医学界新聞

【看護版特別編集】 「看護界に新しい風」

 専門看護士から


アイデンティティとビジョンを持って

深沢裕子(碧水会長谷川病院CNS)

病院CNSとして
 日本看護協会専門看護師規則でもあげられている実践・教育・相談・調整・研究という役割に基づいて活動しています。
実践:特にケア困難な患者を婦長と相談の上,期間を定めて週2回ほど訪問しています。この活動では,まず患者の回復が困難な状況と看護チームがケア困難と感じているのはなぜか,その患者の治療チームがどのような関係になっているのかをアセスメントします。
 精神科では自我の障害のために「孤独とつきあい」のセルフケアに特徴を持つ患者さんが多く,そのような場合看護者の援助が患者さんに対してうまく働かないこともあります。申し送りやカンファレンスに参加した時にも,そのことに留意しています。疾患の状態が検査データなどに表れるわけではなく,誰の目にも同じように見える症状でもないために,そのことから看護者間に不安や混乱があったり,逆にまったく気づいていないような時に,精神症状や普遍的セルフケアや経過を客観的に整理し,看護婦が見通しを立てたり次の手だてを考えることができるようサポートしています。
教育:今のところ,長谷川病院の看護実践の理論枠組みであるところのセルフケア看護理論に関するものが中心です。
相談:CNS室を,その目的で訪問しコンサルテーションを依頼されるということはあまりないのですが,看護婦個人のケア上の悩みや管理上の悩みについて相談を持ちかけられます。患者さんの変化(または変化しないこと)や気がかりについて,その現象を深く理解し自由にディスカッションすることは,精神科の看護の中で難しい場合も多いということを実感しています。そのような時,CNSがうまく機能できることが望ましいと考えています。

常に自分の役割や機能を意識して
 そして,これらの役割が密接に関連しあっており,管理的役割を持たず,スタッフとして機能しているからこそ貢献できるということを最近強く感じます。患者さんの疾患やセルフケアの問題だけがCNSの取り組むことではなく,他の看護スタッフや治療スタッフの中で活動していますので,常に自分の役割や機能を意識していなければならず,そのことが最も大変なことと感じています。これがわからなくなるととても苦しいのです。病院内で,管理上の役割も権限もないわけですから,信頼され活用してもらうには,本当に自分の立場を明らかにするしかないのです。
 今までは,スーパービジョンを受けることで,また看護部長からの具体的な助言や期待に支えられて,やっとここまできたところです。これからは,CNSとしてのアイデンティティを持ち,自分なりのビジョンを持って活動していけるようになりたいと思っています。
 CNSが臨床看護の中で何ができるかはまだ未知数です。しかし,看護という非常に難しい「援助」というものについて,現場の中でもっと開発したり整理をし,よりよい看護を必要としている人々に提供していきたいものです。


開拓精神を持って

近藤まゆみ(北里大学病院総合相談部)

がんに悩む患者・看護職のためにも
 まずはじめに,この専門看護師制度が発足し,今後も新しい「役割」を持った看護婦が誕生していくことに大きな意義を感じています。と言いますのも,現在の医療は質の向上に努める一方で,数多くの課題に直面しており,解決の糸口がみつからないまま患者・家族・医療者ともに多くの問題を抱え悩んでいるという現状があるからです。そのような時,相談できる人がいる,一緒に考える人がいる,問題がみえるようになる,何かヒントが得られる,解決の糸口が見える,ということはとても重要なことで,悩んでいる者にとっては利用価値が大きいと思います。私の援助のスタンスもそのようなところにあります。
 現在の私の位置づけは,病棟や外来,在宅などの特定の場所に位置しているわけではなく,総合相談部という患者・家族・医療スタッフからの相談機能が凝集している場所に位置しています。様々な専門職が集まる場でもあるため,現在の医療に不可欠なチームアプローチの推進も行なっており,また,院内の緩和ケアチームにも所属してコーディネーター的な役割も果たしています。

