【看護版特別編集】 「看護界に新しい風」
日本看護協会の専門看護師・認定看護師制度
岡谷恵子氏(日本看護協会常任理事/同看護教育・研究センター長)に聞く専門看護師について
専門看護師と認定看護師の違い
岡谷 専門看護師と認定看護師の違いは,専門領域の範囲の違いにあります。認定看護師は,本年10月から教育が始まる救急看護やWOC(創傷,オストミー,失禁)看護のように,非常に限定された特定の看護分野の熟練した看護技術・知識を用いて水準の高い実践を行なう人です。専門看護師は,もう少し広い範囲の,がん看護ならがん看護というある特定の専門看護分野に関して卓越した看護実践能力を有する人ということになります。また専門看護師には,実践能力,教育,コンサルテーション,コーディネーション,研究の機能5つの機能を持たせています。認定看護師の場合は,実践と教育と相談の3つの役割を規定しています。
ただ,あまり情報が徹底されていないせいもあって,まだまだ混乱があります。教育期間についても,専門看護師の場合は2年間の教育,認定看護師の場合は6か月間という違いがあります。
・・アメリカでのCNS(クリニカル・ナース・スペシャリスト)との違いは。
岡谷 アメリカのCNSというのは,スペシャリストの中でも修士課程を卒業していることが前提条件です。日本で「専門看護師制度」の検討が始まった時には,必ずしも修士課程の修了者を想定していたわけではありません。日本の看護教育の現状を考えた場合,臨床でできるだけ早く専門看護婦を育てていきたいということもあり,その当時看護大学がまだ11校程度でしたので,修士課程の修了者のみを対象とするより,看護協会としても経験5年以上の人たちを対象に,専門看護婦になるための2年間の教育プログラムを考え,それを修了した人たちが試験を受けて認定されるというようなことを考えていたわけです。
専門看護師の考え方そのものは,アメリカのCNSの役割・機能をモデルとし,5つの機能を持たせました。そういう意味では同じと考えてよいと思います。
・・大学協議会のCNS教育との調整は。
岡谷 専門看護師の認定試験は看護協会で行ないますが,認定試験の受験資格に所定の教育を修了しているということがあります。現時点では教育プログラムに違いのある大学院の修了生が受験するわけですから,大学協議会が決めた教育プログラムを基準にさせていただいています。
また認定ということについてですが,将来的に,例えばアメリカのようにいろいろな学会が力をつけてきて,学会が独自に認定していくようなことが起こり得る可能性はあると思います。しかしその場合でも,看護協会としてはそういう機関と協議を持って,認定の水準を合わせていく必要があると考えています。認定は看護協会だけが独占的に実施するということではありません。その際にそれぞれがばらばらの基準で認定してしまったという,アメリカの轍を踏まないことが必要でしょう。水準を整えていくという意味で,この制度の規則・細則の中で,「他機関との協議を持つ」と定義づけています。
病院の中での位置づけ
・・アメリカでは専門看護が分化し,CNSの存在が大きなウエイトを占めた時期があったと思いますが,現在は医療費の抑制策が進み,最初に削減されるのがCNSだということを耳にします。日本はこれから専門看護師を飛躍させることになるのでしょうが,各病院で,どのような仕事をしていくのか,またどう位置づけられ,どう活用されていくのでしょうか。岡谷 今年誕生した6人の方たちも,必ずしも最初から専門看護師として病院に雇われたわけではありません。それぞれの病院の必要性からCNSのポジションが設けられ,そこに配属されたということだと思います。病院の中にCNSというポジションを設けるのは,今の医療制度の中ではとても困難なことだと思いますので,それぞれの病院で,最もとりやすい,あるいはCNSがこの5つの機能を果たしやすいポジションを準備して配属している現状ではないかと思います。
大学院へ進む人の中でも,臨床で専門看護師としてやっていきたいと,最初から専門看護師を指向して進む方も多くなったとうかがっています。そういう意味では,専門看護師になろうとする人たちは今後増えてくるだろうと思います。ただ,その時に受け入れ先での問題が出てきます。どのように導入を進めていくかがまた1つの課題になってきます。今のところ専門看護師が導入されても,診療報酬に直接的に結びつくわけではありませんから。
アメリカの場合には,CNSの果たしてきた役割というものが,長い歴史の中で認知され,評価されましたが,経済的な面での評価につながらなかったことが,今日の解雇という問題になっているのだと思います。日本の場合には,まず専門看護師が認知されることが先決ですが,いずれは経済面での評価につながる方略も持たないといけないと思います。
これからはもっともっと導入が進んでいくと思いますが,どうすればスムーズに導入できるかということについては,看護協会でも「導入システム検討委員会」を設け,その方略を考えていこうと検討を進めています。委員会としての報告書がもうすぐ出される予定です。
