医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

短期間で腹腔鏡手術に自信がつく

Q&A腹腔鏡下胆嚢摘出術 こんな時どうする? 小玉正智監修,来見良誠著

《書 評》堀 孝吏(三井記念病院外科)

 腹腔鏡下手術が施行されるようになってまだ10年にも満たない現在,さまざまな領域でこの術式の適応が拡大され施行されるようになってきた。本術式が急速に広まった要因の1つに,術後疼痛の著明な減少=患者側の利点が大きく関与している。単に治ればよい治療から,安全な治療へ。そしてより苦痛のない治療へと,医療に対する要求が変化してきたのは当然のことと考える。

腹部外科医にとって習熟しなければならない術式

 当院でも,1990年10月に最初の腹腔鏡下胆嚢摘出術が施行された。当初は,鏡視下手術は特殊な術式と考える風潮もあったが,適応が拡大するにつれて特殊な術式とはみなされなくなりつつある。適応に関してはまだ流動的な領域も多いが,例えば,胃全摘術はやるが胃亜全摘術はやらないという腹部外科医はいないように,腹腔鏡下手術は適応があれば避けて通れない術式になると考える。今や,腹腔鏡下手術は腹部外科医にとって習熟しなければならない術式の1つと思われる。
 腹腔鏡下の手術と開腹手術の大きな違いは,直接見ることや手で触れることができず,開腹手術では使用しない道具を用いるという点である。このために,不安や混乱を生じやすく,手術が円滑に進まないことがある。もう1つの違いは,歴史が短いために,操作に支障を来したときに,的確な助言を(状況によっては救いの操作を)与えてくれる先輩が少ないことである。この違いを克服するためには,多数の人の経験やノウハウを集大成した実践に即した本が是非とも必要になってくる。

百戦練磨の先輩医師の的確な助言のよう

 本書は,開腹胆嚢摘出術で蓄積された胆嚢摘出術に共通する基礎的な知識は省略してあり,腹腔鏡手術に特化した部分に焦点を絞り記述してある。そのため,従来の成書にはない細かい部分がよく記載されている。実践に基づいた的確な問答には説得力があり,悩みや迷いに対して的確な助言をしてくれる百戦錬磨の先輩がそこにいるような感じさえ受ける。基礎編,応用編,適応編,手技編,器械編と5編に,分けて執筆されているが,必要な項目をどの部分から読んでもよいような構成になっている。様々な問題点にぶつかったときに適切な対処ができるようになってはじめてその術式に自信が持てるようになる。痛い経験を自分で経験することなく,短期間に腹腔鏡下胆嚢摘出術に自信をつけるために本書は最適である。また,応用編の中にあるヘリカルCTの応用など,患者に優しい治療だけでなく,患者に優しい検査にも言及してあり,真に患者に優しい医療をめざしている点など参考になる箇所も多い。
 今後,鏡視下手術はますます広範な領域に応用されるようになり,特殊な技術と位置づけられなくなる可能性が高いと思われる。本書は,腹腔鏡下胆嚢摘出術についての本であるが,鏡視下手術に共通するエッセンスが満載されており,他領域の鏡視下手術を施行する立場にいる者にとっても大変有意義な本であると考える。
(A5・176頁 税込定価3,914円 医学書院刊)


癌治療の効果・評価を時代に即して解説

固形癌治療ハンドブック 監訳 佐野 武

《書 評》古河 洋(大阪府立成人病センター外科医長)

 本書は「臨床腫瘍学」,「外科腫瘍学」のハンドブックとして従来にない実用的な本である。現在にいたるまで乳癌,胃癌をはじめとする癌治療において「手術書」はあっても,その効果・評価を時代に即して解説した本はあったであろうか。治療法を紹介して,その善し悪しの判断は読者にまかせるというスタイルがここに至って,今最もコンセンサスの得られている治療法は何かを紹介する立場になっている。そのためには,時代時代において治療法とその結果の検証が必要で,その過程・結果を記すには大きな「成書」ではなく,これくらいのサイズが適当であると思われる。

