リールはイギリス人で,1980年にその業績が初めて公表されたものの,その後の著作も少なく,イギリスでもほとんど実践に適用されていなかったので,それも当然である。著者のベティ・カーショウらはリールのモデルがモデルとして発展途上にあることを認めながらも,プライマリケアにかかわる経験豊かな看護婦に最も適しているとして,このモデルを紹介している。

リールのモデルを構成するもの

 リールのモデルを構成するものは,シンボル相互作用理論とFANCAPといえる。シンボル相互作用理論はこのモデルの基盤になっている概念枠組みである。
 シンボル相互作用理論は社会学の理論に基づいたものであり,「コミュニケーションに対する応答は言葉そのものに基づくだけでなく,その意味あるいはその言葉から洞察されることにも基づいている。その意味や洞察は,役割(患者,看護婦,医師)や場(病院,家庭,学校),生活環境,そして患者の精神状態に基づいている」とする。相互作用を治療的に用いることを強調することによって,コミュニケーションを単に情報の獲得と伝達の手段に用いているモデルとは異なるという。
 つまり,コミュニケーションはケアの計画立案と実践のための基盤になるものである。このようにコミュニケーションを捉えるとき,当然,自己についての理解を深めることを避けられないし,コミュニケーション・スキルは看護婦として修得しなければならない重要なものとなる。コミュニケーションは手段ではなく目的であり,患者にとっての意味を理解しようとする姿勢であるという立場の評者としては,この概念枠組みを支持したい。
 FANCAPはアビーがまとめたものであり,看護のアセスメントの用具として用いられる。これはFluids(流体),Aeration(換気),Nutrition(栄養),Communication(コミュニケーション),Activity(活動),Pain(痛み)に対応するもので,この項目にそって看護問題を抽出する。
 このようにリールのモデルはシンボル相互作用理論を基盤としてFANCAPを活用したモデルであり,著者や訳者が指摘するように,このモデルにおけるシンボル相互作用理論の位置づけと,リールの理論自体よりもFANCAPへの依存とが疑問として残る。しかし,このモデルが本来意図するところは,シンボル相互作用理論に基づいた相互作用によってクライエントの立場を看護婦が想起し,その解釈を通して豊かな実践を展開していくことにある。

看護過程の学びに役立つ構成

 本書の特徴は,リールのモデルを適用したケアスタディの紹介にあるといえる。6例のケアスタディは本書の90%近くを占める。FANCAPによるアセスメントから看護診断,ケアの実施,評価と,実に丁寧な記述がなされている。各ケアスタディの末尾に読者向けの復習と演習が盛り込まれ,看護過程を学びたい人には非常に役に立つ構成になっている。個人学習というよりもグループ学習をねらった演習は,そこにもリールの相互作用モデルが生きているようだ。また,最後のケーススタディでは燃え尽きかけている看護婦を対象としており,コンサルテーション・リエゾン看護の事例として興味深い。
 著者が指摘するように,このモデルを使いこなすのは看護の初学者には難しく,熟練した看護婦が,モデルを適用する前に基盤になる理論やFANCAPを修得しなければ活用できない。この点に関しては,訳者がシンボル相互作用理論について詳しく解説してくれており,またFANCAPの邦訳も紹介してくれているので,それが役に立つと思われる。
 確かに,ここに出てくる看護婦たちがこれだけの看護過程を展開できるのは,プライマリ・ナースとしての熟練したスキルと経験があるからこそである。しかし,記述の中に一貫して流れている,看護婦が患者にとっての意味に注目し,かつ看護婦自身か常に自分を見つめるという姿勢は,初学者にも大いに参考になるものである。
 最後になるが,巻末の訳者の解説は,本書の理解を深めるために非常に役に立つもので,さすが数間先生だと感服した。
(A5・頁254 税込定価2,575円 医学書院刊)


様々な立場から在宅ホスピスの実践法を示す

在宅ホスピスケアを始める人のために 川越 厚 編集

《書 評》日野原重明(聖路加看護大学長)