・・専門看護師は1病院に何人ぐらいいるのが適正と考えられますか。
岡谷 適正な人数についてはよくわからないのですが,ある看護部長は,100床に1人という目安を述べていました。やはり1人で200~300床ぐらいが限度だろうと思います。でもまったく根拠はありません。ただ,がん看護ならがん看護で1名,リエゾン精神看護で1名というように,その専門分野でそれぞれ専門看護師がいることが望ましいのはいうまでもありませんし,そうなると専門看護師同士のサポートもできるようになると思います。
専門分野の特定と教育
・・今回の2分野が特定された経過と,これからの分野特定拡大の可能性について。岡谷 特定する分野は広げていかないといけないと思っています。規則・細則の中に著されていますが,専門看護分野としてこの分野を特定してほしいという申請書が出て,初めて制度委員会で検討することになります。その申請はどなたがなさっても構わないのですが,その時に臨床での実績者が3名必要になります。
当初,感染看護のニーズも非常に高く,特定を検討したのですが,結局3名の実績者がいないために特定されませんでした。申請の時に実際に専門看護婦を標榜し病院に勤務する実績のある方が,がん看護と精神看護の領域にはそれぞれ3名以上いたということで,この2つの分野が特定されました。また,小児看護を特定したいという意見も強くあったのですが,教育現場に資格のある方がいても,臨床現場に実績者がいません。このように,教育現場にはいるのに,という領域がたくさんあります。専門分野として非常に重要な領域というのは多数あって,分野を特定し,その分野の専門看護師を認定したいのですが,実績者がいないというジレンマもあります。
・・認定委員会の構成は。
岡谷 制度委員会と認定委員会があって,認定委員会の構成は,教育,臨床の方を基本に,認定する分野の専門家,近いうちに特定されるであろう大事な分野の専門の方がメンバーとなっています。この方々は公表されていますが,認定試験そのものを行なうための,認定実行委員会のメンバーは公表しておりません。
また,試験問題についても今のところは公表しません。ただ,将来的に公表するかどうかは今後の検討課題だと思っています。今回の申請には7名の申し込みがあり,全員が1次の書類診査は通ったのですが,2次の筆記試験の時に出産と重なったために受験できなかった方がいます。結果的に2次試験を受けた6名が全員合格となったわけですが,この方については,委員会では,1年間は1次試験の権利を保留するということの合意は得られています。
今年の場合は,日程的にかなり無理をした面もあります。受験者の方たちにも相当急いで書類を書いていただきました。認定試験を受けるためには,かなり多くの書類が必要になります。例えば実践の記録が5例,コーディネーションの記録が3例以上,コンサルテーションの記録が5例,それだけの実際の事例を書かないといけません。ですからすごく大変だったと思います。
その他にも,履修証明書や大学院以外の教育プログラムで何を履修したかという書類,看護実践能力がいかにあるかという推薦書も必要ですし,病院内でスタッフの教育にどう携わってきたかということの実績や研究業績も必要です。
・・専門看護師の教育についてですが,看護系大学大学院だけでなく,看護協会の看護教育・研究センターで2年の教育を行なうという構想があったと思いますが。
岡谷 それは今のところペンディングの状態ですが,年内中には内部での検討に入ると思います。ただ,センターで教育をすると決めていた時代には,看護大学が今の4分の1以下でした。ですから,情勢が随分変わってきていると捉えています。今は大学院の中で,大学協議会が検討を重ねたCNS教育プログラムがあります。看護協会の中で2年間のプログラムを開設するとなりますと,なかなか実現は難しい面もありますが,そういうことも含めて検討をしていかなければいけないと思っています。
・・修士課程修了者だけが受けられる認定ということから,看護職の中には「新たな管理職を作ることになるのでは」という懸念が,またあるようですが。
岡谷 今回は6人が認定されましたが,この方たちの実践の話を実際に聞く機会があったり,少しでも実態に触れたことのある人たちですと,この制度について理解をしてくださいます。しかし43万人の会員数となりますと,周知徹底というのも本当に難しいと考えています。先ほど述べたように,専門看護師となった方が病院にいることによって,患者だけでなく看護職も助かるということが現場で実感されてくれば変わるとは思うのですが。専門看護師は管理者ではありません。より専門的な知識や技術を持って,看護者が難しいと感じているケアの手助けをする存在であることを信じていただきたいと思います。
認定看護師について
・・次に認定看護師について。看護協会と同じように,認定看護婦・看護士の養成を進めている日精看の教育システムとはかなり違いがあるようですが。