主治医に必要な「集学的治療計画」を強調

 原典の“The M.D.Anderson Surgical Oncology Handbook”は本文440ページよりなる外科腫瘍学のハンドブックで,編者らはタイトルを『固形癌治療ハンドブック』としており,内容的にはぴったりである。序文(Foreword)にC.M.Balch,M.D.が述べているように執筆者はM.D.Anderson Cancer Centerのフェロー(若手医師である)であり,読者として同世代の医師たちを想定している。その内容は疫学リスクファクターをはじめ,診断,病期分類,臨床的対応の最も重要なポイントを簡潔に述べており,主治医として大変重要な「集学的(multidisciplinary)治療計画」を強調している。「執筆陣に高名な先輩の名はない」が,その代わり大変柔軟で確立されたとされるものにとらわれない生きた内容が掲載されている。
 項目は乳癌に始まり(38ページ),悪性黒色腫(24),皮膚癌(10)と続き,胃癌(23),結腸・直腸・肛門癌(35)などさらに婦人科腫瘍(44),腫瘍外科の緊急(24),栄養(8),薬物療法(14)まで21項目にわたっている。各項目におけるベージ数からみると,婦人科腫瘍が最も多く,結腸・直腸・肛門癌と続き,悪性黒色腫は胃癌より多くの紙面を占めている。各項目の中では疫学,病理,診断,治療,フォローアップなどの順に述べられている。疫学では米国の罹患率が中心であるが,胃癌や肝癌では日本および世界の状況が参考に記されている。また危険因子についても具体的に述べられている。例えば,胃癌では最近話題のHelicobacter pylori との関連を掲載している。
 治療法のなかに「実験治療」,「臨床試験」,「phase I またはII」などとタイトルされた項目や文章が目につく。これは単に治療法を紹介するのではなく,その治療法が今どの段階にあるのかを示したもので,「実験治療」ではトライアルそのものを紹介している。

臨床医に一読される価値ある本

 また,項目ごとに診断・治療の手順のチャートが矢印でわかりやすく示されている。その手順には多少馴染めないところもある(と思われる)がこれこそ,この本の主旨であり,姿勢なのだと考えられる。
 これに対して,文中「訳註」として解説が加えられたものは,主として日本のデータに照らして著しく違うところを指摘したものである。これによって,「外国のデータ,考え方を単に訳した本」ではなく,日本でもそのまま役立つ生きた本に編集されているものであることがわかる。
 若手医師のみならず臨床に携わる医師には一読される価値がある本である。
(A5変・416頁 税込定価7,931円 MEDSi刊)


認知心理学者の立場から脳の仕組みを解明

認知神経心理学 R.A.McCarthy & E.K.Warrington 著/相馬芳明,本田仁視 監訳

《書 評》田辺敬貴(愛媛大教授・神経精神医学)

臨床経験に基づいた個性的な著書

 この本は監訳者の序にも指摘されているように,高次脳機能障害患者の臨床経験を有する認知心理学者の立場からの,脳の仕組みの解明への取り組みの産物と言える。本書の副題に“A Clinical Introduction”と添えられているが,この『認知神経心理学』は通常の教科書的な一般的解説書ではなく,McCarthy,Warrington両博士自身の臨床経験に基づく個人的見解,あるいはQueen Square学派の思想が色濃く滲み出た極めて個性的な著書と言えよう。
 前置きの序説に始まり,物体認知,顔の認知,空間知覚,随意動作,聴覚的言語理解,語想起,文の処理過程,発話の産生,読字,綴りと書字,計算,短期記憶,自伝的記憶,材料に特異的な記憶,問題解決,そして結語という斬新な構成の中にもその独自性が見て取れる。各章において,既存のテストだけでなく彼女たち,特にWarrington博士が症例を前にして様々な工夫を凝らした心理検査を考案しつつ,症例の障害構造を浮き彫りにしていく経緯がよく現れている。かつ適宜文献例ならびに文献上の主張を引用しながら,臨床知見を整理し考察を加え,さらに今後の問題点を取り上げており,臨場感にあふれた展開を感じることができる。臨床解剖学的対応への踏み込み,特に脳変性疾患の場合には物足らなさを感じるが,著者らが心理学者であり,画像等の神経学的データの活用に制限がある彼の地の事情ではやむを得ないかもしれない。
 非常に個性的で読み応えのある本ではあるが,少し危惧するのは読者が批判的な眼を持たずに本書を読む場合である。例えば自伝的記憶の章で,全健忘は離断症候群で十分説明できるという主旨の記述があるが,少なくとも完全な全健忘の状態はPapezの回路のどこが切れても起こるというものではなく,これはサルを用いた検討でも明らかにされている。また,Warringtonを中心に展開し強調され,今でも短期記憶と高次機能が議論される時には必ずと言っていいほど引用される伝導失語の短期記憶障害説が,なぜか短期記憶の章に登場していない。おそらくは言い直しを伴う字性錯語に特徴づけられる伝導失語と,彼女たちが初期に報告した「伝導失語」例の相違を自覚しているためであろう。