増えてきた医療者からの相談依頼
 専門看護師としての役割は5つあると言われていますが,私の場合は患者・家族への危機介入,ベストな療養を選択するための自己決定への援助,家族の悲嘆過程への援助などの実践の役割と,前述したような医療者からの相談を受ける役割が中心です。その中には調整機能と教育的な機能も多く含まれています。最近では医療者からコンサルテーションの依頼が増加し,看護婦や医師,さらにそのケースに関わっているコメディカルの方々とコミュニケーションをとる時間が増えてきました。例えば,チーム医療の中で方針や情報を共有・協議する時の問題,精神的動揺(病状悪化や告知などで)が激しい患者への対応,痛みやその他の苦痛症状のコントロールに関する問題などが相談項目として多くあがっています。専門看護師をいかに利用していくかは依頼者(相談者)の自由です。主役は依頼者なのです。それだけに専門看護師の力量はシビアに評価されると思っています。
 当病院の特徴の1つとして,がん看護に関する看護研究・症例研究が盛んであることがあげられます。院内の看護研究の質の向上のために指導・アドバイス等にあたるとともに,新しい情報や知識,研究結果を理解し利用していくこと,さらには自らも研究姿勢を持ち,調査・研究に努めていきたいと考えています。また,院内におけるがん看護領域の委員会・研究会等の設置も構想中です。
 看護婦にとって,専門の分野におけるキャリアを積んでいくことは素晴らしいことだと思います。専門看護師をめざす人たちは,私が悩んだことをそのまま経験するのではなく,それを踏まえた上でさらに先を歩んでいってほしいと思います。1人でも多くの看護婦が自らのスキルと能力を磨き,開拓精神をもって専門看護師としての道を歩まれることを心から願っています。


専門看護師を利用してほしい

吉田智美(神戸大学医学部附属病院看護部)

教育婦長として,専門看護師として
 私は,大学院修了後に現在の職場に就職し,今年で5年目になります。仕事(役割)は,看護部管理室配属のもと,教育担当婦長と専門看護師との2つの役割を担っています。
 教育担当者(婦長)としては,院内看護職員のための教育活動(主に教育関係の2つの委員会に出席し,教育プログラムの企画,運営を行なう)に関わっています。また,専門看護師としては5つの役割について仕事を行なっています。
 現在,私が興味を持っているのは,大学病院における緩和ケアです。その中でも,がん性の「痛み」を1つの関わりの窓口にして,直接病棟を訪問したり,相談事例を知らせていただいたりしています。そして,事例の内容により患者さんやご家族の方に直接関わったり,病棟婦長や看護スタッフと話し合ったり,必要な時には主治医との話し合いの場を持ち,患者さんの痛みが軽減するような働きかけを提案しています。
 教育担当者と専門看護師と,どちらの仕事も私にとっては初めての役割です。入職5年目となり,教育担当者としては,委員会のメンバーや上司に支えられているため緊張感も軽減してきました。一方,専門看護師としては,今なお役割作りに試行錯誤の段階です。最近,ようやく組織の中の人々ともなじんできたところで,多くの人々に支えられながら,なんとか歩いている状態です。専門看護師としてはこれからが本番だなと考えています。

未知数の自分に挑戦
 現在,日本の看護界は過渡期に入っているのだと感じています。臨床での大変さを形にしていくことが必要ですし,今回の専門看護師の認定もその1つの現れだと思います。
 その中で,私自身を振り返ってみますと,現在の組織の中でどれだけの仕事ができるのかという未知数の部分が多分にあります。しかしこれまでの学びを基に,自分の限界や看護の限界を明らかにしていきたいと思います。その中で1人でも多くの患者さんやご家族の方々へ,よりよい看護の提供ができるように役割を通して関わり続けることができればよいと考えています。
 専門看護師のありようは,対象と配置によって変わってきます。これから専門看護師をめざす方へのメッセージとして,自分が看護として大事にしたいものをどのように表現することができるのか,実践の場で人間への関心と興味を保ち続けてスマートに挑戦してほしいと思います。
 そして,同じ組織(病院,看護部)の中に専門看護師がいるらしい,という状況に遭遇される方々へ,どうぞ,お1人1度は私たち専門看護師をご利用ください。専門看護師は使ってみて初めて利用価値がわかる存在のようです。そして,使われることで私たちも成長しますし,また使い勝手がよくなると思います。対象となる人々のQOLの向上のために,そして私たち看護職が楽しく働き続けるために,どうぞよろしくお願いいたします。


リソースサポートの役割を担って

中村めぐみ(聖路加国際病院看護部)

病棟婦長とスペシャリストを兼務
 私の場合は今のところ,1病棟の婦長である傍らで,がん看護の領域におけるリソース(スペシャリスト)の役割を兼務しています。主な活動内容は,(1)入院中のがん患者および家族へのケアプランの作成,看護介入,評価を実施したり,プライマリナースあるいは受け持ちナースの相談に乗り,助言や支援を行なう,(2)患者や家族,あるいは医療従事者間の話し合いの場にできるだけ参加し,看護者としての見解を述べるとともに,連携・調整を図る,(3)看護部検討会の開催,(4)病院全体のターミナルケア研究会に属し,定例カンファレンスの充実および,ターミナルケアの向上のために,医療従事者に対して助言を行なう,(5)院内教育プログラムの企画・運営,(6)患者を主体とした医療サービスの質の向上に役立つ調査・研究に取り組む。また研究者,研修者を受け入れ,指導や支援を行なうなどです。以上ですが,患者を中心とした医療従事者間のコーディネーションが主流となっているのが現状です。