岡谷 看護協会の認定看護師の場合は,6か月間の集中した教育です。6か月間の教育では,600時間の中の200時間を実習時間に当てています。それだけ現場での教育を重視していますから,教員がきちんと対応し,集中して関わることが重要となります。実習施設や教員の数からも,入学者を限定せざるを得ない現状もあります。日精看の場合には,一括集中教育ではなく,単位制が基本の方式のようです。日精看のやり方には働きながらプログラムを受講できるというメリットがあり,参加しやすいと思います。しかし,教育の水準を保つということはできにくいと思います。専門看護師のように,認定をする時にかなりハードな試験を科すということであればいいのですが,認定看護師の場合には専門看護師のような特別の認定試験は考えていません。教育課程の科目の単位を取り,修了試験に合格することが認定の条件です。ですから,教育水準を保つために,教育機関の認定をしますし,入学試験も実施します。
・・入学試験を科すことが,新たなエリート看護婦を作るという懸念については。
岡谷 そのように,エリートを育てるとか,差別だとかの発想になりがちなのはどうしてかなと思ってしまいます。むしろ,自分たちの仲間の中からそういう優秀な人材がどんどん出てくるというところに,私は本当に誇りを持っていただきたいと思います。専門職として質の高い看護ケアを保証することは,国民に対する責任でもあるのですから,看護職の中からいい人在が育ち,質の高いケアの提供に貢献できるということに,私は専門職としての誇りを感じるのですが,そのように感じていただけないのがとても残念です。
看護職の方々が抱いている懸念や疑問については,看護協会がこの制度について十分な情報を適切に提供できていない面があり,何をしているのか,あるいは制度そのものについてよくわからないことがあるために生じていることもあると思われます。できるだけ情報はオープンにして,制度の運用のプロセスも見えるようにしていきたいと思います。
教育はどこの施設でも可能
岡谷 認定看護師の教育は看護協会だけがやるというものではありません。例えば従来から継続教育を実施している神奈川教育大学校からは,現在実施しているICU,CCUのコースを認定看護師の教育のコースにつなげられないかという問い合わせがきています。認定看護師の教育をしたいと申請があり,規則・細則の教育機関の認定の資格要件に合致すれば,それは教育機関として認定されます。また,各県1校ずつ看護大学ができれば,あるいは大学病院で看護学科を有するところでは,コースを開設することも可能だと思います。ただし,6か月の集中した教育,教員の資格や配置,施設等の限定はつきます。ですが,そういう教育の機関が広がっていくことは大歓迎ですし,地方での開催も可能になります。
教員については,現時点では認定看護師の人がいないものですから,専門的な知識・技術を持つエキスパートの方たちの力を借りて,という形での教育にならざるを得ません教育機関を増やしていくためにも早急に認定看護師を育成して増やすことが必要です。
なお,すでにETナースなど資格を持って活躍されている方々の認定については,研修期間などに相当な差がありますし,どのように看護協会の認定制度にリンクさせていくかなどを,これからきちんと検討していかなければいけないと考えています。
・・これからの領域について。ケアマネジメントが重要視されていたと思いますが。
岡谷 ケアマネジメントにつきましては,次の2つの理由から今のところ認定分野として考えていません。1つは,介護保険法との関係で,厚生省が認定のための研修プログラムを用意する可能性があること。2つ目は,短期間で多くのケアマネジメントのできる人を育成する必要があるために,6か月の集中した教育プログラムでは養成が間に合わないということです。また,現在ICUやCCU看護といったクリティカルケアの領域,NICUのような小児の特に未熟児の分野,それから透析看護や訪問看護の領域の方たちからの要望があります。
看護協会の認定看護師教育課程は10月1日からスタートします。8月2-3日の2日間,入学試験を実施します。認定看護師のコースには合計で80万円の教育費用が必要になりま。病院が費用を負担するにしても,個人で払うにしてもこれは決して安い金額ではありません。地方からの受講生は生活費も余分にかかると思います。大きな教育投資に見合うような身分の保証や,技術の評価といったことを今後は検討していかないといけないでしょう。これは認定看護師制度を定着させていくためにも,非常に重要なことだと思います。
(1996年7月2日,看護協会研修学校にて)
●本号の特集に関しては,下記のものを主たる参考文献とした。
【医学書院】『看護学雑誌』56巻10号,57巻5号,『看護教育』34巻8号 【日本看護協会】『看護』42巻12号,48巻6,8号,『INR』19巻4号,『日本看護協会通常総会要綱』平成5~7年度 |