神経心理学領域に多大な影響を与えた研究の集大成

 本書は彼女たちが患者さんを目の前にして,その臨床像がどのような脳の仕組みの障害から生じているのかを,既存のテストを用いるだけでなく,新たに検査を考案し,その仕組みにせまろうとした,そして神経心理学の領域で多大な影響を与えてきた極めて意義深い長年の研究の集大成,あるいは一里塚であり,かついまだ謎の多い脳の仕組みを考える際に新しい視点,あるいは一歩踏み込んで考える姿勢が重要であることを私たちに語ってくれている。しかし,彼女たちの考え方には様々な反論があるのも事実である。ただし評者は彼女たちの主張が展開されていることを非難しているのではない。むしろ本書のように自分の考えが明瞭に表されていると,受け入れがたい点,あるいは論点はむしろ明確となるし,今後の脳の研究の進歩に貢献するものと信ずる。
 最後に個人的なことで恐縮ではあるが,評者は今年の1月に松山に赴任した。この訳本には原著にはない猫の表紙絵がついており,その文字の一部は夏目漱石の「吾輩は猫である」の冒頭の「吾輩は猫である。名前はまだ無い」の英訳である。夏目漱石のもう1つの代表作の「坊ちゃん」は松山のことを決してよくは語ってないが,愛媛では非常に浸透している。極めて個性豊かなこの『認知神経心理学』が,脳の科学に興味を持たれる方に批判的な眼を携えつつ幅広く読まれることを期待し,訳者の労をねぎらいたい。
(B5変・384頁 税込定価8,755円 医学書院 刊)


豊富で質のよい写真でみる病理形態学

門脈圧亢進症の病理 肝内血管系の変化を中心に 中島敏郎,鹿毛政義 編

《書 評》森  亘(日本医学会会長)

 久し振りにイギリスのケンブリッジを訪ねた。雨の日であった。クームス先生は,二度の手術に耐え抜いてこられたとは思えないほどの元気さで暖かく迎えて下さり,ご自身手作りの昼飯をご馳走して下さった。私の近況報告を優しいまなざしで聞いておられた先生は,やがて書棚から1冊の本を取り出してこられ,「これは,僕が持っているよりも君が持っていたほうがよい」と,短い言葉とともにサインを認めて私に下さった。今では貴重な,シュワルツマンの初版本であった。先生の,その方面における蔵書は有名であり,この本にも先生のお名前が,簡明ながらしっかりと,打たれていた。したがってこれは,先生の書架の中で永久欠番となることを意味している。

古典の中に秘められている総合の精神

 そしてこんなことを言われた。「僕が君に伝えることができたのは,今から考えると大変古典的な事柄ばかりだった。君もその影響を受けてか,まことに古典的な仕事をしたものだね。しかし今や,いわゆる近代的の解析ばかりでは物事は解決しないことが明らかになってきたようだ。もう1度古典に戻り,その中に秘められている総合の精神を大切にしなくてはならない。このごろ僕は,機会あるごとにこんなことを説いているんだよ。」
 それから2か月,梅雨の頃になって医学書院から,中島敏郎先生の著書『門脈圧亢進症の病理-肝内血管系の変化を中心に』が送られてきた。拝見して,一番先に頭に浮かんだのが上に述べたクームス先生の言葉であった。正しく,形態学におけるこの1冊の中に,クームス先生が免疫学を通じて体験され,感じられた思いそのものが込められているように感じたからである。