 本書は,「在宅ホスピスケア」を始める人々のために「在宅ホスピス」にすでに何年もかかわってこられた川越厚医師を中心に,白十字訪問看護ステーションや賛育会病院,その他の施設での医療職,ならびに在宅ボランティア会の代表や患者の遺族などによって書かれたものである。
 その前書きにあるように,在宅ホスピスケアとは,末期癌患者の生活の場である家庭を舞台にホスピスケアを行なうことである。実際,最近厚生省の方針として在宅ケアの普及が強調され,民間施設もこれに応じているが,実際に癌末期患者が死を迎える場所を調べると,著者らによる1987年発行のテキストブックに書かれた7.9%に対し,1993年度の統計でも6.7%にとどまっているという。これは在宅での死が言葉だけの流行で実態が伴わないためであり,そのようなことからも本書は啓蒙的な企画として高く評価されるものと思う。
 本書は9章からなっている。第1章には在宅ホスピスケアの定義,第2章はホスピスケアを可能にする条件,第3章はホスピスケアをよくするための在宅でのチームケア,第4章は在宅ホスピスケアの各ステージでの内容,第5章は在宅ホスピスケアでの症状緩和法,第6章は癌の種類による症状緩和の対応,第7章は霊的ケアと告知と死の受容上の問題,第8章は在宅ホスピスを行なうために必要な条件を,また第9章には,実例をあげていかなる場合に在宅ホスピスケアが難しくなるかが述べられている。
 いずれの章も,長年これを行なってこられた医師や看護婦,薬剤師,ケースワーカー,弁護士などの実践方法が示され,理論が実践として具現されている状況がきわめて鮮明に書かれている。
 本書をガイドとして,日本にもっと在宅ホスピスケアが普及することを望んで止まない。
(B5・頁136 税込定価2,472円 医学書院刊)


臨床家を刺激し研究へと誘う

臨床看護研究の進歩 Vol. 7 「臨床看護研究の進歩」編集室 編集

《書 評》杉山喜代子(前・福井医大附属病院)

 日々の実践の中から生まれた疑問や気がかりや関心が,研究テーマに集約され精練されてでき上がった論文がここにある。これらは1つひとつが尊く,研究成果の知見だけにとどまらず臨床看護研究の発展のさせ方を示唆している。
 ふっと生じた疑問や長年の問題・関心をどのようにしたら科学的に明らかにできるのか(つまり研究方法の整合性),結果を看護の立場からいかに正確に深く読み取るか(資料データの解釈,分析の方法),そして,どうしたらわかりやすく伝えられるか(つまり論理的で明快なまとめ方)を各々の論文が示している。
 臨床の第一線にあって研究へと精練する過程を経た研究者たちは,天井を突き抜けたような爽快感の中で臨床への還元と次の研究への展望をつかめたのではないだろうか。臨床家を刺激して研究へと誘ってくれる本誌の貢献は大きい。

研究の基本的ポイントを具体的に示す「特別記事」

 私は,論文査読研修において本誌をよく活用する。学会発表時の論文と本誌掲載論文を比較して,どこが(何が)どのように変化しているのか,その変化にはどのような視点が作用しているかを検討し,それによって具体的に学びながら,研究とは何か,その組み立て方・進め方,論文のまとめ方を導き出すようにしている。本誌は臨床ナースたちにとって格好の教材となり研修の充実に一役買っている。
 本誌の内容構成もよい。原著論文以外にも,臨床看護研究に有益な内容が盛り込まれている。文献レビュー記事は,臨床ナースにとって研究の発想やテーマを位置づける上で手がかりとなる。また,各研究論文の短評は,評価すべきことは褒め,必要なことは明らかに指導し,示唆も加えられているので,同様の研究に取り組もうとしている人に具体的なヒントを与えてくれる。論文査読の枠組みを広げる上で刺激剤となっておもしろい。さらに,研究に必要な基本的なポイントを具体的に教示している毎号の特別記事も興味深い。そこには研究にとって基本的に重要な問題提起が含まれていて,はっとさせられることもある。

莫然とした実態を明らかに

 さて,本号(Vol.7)の研究レポートをいくつか紹介しよう。看護衣に対する幼児の反応を数量化してワッペン付きエプロンの効果を追求した研究や,主観的・客観的データを分析して適切な洗髪間隔を追求した研究は,莫然とわかっているかのような実態を根拠を持って明らかにしている。このような研究によって現状がより確かに改善されていくであろう。
 痴呆性老人のために考案した看護・介護プログラムの試みの研究報告は,「青空緑芝Outdoor病棟」のネーミングも味わい深く,実践の息吹が伝わってくる。精神分裂病患者の社会復帰を促す看護実践を追って,実践の構造を分析した量的研究も興味深い。このように,本号にも11篇の様々な臨床の研究論文がキラキラと鎮座している。
 私は,臨床看護研究に関与し始めてそのおもしろさと大変さに苦悩して,それを本誌に訴えた時の,現状を熟知した編集者の臨床看護研究への熱い想いが心強かったことを今も思い出す。本号の編集後記に示されているように,進歩とは「いたずらに変化や新しさを求めること」ではなく,「現在の経験の中に変わらない価値を具体的につかみきること」である。「看護を深め実践を豊かにするための研究の蓄積,その結果として看護の水準の向上を願う」という編集者の理念に立って本誌は編集されている。本誌は正しく「臨床看護研究の進歩」に寄与するものだと思われる。
 心血を注いだ関与体験を通して現場の発想を大切にし,共に歩むことの必要を痛感している者として,編集者の苦労に感謝し,臨床看護研究の発展の支え手として,またその証しとして本誌の刊行が続いていることを喜びたい。
(B5・頁196 税込定価3,708円 医学書院刊)