現状にマッチした活動をめざして
 がんは死因の第1位を占め,人々に恐れられ,インパクトが強い疾病と言えます。その一方では治療法の開発が進み,がんとともに生きる期間が長くなり,様々なステージにあって,多様な問題やニーズを抱えている患者および家族をケアする機会が多くなっています。このような中で,がんの特性や治療法,看護のあり方について,専門知識・技術をしっかりと身につけ,患者・家族のQOLの視点に立った水準の高いケアの実践者・推進者が必要であると感じています。
 スペシャリスト(専門ナース)という発想は,米国で発展してきたものですが,米国と日本とでは医療の土壌,社会・文化的背景や国民性が異なりますので,先駆者に学びながらも,日本の現状そして所属している組織の状況にマッチした活動を考案し ていかなければならないと思っています。
 当座は求められること,できることが手探りの状況ではありますが,すでに活躍している他のスペシャリストとも協力し合い,スタッフの方々が有効に活用できるリソースサポートの役割を担っていけたらと思っています。
 さらに自分自身の技能を磨き続けるとともに,スタッフを上手に巻き込み,仲間を増やしネットワークを作り,活動の充実と拡大を図ることも重要と言えるでしょう。
 近年,人々の生活・生命の質の重視に伴い,健康や癒しへの関心が高まる中で,看護婦に対する期待も変化しつつあるように思います。医療も選ぶ時代が訪れる時,病変の治療だけではなく,患者や家族の苦痛や苦悩を緩和するケアが重要な要素となるでしょう。
 看護という仕事の専門性を追求し,関連する他職種と協調しながら,より優れたケアを生み出していく力量を持ったスペシャリストが次々と登場し,他のスタッフそして患者や家族とともにケアを考案し,ニーズに応え,社会的意味においても貢献できることを期待します。


専門看護師の認定を受けて

川名典子(聖路加国際病院婦長)

 このたび,日本看護協会より精神専門看護師の認定を受けることになった。私個人が認定を受けたことよりも,このような制度が日本に誕生したことに喜びと感謝の気持ちを強くしている。精神専門看護師の中でも,私が専門としているのはリエゾン精神看護という領域で,狭義の精神看護とは多少異なるので簡単に説明しておきたい。
 リエゾンには連絡・連係役という意味があり,ここでは内科外科などのような身体診療科と精神科の連係役という意味で用いられている。つまり,一般病院(精神病院ではない,という意味)に入院している患者のケアに,精神看護的な知識の技術を活用し,全人的な患者ケアを提供するためのコンサルタント的な役割を果たす専門看護師である。

看護職が自由に相談できるように
 私の待遇は婦長格で,リソースナースとして管理婦長室に所属しているが,管理業務からは月1回の管理夜勤当直以外からは外され,部下は持たない。また,看護婦が管理者の目から自由に,相談にこられるようにするため看護管理室ではなく,精神科外来の一室に常駐している。
 活動の主たるものは,患者の心理・行動上の問題についての相談である。怒りっぽかったり,拒絶的になった患者,抑うつ的になった時には希死念慮を持ったり,あるいは用がないのに頻回にナースコールを押す患者は,看護婦に敬遠されがちになる。このような人々にどのような精神的ケアをしたらよいのかというような,外来や病棟の看護婦の相談にのる。最近は癌の病名告知も増え,告知後の患者のフォローアップなど需要はふえている。また,婦長で負いきれない問題や,部下を評価する婦長からはなれて相談したいという看護婦の相談に応じている。時には精神科的な治療が必要な場合もあり,そのような時は精神科医との連携が大切である。
 さらに,リラクセーション技術やイメージ療法などストレスマネージメントの技術の指導も行なっている。長期間病気とともに生きる患者や,夜勤などで自律神経のバランスを崩しやすい看護婦に役立っているようである。患者をケアする看護集団がぎくしゃくすると,患者にも緊張感が伝わり病棟全体が落ち着かなくなることもあるので,看護単位の人間関係の調整のために,看護婦のためのサポートグループを行なうこともある。

「黒子」的存在として
 今後の抱負としては,上記の活動を着実に,地道に行ない,専門看護師としての活動を定着させ,精神看護の理論化と新しい方法論の開発を行なって後進の看護職者の踏み石となれればと願っている。専門看護師は,第一線で看護に従事する看護職者のための側面的援助者,「黒子」のようなものである。決して一般看護婦の上位に立つものではなく,側面的援助者としての実力がなくてはならないと,いつも自分を戒めたい。これから専門看護師になろうとする人たちにも,この点だけは強調しておきたいと思う。