門脈圧亢進症における肝血管系の変化が最大の焦点

 題名に示されているごとく,ここに記載されている内容は門脈圧亢進症に関する病理形態学が中心であり,冒頭15ページに及ぶカラー図譜をはじめとする,豊富な肝臓の肉眼,ならびに顕微鏡写真がまず注目される。また,副題にみるとおり,肝血管系の変化が最大の焦点であるために,X線を用いた血管造影写真を多数見る。さらに何か所か,理解を容易にするための線画,模式図が散見され,とにかく,極めてオーソドックスな,在来の方法で視覚に訴えつつ病変をありのままに示す書物,というのが最初の印象である。
 しかしもちろん,この本は単なる図譜ではない。各項目にわたって「研究の歴史」「分類」「臨床所見」「病因」「疫学」「病理形態学」など,いろいろな要点がそれぞれの必要に応じて記載され,かつそれらの締め括りのような形で,しかし与えられた場所としては各項目の最初に,「ポイント・メモ」なる総括があり,知識の整理を助けている。また,これは各項目の最後に,参考文献が一通り揃えられているのも,さらなる勉強をしようとする人々にとっては助けになるであろう。
 かくして本書の中には,序文の中にも書かれているように,肝硬変のみならず非肝硬変性門脈圧亢進を来す諸種の疾患が網羅され,それらの実像を比較検討する努力が払われている。久留米大学医学部病理学教室を中心に集められた材料の中には,比較的稀な,学問上貴重な症例も含まれており,このコレクション自体が1つの価値あるものとなっている点も高く評価されねばならないであろう。このように,優れた材料を,質のよい写真とともに残すことは,なかなかに容易なことではない。これこそ不断の努力の積み重ねであって,日常,いかにきちんとした仕事をしておられたかをここに伺い知ることができる。
 およそノーベル賞にはほど遠い,古典的手法に徹した書物である。にもかかわらず,教科書としても,研究の成果としても,このようなものこそ,本塁打ではないにしても確実に走者を塁に進め,得点を重ね,チームを勝利に導く極めて有効な,価値の高いものであろう。先に,クームス先生の言葉を引用させていただいた所以である。中島先生を中心とするご一門の,長年にわたる精進と,地道なお仕事の成果に心からの敬意を表したい。
(B5・212頁 税込定価12,360円 医学書院刊)


放射線医学のすべてを網羅する教科書

標準放射線医学(第5版) 有水昇 監修 高島力,増田康治,佐々木康人 編集

《書 評》宗近宏次(昭大教授・放射線医学)

 放射線医学には各種の画像診断,インターベンショナルラジオロジィ,核医学,放射線治療の4部門が含まれる。これらの部門のどれをとってもそれぞれ技術の進歩は目覚ましく,また,どの部門においても全ての診療科の医療に直接関連している。このように近代医療の最先端をいく放射線医学の広範な分野を網羅し,必要かつ十分な内容に整理しまとめた教科書としてこの『標準放射線医学』第5版は他に類をみない。ぜひこの1冊を医学生には放射線医学の自習用に持ってもらいたい。

総合画像診断を念頭に置いた放射線診断学

 本書では医師国試のガイドラインにそった形で放射線診断の内容が構成されている。画像診断の各論においては,まず各臓器の疾患で用いられる通常の画像検査法について,使用頻度の順に解説され,さらに異常所見別に病気診断の過程における画像診断を念頭に置いて編集されている。しかも各項目ごとに各疾患の画像所見の特徴を「疾患別異常所見のまとめ」として,一覧表にしてある。重要な画像所見は写真の説明に加えてシェーマで解説され,医学生に必須の基本的事項と臨床的事項の両者が同時に理解しやすく配慮されている。またインターベンショナルラジオロジィに関する最新情報が各治療法ごとに加えられている。

集約的治療を考慮した放射線腫瘍学

 放射線治療もまた医師国試ガイドラインにそった形で構成されている。各臓器の腫瘍病期分類には最新のTNM分類が用いられ,腫瘍治療の実際に即して臨床腫瘍学が理解しやすいように整理されている。また放射線障害の防護と管理についてもわかりやすくまとめられ,さらに超音波と磁気の安全性についての項目も加えられている。本書の終わりには,画像所見のサインが索引の形でまとめられ,また和文,欧文ともに索引の用語数は豊富で利用しやすいものになっている。
 1982年に第1版が出版されて以来,版を重ねるごとに放射線医学の新しい知識技術をとり入れ,装いを新たにして今回第5版が出版された。この改訂にあたり新たに16名の執筆者が加わり内容がさらに充実している。わが国にも本書のようなすばらしい放射線医学の教科書があることを誇りに思う。
(B5・頁896 税込定価10,300円 医学書院刊)